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Disease Atlas · 感染症 · 外傷

ヒト咬傷創感染

Human bite wound infection

別名
拳咬傷Clenched fist injuryFight bite
臓器系
感染症
科目
Traumatology and Orthopedics
トピック
外傷学 21:手の軟部組織・腱損傷と手感染症
合併症
化膿性屈筋腱鞘炎化膿性関節炎骨髄炎蜂窩織炎
関連疾患
破傷風
治療薬
アモキシシリンクラブラン酸
原因微生物
Eikenella corrodens
症状
腫脹発熱

🧠 全体像:ヒト感染の危険性は「誰の口に咬まれたか」ではなく「どこを、どう咬まれたか」で決まる。とくに拳を握って殴った拳が相手の歯に当たる「」は、歯が包との直上を貫き、拳を開いた瞬間に口腔内細菌が本来無菌の・へ引き込まれるという特殊なを持つ。動物咬傷の多くが単純なであるのに対し、ヒト咬傷はこの機序ゆえに感染へ進みやすく、を避けるという対応の違いにつながる。

受傷機転:なぜ「拳」が問題なのか

flowchart TD
    A["握った拳が相手の歯に当たる<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clenched-fist injury'>拳咬傷</span>)"] --> B["歯が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metacarpophalangeal (MCP) joint'>MCP関節</span>包・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extensor tendon sheath'>伸筋腱鞘</span>の直上を貫通"]
    B --> C["拳を開くと創が閉じ<br>口腔内細菌が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='joint cavity'>関節腔</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tendon sheath'>腱鞘</span>へ引き込まれる"]
    C --> D["本来無菌の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic environments'>嫌気環境</span>で<br>口腔内常在菌の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mixed infection (polymicrobial infection)'>混合感染</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyogenic flexor tenosynovitis'>化膿性屈筋腱鞘炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='septic arthritis'>化膿性関節炎</span>・骨髄炎"]

他の動物咬傷と異なり、ヒト咬傷は拳を握った状態での受傷()が多いという特徴を持つ1。米国救急部のでも、感染したヒト咬傷50例の56%が、44%が咬みつき創であり、多くが手の創で54%が入院を要した2。

起因菌:単一菌感染ではない

創培養の分離は中央値4株(好気性3・嫌気性1)に上り、感染ではなく口腔内常在菌のであることが特徴である2。

分離菌 分離頻度
Streptococcus anginosus 52%
Fusobacterium nucleatum 32%
黄色ブドウ球菌 30%
Eikenella corrodens 30%
Prevotella melaninogenica 22%

⚠️ PrevotellaとS. aureusにはβラクタマーゼ産生株が多い。 ペニシリン単剤では主要分離菌をカバーしきれない2。

治療

⭐ 皮膚を貫くヒトにはすべて予防的抗菌薬を投与する。 アモキシシリン/を1週間投与するのが標準で、主要分離菌に対しin vitroで良好な活性を示す12。βラクタムを使えない場合はが代替候補になる2。

⚠️ を避ける。 ヒト咬傷によるの修復は他の咬傷と同じ原則に従い、多くの場合はに委ねるべきとされる——創を閉じることが細菌の増殖に適した環境を作ってしまうためである1。創洗浄・を十分に行い、のまま経過をみる。

  • 破傷風の免疫状況を確認し、必要に応じて追加免疫を行う。
  • 血液媒介ウイルスの曝露評価も併せて行う。曝露後予防は、経皮的な創であり加害者の口腔内に血液汚染があった場合に限り検討する1。B型・C型肝炎の曝露評価も行う。

動物咬傷との違い

他の動物咬傷が主に単純なとして現れるのに対し、ヒト咬傷はというにより・へのを起こしやすい点が異なる1。X線で(折れた歯)や骨損傷を確認することも、動物咬傷では省略できる場合でもヒト咬傷のでは省略できない。

合併症

放置・治療不十分な場合、・への深部接種を起点に次の合併症へ進みうる。

合併症 位置づけ
でへされた場合の代表例
への接種から進展
骨髄炎 関節炎の波及、またはから
蜂窩織炎 創周囲のとして。単独感染は少ない

まとめ

  • ヒト感染の核心は——歯が包・の直上を貫き、拳を開くと口腔内細菌がへ引き込まれる。他の動物咬傷とはこの機序で区別される。
  • 起因菌はではなく、Streptococcus anginosus・Fusobacterium nucleatum・黄色ブドウ球菌・Eikenella corrodens・Prevotella melaninogenicaなどの。
  • 皮膚を貫く創にはすべてアモキシシリン/を1週間予防投与し、⚠️は避けてに委ねる。
  • 破傷風免疫の確認と血液媒介ウイルス曝露評価(は経皮的な血液汚染創に限り予防投与を検討)も治療の一部である。
  • 治療・洗浄が不十分だと・・骨髄炎・蜂窩織炎へ進展しうる。

出典

  1. 1.Human Bites(StatPearls (NCBI Bookshelf), National Library of Medicine・2023)他の動物咬傷と異なり、ヒト咬傷は拳を握った状態で相手の歯に当てる「clenched fist injury(拳咬傷)」として生じることが多いこと。この損傷はMCP関節包と伸筋腱鞘の直上に生じるため感染しやすく、拳を開いたあとに関節腔・腱鞘という本来無菌の嫌気環境へ細菌が深く入り込むこと。Eikenella corrodensおよびより一般的な好気性・嫌気性細菌がヒトの常在菌であること。皮膚を貫くヒト咬傷創にはすべてアモキシシリン/クラブラン酸を1週間予防投与すべきであること。ヒト咬傷による裂創の修復は他の咬傷と同じ原則に従い、多くの場合は二次治癒に委ねるべきであること(細菌増殖に適した環境を作らないため)。経皮的な創で加害者の口腔内に血液汚染があった場合に限りHIV曝露後予防を検討すること、B型・C型肝炎の曝露評価も併せて行うべきこと。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Clinical presentation and bacteriologic analysis of infected human bites in patients presenting to emergency departments(Clinical Infectious Diseases(Infectious Diseases Society of America)・2003)感染したヒト咬傷50例の多施設前向き研究で、56%が拳咬傷、44%が咬みつき創であったこと、多くが手の創で54%が入院したこと。創培養の分離菌数は中央値4株(好気性3・嫌気性1)で、Streptococcus anginosus 52%、Fusobacterium nucleatum 32%、Staphylococcus aureus 30%、Eikenella corrodens 30%、Prevotella melaninogenica 22%であったこと。Prevotella と S. aureus には βラクタマーゼ産生株が多かったこと、アモキシシリン/クラブラン酸とモキシフロキサシンが主要分離菌に対し in vitro で良好な活性を示したこと。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-07