微生物学

微生物学 · 1/22

抗結核薬

Antituberculotic drugs

薬剤
カプレオマイシン
疾患
多剤耐性結核

🧠 は増殖が遅く、菌体の脂質に富む細胞壁に守られているため、単剤ではすぐ耐性化する。「第I相で叩き潰し、第II相(RI)で仕上げる」という2段階・複数薬剤の併用こそが、を防ぐための核心戦略である。

結核菌はなぜ特別か

遅増殖性の抗酸菌は、他の一般細菌感染に用いる抗菌薬の多くに抵抗性を示す。そのため、患者は長期間(最低6〜9ヶ月)にわたり複数の抗菌薬を服用しなければならない。そうしなければ耐性株が出現してしまう。

第一選択薬

に共通する特徴:

  • いずれも肝毒性を持つ
  • いずれも
  • が高く、の中心部にまで到達する必要がある
相 期間 薬剤(頭文字)
第I相 最初の2ヶ月 RIPE:リファンピシン・(Isoniazid, INH)・(Pyrazinamide)・(Ethambutol)
第II相 4〜7ヶ月 RI:リファンピシン・

💡 薬剤感受性肺結核には「6か月」以外の道もできた。 リファンピシンの代わりに、の代わりにを用い、2か月の+++(2HPMZ)に続けて2か月の++(2HPM)を行う4か月レジメンが、標準6か月レジメンにであることが示された。米国では12歳以上の薬剤感受性肺結核に対して2022年に暫定推奨となり1、の現行推奨にも採用されている2。上の「最低6〜9ヶ月」という枠組みは今も標準だが、唯一の選択肢ではない。

⭐ 「RIPE」(第I相4剤)と後述の「QAPL」(4系統)の頭文字は、結核治療薬を覚える定番の語呂合わせ。

各薬剤の一般によく知られる作用機序(下表)は、に特有の細胞壁成分・代謝を標的にすることで高いを実現している。

薬剤 主な作用機序
リファンピシン 依存性ポリメラーゼを阻害し、合成の開始を妨げる(詳細はレベルで作用する抗菌薬を参照)
(INH) 。菌のカタラーゼ-(KatG)により活性化され、InhAを阻害して合成を阻害する。は抗酸菌特有の細胞壁成分であり、他の細菌には存在しないためが高い
。菌のによりに変換され、酸性環境(・マクロファージ内)で膜機能を障害する
を阻害し、細胞壁構成成分であるの合成を障害する

⚠️ 肝毒性は共通項だが、薬ごとに「その薬にしか出ない副作用」があり、それがと併用薬の決め手になる。 は(ビタミンB6)の代謝を妨げて末梢神経障害を起こすため、リスクのある患者にはを併用する。は(・)を起こすため定期的な視力・の確認が要る。第二選択に上がったはQT延長、リネゾリドは骨髄抑制と末梢神経障害が用量・期間に依存して現れる——ZeNix試験ではリネゾリド1200 mgを26週続けると末梢神経障害38%・骨髄抑制22%・9%だったのに対し、600 mgを26週にすると末梢神経障害24%・骨髄抑制2%まで下がり、良好な転帰は93%対91%とほとんど変わらなかった3。

MDR-TB と XDR-TB

略語 定義
MDR-TB(multidrug-resistant M. tuberculosis、) 少なくともとリファンピシンに耐性
RR-TB(rifampicin-resistant、) リファンピシンに耐性(耐性の有無は問わない)。は治療上と同じ枠組み(MDR/)で扱う
pre-XDR-TB MDR/に加えてに耐性。2021年の定義改訂で新設された区分4
XDR-TB(extensively drug-resistant M. tuberculosis、) 現行定義(2021年〜):MDR/かつに加え、グループA薬(またはリネゾリド)の少なくとも1つに耐性4
旧定義(〜2020年):かつかつ(・・)耐性5

⚠️ の定義から「注射薬」が消えた理由。 2019年の推奨での役割が大幅に縮小し、「注射薬に耐性かどうか」が治療の難しさを表さなくなったためである。 11,666例の解析では、は不良転帰のを1.91倍(95%CI 1.63–2.23)に上げる一方、やリネゾリドを使えればによらず転帰が改善した——だから新定義はこの2剤への耐性を基準に据えた5。旧定義は試験・実習で問われうるので、両方を対にして覚える。

⚠️ MDR/を「で長期間」治療する方針は、現行の第一選択ではない。 現在の標準は6か月の (B= bedaquiline、Pa= pretomanid、L=リネゾリド linezolid、M= moxifloxacin)で、の肺結核()では、非重症ならを外したBPaL、重症ならをに替えたBPaLCを用いる(2026年の指針第2版で新設)。小児や妊娠・授乳中も含めて使える選択肢としてBDLLfx/C(++リネゾリド++)があるが、重症のにはを外したBDLCを用いない2。TB-PRACTECAL試験では、24週のは9〜20か月の従来治療にであるだけでなく、不良転帰が11%対48%、grade 3以上または重篤な有害事象が19%対59%と、有効性・安全性の両方で上回った6。を除去するために外科的切除が必要になることもある点は変わらない。

⚠️ 「18〜24か月」と「18〜20か月」を混同しない。 自身が2019年以前の推奨レジメンを「18〜24か月」と呼んでおり、古い教科書が挙げる注射薬入りの長期治療はこれを指す。一方、現行の長期レジメンの総治療期間は18〜20か月(推奨B3.15)、培養陰性化後では15〜17か月(推奨B3.16)が「多くの患者について」提案されている値で、いずれも患者の反応に応じて変えてよい(条件付き推奨・非常に低い確実性)2。⭐ 長期レジメンは廃止されたのではなく、6か月・9か月レジメンが組めないときの受け皿として残っている点も押さえる。

第二選択薬(QAPL)

⚠️ QAPLは語呂合わせとしては有用だが、「=注射薬を長期に使う」という含意はもう現行の治療像とは合わない。 はの薬をグループA(/、、リネゾリド)・グループB(、/)・グループC(その他)に整理し直し、6か月のを先に提案している2。

⚠️ ただし「アミノグリコシド系が薬効群ごと外れた」と覚えると誤りになる。 統合ガイドライン Module 4(2026年の第2版)が長期レジメンから除外しているのは、推奨B3.2で名指しされたとだけである(条件付き推奨・非常に低い確実性)。同じ表のGroup Cには今も「(または)」が掲げられ、推奨B3.11は①18歳以上、②で感受性が示され、③有害事象を監視するが確保できる、という条件下でを含めてよい、が入手できない場合に限りが代われるとしている2。💡 はポリペプチド系なので、「P」は実質的に外れたが「A」は残っている——外れ方が系統ごとに揃っていないところが、この改訂を語呂合わせで覚えられない理由である。

💡 なぜだけが外れたのか。 は理由を「これらの薬剤は使用時により不良な転帰と関連していた」と述べる。根拠となった2018年の個別患者データでは、治療成功に対する・再発のが1.9(95%CL 1.0–3.4)・2.0(1.1–3.5)と1を上回る一方、は0.3(0.1–0.8)・は0.5(0.1–2.1)と1を下回った2。⚠️ 別に示されている重篤な有害事象の(2016年の個別患者データの一部による)は10.8%と10.3%でほぼ同等であり、置き換えの根拠は毒性差ではなく有効性の差にある。💡 いずれも観察研究中心の解析で、は推奨の確実性を「非常に低い」としている。

化学予防

対象 予防薬
陽性者で M. tuberculosis に曝露 (6〜9ヶ月)またはリファンピシン(4ヶ月)
患者でCD4陽性T細胞数 <50/μL(M. avium complexの予防)

💡 潜在のは「短くする」方向に動いた。 6〜9か月の単剤(6H/9H)は今も選択肢として残るが、の現行推奨には3HP(+を週1回3か月)・1HP(+を毎日1か月)・4R(リファンピシン単剤4か月)・3HR(+リファンピシン3か月)という短縮レジメンが並び、MDR/患者とのには6Lfx(6か月)が置かれている7。短いほど率が上がるという発想が背景にある。

免疫予防

ワクチン(bacillus Calmette-Guérin):した M. bovis を用いる生ワクチン。

  • 結核が流行している国で使用され、大きな罹患・死亡負担の軽減に寄与する
  • 幼少期に接種(成人での効果は低い)
  • 免疫不全患者(感染者など)には使用できない(生ワクチンのため)
flowchart TD
    A["治療開始"] --> B["第I相 (2ヶ月)<br>RIPE: リファンピシン+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='isoniazid, H'>イソニアジド</span>+<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyrazinamide, Z'>ピラジナミド</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ethambutol, E'>エタンブトール</span>"]
    B --> C["第II相 (4-7ヶ月)<br>RI: リファンピシン+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='isoniazid, H'>イソニアジド</span>"]
    C --> D{"薬剤感受性は?"}
    D -->|"感受性あり"| E["治療完了<br>(合計6-9ヶ月)"]
    D -->|"MDR / RR-TB"| F["6ヶ月 全経口 <span class='jp-term jp-term-diagram' title='BPaLM regimen (bedaquiline, pretomanid, linezolid, moxifloxacin)'>BPaLM</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bedaquiline'>ベダキリン</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pretomanid'>プレトマニド</span>+<br>リネゾリド+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='moxifloxacin'>モキシフロキサシン</span><br>±外科的切除"]
    F --> H{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluoroquinolone resistance'>フルオロキノロン耐性</span>?"}
    H -->|"あり・非重症"| I["BPaL<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='moxifloxacin'>モキシフロキサシン</span>を外す)"]
    H -->|"あり・重症"| K["BPaLC<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='moxifloxacin'>モキシフロキサシン</span>を<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='clofazimine'>クロファジミン</span>に替える)"]
    H -->|"小児・妊娠授乳など"| J["BDLLfx/C<br>(重症の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pre-extensively drug-resistant tuberculosis'>pre-XDR-TB</span>には<br>BDLCを用いない)"]

まとめ

  • は増殖が遅く、単剤では耐性化しやすいため、長期・が原則。
  • 第I相(2ヶ月、RIPE)→第II相(4〜7ヶ月、RI)の2段階治療が標準。は共通して肝毒性・・高いを持つ。
  • は+リファンピシン耐性。は2021年に定義が改訂され、MDR/++グループA薬(またはリネゾリド)耐性となり、その手前の段階がpre-XDR-TBである(旧定義は「フルオロキノロン+耐性」)。
  • MDR/の治療は6か月の全経口が現行標準で、注射薬を含む18〜24か月レジメン(2019年以前の推奨)を全例に課す旧来の方針とは置き換わっている。短期レジメンが組めない場合の受け皿として、総治療期間18〜20か月の長期レジメンが残る。
  • ⚠️ 長期レジメンから外れたのはとで、アミノグリコシド系全体ではない。 Group Cには(または)が条件付きで残る。
  • 薬剤感受性肺結核には標準6か月レジメンに加えて、+を用いる4か月レジメンという選択肢がある。
  • 陽性者へのはまたはリファンピシン(現行推奨には3HP・1HP・4Rなどの短縮レジメンが並ぶ)、患者でのCD4 <50/μLでの予防は。
  • ワクチンはであり、免疫不全患者には禁忌である点に注意。

出典

  1. 1.Interim Guidance: 4-Month Rifapentine-Moxifloxacin Regimen for the Treatment of Drug-Susceptible Pulmonary Tuberculosis - United States, 2022(Centers for Disease Control and Prevention・2022)12歳以上の薬剤感受性肺結核で、リファペンチン・モキシフロキサシン・イソニアジド・ピラジナミドによる4か月レジメンを標準6か月レジメンの代替として用いてよいとする米国の暫定指針。閲覧 2026-08-26
  2. 2.WHO consolidated guidelines on tuberculosis. Module 4: treatment and care, second edition(World Health Organization・2026)2026-09-27に第2版(ISBN 978-92-4-012512-4)のPDF本体で確認した。推奨A2.1が12歳以上の薬剤感受性肺結核に4か月レジメン(イソニアジド・リファペンチン・モキシフロキサシン・ピラジナミドで2HPMZ/2HPM)を用いてよいとすること。推奨B1.1(更新)がMDR/RR-TBに6か月のBPaLMを提案し、B1.1a・B1.1b(新規)が肺pre-XDR-TBの非重症にBPaL、重症にBPaLCを提案すること、B1.2(更新)のBDLLfx/Cが全年齢・妊娠授乳中に適用され、B1.2b(新規)が重症の肺pre-XDR-TBにBDLCを用いないよう提案すること。⚠️ 長期レジメンから除外されているのは推奨B3.2の「Kanamycin and capreomycin are not to be included in the treatment of MDR/RR-TB patients on longer regimens.」(条件付き推奨・非常に低い確実性)であって薬効群単位の除外ではなく、Table 2.20のGroup Cには「Amikacin (or streptomycin)」が残り、推奨B3.11が18歳以上・感受性確認・有害反応の監視体制という条件でアミカシン(無ければストレプトマイシン)を含めてよいとすること。除外の理由を本文が「Kanamycin and capreomycin – these medicines were associated with poorer outcomes when used; therefore, they are no longer recommended for use in MDR-TB regimens.」と述べ、Table 2.21(2018年の個別患者データメタ解析)で治療失敗・再発の調整オッズ比がカナマイシン1.9(95%CL 1.0–3.4)・カプレオマイシン2.0(1.1–3.5)、アミカシン0.3(0.1–0.8)・ストレプトマイシン0.5(0.1–2.1)であること、Table 2.22(2016年の個別患者データの一部による arm-based network メタ解析)の重篤な有害事象の絶対リスク中央値がカナマイシン10.8%・アミカシン10.3%とほぼ同等であること。WHOが2019年以前の推奨レジメンを「18–24-month WHO-recommended regimen [pre-2019]」と呼び、推奨B3.15が総期間18〜20か月、B3.16が培養陰転後15〜17か月を提案すること。長期レジメンの推奨は第1版から不変。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Bedaquiline-Pretomanid-Linezolid Regimens for Drug-Resistant Tuberculosis(New England Journal of Medicine・2022)ZeNix試験(181例、88%がXDR/pre-XDR)で、リネゾリドの用量・期間により毒性が変わることを確認した。1200 mg×26週では末梢神経障害38%・骨髄抑制22%・視神経症9%(4例、いずれも回復)だが、600 mg×26週では末梢神経障害24%・骨髄抑制2%で、良好な転帰は93%対91%と大きく変わらなかった。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Meeting report of the WHO expert consultation on the definition of extensively drug-resistant tuberculosis, 27-29 October 2020(World Health Organization・2021)XDR-TBの定義が2021年に改訂され、MDR/RR-TBかつフルオロキノロン耐性に加えてグループA薬(ベダキリンまたはリネゾリド)の少なくとも1つに耐性という定義になったこと、MDR/RR-TBにフルオロキノロン耐性が加わった段階をpre-XDR-TBという新区分としたことを確認した。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Evidence-based Definition for Extensively Drug-Resistant Tuberculosis(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine・2021)2020年までのXDR-TBの定義がMDR-TBかつフルオロキノロン耐性かつ第二選択注射薬耐性であったこと、2019年WHO推奨で第二選択注射薬の役割が大幅に縮小したため定義の見直しが必要になったこと、MDR-TB 11,666例の解析でベダキリン・リネゾリドの使用が耐性パターンによらず転帰を改善したことを示し、新定義の根拠となった。閲覧 2026-08-26
  6. 6.A 24-Week, All-Oral Regimen for Rifampin-Resistant Tuberculosis(New England Journal of Medicine・2022)TB-PRACTECAL試験で、24週(6か月)全経口BPaLMは9〜20か月の標準治療に非劣性で、修正ITT解析の不良転帰は11%対48%、grade 3以上または重篤な有害事象は19%対59%と安全性も優れていた。閲覧 2026-08-26
  7. 7.WHO consolidated guidelines on tuberculosis. Module 1: Prevention – Tuberculosis preventive treatment, second edition(World Health Organization・2024)結核予防治療のレジメン(3HP・1HP・4R・3HR・6H/9H、MDR/RR-TB接触者への6Lfx)が現行のWHO推奨であることを確認した。閲覧 2026-08-26