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Microbe Atlas · 細菌

Rickettsia prowazekii

発疹チフスリケッチア

分類
偏性細胞内寄生 / Obligate intracellularRickettsia
性状
Gram陰性 (G−)偏性細胞内 Obligate intracellular
科目
Medical MicrobiologyDermatology
トピック
2/35: Rickettsia, Orientia, Coxiella5/9: Causative agents of arthropod-borne bacterial infections (list)皮膚科 2-15:シラミ症
自然耐性薬
ペニシリンGアモキシシリンセフトリアキソンメロペネムバンコマイシン
原因となる疾患
Brill-Zinsser病発疹チフス
作用する薬剤
クロラムフェニコールドキシサイクリン

🧠 全体像:はRickettsia属の中で主ながヒトという特異な菌で、動物を介さずを介したヒト-ヒト感染で流行する(米国ではアメリカモモンガが例外的なになる1)。過密・不衛生な環境(難民キャンプ・刑務所・戦時下)と結びつく「集団の病気」であり、初感染から何か月〜何年も経ってから軽症でするという長期的な落とし穴も持つ2。

微生物学的な特徴

Rickettsia属共通の性質(宿主依存性が高い、通常のグラム染色では観察できない、に感染して増殖する機序)はR. rickettsiiのノートを参照。本菌固有の特徴はが主にヒトであること——R. rickettsiiがマダニ・・イヌをとするのと対照的である。例外として米国では在来のアメリカモモンガが人獣共通ので、モモンガが家屋に入り込んだときにが出る1。モモンガに寄生するノミやが自然感染しているが、ヒトへの伝播の正確な経路は分かっておらず、モモンガ関連例は一般に軽症で死亡例の報告は無い2。

病原性の仕組み

への感染・血管炎というはR. rickettsiiと共通するが、媒介様式が特徴的である。

💡 の刺咬そのものでは感染しない。 本菌はの腸管内で増殖して自身を殺してしまうため、は長期のになれない。感染性を持つのはの糞便(とつぶれたの体)で、吸血時のかゆみをした皮膚の傷口から菌が侵入する。乾燥したの糞の吸入による感染も報告され、菌は糞の中で最長100日感染性を保つ2——「に刺されて感染する」のではなく「の糞を掻き込んで感染する」という理解が、(を防ぐ・駆除・衣類の洗濯)の重要性につながる。

flowchart TD
    A["感染者を吸血した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='body louse'>コロモジラミ</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='louse'>シラミ</span>の腸管内で菌が増殖<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='louse'>シラミ</span>自身も死ぬ)"]
    B --> C["感染性の糞便を皮膚・衣類に排泄"]
    C --> D["かゆみで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='curettage'>掻爬</span>した傷口・粘膜から侵入<br>(乾燥した糞の吸入も)"]
    D --> E["8〜16日の潜伏期"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular endothelial cell'>血管内皮細胞</span>に感染し全身の血管炎"]
    F --> G["発熱・頭痛・発疹・意識障害"]
    F --> H["治療されずに回復した例の一部で<br>菌が体内に潜伏"]
    H --> I["数か月〜数年後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relapse'>再燃</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Brill-Zinsser disease'>Brill-Zinsser病</span>)"]

感染経路と疫学

  • 媒介、感染源は主にヒト。は衣類や毛布の共用で広がるため、寒い季節に流行しやすい1
  • 好発環境:過密・不衛生な集団生活(難民キャンプ・刑務所・ホームレス状態・戦時下)——歴史的にナポレオン戦争・第一次世界大戦の大流行が知られ、1950年以降は主に難民キャンプや収容施設で起きている1
  • :曝露の8〜16日後に突然発症する2

起こす疾患

は発熱・悪寒・頭痛で突然始まり、意識変容・頻呼吸・咳・筋肉痛・を伴う。発疹は症状出現の2〜3日後に体幹の斑丘疹として始まり四肢へ広がり、手掌・足底は通常侵されない。重症では点状出血を伴う。治療が遅れると・痙攣・昏睡などの神経症状と広範な血管炎へ進み、致死的になりうる。検査では・の上昇・血小板減少がみられる2。

⚠️ 発疹が無い例もあり、発疹の有無や形で診断してはならない2。

項目 R. prowazekii() R. rickettsii()
媒介 (糞便) マダニ(刺咬)
発疹の広がり 体幹→四肢(遠心性) ・足首→体幹(求心性)
手掌・足底 通常侵されない 侵される
主にヒト(米国ではアメリカモモンガ) マダニ・・イヌ

⚠️ :初感染の数か月〜数年後に、強いストレスや免疫低下を契機として起こるで、初感染時に治療を受けなかった人にみられる。症状は初感染に似るが一般に軽く、まれにしか致死的にならない。ただし体内には活動性の菌が存在するため、周囲にがいる環境(難民キャンプなど)では新規流行の火種になりうる。他のでは知られていない様式である2。

診断

  • 早期には検査が当てにならないため、と疫学(集団生活でのへの曝露、モモンガやその巣との接触)で疑い、検査結果を待たずに治療を始める2
  • 確定は主に(第1週の急性期と2〜10週後の)でのによる4倍以上の上昇。IgG・IgM抗体は発病7〜10日後まで検出されず、IgGは何年も残りうるので単回の陽性では決められない2
  • ではIgMではなくIgGが上昇する——初感染ではない(既に感作されている)ことの反映である2
  • *R. typhi*とするため血清学では区別しにくく、なら両者を区別できる(感度は検体・時期・重症度で大きく変わる)2
  • (Proteus属抗原OX-19との)は歴史的検査で、現在は・が主流である

治療と予防

  • ドキシサイクリンが成人・全年齢の小児で第一選択(も同じ)。成人(45 kg超)100 mg 1日2回、45 kg未満の小児2.2 mg/kg(最大100 mg)1日2回を、後少なくとも3日かつ臨床的改善まで(通常最低7〜10日)続ける2
  • ⚠️ 急性期の治療がを予防しうるとされるが、確かなデータは無い2
  • はテトラサイクリン系が使えない場合(アレルギー・、妊婦など)の代替になりうるが、とくにでが高いことと関連する1
  • ⚠️ βラクタム系は効かない。 細胞内に寄生する本菌に対し、βラクタム系・アミノグリコシド系・ST合剤はで活性を示さず、本菌のアモキシシリンは128 µg/mLと高い3。発熱と発疹を「細菌感染」とみてセフトリアキソンなどを開始しても効かない
  • 予防:予防用のワクチンは無い1。の駆除(衣類・寝具の洗濯と、寄生者への駆除薬)と衛生環境の改善が実務上の中心である。集団生活の場では急速に広がりうるので、患者を早く見つけて治療し、の寄生を断つ2

まとめ

  • R. prowazekiiはRickettsia属の中で主ながヒトという特異な菌で、を介したヒト-ヒト感染で流行する(米国ではアメリカモモンガ関連のがある)。
  • 感染経路はの刺咬ではなく糞便を掻き込んだ傷口(乾燥した糞の吸入も)から。潜伏期は8〜16日で、過密・不衛生な環境と結びつく。
  • 発疹は症状出現の2〜3日後に体幹から四肢へ遠心性に広がり、手掌・足底は通常侵されない——R. rickettsii(求心性、手掌足底を侵す)と対で覚える。ただし発疹を欠く例もある。
  • は未治療の初感染から数か月〜数年後の軽症で、IgGだけが上昇し、活動性の菌を持つので流行の火種になりうる。
  • 治療はドキシサイクリンが全年齢で第一選択で、検査結果を待たず経験的に開始する。βラクタム系は無効で、ワクチンは無い。

出典

  1. 1.Rickettsial Diseases(Centers for Disease Control and Prevention(CDC Yellow Book 2026)・2025)2025年4月23日付の2026年版の章(ウェブアーカイブで本文を取得)で、発疹チフスはR. prowazekiiによりコロモジラミが媒介すること、米国ではこの1世紀流行は起きていないが在来のアメリカモモンガが人獣共通の病原巣で、モモンガが家屋や小屋に入り込んだときに散発的な森林型の伝播が起きていること、1950年以降は衛生環境の乏しい難民キャンプや収容施設で主に起き、衣類や毛布の共用でシラミが広がるため寒い季節に流行しやすいこと、ドキシサイクリンがすべてのリケッチア感染症の第一選択であること、クロラムフェニコールはテトラサイクリン系アレルギー・不耐容や妊婦などで代替となりうるが、とくにロッキー山紅斑熱で致命率が高いことと関連すること、リケッチア感染症を予防するワクチンは無いことを確認した閲覧 2026-09-27
  2. 2.Clinical Overview of Epidemic Typhus(Centers for Disease Control and Prevention・2024)2024年5月15日付のページ(cdc.govは直接取得で403のため、2026年8月8日のウェブアーカイブで本文を取得)で次を確認した。主な媒介がコロモジラミで、感染したシラミの糞便やつぶれたシラミの体が切り傷・擦過傷のある皮膚に触れて感染し、乾燥したシラミの糞の吸入も報告され、菌はシラミの糞の中で最長100日感染性を保つこと。流行は戦争・飢饉・難民キャンプ・刑務所・ホームレス状態など衛生環境の乏しい集団で起こり、米国ではモモンガやその巣への曝露に関連した散発例があり、モモンガに寄生するノミとシラミが自然感染しているがヒトへの伝播の正確な機序は不明で、モモンガ関連例は一般に軽症で死亡例の報告が無いこと。症状は曝露の8〜16日後に突然現れ、発疹は症状出現の2〜3日後に体幹の斑丘疹として始まって四肢へ広がり、通常手掌・足底を避け、重症では点状出血を伴い、発疹が無いこともあるため発疹の有無や形態に診断を頼ってはならないこと。Brill-Zinsser病は初感染の数か月〜数年後に強いストレスや免疫低下の時期に起こる再燃で、初感染時に治療を受けなかった患者にみられ、一般に軽症でまれにしか致死的でないが、活動性の菌を保有するため新たな流行の源になりうること、他のリケッチア症では知られていないこと。確定は主にペア血清の間接蛍光抗体法による4倍以上の抗体価上昇で、抗体は発病7〜10日後まで検出されないこと、Brill-Zinsser病ではIgMではなくIgGが上昇すること、R. typhiと交差反応すること。治療はドキシサイクリンが成人・全年齢の小児の急性発疹チフスとBrill-Zinsser病の第一選択で、成人(45 kg超)100 mg 1日2回、45 kg未満の小児2.2 mg/kg(最大100 mg)1日2回を、解熱後少なくとも3日かつ臨床的改善まで(通常最低7〜10日)投与すること、検査結果を待って治療を差し控えてはならないこと、急性期のドキシサイクリン治療がBrill-Zinsser病を予防しうるが確かなデータは無いこと閲覧 2026-09-27
  3. 3.In vitro susceptibilities of 27 rickettsiae to 13 antimicrobials(Antimicrobial Agents and Chemotherapy(Rolain JM, Maurin M, Vestris G, Raoult D)・1998)Europe PMC(PMID 9660979)の抄録で、27種・株のリケッチアに対しドキシサイクリン・チアンフェニコール・フルオロキノロン系が有効で、βラクタム系・アミノグリコシド系・ST合剤は活性が無かったこと、発疹チフス群リケッチアは試験したマクロライド系すべてに感受性だったことを確認した。PMC全文(PMC105641)の表1・表2で、R. prowazekii(Breinl株)がR. typhiとともに第5群に含まれ、同群のMICがアモキシシリン128 µg/mL、ゲンタマイシン16 µg/mL、ドキシサイクリン0.06〜0.125 µg/mL、ST合剤は8/2 µg/mL超だったことを確認した。バンコマイシンは試験薬に含まれていない閲覧 2026-09-27