薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · C2 Antimycobacterials / 抗結核薬 · 必修

シクロセリン

cycloserine

分類
Antimycobacterials / 抗結核薬
科目
Pharmacology
トピック
C2: Antimycobacterial drugs
禁忌疾患
てんかん
標的微生物
Mycobacterium tuberculosis
副作用
痙攣幻覚
相互作用
エチオナミドビタミンB6
対象疾患
多剤耐性結核

🧠 全体像:はので、というの材料そのものに似せた構造で酵素をだます薬である。同じでもβラクタム系のようにへ結合するのではなく、もっと上流の材料供給を止めるという点が独自のになる。臨床上の存在感は抗菌効果よりも(痙攣・精神症状)が決めており、これが用量を制限する最大の要因になる。

薬効群の中での位置づけ

薬剤 標的 位置づけ 特徴的な副作用
(の材料供給) の第二選択・ (痙攣・精神症状)
arabinosyl transferase(細胞壁多糖) 第一選択(RIPE)
バンコマイシン(参考) D-Ala-D-Ala末端(と同じ標的) 結核には無効(グラム陽性菌用) red man症候群・腎毒性

⭐ とバンコマイシンは「D-Ala-D-Alaに関わる」という共通点を持ちながら阻害点が違う。 バンコマイシンはできあがったD-Ala-D-Ala末端そのものに結合しての作用を物理的に妨げるのに対し、はD-Ala-D-Alaが作られる前の酵素段階を止める。両者を混同しないことが試験の落とし穴になる。

💡 はの薬をグループA・B・Cに再編しており、/はグループB(・・リネゾリドのグループAに次ぐ位置)に分類される1。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cycloserine'>シクロセリン</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-alanine'>D-アラニン</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='structural analogue'>構造類似体</span>)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alanine racemase'>アラニンラセマーゼ</span>を阻害<br>(L-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alanine'>アラニン</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-alanine'>D-アラニン</span>の変換)"]
    A --> C["D-アラニル-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-alanine'>D-アラニン</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ligase'>リガーゼ</span>を阻害<br>(D-Ala + D-Ala → D-Ala-D-Ala)"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-alanine'>D-アラニン</span>の供給が減る"]
    C --> D
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peptidoglycan precursor'>ペプチドグリカン前駆体</span>の<br>D-Ala-D-Ala末端が作れない"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell wall synthesis'>細胞壁合成</span>が障害され<br>静菌〜<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bactericidal'>殺菌的</span>に作用"]

💡 同じ「に似せる」という発想で2つの酵素を同時に阻害する点が、この薬の抗菌効果の強さを説明する。 一方でこの構造類似性は中枢神経系にも及び、の阻害とNMDA受容体への様作用の両方を通じてを下げ、精神症状を誘発すると考えられている。

薬物動態

項目 値・特徴
良好
分布 血液脳関門を容易に通過(の背景)
代謝 ほとんど受けない
排泄 主に(未変化体)。腎機能低下で蓄積しやすい
半減期 約10時間

適応

の:他の有効薬が不足する場合や、より毒性の低い薬への耐性がある場合にレジメンへ加える。

用法・用量

PO。併用レジメンの一部として使用し、(気分変化・不眠・振戦・痙攣)のモニタリングを伴う。(ビタミンB6)の併用がの軽減に用いられる(と同様の発想だが、機序は別)。ただし米国添付文書は、の予防的併用による軽減効果は証明されていないとしている2。実際の用量は施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • 禁忌:てんかん、重度のうつ病・精神病の既往、重度腎障害、
  • ⚠️ はで、血中濃度が上がるほどリスクが増す。 腎機能低下例では蓄積しやすいため特に注意し、可能ならを行う
  • アルコールとの併用はをさらに下げるため避ける
  • との併用ではがに強まりうる

副作用

頻度 内容
高頻度 頭痛、傾眠
注意 気分変化・不安・抑うつ、末梢神経障害
重篤・まれ 痙攣、(・)、

まとめ

  • のとして、とD-アラニル-を阻害し、に必要なD-Ala-D-Ala末端の供給を断つ。
  • バンコマイシンと「D-Ala-D-Alaに関わる」点は共通するが、阻害する段階が異なる(供給段階 vs 完成した末端への結合)。
  • 血液脳関門を容易に通過するため、(痙攣・精神症状)が用量を制限する最大の要因になる。
  • 併用での軽減を図る——と発想は似るが機序は別。
  • てんかん・重度精神疾患・は禁忌。腎機能低下では蓄積し毒性が増す。
  • ので、より毒性の低い薬が使えない場合にレジメンへ加える。

出典

  1. 1.WHO consolidated guidelines on tuberculosis. Module 4: treatment and care, second edition(World Health Organization・2026)2026-09-27に第2版(ISBN 978-92-4-012512-4)のPDF本体で確認した。長期MDR-TBレジメンの薬剤分類(Table 2.20)でGroup A=レボフロキサシンまたはモキシフロキサシン・ベダキリン・リネゾリド、Group B=クロファジミン・シクロセリンまたはテリジドンとされ、推奨B3.6が「Clofazimine and cycloserine or terizidone may be included in the treatment of MDR/RR-TB patients on longer regimens.」(conditional recommendation, very low certainty of evidence)とすること。本書は長期レジメンの推奨が第1版(2025年)から変わっていないと述べる。閲覧 2026-09-27
  2. 2.SEROMYCIN (cycloserine) capsules, full prescribing information(U.S. Food and Drug Administration・2009)米国添付文書は、てんかん・重度の抑うつ/重度不安/精神病・重度腎不全・過度のアルコール使用を禁忌とし、痙攣・精神病・傾眠・抑うつ・錯乱・反射亢進・頭痛・振戦・めまい・麻痺・構音障害などの中枢神経毒性が血中濃度30μg/mLを超えると生じやすいと警告していること、ピリドキシンによる中枢神経毒性の予防効果は証明されていないと明記していること(過量投与時の治療目的での200-300mg/日投与は別に記載)を確認した。閲覧 2026-08-27