薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · C2 Antimycobacterials / 抗結核薬 · 必修

ストレプトマイシン

streptomycin

分類
Antimycobacterials / 抗結核薬Antibiotics / 抗菌薬
科目
Pharmacology
トピック
C13: AminoglycosidesC2: Antimycobacterial drugs
禁忌疾患
重症筋無力症
標的微生物
Mycobacterium tuberculosisYersinia pestis
副作用
難聴耳鳴めまい
監視検査値
クレアチニン
対象疾患
Parinaud眼腺症候群ブルセラ症ペスト多剤耐性結核野兎病

🧠 全体像:は1943年に発見された史上初のであり、かつては注射薬をRIPEに追加する「RIPES」という発想もあったほど中心的な薬だった。しかし現在のガイドラインでは、中心のが確立したことで注射薬の優先度が大きく下がった——この歴史的な地位の変化そのものが試験で問われるポイントになる。⚠️ ただし「注射薬が一律に外された」と覚えると誤りで、はが使えない場合の代替として長期レジメンのGroup Cに残っている(とは除外された)1。副作用はがより目立つ——はと同様、アミノグリコシド系の中でも主にを障害するタイプであり2、腎毒性も含めてアミノグリコシド系に共通するプロフィールをそのまま持つ。

薬効群の中での位置づけ

同じアミノグリコシド系であるとは機序・毒性プロフィールがほぼ同一だが、⚠️ 結核治療での現在の位置づけは同じではない——はの長期レジメンから除外されたのに対し、はの代替として残っている(下記)。

薬剤 現在の位置づけ 結核以外の主な適応
長期レジメンのGroup Cに「(または)」として残る。が使えないときの代替という位置づけ1 (では第一選択に残る3)、(⚠️ 2025年に第三段階へ格下げ4)、重症グラム陰性感染症への併用
長期レジメンから除外(推奨B3.2でとともに「含めない」とされた)1 重症グラム陰性感染症
結核には通常用いない 重症グラム陰性菌・心内膜炎でのβラクタム併用

⭐ 「なぜ注射薬の優先度が下がったのか」が現在の試験で問われる軸。 2020年前後のガイドライン改訂で、・・などの新規を中心としたの有効性・安全性が確立し、・腎毒性が不可逆になりうる注射薬は治療の中心から外れた。

⚠️ ただし「注射薬がひとまとめに外された」わけではない——は残っている。 統合ガイドライン Module 4(2026年の第2版)が長期レジメンから明示的に除外しているのはとであり(推奨B3.2「とは、長期レジメンで治療する多剤耐性/の患者に含めない」、条件付き推奨・非常に低い確実性)、はこの推奨に含まれない。推奨B3.11は「18歳以上で感受性が示され有害事象を監視するが確保できる患者の長期レジメンにを含めてよい。が入手できない場合は、同じ条件下でがに代わりうる」とし(条件付き推奨・効果推定の確実性は非常に低い)、レジメン構成を示すTable 2.20でもGroup Cに「(または)」として掲げられている1。

⚠️ を選べる条件は表の脚注に書かれている。 ①(DST)で感受性が確認されること、②難聴を検出できる質の高い聴力検査によるモニタリングが確保できること、③が使えない場合(入手できない、または耐性が確認されている場合)に限ること。⚠️ 耐性は用の分子生物学的ラインプローブアッセイ(LPA)では検出できず、表現型DSTが必要である点も、同じ脚注が明記している1。

⭐ 治療期間の数字も更新されている。 現行の長期レジメンの総治療期間は18〜20か月(推奨B3.15)、培養陰性化後では15〜17か月(推奨B3.16)が「多くの患者について」提案されており、いずれも患者の反応に応じて変更しうる。またはを含む長期レジメンのは6〜7か月が提案されている(推奨B3.17)——いずれも条件付き推奨・非常に低い確実性である1。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='streptomycin'>ストレプトマイシン</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacteria'>細菌細胞</span>内へ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxygen-dependent'>酸素依存</span>性に能動輸送される"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='30S ribosomal subunit'>30Sリボソームサブユニット</span>に結合"]
    B --> C["mRNAの読み取り枠がずれる<br>(misreading)"]
    C --> D["異常な蛋白が合成される"]
    D --> E["細胞膜が障害され<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='concentration-dependent'>濃度依存性</span>に殺菌"]

酸素を使う能動輸送で菌体内へ取り込まれるため嫌気性菌には無効(アミノグリコシド系共通の弱点)。かつ(PAE)を持つため、1日1回の高用量投与が理にかなう。

薬物動態

項目 値・特徴
ほぼ0%(消化管で吸収されない)
筋注・静注
分布 髄液へは炎症時でも移行に乏しい
代謝 ほとんど受けない
排泄 (未変化体)。腎機能で用量・間隔を調整する

適応

領域 使いどころ
結核 多剤耐性/の長期レジメンのGroup C(グループA・Bの薬剤が使えないときにレジメンを完成させるために足す群)。18歳以上・感受性が確認済み・聴力モニタリングが可能という条件下でを用いてよく、が入手できない場合にが代わりうる1
とともにの第一選択に残る(米国 2021年勧告)。ただし単剤でよいのは全身状態が安定し二次性の・の徴候が無い原発性・咽頭に限られ、重症の・は系統の異なる2剤の併用で開始して改善後に単剤へ絞る。治療期間は10〜14日3
⚠️ 2025年に第一選択から第三段階へ格下げされた。 米国の2025年勧告は第一選択を・・・ドキシサイクリンの4剤とし、はと代替薬を使い尽くしたときにのみ考慮するものとした(下記)4
心内膜炎 一部の重症グラム陰性菌感染症でβラクタムと併用することがある

⚠️ 「との第一選択」とひとまとめに覚えない——2025年に2疾患の扱いが分かれた。 では今もと並ぶ第一選択だが3、では第三段階へ下がっている。理由は有効性の否定ではない。①米国での供給が限られること、②処方者・薬剤師・が調製と投与に慣れておらず投与間違いの危険が高いこと、③に比べ不可逆な難聴などの有害事象の危険が大きいことによる4。同じ勧告は妊婦にもを推奨せず(供給難と不可逆な胎児)、⭐ がの適応を承認しているのは・ドキシサイクリン・テトラサイクリン・だけで、第一選択のとはであるという逆転した状況も明記している4——承認上の適応と推奨される第一選択は別物である。

⭐ に用いるときの用量。 成人1 g、小児15 mg/kgを1日2回、静注または筋注(小児は1日最大2 g)で10日間。⚠️ 静注は米国ではである。開始後にJarisch-Herxheimer様反応が報告されており、播種性の症例では初回投与後の観察を要する4。

用法・用量

筋注または静注。腎機能・に基づくが必須。聴力・・腎機能を定期的に評価する。 実際の用量は適応・年齢・体重・腎機能で変わるため、施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • 禁忌:重症筋無力症(でのアセチルコリン放出抑制により症状を悪化させる)、妊娠(胎児のによるのリスク)
  • ⚠️ はより目立ち、不可逆になりうる。 はとともに主にを障害するアミノグリコシドであり、・は主に蝸牛(聴器)を障害する点で対照的である2。(・回転性めまい)が(難聴・)に先行することが多く、症状の訴えを待たずに定期評価する。ミトコンドリア12S の変異(m.1555A>Gなど)をで持つ人は、通常量でも難聴を来しやすい5。
  • 腎機能低下・高齢者・長期投与・他の腎/(など)との併用でリスクが上がる
  • ・と併用すると筋弛緩作用が増強されうる

副作用

頻度 内容
高頻度 注射部位反応
注意 (可逆的なことが多い)
重篤・まれ (難聴・・によるめまい、不可逆となりうる)、、胎児(妊娠中投与)

まとめ

  • 史上初の(1943年発見)。アミノグリコシド系としてに結合しmRNAを起こす薬。
  • 現在の指針では注射薬の優先度が大きく下がっている——不可逆なのリスクと、有効なの確立が背景。
  • ⚠️ ただし薬剤群でまとめて覚えない。 長期レジメンから除外されたのはと(推奨B3.2)で、はGroup Cにの代替として残る(推奨B3.11・Table 2.20)。長期レジメンの総治療期間は18〜20か月(推奨B3.15)。
  • 結核以外に・という独自の適応を持つが、⚠️ 2つの扱いは同じではない。ではの第一選択に残る3一方、では2025年に第三段階へ格下げされ、と代替薬を使い尽くしたときにのみ用いる(供給難・投与の不慣れ・有害事象)4。
  • 副作用は(が先行しやすい)・腎毒性・というアミノグリコシド共通のプロフィール。
  • 妊娠は禁忌(胎児のリスク)。重症筋無力症も禁忌。
  • とは機序・毒性プロフィールがほぼ同一だが、結核治療での現在の位置づけは異なる(は長期レジメンから除外、はGroup Cに残存)。

出典

  1. 1.WHO consolidated guidelines on tuberculosis. Module 4: treatment and care, second edition(World Health Organization・2026)2026-09-27に第2版(ISBN 978-92-4-012512-4)のPDF本体で確認した。推奨B3.2(不変)がカナマイシンとカプレオマイシンだけを長期レジメンから除外し(conditional recommendation, very low certainty of evidence)、⚠️ ストレプトマイシンはこの推奨に含まれないこと。推奨B3.11が「18歳以上で感受性が示され有害反応の監視体制が確保できる患者の長期レジメンにアミカシンを含めてよい。アミカシンが入手できない場合は同じ条件下でストレプトマイシンがアミカシンに代わりうる」としていること。Table 2.20のGroup Cに「Amikacin (or streptomycin)」が掲げられ、脚注hが①DSTで感受性が確認され②質の高い聴力モニタリングが確保できる場合にのみ考慮すること、③ストレプトマイシンはアミカシンが使えない場合(入手不能または耐性確認)にのみ考慮すること、④ストレプトマイシン耐性は第二選択薬用の分子生物学的LPAでは検出できず表現型DSTを要すること、⑤カナマイシンとカプレオマイシンはMDR-TBレジメンでもはや推奨されないことを明記していること。推奨B3.15が総期間18〜20か月、B3.16が培養陰転後15〜17か月、B3.17がアミカシンまたはストレプトマイシンを含む場合の強化期6〜7か月を提案すること(いずれも条件付き・非常に低い確実性)。本書はこれらの長期レジメンの推奨が第1版(2025年)から変わっていないと述べる。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Aminoglycoside-induced ototoxicity(Current Pharmaceutical Design・2007)ストレプトマイシン・ゲンタマイシンは主に前庭毒性(vestibulotoxic)を来し、アミカシン・ネオマイシン・ジヒドロストレプトマイシン・カナマイシンは主に聴器毒性(cochleotoxic)を来すという、アミノグリコシド系内での毒性プロファイルの違いをアブストラクトで確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Antimicrobial Treatment and Prophylaxis of Plague: Recommendations for Naturally Acquired Infections and Bioterrorism Response(Centers for Disease Control and Prevention (MMWR Recommendations and Reports)・2021)本文で「Because of their overall efficacy and demonstrated in vitro activity against Y. pestis, streptomycin and gentamicin remain first-line agents for treatment of bubonic plague」を確認した——ペストではストレプトマイシンは第一選択に残っている。ただし単剤でよいのは全身状態が安定し二次性の敗血症型・肺ペストの徴候が無い原発性腺ペスト・咽頭ペストに限られ、重症の敗血症型・肺ペストは系統の異なる2剤の併用で開始して改善後に単剤へ絞る。治療期間は全病型で10〜14日。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Tularemia Antimicrobial Treatment and Prophylaxis: CDC Recommendations for Naturally Acquired Infections and Bioterrorism Response — United States, 2025(Centers for Disease Control and Prevention(MMWR Recommendations and Reports 74(RR-2))・2025)本文で「Streptomycin has been relegated to a third-tier treatment option」「Streptomycin should be considered for treatment of tularemia only when first-line and alternative antimicrobial drugs have been exhausted」を確認した。理由は米国での供給が限られること、処方者・薬剤師・看護師が調製と投与に慣れておらず投与間違いの危険が高いこと、ゲンタマイシンに比べ不可逆な難聴などの有害事象の危険が大きいこと。野兎病の第一選択は成人および生後1か月以上の小児でシプロフロキサシン・レボフロキサシン・ゲンタマイシン・ドキシサイクリンの4剤。妊婦にはストレプトマイシンは推奨されない(供給と不可逆な胎児聴器毒性)。ストレプトマイシンの用量は成人1 g、小児15 mg/kgを1日2回静注または筋注(静注は適応外使用、小児は1日最大2 g)で、治療期間は10日。ストレプトマイシン開始後にJarisch-Herxheimer様反応が報告されている。なおFDAが野兎病の適応を承認しているのはストレプトマイシン・ドキシサイクリン・テトラサイクリン・ミノサイクリンだけで、第一選択のシプロフロキサシンとゲンタマイシンは適応外使用である。閲覧 2026-09-27
  5. 5.Mitochondrial 12S rRNA mutations associated with aminoglycoside ototoxicity(Mitochondrion・2011)ミトコンドリア12S rRNA遺伝子の変異(m.1555A>Gなど)を母系遺伝で持つ人は、通常量のアミノグリコシド投与でも難聴を来しやすいことを確認した。ストレプトマイシンを含むアミノグリコシド系全般に共通するリスクである。閲覧 2026-08-27