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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

多剤耐性結核

Multidrug-resistant tuberculosis

別名
MDR-TBRR-TBリファンピシン耐性結核
臓器系
感染症呼吸器
科目
Medical MicrobiologyPulmonology and Thoracic SurgeryInternal MedicinePharmacology
トピック
微生物学 1/22:抗結核薬呼吸器内科 27:結核内科学 S-55:結核薬理学 C2:抗抗酸菌薬
上位概念
結核
治療薬
ベダキリンプレトマニドリネゾリドモキシフロキサシンレボフロキサシンデラマニドクロファジミンシクロセリンエチオナミドプロチオナミドパラアミノサリチル酸アミカシンストレプトマイシンリファブチン
原因微生物
Mycobacterium tuberculosis
検査値
血小板数ヘモグロビン白血球数QT延長
画像所見
肺空洞
適応薬
エチオナミドテリジドンリファブチン

🧠 全体像:は「別の菌による別の病気」ではなく、結核のうち中核薬が効かなくなった状態である。臨床像も感染様式も感受性結核と区別できないため、疑って検査しなければ見つからない——だから戦略の中心は「治療前に必ず耐性を測る」ことに置かれる。ひとたび耐性が分かれば話は逆転し、この20年で最も大きく変わった領域になる。注射薬を含む長期治療は第一に選ぶ組み立てではなくなり、現在は全経口・6か月のレジメンが出発点である。

定義——「多剤耐性」は薬の数ではなく特定の2剤で決まる

⚠️ 「多剤耐性」は「多くの薬に耐性」という意味ではない。 とリファンピシンという特定の2剤の両方に耐性であることを指す。この2剤が選ばれているのは、()と・再発防止(リファンピシン)というの二本柱だからで、どちらを失っても標準レジメンが成立しなくなる。

分類 定義 実務上の意味
Hr-TB 耐性・リファンピシン感受性 MDRではない。レジメンは変えるがリファンピシンを軸に組める
リファンピシン耐性(感受性かどうかを問わない) これだけでと同じ扱いをする。が最初に返す情報がこれ
少なくとも+リファンピシン耐性 ここから「」
pre-XDR-TB MDR/RR-TB+ 2021年に新設された区分1
MDR/++グループA薬(またはリネゾリド)の少なくとも一方に耐性 2021年に定義が改訂された1

⭐ がと同じ扱いを受ける理由は「検査の順番」にある。 が最初に判定できるのはリファンピシン耐性(rpoB変異)であり、耐性の情報はそれより遅れて返る。リファンピシン耐性のうち大半は耐性を伴うため、の結果を待たずにとして治療を組み始めるほうが安全である。だからガイドラインは一貫して「MDR/」という一語で扱う。

2021年にXDR-TBの定義が変わった理由

⚠️ 古い教科書の定義(MDR++耐性)は現行ではない。 定義が変わったのは菌が変わったからではなく、治療のほうが変わって旧定義が意味を失ったためである。2019年の推奨で・・といったがレジメンの中心から外れた結果、「注射薬に耐性かどうか」は転帰をほとんど左右しなくなった。⚠️ ただし注射薬が一律に消えたわけではない——2026年の指針(第2版)でも、長期レジメンに含めてはならないと明示されているのはとで、(無い場合は)は18歳以上・感受性が示され・副作用監視のが確保できる場合に限りGroup Cに残っている2。代わりに転帰を分けたのはとリネゾリドが使えるかどうかで、 11,666例の解析がこれを示して新定義の根拠になった3。

💡 耐性の分類は「菌の性質のリスト」ではなく「残っている手札の枚数」を表す指標として設計されている。 だからレジメンが変われば定義も変わる。年号を添えずに定義を暗記しない。

耐性はどこから来るか

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mycobacterium tuberculosis'>結核菌</span>集団に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spontaneous'>自然発生</span>する<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='resistance mutation'>耐性変異</span>(薬剤ごとに一定頻度)"] --> B{"有効薬が何剤あるか"}
    B -->|"複数の有効薬を併用"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resistance mutation'>耐性変異</span>株も殺され<br>選択されない"]
    B -->|"実質的な単剤状態<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medication discontinuation (nonadherence)'>服薬中断</span>・吸収不良・不適切な処方)"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resistance mutation'>耐性変異</span>株だけが生き残る"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acquired resistance'>獲得耐性</span><br>(治療中に発生)"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacillary shedding'>排菌</span>したまま咳をする"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transmitted resistance'>伝播耐性</span><br>(最初から耐性菌に感染)"]
    G --> H["未治療の初回患者でも<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='multidrug-resistant tuberculosis'>MDR-TB</span>でありうる"]

⚠️ は「服薬を守らなかった人の病気」ではない。 現在の新規MDR/の相当部分はすでに耐性を持つ菌が人から人へ直接伝播したもので、に一度も曝露していない初回患者にも起こる。治療歴が無いことを理由に耐性検査を省略してはならない。

主な耐性遺伝子

薬剤 主な
リファンピシン rpoBのポリメラーゼの変異。リファンピシン耐性の大半を占め、が狙うのもここ
katG(を活性化するの喪失)、inhAプロモーター(標的の)
フルオロキノロン gyrA・gyrB()
・ Rv0678変異によるの。両剤にを生じる——の使用がの効きを損なう経路になる
・ ddn・fbiA〜fbiCなど。いずれもF420依存性の還元により活性化されるで、活性化経路の障害が両剤にをもたらす
リネゾリド 23S rRNA、rplC

💡 katGとinhAの使い分けが臨床判断に効く。 inhAだけなら高用量や・とのが問題になり、katG変異ではは事実上使えない。「耐性」という一語の内側に、次の一手が違う2つの状態がある。

診断——耐性を測らずに治療を始めない

に固有のは無い。長引く咳や空洞といった所見は感受性結核と同じで、症状から多剤耐性を疑うことはできない(結核そのものの疫学・症状・診断のは結核を参照)。

⭐ 疑うべきなのは症状ではなく「文脈」である。

  • 適切な治療を2〜3か月受けても培養が陰転しない、いったん陰転してから再陽性化した
  • 治療歴がある()、治療を中断した既往がある
  • MDR/患者との接触歴がある
  • MDR/の多い地域からの移住・渡航歴がある
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='active tuberculosis'>活動性結核</span>を疑う検体"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='World Health Organization'>WHO</span>推奨<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rapid molecular test'>迅速分子検査</span><br>(rpoBのリファンピシン耐性を同時判定)"]
    B -->|"リファンピシン感受性"| C["薬剤感受性結核として治療<br>培養・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='susceptibility test'>感受性試験</span>で確認"]
    B -->|"リファンピシン耐性"| D["MDR/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rifampicin-resistant tuberculosis'>RR-TB</span>として直ちに専門管理へ"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluoroquinolone resistance'>フルオロキノロン耐性</span>を最優先で検査<br>(レジメン選択を分ける)"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='isoniazid, H'>イソニアジド</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bedaquiline'>ベダキリン</span>・リネゾリドなど<br>追加薬剤の感受性を評価"]
    E --> G["レジメンを決定"]
    F --> G
    G --> H["培養・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phenotypic drug susceptibility testing'>表現型感受性試験</span>で後追い確認"]
  • を初期検査に置く4。リファンピシン耐性を短時間で判定できるため、治療開始前に方針を分けられる
  • の有無が最も急ぐ情報である。のままでよいか(を含められるか)、として重症度でBPaL/BPaLCへ分けるかがここで決まる
  • 分子検査とは食い違うことがある。rpoBの変異には表現型上ほとんど耐性を示さないもの(disputed mutation)もあり、逆に分子検査が拾えない変異もある。片方だけで決めず、専門的に解釈する
  • 培養とは時間がかかるが省略しない。治療中のを検出できるのは培養の追跡である

治療——注射薬・長期から全経口・6か月へ

レジメンの骨格

2026年の指針(第2版)が第一に提案するのは、全経口・6か月の系とBDLLfx/C系の2系統である2。⚠️ ただし推奨の強さは高くない。 6か月レジメンはいずれも conditional recommendation, very low certainty of evidence として掲げられており、の語法でも「推奨する」ではなく「提案する」側の動詞が使われている2。

⭐ 第2版の改訂点は「を重症度で分けた」ことである。 TB-PRACTECAL試験の108週までの延長追跡と、BEAT Tuberculosis試験・endTB-Q試験のを受けて、の肺結核()では重症か非重症かでレジメンを変える形に組み直された。💡 重症のではが起きたときに中核薬(とくに)への耐性が増幅しやすいため、1剤足すか、短期レジメンを避けるかの判断が要る2。

レジメン 構成 位置づけ(2026年)
BPaLM ++リネゾリド+ MDR/の大半に第一に提案。フルオロキノロン感受性なら重症度を問わずこのまま続ける
BPaL からを外した3剤 非重症の肺(BPaLCより優先)
BPaLC BPaLにを加えた4剤 重症の肺(BPaLより優先)。第2版で新設
BDLLfx/C ++リネゾリド++ の有無を問わず開始できる。を使えない患者の選択肢
BDLC BDLLfx/Cからを外した4剤 非重症の肺では長期レジメンより優先。⚠️ 重症の肺には用いない

⚠️ 「重症」の定義はレジメン選択のためのもので、一般的な重症度とは別である。 成人・青年では、胸部X線のに1+以上の高菌量が重なる場合、または空洞が無くても塗抹2+以上(推奨分子検査での同等の結果を含む)の場合を重症とし、それ以外をすべて非重症とする2。

⭐ どちらの系統も「開始したあと感受性結果で組み替える」レジメンである。 が不明なら、またはBDLLfxCで開始して結果を待つ2。

flowchart TD
    A["MDR/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rifampicin-resistant tuberculosis'>RR-TB</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluoroquinolone resistance'>フルオロキノロン耐性</span>は未判明)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='BPaLM regimen (bedaquiline, pretomanid, linezolid, moxifloxacin)'>BPaLM</span>で開始"]
    A --> C["BDLLfxCで開始<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='BPaLM regimen (bedaquiline, pretomanid, linezolid, moxifloxacin)'>BPaLM</span>を使えない患者)"]
    B -->|"フルオロキノロン感受性"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='BPaLM regimen (bedaquiline, pretomanid, linezolid, moxifloxacin)'>BPaLM</span>を継続<br>(重症度を問わない)"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pre-extensively drug-resistant tuberculosis'>pre-XDR-TB</span>・非重症"| E["BPaLへ"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pre-extensively drug-resistant tuberculosis'>pre-XDR-TB</span>・重症"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='moxifloxacin'>モキシフロキサシン</span>を<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='clofazimine'>クロファジミン</span>に替えてBPaLCへ"]
    C -->|"フルオロキノロン感受性"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clofazimine'>クロファジミン</span>を外してBDLLfxへ"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pre-extensively drug-resistant tuberculosis'>pre-XDR-TB</span>・非重症"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='levofloxacin'>レボフロキサシン</span>を外してBDLCへ"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pre-extensively drug-resistant tuberculosis'>pre-XDR-TB</span>・重症"| I["BDLCは用いない<br>BPaLCか個別の長期レジメンへ"]

💡 BDLLfx/Cは小児・妊婦にも使えるため、BPaL/M/Cの対象外の患者を感受性不明の段階から治療できる——これがBPaL/M/Cとの実務上の一番の違いである。

⚠️ どの患者に使えるかは2つの系統で違う。 はBPaL/M/CとBDLLfx/Cに別々の適用条件を付けている2。

BPaLM/BPaL/BPaLC BDLLfx/C
年齢 14歳以上の成人・青年 全年齢(小児を含む)
妊娠・授乳 ⚠️ 適用しない(の安全性データが限られるため) 推奨対象に含まれる
感染の有無を問わない 感染の有無・免疫抑制の程度を問わない
病型 肺結核と、中枢神経・骨関節・多臓器を除くすべての 同左
MDR/と(重症度でBPaL/BPaLCを選ぶ) MDR/と非重症のpre-XDR-TB
事前曝露 ・リネゾリド・・・への曝露が1か月未満 ・リネゾリド・・への曝露が1か月未満

⚠️ 曝露歴を問う薬剤の並びは2つで違う。 BPaL/M/Cの側に挙がるはこの系統の構成薬ではない——構成薬かどうかではなく、その薬への曝露が耐性を疑わせるかどうかで並びが決まっている。いずれのレジメンでも、曝露が1か月以上あっても当該薬への耐性が除外できれば投与してよい2。

⚠️ 「6か月レジメンだけ」ではない。 6か月レジメンの適格条件を満たさない患者には、9か月が残っている——(6か月)+/・・・高用量・・を4か月(4か月時点でなら6か月まで延長可)、続いて/・・・を5か月。は2か月のリネゾリド600 mg/日で置き換えてよく、妊婦にはリネゾリド版を用いる(を含む版は妊婦に用いない)。⚠️ 適用は二重に絞られている——が除外されていることに加え、広範な病変(胸部X線で両側のまたは広範な実質破壊)が無く、重症の(・・・心膜結核)でもない患者に限られる。💡 9か月レジメンの根拠となったデータセットがこれらの患者を系統的に除外していたため、推奨をそこまで広げなかったとは述べている。いずれも conditional recommendation, very low certainty of evidence である2。

⭐ 2025年の第1版はさらに「改変9か月」を新設し、2026年の第2版もこれを変更せずに引き継いでいる。 endTB試験に基づき、・リネゾリド・を共通の骨格として、これにフルオロキノロン・・を組み合わせた3レジメンを、18か月超の長期レジメンより優先することが提案されている2。

改変9か月レジメン 構成 優先の順序
BLMZ +リネゾリド++ 1番目
BLLfxCZ +リネゾリド+++ 2番目
BDLLfxZ ++リネゾリド++ 3番目

⚠️ 対象はが除外されたMDR/に限られる。⭐ 一方で、を含まない DCLLfxZ・DCMZ は「長期レジメンと比べて使わないこと」が提案された——同じendTB試験で・再発が11%・8.7%(対照2.5%)、耐性の増幅が4.0%・6.7%(対照0%)と高かったためである2。💡 の9か月レジメンと違い、改変版は広範な病変をもつ患者にも広げてよいとされている——endTB試験が重要な併存症をもつ患者や広範な病変をもつ患者を組み入れていたため、9か月レジメンとは対照的にこれらの集団へ推奨を広げられる、というのがの説明である2。⚠️ 一方、(中枢神経・骨関節・多臓器を除く)への拡張は組入れ基準に由来しない。 endTB試験がを組み入れたのは肺結核を併発する場合に限られ、についての個別の解析はできていない。それでもGDGは、特別な治療上の配慮を要する重症型を除けば外挿はされると判断した——広さの根拠は試験の組入れではなくGDGの外挿である。妊娠・授乳中の女性も同様で、endTB試験は妊婦を除外していたが、他の研究を踏まえて推奨の対象に含められている2。

これらでも組めない場合に、Group A・B・Cから組み立てる18〜20か月の長期レジメンへ下がる(後述)2。

⭐ の根拠はTB-PRACTECAL試験である。 ベラルーシ・南アフリカ・ウズベキスタンの15歳以上のリファンピシン耐性肺結核で、24週の全経口と9〜20か月の標準治療を比較したところ、修正ITT解析での不良転帰(死亡・・治療中断・追跡不能・再発の複合)は11%対48%(−37ポイント、96.6%CI −53〜−22)、grade 3以上または重篤な有害事象は19%対59%だった5。を検証する設計でありながら、有効性でも安全性でも標準治療を上回った点がこの試験の意義である。

💡 なぜ4剤で6か月に収まるのか。 (阻害)・(+での放出)・リネゾリド()・(阻害)はが互いに重ならず、既存薬とのも無い。は嫌気・非増殖状態の菌にも作用するため、従来「長期投与でしか殺せない」とされたの除去を短期間で担える。

長期レジメンをどう組むか——Group A・B・C

短期レジメンがどれも使えない患者のために、個別に組み立てる長期レジメンが残されている。薬剤は3群に分けられ、Group Cの並び順はそのまま推奨の優先順位である——原文は「通常の使用上の好ましさが下がる順に並べてある」としたうえで、⚠️ 他の考慮事項によって順序は変わりうると但し書きを付けている2。

群 使い方 薬剤
Group A 3剤すべてを入れる または、、リネゾリド
Group B 1剤または2剤を加える 、または
Group C A・Bだけで組めないときに、優先順に加えて完成させる → → → または → (または) → または →

⭐ 組み立ての規則は「開始時に有効薬4剤、中止後も3剤」である。 Group Aの3剤全部とGroup Bの少なくとも1剤を入れるのが原則で、Group Aを1〜2剤しか使えないならGroup Bは2剤とも入れる2。💡 が途中で終わる前提で数えるので、始めから1剤多く積んでおく設計になっている。

⚠️ Group Cの末尾2つには「他に組めない場合に限る」という条件が付いている。 /とは、・リネゾリド・・を用いない場合か、それ以上によい構成が組めない場合に限って入れてよいとされる(推奨B3.12・B3.13、conditional recommendation, very low certainty of evidence)。表の脚注も、これらは・リネゾリド・・を含まないレジメンでしか有効性が示されなかったため、他の選択肢が無いときに限って提案すると述べている2。同じ表に載っていても、他のGroup C薬と同列に扱わないことを読み落とさない。

⚠️ Group Cに残る注射薬には、表の脚注に3つの条件が付いている。 ①で感受性が確認されること、②難聴を検出できる質の高い聴力検査によるモニタリングが確保できること、③はが使えない場合(入手できない、または耐性が確認されている場合)に限ること。さらに⚠️ 耐性は用の分子生物学的ラインプローブアッセイでは検出できず、表現型を要する2。

⭐ とだけが外れた理由は「効かなさ」である。 は推奨B3.2の根拠を「これらの薬剤は使用時により不良な転帰と関連していた」と述べる。2018年の個別患者データでは、治療成功に対する・再発のが1.9(95%CL 1.0–3.4)・2.0(1.1–3.5)と1を上回る一方、は0.3(0.1–0.8)・は0.5(0.1–2.1)と1を下回った2。💡 別に示されている重篤な有害事象の(2016年の個別患者データの一部を用いたアーム別)は10.8%と10.3%でほぼ同等なので、「毒性が強いから外れた」という覚え方は誤りである。⚠️ いずれも観察研究中心の個別患者データを集めた解析で、は少数にとどまる——自身も推奨の確実性を「非常に低い」と格付けしている。

期間は総治療期間18〜20か月(推奨B3.15)、培養陰転後15〜17か月(推奨B3.16)が多くの患者への提案で、またはを含む場合のは6〜7か月(推奨B3.17)とされる。いずれも患者の反応に応じて変えてよい2。⚠️ 古い教科書の「注射薬入り18〜24か月」はが2019年以前の推奨レジメンを指すときの呼び方であり、現行の長期レジメンの18〜20か月とは別の数字である。

リネゾリドの用量——効果を保ったまま毒性を下げる

⚠️ BPaL/M/Cの成否を決めるのはリネゾリドの毒性管理である。 構成薬のうち唯一、の重い毒性(骨髄抑制・末梢神経障害・)を持ち、しばしば中断・減量を強いられる。

ZeNix試験(181例、88%がXDR/pre-XDR)は・を固定してリネゾリドの用量と期間だけを4群に振り分けた6。

リネゾリドの用量・期間 良好な転帰 末梢神経障害 骨髄抑制 用量変更
1200 mg×26週 93% 38% 22% 51%
1200 mg×9週 89% 24% 15% 30%
600 mg×26週 91% 24% 2% 13%
600 mg×9週 84% 13% 7% 13%

⭐ 600 mg×26週が最良の利益・とされた。 1200 mgから600 mgへ半減しても良好な転帰は93%→91%とほとんど変わらない一方、骨髄抑制は22%→2%へ、用量変更は51%→13%へ大きく下がる。は1200 mg×26週群の4例(9%)にのみ生じ、いずれも回復した。逆に期間を9週へ短縮すると転帰が落ち、78週までの微生物学的不良転帰7件のうち6件が9週群で生じている——減らすなら期間ではなく用量という非対称がこの試験の要点である6。

監視項目

薬剤 主な毒性 監視
リネゾリド 骨髄抑制(・ヘモグロビン・がいずれも低下しうる)、末梢神経障害、、 血算を反復。・・の症状を毎回する。神経障害は減量・中止しても回復が遅いことがある
QT延長、肝障害 心電図と電解質(K・Mg・Ca)。半減期が非常に長く、中止後もQT延長が続きうる
・・・ QT延長(併用で) 併用時は心電図の頻度を上げる。を放置しない
肝障害、消化器症状 肝機能を反復
皮膚・体液の橙〜褐黒色化、QT延長 は可逆だが数か月〜年単位で残り、の障壁になる。あらかじめ説明する

⚠️ QT延長薬が重なることが治療の構造的な危険である。 ・・・フルオロキノロンはいずれもQTを延ばし、レジメンによっては3剤以上が同時に入る。心電図だけでなくと併用薬(・抗精神病薬・)の棚卸しをセットで行う。

個別の状況

  • 妊娠:⚠️ ・BPaL・BPaLCは妊娠・授乳中の女性には適用しない2。を含むレジメンは妊娠・の安全性データが乏しいためである。⭐ 代替は空白ではない——WHOはBDLLfx/Cを妊娠・授乳中の女性に推奨対象として挙げ(では非重症に限りBDLC)、9か月レジメンではをリネゾリドへ置き換えた版を、改変9か月レジメン(BLMZ・BLLfxCZ・BDLLfxZ)も妊娠・授乳中を適用に含めている2
  • 小児・思春期:⚠️ ・BPaL・BPaLCは14歳以上が対象で、14歳未満には用いない。BDLLfx/C(6か月レジメン)は全年齢が対象で、妊娠・授乳中も推奨対象に含まれる2。10歳未満の小児では、重症の肺は広範なリンパ節病変による気道閉塞や、空洞が無くても画像上の広範な肺病変と重いとして現れうる
  • 併存:やとの相互作用(特に強いCYP3Aとの併用)を確認する。相互作用を理由にどちらかを自己中断させない
  • :日本では添付文書上、に300〜450 mg/日の用法が定められている(用量の出典はの項に譲る)。ただしリファンピシンと同じであり、rpoB変異によってはを示すため、感受性が確認できた場合に限られる
  • :MDR/患者のには、を除外したうえで6か月(6Lfx)のが推奨される(詳細は結核のの節)

世界の現状——薬は変わったが、届いていない

指標 数値
MDR/治療への登録者数(2024年) 164,545人(2022年179,491人・2023年177,017人から減少)
うち6か月レジメンで開始(2024年) 34,256人(2022年は1,744人)
(2022年コホート) 71%(2021年68%、2020年64%、2012年50%)

出典は2025年の世界結核報告7。

⭐ この表は「レジメンの進歩」と「診断の届かなさ」が同時に起きていることを示す。 6か月での治療開始は2年で20倍近くに増え、も2012年の50%から71%へ21ポイント改善した。一方で治療登録者数そのものは減少しており、推定発生数との差はほとんど「診断されていない患者」である。の最大のボトルネックは薬ではなく、耐性検査へのアクセスにある。

感染対策

は感受性結核と同じであり、対策も同じ(・換気・N95相当の。詳細は結核を参照)。ただし違いが2つある。

  1. 有効治療が始まるまでの期間が長くなりやすい——耐性が判明して適切なレジメンに切り替わるまで、無効な薬を飲みながらが続く。の解除を「治療開始から何日」で機械的に決めない
  2. が感染すれば、その人も最初から耐性菌を持つ——とへのの重みが感受性結核より大きい

まとめ

  • は「多くの薬に耐性」ではなくとリファンピシンの両方に耐性。リファンピシン耐性だけのも同じ扱いをする。
  • (+)と(+グループA薬耐性)の定義は2021年に改訂されており、を含む旧定義は現行ではない。
  • 耐性は治療中の獲得だけでなく耐性菌の直接伝播でも生じる。治療歴が無いことは耐性検査を省く理由にならない。
  • 臨床像で多剤耐性を疑うことはできない。治療前のでリファンピシン耐性を、次いでを測るのが戦略の中心。
  • 治療の出発点は全経口・6か月のとBDLLfx/Cで、いずれも conditional recommendation, very low certainty of evidence として掲げられた提案である。2026年の第2版はを重症度で分け、非重症はBPaL(またはBDLC)、重症はBPaLCとし、重症にBDLCは用いない。6か月・9か月レジメンが組めない場合の受け皿として18〜20か月の長期レジメンが残り、とだけは長期レジメンにも含めない。
  • リネゾリドは600 mg×26週が最良の利益・。用量を半減しても効果はほぼ保たれ骨髄抑制が大きく減るが、期間短縮は転帰を悪化させる。
  • QT延長薬が複数重なる点と、リネゾリドの神経・が、このレジメンの主な管理課題である。
  • は71%まで改善した一方、治療に到達できていない患者が多数残る——薬より診断が律速である。

出典

  1. 1.Meeting report of the WHO expert consultation on the definition of extensively drug-resistant tuberculosis, 27-29 October 2020(World Health Organization・2021)XDR-TBの定義が2021年に改訂され、MDR/RR-TBかつフルオロキノロン耐性に加えてグループA薬(ベダキリンまたはリネゾリド)の少なくとも1つに耐性という定義になったこと、MDR/RR-TBにフルオロキノロン耐性が加わった段階をpre-XDR-TBという新区分としたことを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.WHO consolidated guidelines on tuberculosis. Module 4: treatment and care, second edition(World Health Organization・2026)2026-09-27に第2版(ISBN 978-92-4-012512-4)のPDF本体で確認した。推奨B1.1(更新)はMDR/RR-TBに6か月のBPaLM(ベダキリン・プレトマニド・リネゾリド・モキシフロキサシン)を9か月・18か月レジメンより提案し、B1.1a(新規)は非重症の肺pre-XDR-TBにBPaL、B1.1b(新規)は重症の肺pre-XDR-TBにクロファジミンを加えたBPaLCを提案する(いずれも conditional recommendation, very low certainty of evidence)。備考で、フルオロキノロン耐性が不明ならBPaLMで開始し、感受性なら重症度を問わずBPaLMを続け、pre-XDR-TBなら重症でBPaLC・非重症でBPaLとすること、重症を「胸部X線の空洞性病変かつ喀痰塗抹1+以上、または空洞が無くても塗抹2+以上(または同等の分子検査結果)」と定義すること、適用が14歳以上・HIV感染の有無を問わない・肺結核と中枢神経・骨関節・多臓器播種型を除く肺外結核であること、事前曝露を問う薬がベダキリン・リネゾリド・プレトマニド・デラマニド・クロファジミンであること、妊娠・授乳中の女性には適用しないこと、リネゾリドがBPaLM・BPaL・BPaLCとも1日1回600 mgであることを定める。推奨B1.2(更新)はBDLLfx/C(ベダキリン・デラマニド・リネゾリド600 mg・レボフロキサシン・クロファジミン)をフルオロキノロン耐性の有無を問わないMDR/RR-TBに提案し、B1.2a(新規)は非重症の肺pre-XDR-TBにBDLCを18か月以上の長期レジメンより提案し、B1.2b(新規)は重症の肺pre-XDR-TBにBDLCを用いないよう提案する(耐性増幅のおそれ。代わりにBPaLCか個別の長期レジメン)。備考でフルオロキノロン感受性ならクロファジミンを外してBDLLfx、非重症pre-XDR-TBならレボフロキサシンを外してBDLCとすること、適用が全年齢の小児・妊娠・授乳中の女性を含み、事前曝露を問う薬がベダキリン・リネゾリド・デラマニド・クロファジミンであることを定める。推奨B2.1(不変)の9か月全経口レジメンの構成(ベダキリン6か月+レボフロキサシン/モキシフロキサシン・エチオナミド・エタンブトール・高用量イソニアジド・ピラジナミド・クロファジミンを4か月〔塗抹陽性なら6か月まで延長可〕、続いてレボフロキサシン/モキシフロキサシン・クロファジミン・エタンブトール・ピラジナミドを5か月、エチオナミドは2か月のリネゾリド600 mg/日で置換可、妊婦にはリネゾリド版)と、広範な病変(脚注32:両側空洞性病変または広範な実質破壊)と重症肺外結核(脚注33:粟粒・髄膜炎・骨関節・心膜)を除外する理由を確認した。推奨B2.2・B2.3(不変)は改変9か月全経口レジメンBLMZ>BLLfxCZ>BDLLfxZを18か月超の長期レジメンより提案し、DCLLfxZ・DCMZを用いないよう提案する(治療失敗・再発11%・8.7%対2.5%、耐性増幅4.0%・6.7%対0%)。endTB試験は重要な併存症と広範な病変の患者を組み入れたため拡張でき、肺外結核への拡張はGDGの外挿であり、Table 2.15の除外基準で妊娠・授乳中は除外されたが備考は対象に含める。長期レジメンは推奨B3.1の組み立て規則、Table 2.20の群分け(脚注aの順序の但し書き、脚注hのアミカシン・ストレプトマイシンの条件とカナマイシン・カプレオマイシン除外、脚注iのエチオナミド/プロチオナミド・パラアミノサリチル酸は他に組めない場合に限ること)、推奨B3.2(カナマイシン・カプレオマイシンを含めない。本文の理由は不良な転帰との関連)、B3.11(アミカシン・ストレプトマイシンは18歳以上等の条件付き)、B3.12・B3.13(ベダキリン・リネゾリド・クロファジミン・デラマニドを用いない場合に限り含めてよいとする conditional recommendation, very low certainty of evidence)、B3.15〜B3.17(総期間18〜20か月・培養陰転後15〜17か月・注射薬を含む場合の強化期6〜7か月)を確認した。Table 2.21の治療失敗・再発の調整オッズ比(カナマイシン1.9、カプレオマイシン2.0、アミカシン0.3、ストレプトマイシン0.5)とTable 2.22の重篤な有害事象の絶対リスク(カナマイシン10.8%、アミカシン10.3%、ストレプトマイシン4.5%、カプレオマイシン8.4%、2016年の個別患者データの一部による arm-based network メタ解析)、2019年以前の推奨レジメンを「18–24-month WHO-recommended regimen [pre-2019]」と呼ぶことも第1版から変わっていない。本書は第1版(2025年)の有効な推奨をすべて引き継ぎ、改訂はB1.1・B1.2の更新とpre-XDR-TBの下位推奨の新設であると述べる。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Evidence-based Definition for Extensively Drug-Resistant Tuberculosis(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine・2021)2020年までのXDR-TBの定義がMDR-TBかつフルオロキノロン耐性かつ第二選択注射薬耐性であったこと、2019年WHO推奨で第二選択注射薬の役割が大幅に縮小したため定義の見直しが必要になったこと、MDR-TB 11,666例の解析でベダキリン・リネゾリドの使用が耐性パターンによらず転帰を改善したことを示し、新定義の根拠となった。閲覧 2026-08-26
  4. 4.WHO consolidated guidelines on tuberculosis. Module 3: diagnosis(World Health Organization・2025)WHO推奨迅速分子検査を初期検査とすること、およびHIV感染者・小児での呼吸器検体、便、尿LF-LAMの同時検査を確認した。閲覧 2026-08-02
  5. 5.A 24-Week, All-Oral Regimen for Rifampin-Resistant Tuberculosis(New England Journal of Medicine・2022)ベラルーシ・南アフリカ・ウズベキスタンの15歳以上のリファンピシン耐性肺結核を対象としたTB-PRACTECAL試験(非劣性マージン12ポイント、症例集積は早期終了)で、24週の全経口BPaLMと9〜20か月の標準治療を比較し、修正ITT解析の主要評価項目(死亡・治療失敗・治療中断・追跡不能・再発の複合)発生が11%対48%(リスク差−37ポイント、96.6%CI −53〜−22)、per-protocol解析では4%対12%、grade 3以上または重篤な有害事象が19%対59%であったことをAbstractで確認した。閲覧 2026-09-03
  6. 6.Bedaquiline-Pretomanid-Linezolid Regimens for Drug-Resistant Tuberculosis(New England Journal of Medicine・2022)ZeNix試験(181例、88%がXDR/pre-XDR)でベダキリン(8週200 mg/日→18週100 mg/日)・プレトマニド200 mg/日26週を固定し、リネゾリドを1200 mg×26週/1200 mg×9週/600 mg×26週/600 mg×9週に割り付けたところ、良好な転帰は93%・89%・91%・84%、末梢神経障害は38%・24%・24%・13%、骨髄抑制は22%・15%・2%・7%、リネゾリドの用量変更(中断・減量・中止)は51%・30%・13%・13%であり、視神経症は1200 mg×26週群の4例(9%)のみに生じいずれも回復したこと、78週までの微生物学的不良転帰7件のうち6件が9週群で生じたこと、総合的な利益・リスク比は600 mg×26週が最良と結論されたことをAbstractで確認した。閲覧 2026-09-03
  7. 7.Global tuberculosis report 2025(World Health Organization・2025)2024年にMDR/RR-TBの治療へ登録されたのは世界で164,545人で、2022年の179,491人・2023年の177,017人から減少していること、うち6か月レジメンで開始したのは34,256人(2022年は1,744人)で6か月レジメンを用いた国は97か国・9か月レジメンを用いた国は99か国であること、MDR/RR-TBの治療成功率は最新の2022年コホートで71%(2021年68%、2020年64%、2012年50%)であることを「2.4 Drug-resistant TB treatment」の節で確認した。閲覧 2026-09-03