微生物学

微生物学 · 1/20

核酸合成レベルで作用する抗菌薬

Antibacterial drugs acting at the level of nucleic acid synthesis

応用トピック
主要抗菌薬I:ペニシリン・セファロスポリン・カルバペネム・グリコペプチド・メトロニダゾール主要抗菌薬II:マクロライド・リンコサミド・リファンピシン・テトラサイクリン・尿路抗菌薬・フルオロキノロン

🧠 を狙う抗菌薬は「経路のどこを塞ぐか」で4グループに分かれる。 複製そのものを阻む(キノロン系)、合成を阻む(リファンピシン)、を直接破壊する(メトロニダゾール)、そして核酸の材料である葉酸合成を横取りする(・)。標的酵素はいずれもヒト細胞のものと構造が大きく異なるため、との比較で見た「」の考え方がここでも一貫している。

核酸合成阻害薬の全体像

  • 作用様式:多くは
  • 機序は大きく3つ:の阻害、依存性ポリメラーゼの阻害、そのものの直接破壊
  • これに加え、核酸の材料となるを阻害する抗代謝薬(・)も広義にはここに含まれる
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleic acid synthesis'>核酸合成</span>経路"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>複製<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='gyrase (DNA gyrase)'>ジャイレース</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='topoisomerase IV'>トポイソメラーゼIV</span>)"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ribonucleic acid'>RNA</span>合成<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>依存性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ribonucleic acid'>RNA</span>ポリメラーゼ)"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>そのもの<br>(直接損傷)"]
    A --> E["核酸の材料<br>(葉酸経由のプリン/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyrimidine synthesis'>ピリミジン合成</span>)"]
    B --> F["キノロン系"]
    C --> G["リファンピシン"]
    D --> H["メトロニダゾール"]
    E --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sulfonamides'>サルファ剤</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trimethoprim'>トリメトプリム</span>"]

キノロン系

キノロン系はであり、最も広く使われる抗菌薬クラスの1つ。

世代 代表薬 特徴
第1世代キノロン 、蛋白結合率が高い、主に尿路感染症に使用
(第2〜4世代) (ciprofloxacin)など 中心環に原子を持つ。蛋白結合率は低い。スペクトルが広く、特にグラム陽性のに有効。組織・尿への分布が広く、も良好

💡 標的はグラム陽性・陰性で異なる。 ( gyrase、)のAサブユニットはグラム陰性菌での主標的で、の巻き戻し(unwinding)と複製を妨げ、切断を誘導する。 はグラム陽性菌での主標的である1。より正確には「どちらか一方だけを狙う」のではなく相対的なの差であり、古い世代のキノロンでこの差が大きく、新しい世代のキノロンは両酵素への活性がより均衡している1。両方を同程度に阻害できれば片方の変異だけでは耐性にならないため、耐性化しにくくなるというである。

  • 機序:細菌の複製・組換え・修復を阻害する
  • スペクトル:。グラム陽性・陰性いずれにも有効
  • :およびの構造遺伝子の染色体変異

⭐ キノロン耐性は「染色体変異」だけではなく、プラスミドでも伝わる。 ①染色体変異——標的酵素の変異はGyrA・ParEサブユニットの局在した領域に集中し、この領域をQRDR(キノロン、quinolone resistance-determining region)と呼ぶ。ほかにの発現を制御するの変異もあり、変異が積み重なると高度耐性になる。②プラスミド性キノロン耐性(PMQR、plasmid-mediated quinolone resistance)——標的酵素を薬剤から保護するQnr蛋白(qnr 遺伝子)、キノロンをアセチル化して不活化する aac(6′)-Ib-cr、そして可動性の。PMQR単独では低度耐性しか与えないが、その状態で菌が生き延びることが高度な染色体耐性の選択を促すのが厄介な点である。しかもこれらのプラスミドは他剤耐性遺伝子を同時に運んでいることが多い2。

  • 毒性・副作用:肝毒性の可能性があり腎機能(など)のモニタリングが重要とされる。小児・妊婦には軟骨・骨の発育障害のリスクがあるため投与を避ける

⚠️ フルオロキノロンの適応が狭められたのは、耐性ではなく安全性が理由。 ・、・、末梢神経障害、中枢神経系症状(せん妄・痙攣)、QT延長といった重篤で時に不可逆な有害事象が集積し、欧米のは「他に選択肢がない場合を除き、・・のように自然軽快しうる感染症には使わない」という適応制限を出した3。「広域で組織移行がよく経口でも効く」という利点があるからこそ濫用されやすく、そのとして制限された薬剤群である(1/15「抗菌化学療法のリスクと副作用」も参照)。

リファンピシン

  • 機序:依存性ポリメラーゼに結合し、合成の開始を阻害する
  • スペクトル:広域。 に活性が高く、ブドウ球菌・レンサ球菌を含む好気性にも強い活性を持つ。グラム陰性菌には無効
  • 臨床用途:髄膜炎菌感染の治療・予防にも使用される
  • :単剤では耐性化が非常に速いため、必ず他剤と併用する。ポリメラーゼ遺伝子の染色体変異による——ではリファンピシンの95%が rpoB 遺伝子(ポリメラーゼ)にあり、その大多数が81のRRDR(リファンピシン、rifampicin-resistance determining region)という狭い範囲に集中する4。標的が単一遺伝子の狭い領域なので、たった1つの点変異で耐性が完成してしまう——これが「単剤では急速に耐性化する」ことの分子的な理由であり、同時に Xpert MTB/RIF のような分子検査でリファンピシン耐性を迅速に検出できる理由でもある
  • 毒性・副作用:体液(尿・涙・汗など)がオレンジ色になる特徴的な副作用がある

⭐ の中核をなす薬剤であり、「単独使用では耐性化が早い」という性質が、結核治療で複数薬剤の併用が必須である理由の一つになっている。

メトロニダゾール

  • 機序:細胞内へで入り、細菌のによりが還元されてを生成し、宿主を損傷する
  • スペクトル:嫌気性菌、、原虫に有効
  • :化合物が宿主と反応する前に排除されることによる

⚠️ ここでいう「宿主」は、ヒトのではなく薬を取り込んだ微生物自身の。 メトロニダゾールはで、低酸素分圧の環境でフェレドキシン依存(あるいは同等)のによってが還元されて初めて活性化する。還元された薬剤がその菌・原虫自身のの鎖切断を起こし、切断の程度は標的のA+T含量に依存する。修復機構の阻害も損傷を増悪させる5。の正体はこの「還元されなければ効かない」という条件そのもので、とヒト細胞はこの還元を行えないため無傷で済む。なお60年以上研究されてきたにもかかわらず、活性化ステップそのものがに寄与するのか、続くのと代謝物だけが毒性を担うのかは決着していない6。

抗代謝薬(核酸合成に影響する代謝拮抗薬)

葉酸はに必須であり、この経路を標的とする薬剤群がある。

薬剤 標的酵素 略語
DHPS
DHFR
flowchart TD
    A["PABA<br>(para-aminobenzoic acid)"] -->|"DHPSを阻害<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='sulfonamides'>サルファ剤</span>"| B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dihydrofolate (DHF)'>ジヒドロ葉酸</span><br>dihydrofolate"]
    B -->|"DHFRを阻害<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='trimethoprim'>トリメトプリム</span>"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tetrahydrofolate (THF)'>テトラヒドロ葉酸</span><br>tetrahydrofolate"]
    C --> D["プリン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyrimidine synthesis'>ピリミジン合成</span><br>= <span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleic acid synthesis'>核酸合成</span>"]
  • :のアナログとして働き、DHPSのとなる。
  • :DHFRを阻害する。
  • ・合剤(ST合剤, co-trimoxazole)
    • スペクトル:グラム陽性・陰性に有効。MRSA(黄色ブドウ球菌, methicillin-resistant Staphylococcus aureus)にも有効で、にも非常に有効
    • Stenotrophomonas maltophilia、Nocardia、腸内グラム陰性桿菌もカバーする
    • :DHPS酵素の変異、間の
    • 毒性:消化器症状、皮疹(・に進展しうる)、血小板減少、、肝炎、

まとめ

  • は標的により、複製阻害(キノロン系)・合成阻害(リファンピシン)・直接破壊(メトロニダゾール)・葉酸経由の核酸前駆体合成阻害(・)に大別される。
  • キノロン系はグラム陰性菌で、グラム陽性菌でを主標的とし、小児・妊婦ではのリスクから避けるべき薬剤。
  • リファンピシンは結核治療の中核だが単剤では耐性化が早く、必ず併用療法とする。体液がオレンジ色になる特徴的な副作用がある。
  • メトロニダゾールは嫌気性菌・原虫に有効で、細菌のによる活性化が必須。損傷を受けるのは薬を取り込んだ微生物自身のであり、還元できないとヒト細胞が無傷で済むことがの正体である5。
  • キノロン耐性はQRDRの染色体変異に加え、qnr・aac(6′)-Ib-cr・可動性によるプラスミド性耐性(PMQR)があり、後者は低度耐性を与えて高度耐性の選択を促す2。フルオロキノロンの適応制限は耐性ではなく安全性(腱・大動脈・神経)を理由とする3。
  • リファンピシン耐性の95%は rpoB の81のRRDR内の変異であり、単一の点変異で耐性が完成する4。
  • ・はのDHPS・DHFRをそれぞれ阻害し、合剤はやにも有効なとなる。

出典

  1. 1.Mechanisms of action and resistance of older and newer fluoroquinolones(Clinical Infectious Diseases・2000)フルオロキノロンはDNAジャイレースとトポイソメラーゼIVという2つの標的酵素と複合体を作り、DNA複製フォークの進行を止める。古い世代のキノロンは多くのグラム陰性菌でジャイレースへの、多くのグラム陽性菌でトポイソメラーゼIVへの効力が相対的に強い。新しい世代のキノロンは両酵素への活性がより均衡している。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Mechanisms of drug resistance: quinolone resistance(Annals of the New York Academy of Sciences・2015)キノロン耐性は2種の変異と耐性遺伝子の獲得に分かれる。標的酵素の変異はGyrAサブユニットとParEサブユニットの局在した領域(キノロン耐性決定領域)に集中し、薬剤と酵素-DNA複合体との結合を弱める。ほかに内在性排出ポンプの発現を制御する調節遺伝子の変異がある。プラスミド性耐性は、標的酵素を保護するQnr蛋白、キノロンも修飾する変異型アミノグリコシド修飾酵素、可動性排出ポンプによるもので、低度耐性を与えて高度な変異型耐性の選択を促す。これらのプラスミドは他剤耐性も同時に運ぶことが多い。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Fluoroquinolone antibiotics and adverse events(2021)フルオロキノロンの腱炎・腱断裂、大動脈瘤・大動脈解離、末梢神経障害、中枢神経系症状、QT延長といった重大な有害事象と、他に選択肢のない場合に限るという適応限定の原則を確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Mutations inside rifampicin-resistance determining region of rpoB gene associated with rifampicin-resistance in Mycobacterium tuberculosis(Journal of Infection and Public Health・2018)リファンピシンはRNAポリメラーゼβサブユニットをコードする rpoB 遺伝子を標的とするため、リファンピシン耐性変異の95%が rpoB にあり、その大多数は81塩基対のリファンピシン耐性決定領域(RRDR)内に集中する。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Mechanisms of selective toxicity of metronidazole and other nitroimidazole drugs(British Journal of Venereal Diseases・1980)ニトロイミダゾール系薬の嫌気性菌・原虫に対する選択毒性は、ニトロ基の還元を要する点に由来する。還元はフェレドキシン依存(あるいは同等)の反応で進み、薬剤が感受性菌に入る速度そのものを左右する。還元された薬剤がDNAの鎖切断を起こし、切断の程度はそのDNAのA+T含量に依存する。DNA修復機構の阻害がDNA損傷を増悪させる可能性もある。閲覧 2026-08-26
  6. 6.Metronidazole: an update on metabolism, structure-cytotoxicity and resistance mechanisms(Journal of Antimicrobial Chemotherapy・2018)ニトロイミダゾール系はプロドラッグであり、低酸素分圧下でニトロ基が還元されて活性化され、イミダゾール環の断片化と細胞毒性につながる。60年以上研究されてきたがメトロニダゾールの代謝と細胞毒性の対応は決定的には解明されていない。閲覧 2026-08-26