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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群

Staphylococcal scalded skin syndrome

別名
SSSSRitter diseaseリッター病
臓器系
感染症皮膚
科目
PediatricsMedical MicrobiologyDermatology
トピック
小児科 3-63:ブドウ球菌感染症と毒素性ショック症候群微生物学 2/1:黄色ブドウ球菌皮膚科 3-02:スティーヴンス・ジョンソン症候群と中毒性表皮壊死症
鑑別疾患
自己免疫性水疱症(天疱瘡・水疱性類天疱瘡)色素性乾皮症毒素性ショック症候群薬疹(SJS・TENを含む)
関連疾患
細菌性皮膚感染症(伝染性膿痂疹・毛包炎・せつ・よう)
治療薬
フルクロキサシリンセファレキシンバンコマイシンクリンダマイシンリネゾリド
原因微生物
Staphylococcus aureus
症状
圧痛紅斑水疱発熱落屑
検査値
血算

🧠 全体像:遠くの小さなで作られたが血流に乗り、全身の表皮だけを「で横に切る」病気である。毒素の標的はという一分子だけなので、剥離は表皮内にとどまり、が豊富な粘膜は侵されない。乳幼児に多いのはがなく腎からの毒素排泄が未熟だからで、治療は抗ブドウ球菌薬の静注と熱傷に準じた支持療法、ステロイドは用いない。

病態

原因は(ETA・ETB)を産生する黄色ブドウ球菌である。これらの毒素はではなく、グルタミン酸特異的であり、を構成するのうちだけを特定のペプチド結合で切断する。切断されるとによるが失われ、が最も密に分布するのレベルで表皮内に裂隙が生じる。

flowchart TD
    A["遠隔の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='locus of infection'>感染巣</span>で黄色ブドウ球菌が増殖<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasopharynx'>鼻咽頭</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>・臍・咽頭・創部)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exfoliative toxin'>剥脱毒素</span>ETA・ETBを産生"]
    B --> C["毒素が血行性に全身の皮膚へ到達"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granular layer'>顆粒層</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='desmoglein 1'>デスモグレイン1</span>を特異的に切断"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='desmosome'>デスモソーム</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='keratinocyte'>角化細胞</span>間の接着が破綻"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granular layer'>顆粒層</span>レベルの表皮内剥離<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flaccid bulla'>弛緩性水疱</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Nikolsky sign'>Nikolsky徴候</span>陽性"]
    F --> G["熱傷様の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sheet-like'>シート状</span>剥離とバリア喪失<br>体液喪失・体温異常・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary infection'>二次感染</span>"]

💡 粘膜が侵されないのはが代償するからである。 皮膚の表層はが主体で、これを切られると代わりがない。一方、は全層にわたってを強く発現しており、が失われても接着が保たれる。同じ論理で、に対する自己抗体で起こるも表皮のみを侵し粘膜を侵さず、組織学的にはSSSSと区別できない。逆にを標的とするで発症する。

💡 剥離が表皮内にとどまるため、治癒しても瘢痕を残さない。 基底層と真皮は保たれており、7日前後でする。真皮に及ぶ熱傷や表皮下で剥がれるとはこの点が決定的に異なる。

好発する背景

  • 5歳未満の乳幼児、特に新生児(新生児型はRitter病と呼ばれる)に集中し、ピークは2〜3歳ころである。
  • に対するをまだ持たないことが第一の理由である。
  • 腎機能が未熟で毒素の排泄が遅いため、皮膚中の毒素が剥離に必要な濃度まで蓄積しやすい。成人の腎では速やかに排泄されるため通常は発症しない。
  • 成人例は例外的で、腎不全・透析・免疫抑制・HIV感染など毒素排泄障害や免疫不全がある場合に限られる。

⚠️ 成人発症のSSSSは、基礎疾患と菌血症を伴いやすく死亡率が高い。小児の予後がよいからといって同じ感覚で扱ってはならない。

臨床像

  1. 前駆炎、化膿性を伴う、咽頭炎、、創部感染など、小さく目立たないが起点になる。自体は軽微でも毒素は全身に回る。
  2. :発熱、不機嫌・。皮膚に触れられるのを嫌がる強い圧痛が特徴的である。
  3. 紅斑期:口囲や眼囲から始まる紅斑が24〜48時間で全身、とくにへ広がる。口囲には放射状のと痂皮を生じ、口を「への字」に見せる特徴的なをつくる。
  4. 水疱・剥離期:紅斑上にが生じ、容易に破れてに剥がれ、湿潤した熱傷様のびらん面を残す。(紅斑部を横方向にこすると表皮がずれて剥離する)が陽性となる。
  5. :適切な治療で通常5〜7日でし、を経て瘢痕なく治癒する。

粘膜は侵されない。 口囲の・痂皮は皮膚側の所見であり、口腔内・にびらんや水疱は生じない。前駆感染としての炎でが充血することはあっても、粘膜のびらん性病変があればSSSSではなくSJS・TENを疑う。

鑑別診断

項目 ・TEN 熱傷
原因 ETA・ETB( に対する反応 TSST-1・ 熱・・電気による外因性傷害
好発 5歳未満、成人では腎不全・免疫抑制 全年齢、成人に多い 全年齢。タンポン・創部・鼻 全年齢
剥離レベル 表皮内( 表皮下(表皮壊死) 剥離しない。に手掌足底の による
粘膜侵襲 なし(最重要の鑑別点) 2か所以上の重篤なびらん 粘膜充血はあるがびらんは伴わない 通常なし
陽性 陽性 陰性 該当しない
生検所見 の非炎症性裂隙。壊死に乏しい 壊死と表皮下裂隙 非特異的 熱変性とに応じた壊死
全身状態 発熱・圧痛が主体でショックは通常伴わない 循環不全は表皮バリア喪失に続発 低血圧と多臓器障害が診断に必須 広範囲では熱傷ショック

⚠️ 臨床像が紛らわしく判断がつかないときは、または剥離した表皮ので剥離レベルを確認する。表皮内ならSSSS、表皮下で全層壊死ならTENであり、(抗菌薬か中止と集中管理か)が正反対になる。

診断

flowchart TD
    A["広範な圧痛性紅斑・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flaccid bulla'>弛緩性水疱</span>・熱傷様剥離"] --> B{"粘膜にびらんがあるか"}
    B -->|"ない"| C["SSSSを第一に考える"]
    B -->|"ある"| D["SJS・TENを疑い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='culprit (suspected) drug'>被疑薬</span>中止と皮膚生検"]
    C --> E["前駆<span class='jp-term jp-term-diagram' title='locus of infection'>感染巣</span>・鼻腔・咽頭・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>・臍から培養を採取"]
    E --> F["抗ブドウ球菌薬の静注を直ちに開始"]
    F --> G{"48時間で改善するか"}
    G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral drugs'>経口薬</span>へ切り替え支持療法を継続"]
    G -->|"いいえ"| I["MRSAを想定した薬剤変更と診断の再考"]
  • 臨床診断が主体である。血算・生化学などの一般検査は非特異的で診断精度を上げず、2025年の小児SSSS系統的レビューも検査を最小限にとどめる方針を支持している。
  • 水疱内容は無菌である。 毒素が血行性に届いて剥離を起こすため、水疱の中に菌はいない。培養は前駆・鼻腔・咽頭・・臍・創部から採取する。
  • 血液培養は小児では通常陰性だが、成人や新生児では菌血症を伴いうるため採取する。
  • 生検・はTENとの鑑別が必要な場合に限って行う。PCRやELISAによるそのものの検出は研究的手法であり、日常診療では利用できない。

治療

区分 内容
抗ブドウ球菌β-ラクタム薬の静注。)または
MRSAを想定する場合 地域のMRSA分離率が高い、医療曝露歴がある、初期治療に反応しない場合はバンコマイシンまたはリネゾリドへ変更・追加
クリンダマイシン 毒素産生抑制を期待した併用が行われてきたが、転帰を改善しないことが示され、ルーチン併用は推奨されない
経口への切り替え し新規水疱が止まればへ変更し、通常7〜10日で終了する
支持療法 輸液・、体温管理、、非性被覆材と単純な保湿剤、と処置の最小化

⚠️ 全身ステロイドは推奨されない。 免疫抑制により細菌感染を悪化させ、による表皮内剥離にはそもそも作用しない。TENとの鑑別がつく前に「だろう」とステロイドを先行させるのは危険である。

⚠️ 腎機能への影響を避けるためは避け、を用いる。は乳幼児では吸収とのリスクから使用しない。免疫グロブリン大量療法の有効性は確立していない。

💡 輸液は熱傷ほど大量には要さないことが多い。経口摂取が保てる児ではを避け、摂取不良や広範な剥離のある児に限って積極的に補液する。

合併症と予後

  • 体液・電解質喪失、低体温、、菌血症・敗血症、肺炎。
  • 小児の死亡率は数%以下で、多くは瘢痕を残さず治癒する。一方、基礎疾患をもつ成人では死亡率が50%前後に達する報告がある。
  • (家族・保育者・医療者)を介した集団発生があり、、保菌の評価が再発・伝播の抑制に重要である。

まとめ

  • ETA・ETBはとしてのみを切断し、で表皮内剥離を起こす。
  • が代償するため粘膜は侵されず、これがTENとの最重要の鑑別点である。剥離が表皮内のため瘢痕を残さない。
  • 乳幼児に多いのはの欠如と腎からの毒素排泄の未熟さによる。成人例は腎不全・免疫不全を疑い、予後も悪い。
  • 診断は臨床が主体で、水疱内容は無菌のため培養は前駆・鼻腔・咽頭・・臍から採る。
  • 治療は抗ブドウ球菌薬の静注と熱傷に準じた支持療法で、MRSAリスクがあればバンコマイシンへ、ステロイドは用いない。