微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · 細菌

Bartonella henselae

分類
G− 球桿菌 / Gram− coccobacilliBartonella
性状
Gram陰性 (G−)球桿菌 Coccobacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/23: Pasteurella multocida, Francisella tularensis, Bartonella species5/1: Bacteria causing skin and wound infections (list) and their diagnosis5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention
原因となる疾患
細菌性血管腫症猫ひっかき病

🧠 全体像Bartonella henselaeは同じ1つの菌が、宿主の免疫状態によって全く別の病気の顔を見せるという点で読むのが最も分かりやすい。曝露歴は一貫してネコの引っかき傷だが、免疫正常者では菌はリンパ節でせき止められとして自然軽快する。一方、T細胞性免疫が破綻した宿主(進行したHIV感染症など)では菌を封じ込められず、菌自身が血管内皮を刺激して増殖を促すという全く異なる病態に姿を変える——「封じ込められるか、暴走を許すか」が両者を分ける一本の軸である。

微生物学的な特徴

小型ので、発育がきわめて遅く(培養に数週間を要することもある)、標準的な血液培養では検出が困難なの高い(fastidious)菌である。として・赤血球内で増殖できる点が病原性の中核にある。

検査 所見
培養 発育が極めて遅く、血液培養ではにほぼ陰性——診断の主体にならない
組織染色 )で組織中の菌体を可視化
血清学 による測定が診断の中心
リンパ節・皮膚病変からのPCR

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["Bartonella henselae<br>ネコの引っかき傷から侵入"] --> B["宿主の細胞性免疫は保たれているか"]
    B -->|"保たれている"| C["菌をリンパ節内に封じ込める<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulomatous inflammation'>肉芽腫性炎症</span>"]
    B -->|"破綻している<br>(進行したHIV感染症など)"| D["血管内皮に接着・侵入し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiogenic factor'>血管新生因子</span>の産生を誘導"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cat scratch disease'>猫ひっかき病</span><br>(自然軽快する限局性リンパ節炎)"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacillary angiomatosis'>細菌性血管腫症</span><br>(増殖性の血管病変)"]

💡 はなぜ「腫瘍」に見えるのか。 B. henselaeに接着すると、内皮細胞の(VEGFなど)の産生を刺激し、自らが増殖できる血管網を作らせる。免疫正常者ならこの局所増殖はT細胞性免疫が速やかに制圧するが、免疫不全者ではブレーキが効かず、隆起性の血管増殖性病変が全身の皮膚・内臓(肝:)に広がる。と臨床的に酷似するため、HIV感染者の皮膚病変では鑑別に必ず挙げる。

への直接接種(目をこすった手にネコの分泌物が付着するなど)では、片側性のと同側のという特徴的な組み合わせを呈する。

感染経路と疫学

  • リザーバーはネコ(特に子ネコで菌血症の頻度が高い)。ネコノミCtenocephalides felis)がネコからネコへ菌を媒介し、ノミの糞がヒトへの引っかき傷・咬傷に紛れ込むことで感染する
  • ヒト-ヒト感染は知られていない
  • 秋〜冬(子ネコの譲渡が増える時期)に発症数が増える傾向がある
  • 免疫不全者(進行したHIV感染症・臓器移植後など)では感染量がわずかでも重症化しうる

起こす疾患

病態 宿主背景 特徴
(限局性リンパ節炎) 免疫正常者 引っかき傷から1〜3週間後に所属リンパ節腫脹(腋窩に多い)。数週〜数か月で自然軽快する
免疫正常者 片側性の+同側
免疫不全者 皮膚の隆起性紅色との鑑別を要する
免疫不全者 肝・脾の。血管腫症の内臓病型
いずれの宿主でも 標準培養で検出できないの原因菌の1つ

診断

  • 血液培養はにはほぼ陰性となるため、診断の柱は血清学(IFA)と病理(である
  • を疑う症例では、標準培養に加えてBartonella血清学・弁組織PCRを追加する
  • リンパ節生検はとの鑑別が必要な場合にのみ行う(は臨床像+曝露歴+血清学で診断がつくことが多く、生検は必須ではない)

治療と予防

  • 免疫正常者のは自然軽快するで、多くは経過観察でよい。有痛性の化膿性リンパ節にはアジスロマイシンの5日間投与でリンパ節腫脹の期間短縮が期待できる
  • 化膿・のリンパ節は、を避けるためではなくを選ぶ
  • は自然軽快しないため、ドキシサイクリンまたはアジスロマイシンによる数週間〜数か月の長期治療を要する
  • 心内膜炎はドキシサイクリン(あるいはリファンピシン)の併用が基本で、多くはを要する
  • 予防はネコの引っかき・咬傷を避けること、ノミ対策、免疫不全者では子ネコとの接触に注意すること

まとめ

  • 曝露歴は一貫してネコの引っかき傷(媒介はネコノミ)。同じ菌でも宿主の細胞性免疫の状態で病像が正反対に分かれる。
  • 免疫正常者:)——自然軽快。免疫不全者(進行したHIV感染症など):——治療しないと進行する。
  • 眼への直接接種では(片側炎+同側)を呈する。
  • 発育がきわめて遅く血液培養では通常検出できないため、診断はが中心。
  • は経過観察が基本、血管腫症・心内膜炎は長期の抗菌薬治療(ドキシサイクリン中心)を要する。