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Disease Atlas · 感染症 · 症候群

毒素性ショック症候群

Toxic shock syndrome

別名
TSSトキシックショック症候群STSS
臓器系
感染症全身
科目
Pediatrics
トピック
小児科 3-63:ブドウ球菌感染症と毒素性ショック症候群
鑑別疾患
ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群循環性ショック川崎病敗血症猩紅熱
治療薬
クリンダマイシンペニシリンGフルクロキサシリンバンコマイシンリネゾリドノルアドレナリン
原因微生物
Staphylococcus aureusStreptococcus pyogenes / GAS
症状
下痢筋痛紅斑発熱嘔吐落屑
検査値
クレアチニンビリルビン血小板数
元疾患
鼻出血
原因となる疾患
壊死性軟部組織感染症

🧠 全体像:は、細菌が作るがMHC class IIとのをし、T細胞をに大量活性化させて起こる「によるショック」である。は小さくてもよく、菌血症を伴わないことすらある。発熱・・低血圧・多臓器障害を見たら、・・β-ラクタム+毒素産生抑制薬の3手を同時に動かす。

病態

通常の抗原提示では、細胞内で分解された抗原ペプチドがMHC class IIの溝に収まり、そのペプチドに特異的なだけが反応するため、活性化されるT細胞は全体の0.01%程度にとどまる。はこの過程を丸ごと迂回する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superantigen'>スーパー抗原</span><br>TSST-1・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enterotoxin'>エンテロトキシン</span>B/C・Spe"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antigen-presenting cell (APC)'>抗原提示細胞</span>のMHC class IIと<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='T-cell receptor (TCR)'>T細胞受容体</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Vβ region'>Vβ領域</span>を溝の外側で架橋"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antigen specificity'>抗原特異性</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unrelated'>無関係</span>に<br>T細胞を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polyclonal'>ポリクローナル</span>に大量活性化"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor necrosis factor-alpha'>TNF-α</span>・IL-1・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interleukin-2'>IL-2</span>・IFN-γの大量放出"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular endothelial damage'>血管内皮障害</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary leak'>毛細血管漏出</span>+血管拡張"]
    E --> F["血管内容量低下と血液分布異常による<br>ショック"]
    F --> G["腎・肝・肺・凝固・中枢神経の多臓器障害"]

💡 反応するかどうかがのVβファミリーだけで決まるため、1種類の毒素が一度に数千のクローンを動かし、レパートリーの最大20〜30%が同時に活性化される。数日ではなく数時間で全身状態が破綻するのはこのためであり、局所のが些細に見えても矛盾しない。

主な 産生菌 臨床背景
TSST-1 黄色ブドウ球菌 月経関連TSSのほぼ全例。非月経関連TSSでも約半数
B・C(SEB・SEC) 黄色ブドウ球菌 非月経関連TSSの約半数
SpeA・SpeC・SmeZなどの A群 性TSS、

⚠️ 同じでも、食品中のを摂取して起こるブドウ球菌性は消化管を介した嘔吐が主体の別疾患であり、ショックにはならない。

臨床像

発熱・筋痛・嘔吐や下痢のに続き、びまん性の日焼け様紅斑と粘膜(・口腔咽頭・腟)の充血が出現し、低血圧と多臓器障害へ進む。の1〜2週間後に手掌・足底ののがみられる。

項目 ブドウ球菌性TSS 性TSS(STSS)
起因菌 毒素産生性の黄色ブドウ球菌 侵襲性のA群
主な毒素 TSST-1、B・C SpeA・SpeC・SmeZ
発熱・紅斑・嘔吐が先行し、24〜48時間で低血圧に至る 局所の激痛が先行し、しばしば数時間で急激にショックへ進む
巣 タンポン、鼻、術後創、熱傷、皮膚感染。しばしば軽微または不 ・筋炎、蜂窩織炎、肺炎、など明らかな巣
菌血症 5%未満とまれ 40〜60%と高率
ほぼ必発で、の必須項目 約10〜20%にとどまり、必須項目ではない
死亡率 月経関連は5%未満、非月経関連は最大20%程度 30〜70%(小児で低く、成人・高齢者で高い)
外科的処置 タンポン・・異物の除去、膿瘍の 緊急が必須のことが多い

⭐ 「紅斑が目立ち、ショックが後から来る=ブドウ球菌性」「激痛が先行し、ショックが急速=性」という時間軸の違いが、最も実用的な見分け方になる。

ブドウ球菌性TSSは発症契機で2つに分かれる。月経関連TSSはの長時間留置で腟内の黄色ブドウ球菌がTSST-1を産生するもので、性製品の回収後に激減した。非月経関連TSSは術後創・熱傷・鼻・膿瘍・インフルエンザ後のなどを契機とし、現在は非月経関連が過半を占める。

⚠️ 術後TSSでは創が発赤も排膿も欠くことがあり、「創がきれいだからTSSではない」と判断してはならない。

診断

診断は臨床基準による。TSSは毒素による症候群であって菌血症を必要としないため、培養が陰性でも否定できない。

項目 ブドウ球菌性TSSの臨床基準( 2011年)1
発熱 38.9°C以上
皮疹 びまん性の
発疹出現の1〜2週間後(「とくに手掌・足底」は1997年版の記述で、2011年版の基準からは外れている)
低血圧 90 mmHg以下(16歳未満は年齢別5未満)
多臓器障害 下記7系統のうち3系統以上

多臓器障害の内訳は、消化器(発症時の嘔吐・下痢)、筋(高度の筋痛またはがの2倍以上)、粘膜(腟・口腔咽頭・の充血)、腎(・クレアチニンがの2倍以上、または)、肝(がの2倍以上)、血液(血小板10万/mm³未満)、中枢神経(発熱と低血圧がない時点での・意識障害)である。

  • 5項目すべてを満たせば、4項目ならとする。の出現前に死亡した場合はを欠いてもとして扱う。
  • 血液・が陰性であること(血液培養で黄色ブドウ球菌のみは陽性でもよい)、・・麻疹の血清学的検査が陰性であることを支持所見とする。は1997年版まで検査基準に含まれていたが、2011年版では外れている。

性TSSは基準の組み立て自体が異なり、皮疹は必須項目ではない。低血圧(同じ閾値)に加えて、腎障害(成人でクレアチニン2 mg/dL以上、小児では上限の2倍以上)、(血小板10万/mm³以下または)、肝障害(・・がの2倍以上)、、全身性の斑状紅斑、(・筋炎・壊疽)のうち2つ以上を満たすことを要求する。無菌部位(血液・髄液・・胸水・)からA群を分離すれば、非無菌部位からの分離ならとなる2。

⭐ ブドウ球菌性は「紅斑とが必須項目」、性は「菌をどこから分離したかが確定と疑いの分かれ目」という設計の違いを押さえる。

鑑別疾患 見分ける手がかり
5日以上続く発熱に充血・口唇・四肢末端変化を伴うが、通常ショックには至らない
咽頭炎に伴うにざらつく細かい点状紅斑と。低血圧・多臓器障害を欠く
による表皮内のと陽性。粘膜は保たれ、ショックはまれ
敗血症・ 病原体を問わない共通の蘇生原則。TSSはその一病型として初期対応する

治療

flowchart TD
    A["発熱+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diffuse erythema'>びまん性紅斑</span>+低血圧"] --> B["敗血症として蘇生を開始<br>培養・乳酸・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='balanced crystalloid'>平衡晶質液</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasopressor'>昇圧薬</span>"]
    B --> C["感染源を探して直ちに除去する"]
    C --> D["タンポン・鼻<span class='jp-term jp-term-diagram' title='packing'>パッキング</span>・異物の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='removal (of a tube/catheter/drain)'>抜去</span><br>膿瘍の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='incision and drainage'>切開排膿</span>"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deep soft tissue'>深部軟部組織</span>感染を疑えば<br>画像を待たず緊急<span class='jp-term jp-term-diagram' title='debridement'>デブリードマン</span>"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bactericidal'>殺菌的</span>β-ラクタム+クリンダマイシン"]
    E --> F
    F --> G{"輸液・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasopressor'>昇圧薬</span>に反応しない<br>重症例か"}
    G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravenous immunoglobulin'>IVIG</span>を個別に検討"]
    G -->|"いいえ"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood/culture results'>培養結果</span>で狭域化し<br>臓器障害を支持療法で管理"]
治療の柱 内容
タンポン・鼻・縫合糸・の除去、膿瘍のドレナージ。感染では画像を待たず緊急を行い、24〜36時間ごとにする
・循環管理 による血管内容量低下が主体で、大量のを要することが多い。反応が乏しければ早期にノルアドレナリンを開始する
β-ラクタム MSSAにはなどの、疑い・重症例にはバンコマイシン。A群は
毒素産生抑制 クリンダマイシンを併用する。を合わせたでは、併用群のが6.5%対11.0%(0.44、95%CI 0.23〜0.81)と低く、ショックやを伴わない例でも同じ向きだった3。リボソーム50Sに作用してを止めるため、増殖が停止した高菌量のでも外毒素の産生を抑えられる
免疫グロブリン 重症・難治例、とくに性TSSでを個別に検討する

💡 β-ラクタムはなので、菌量が多く増殖が止まったでは効きが落ちる()。クリンダマイシンはこの弱点を補いつつ毒素産生そのものを止めるため、「効く抗菌薬をもう1剤足す」のではなく「毒素を止める薬を足す」と理解する。

  • クリンダマイシンは単剤で用いない。A群のクリンダマイシン耐性が世界的に増えているため、必ずβ-ラクタムと併用する。
  • 耐性株や薬剤不耐の場合、同じくを阻害するリネゾリドが代替となる。侵襲性A群溶連菌感染症の(米国195施設、2016〜2021年の成人入院例1,095例)で、β-ラクタム併用下のリネゾリドはでクリンダマイシンにであった4。
  • はを中和する理論的根拠と、観察研究での死亡率低下の報告があるが、無作為化試験のエビデンスは乏しい5。の皮膚軟部組織感染ガイドラインでもルーチン推奨ではなく、重症の性TSSで個別に検討する位置づけにとどまる。

⚠️ も抗菌薬も、の代替にはならない。抗菌薬だけを開始して外科的なを先送りすると救命できない。

には手掌・足底ののに続き、1〜2か月後に脱毛やを来すことがある。ブドウ球菌性TSSは抗TSST-1抗体が獲得されにくく再発しうるため、月経関連例では回復後もタンポンの使用を避ける。

まとめ

  • TSSはがMHC class IIとVβを溝の外で架橋し、T細胞をに活性化させて起こるであり、は小さくてもよい。
  • ブドウ球菌性は紅斑・がの必須項目で菌血症はまれ、性は感染を伴い菌血症が高率で死亡率も30〜70%と高い。
  • 診断はに基づく臨床診断であり、培養が陰性でもTSSを否定できない。
  • 治療は・・β-ラクタム+クリンダマイシンの3本柱で、重症例にを検討する。
  • による表皮内はの病態であり、TSSとは分けて整理する。

出典

  1. 1.Toxic Shock Syndrome (Other Than Streptococcal) (TSS) 2011 Case Definition(CDC / CSTE(全米報告対象疾患サーベイランスシステム)・2011)臨床基準が5項目(発熱38.9℃以上、びまん性斑状紅皮症、発疹出現後1〜2週の落屑、収縮期血圧90 mmHg以下=16歳未満は年齢別5パーセンタイル未満、7臓器系のうち3系統以上の障害)であること、多臓器障害の7系統が消化器・筋・粘膜・腎・肝・血液・中枢神経であること、4項目該当で疑い例・5項目全て該当で確定例(落屑前に死亡した場合は落屑を欠いても確定例)であることを逐語で確認した。検査基準は「血液または髄液培養が陰性(血液培養は黄色ブドウ球菌陽性でもよい)」で、1997年版にあった咽頭培養は2011年版では外れている。落屑の「とくに手掌・足底」も1997年版の記述で、2011年版は「発疹出現後1〜2週」とのみ記す。閲覧 2026-09-04
  2. 2.Streptococcal Toxic Shock Syndrome (STSS) (Streptococcus pyogenes) 2010 Case Definition(CDC / CSTE(全米報告対象疾患サーベイランスシステム)・2010)連鎖球菌性TSSの臨床基準が、低血圧(成人で収縮期血圧90 mmHg以下、16歳未満は年齢別5パーセンタイル未満)に加えて、腎障害(クレアチニン2 mg/dL以上または年齢基準上限の2倍以上)・凝固障害(血小板10万/mm³以下またはDIC)・肝障害(ALT・AST・総ビリルビンが基準上限の2倍以上)・ARDS・全身性の斑状紅斑(落屑しうる)・軟部組織壊死(壊死性筋膜炎・筋炎・壊疽)の6項目のうち2つ以上を要求すること、無菌部位(血液・髄液、まれに関節液・胸水・心嚢液)からのA群溶連菌分離が確定例で非無菌部位からの分離が疑い例であること、皮疹が必須項目ではないことを逐語で確認した。臨床記述には致死率が50%を超えうると記されている。閲覧 2026-09-04
  3. 3.Effectiveness of adjunctive clindamycin in β-lactam antibiotic-treated patients with invasive β-haemolytic streptococcal infections in US hospitals: a retrospective multicentre cohort study(The Lancet Infectious Diseases・2021)米国118施設でβ-ラクタムを投与された侵襲性β溶血性連鎖球菌感染症1,956例(A群1,079例・非A/B群877例)の後ろ向きコホート研究で、A群コホートでは傾向スコア一致例の院内死亡がクリンダマイシン併用6.5%(18/277)対非併用11.0%(55/500)、調整オッズ比0.44(95%CI 0.23〜0.81)と有意に低く、ショックも壊死性筋膜炎もない例に限っても調整オッズ比0.40(0.15〜0.91)で利益が保たれたことを確認した。一方、非A/B群コホートでは逆にクリンダマイシン併用群の死亡が高く(9.8%対4.6%、調整オッズ比2.60、95%CI 0.94〜7.52、有意差なし)、両コホートで効果の向きが異なった(交互作用P=0.013)。閲覧 2026-09-04
  4. 4.Adjunctive linezolid versus clindamycin for toxin inhibition in β-lactam-treated patients with invasive group A streptococcal infections in 195 US hospitals from 2016 to 2021: a retrospective cohort study with target trial emulation(The Lancet Infectious Diseases・2025)米国195施設で2016〜2021年にβ-ラクタムを投与された侵襲性A群溶連菌感染症の成人入院例1,095例(クリンダマイシン併用829例・リネゾリド併用266例)を対象に非劣性試験を模倣した後ろ向きコホート研究で、院内死亡はリネゾリド9.8%(26/266)対クリンダマイシン7.0%(58/829)、調整リスク比0.92(95%CI 0.42〜1.43、P=0.76)、リスク差−0.005(95%CI −0.05〜0.04)で非劣性マージン0.05の内側に収まり、リネゾリドはクリンダマイシンに非劣性と解釈されたことを確認した。生存例の在院日数とClostridioides difficile感染にも有意差はなかった。オンライン先行公開は2024年10月10日、掲載は2025年3月号である。閲覧 2026-09-04
  5. 5.Polyspecific Intravenous Immunoglobulin in Clindamycin-treated Patients With Streptococcal Toxic Shock Syndrome: A Systematic Review and Meta-analysis(Clinical Infectious Diseases・2018)クリンダマイシン投与を受けた連鎖球菌性TSS患者に限って静注免疫グロブリンの効果を統合したメタ解析(無作為化試験1件+非無作為化試験4件、IVIG投与70例・非投与95例、1992〜2009年の北欧・カナダ・豪州)で、死亡率が33.7%から15.7%へ低下(リスク比0.46、95%CI 0.26〜0.83、P=0.01、I²=0%)したことを確認した。ただし個々の研究では単独で統計学的有意差に達したものは1件も無く、非無作為化研究にはベースライン差による中等度以上のバイアスが残り、無作為化試験は1件のみ(リスク比0.42、95%CI 0.05〜3.28)である。閲覧 2026-09-04