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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

破傷風

Tetanus

別名
Lockjaw
臓器系
感染症神経
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 2/26:破傷風菌
関連疾患
ジフテリアボツリヌス症
治療薬
メトロニダゾールペニシリンGジアゼパム硫酸マグネシウム
原因微生物
Clostridium tetani
症状
筋痙攣発汗発作痙性麻痺痙攣
原因となる疾患
泌尿生殖器外傷

🧠 全体像:破傷風は「ブレーキが壊れた筋肉」の病気である。を逆行性に上って脊髄に達し、からのGABA・グリシン放出だけを止める——興奮性シグナルはそのまま流れ続けるため筋肉は持続的な痙攣性収縮()に陥る。で興奮性のアセチルコリン放出を止めることでを起こすが正反対の好対照をなす。治療の柱は「毒素の」「産生源の除去()」「抗菌薬」「痙攣・自律神経症状への支持療法」の4本で、抗菌薬はメトロニダゾールが第一選択はGABA-A受容体を持ち毒素の作用を増強しうるため代替に留まる)という点が実地で見落とされやすい。

病原体と発症機序

*Clostridium tetani*はグラム陽性・で、末端の芽胞が「太鼓のばち様」の外観を呈する。錆びた釘などによるが小さく閉じやすい一方、・低酸素状態を作りやすく、芽胞発芽に理想的なになる。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stab wound'>刺創</span>に C. tetani 芽胞が混入"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic environments'>嫌気環境</span>の組織内で芽胞が発芽"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tetanospasmin (tetanus toxin)'>破傷風毒素</span>産生"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='motor neuron'>運動神経</span>軸索を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retrograde axonal transport'>逆行性軸索輸送</span>で脊髄へ"]
  D --> E["SNARE タンパク質を切断"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibitory neuron'>抑制性ニューロン</span>(GABA・グリシン)の<br>神経伝達物質放出を阻害"]
  F --> G["筋収縮の『ブレーキ』が消失"]
  G --> H["持続的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscle cramps'>筋痙攣</span>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spastic paralysis'>痙性麻痺</span>"]

臨床像

所見 内容
持続的な=収縮
を伴う顎の筋緊張性痙攣——「悪魔の微笑み」
背筋の痙攣による過度の背部反弓
交感神経過緊張による不整脈・血圧変動・発汗過多
誘因刺激 光・音・接触などの些細な刺激で全身性の痙攣発作が誘発される

⚠️ 潜伏期が短いほど重症化しやすい。 受傷から発症までの期間が短い症例、また症状出現から全身痙攣までのが短い症例は予後不良の指標とされる。

診断

臨床診断が主体である。C. tetaniそのものが創部から分離されることは稀で、培養は診断上あまり有用ではない——特徴的なと受傷歴から診断する。

治療

治療は「①未結合の毒素を中和する」「②毒素産生源を除去する」「③既に結合した毒素による症状を支持療法で抑える」の3本柱で考える。

治療 内容
受動免疫 を筋注——循環血中の未結合毒素を中和するが、神経終末に既に結合した毒素は中和できない
創部の 芽胞・壊死組織を外科的に除去し毒素産生源を断つ。TIG投与後に行う(創部操作で新たな毒素が血中に放出されるリスクがあるため)
抗菌薬 メトロニダゾールが第一選択。は代替に留まる
痙攣・ などのが第一選択。難治例ではを要する
が不整脈・血圧変動などの緩和に用いられる
未接種者・最終接種から10年以上経過している場合はDTPワクチン(化毒素+抗原)を併用——罹患してもは得られないため回復後も接種が必要

⚠️ なぜメトロニダゾールがより優先されるのか。 はGABA-A受容体の拮抗薬でもある。自体がGABA放出を阻害することで痙攣を起こす病態であるため、GABA-A受容体を直接遮断するペニシリンは理論上毒素の作用を増強しうる——同じ機序(GABA伝達の破綻)を悪化させかねない薬剤を避けるという発想である。

創傷管理による予防(曝露後予防)

破傷風はワクチンで予防可能な疾患で、受傷後の対応は「創傷の性状」と「本人の接種歴」の組み合わせで決まる。以下は既に発症した患者への治療(上記)とは別に、まだ発症していない受傷者への曝露後予防の枠組みである。

創傷の性状 含有ワクチンの追加接種
清潔・軽微な創傷 最終接種から10年以上経過していれば追加接種 適応なし
汚染創傷・重症創傷(、壊死組織・異物混入創、咬傷など) 最終接種から5年以上経過していれば追加接種 接種歴が3回未満・不明の場合、またはHIV感染・がある場合に適応(接種歴に関わらず)。250単位を筋注し、ワクチンとは別の解剖学的部位に別の注射器で投与する1

Tdap未接種の11歳以上にはTdの代わりにTdapを用いる。妊婦は毎回Tdapを選択する2

💡 同じ「創傷」でも判断が変わるのは、汚染度と接種歴の組み合わせによる。 清潔創ではが長く保たれるため猶予が10年と長いが、汚染創・重症創は発芽・毒素産生までの時間が短いため猶予も5年に短縮される。接種歴が3回未満・不明のときにだけTIGが追加されるのは、が未完成だと接種後に十分なが立ち上がるまで時間がかかり、その空白をで埋める必要があるためである。

まとめ

  • C. tetaniはで、から侵入した芽胞が産生する(tetanospasmin)がで脊髄に達し、切断を介してGABA・グリシン放出を阻害する。
  • 「筋収縮のブレーキが外れる」ことで・自律神経性不整脈)が生じ、と対照的な臨床像を示す。
  • 診断は主にに基づき、培養の有用性は低い。
  • 治療はTIGによる毒素中和、TIG投与後の、抗菌薬(メトロニダゾール優先、はGABAのため代替に留める)、ベンゾジアゼピンによる痙攣管理、による自律神経症状の緩和を組み合わせる。
  • 発症前の曝露後予防(創傷管理)は、清潔創なら最終接種から10年、汚染創・重症創なら5年で追加接種を行い、接種歴3回未満・不明またはHIV感染・のある汚染創にはTIGを併用するという、創傷の性状と接種歴の組み合わせで判断する。

出典

  1. 1.Use of Tetanus Toxoid, Reduced Diphtheria Toxoid, and Acellular Pertussis Vaccines: Updated Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2019(Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) / CDC, MMWR・2020)創傷管理でのトキソイド含有ワクチン追加接種は最終接種から5年以上経過している場合に適応となること、Tdap未接種の11歳以上にはTdの代わりにTdapを用いること、妊婦には毎回Tdapを選択することを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Summary Guide to Tetanus Prophylaxis in Routine Wound Management(Minnesota Department of Health(CDC/ACIP勧告に基づく州公衆衛生機関の臨床指針)・2025)清潔・軽微な創傷では最終接種から10年以内ならトキソイド追加接種・TIGとも不要であること、汚染創傷・重症創傷では最終接種から5年以上でトキソイド追加接種が必要でTIGは接種歴3回未満・不明の場合またはHIV感染・重度免疫不全がある場合に適応となり用量は250単位筋注(ワクチンとは別部位・別注射器)であることを確認した閲覧 2026-08-03