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Disease Atlas · 耳鼻咽喉科 · 疾患

鼻出血

Epistaxis

別名
鼻血Nosebleed
臓器系
耳鼻咽喉科
科目
Otorhinolaryngology
トピック
耳鼻咽喉科 28:鼻腔の血流と鼻出血の原因・処置
合併症
毒素性ショック症候群
関連疾患
アテローム性動脈硬化症高血圧症
治療薬
オキシメタゾリン硝酸銀トラネキサム酸
原因薬剤
アセチルサリチル酸アピキサバンベバシズマブブデソニドクロピドグレルダビガトランエテキシラートエドキサバンフルチカゾンイブルチニブモメタゾンプラスグレルリバロキサバンワルファリン
症状
出血傾向
検査値
血小板減少
元疾患
遺伝性出血性毛細血管拡張症
原因となる疾患
MYH9関連疾患グランツマン血小板無力症血友病A・B若年性鼻咽腔血管線維腫免疫性血小板減少症
適応薬
オキシメタゾリントラネキサム酸硝酸銀

🧠 全体像:前下部の(と系の)がの大多数を占める。初期対応は座位でさせ、の柔らかい部分を最低5分持続圧迫することであり1、出血点を見ずに盲目的なは行わない。後方出血や循環不安定例では気道・循環管理を優先し、難治例は・へ進む。

鼻腔の血流と出血の局在

領域 血流系統
上部 → → 前・後
後部 → → →
前下部 → ・、 →

これらの吻合が前下部のでを形成し、の大多数()はここから起こる。血管叢に集まるのは、の前と、系の・・である。一方、系が主体の後方出血は咽頭へ流れ込みやすく、量が多くしにくいため、高齢者や循環器疾患患者で重症化しやすい。

💡 前下部が出血しやすいのは、血管が集まり、しかも守られていないからである。 ①系統の違う終末枝が一点で吻合するので血流が集中し、②この部位の粘膜は薄く軟骨に直接乗って可動性に乏しいため、指・乾燥・外傷の力が血管にそのまま伝わる。が圧迫だけで止まりやすいのも同じ理由で、浅く固い床(中隔軟骨)の上で血管を挟めるからである。逆に後方出血の出血点は鼻腔の深部にあり、外から挟める対向面が無いため、では止血できない。

原因

高血圧は出血の持続・処置困難に関連しうるが、高血圧単独をの直接原因と決めつけてはならない1。反復する片側性出血、鼻閉、腫瘤を伴う場合は腫瘍を除外する。

初期対応

flowchart TD
    A["気道・呼吸・循環、出血量を評価"] --> B["座位で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anteflexion'>前屈</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ala nasi'>鼻翼</span>の柔らかい部分を<br>最低5分、通常10〜15分持続圧迫"]
    C --> D["吸引・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood clot'>血塊</span>除去、照明下に観察<br>局所<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasoconstrictor'>血管収縮薬</span>・麻酔を併用可"]
    D --> E{"出血点が見える?"}
    E -->|"はい"| F["片側ずつ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chemical cautery'>化学焼灼</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrocoagulation'>電気凝固</span>"]
    E -->|"いいえ/持続"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasal packing'>鼻腔パッキング</span>"]
    F --> H{"止血?"}
    G --> H
    H -->|"いいえ"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endoscopic arterial ligation'>内視鏡下動脈結紮</span><br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endovascular embolization'>血管内塞栓術</span>"]
  • 血液を飲み込ませないよう位を保つ。仰臥位・後屈は血液の咽頭への流入・誤嚥を増やすため避ける。
  • 循環不安定、大量出血、気道リスクがある場合は、採血、輸液・輸血を含む蘇生を止血処置と並行して優先する。
  • 出血点を同定できたらによるまたはで止血する。同一部位で両側中隔を同時に広範囲するとのリスクが上がるため避ける。

パッキングと難治例

には吸収性材料、、ガーゼなどでを行う。抗凝固薬・使用例やがある患者では、可能なら吸収性材料を選ぶ。後方は疼痛、低酸素、誤嚥、などのリスクを伴うため、モニタリング可能な環境で管理する。

⚠️ 留置中は低酸素、誤嚥、感染(まれに)、・壊死、・咽頭のに注意する。留置期間と予防的抗菌薬投与の要否は、使用材料・患者リスク・施設方針に応じて個別化する。

  • がしない、または反復・難治性の出血には、内視鏡下またはを検討する。
  • ⚠️ 抗凝固薬・は、生命を脅かす出血を除いて一律に中止・拮抗しない1。まず処置を優先し、と止血状況を踏まえて処方医と協働で判断する。

💡 「まず薬を止める」ではなく「まず止血処置を尽くす」という順序が現在の標準的な考え方である。の中止・拮抗は原疾患の血栓塞栓リスクを高めるため、安易な選択ではない。

⚠️ 裏返せば、生命を脅かす出血では拮抗が選択肢に入る。手段は薬剤ごとに違う。 ワルファリンでは、英国の添付文書が、生命を脅かす出血に対し中止のうえ(第II・VII・IX・X因子)30〜50単位/kg(入手できなければ15 mL/kg)を、抗凝固を中断できる生命を脅かさない出血に対してはビタミンK110〜20 mgの緩徐静注を挙げている2。には特異的があり、成人で速やかな中和を要する生命を脅かす出血・制御不能な出血に用いる(小児では有効性・安全性が確立していない)3。(・・)に対してはがある(承認されている対象薬剤と供給状況は国により異なる。詳細は同ノートを参照)。

局所トラネキサム酸の位置づけ

であるの注射液を綿球・ガーゼ・吸収性材に浸して鼻腔へ留置する用法が、の補助手段として試みられている。圧迫・(など)・といった標準的な止血処置を置き換えるものではなく、それらにする位置づけである。

  • Cochraneの系統的レビュー(成人を対象とした6件の、692例)では、通常治療に経口または局所を加えると10日以内の再出血が67%から47%へ減った(0.71、95%信頼区間0.56〜0.90、3試験225例、エビデンスの質は中)。ただしだけを取り出すと1試験68例しかなく質は低いため、単独の効果は不確実とされている。他の(エピネフリン・、など)との比較では、10分以内に止血した割合が70%対30%と高かった(2.35、95%信頼区間1.90〜2.92、3試験460例、質は中)4。
  • 一方、英国26救急部の(NoPAC、496例)は、法と局所でも止まらなかったに綿ロールへ浸したを追加しても、前の必要性を減らさなかった(43.7%対41.3%、1.107、95%信頼区間0.769〜1.594、P=0.59)5。
  • 2026年の(成人の自然発症前方、18研究・2760例、うち16件が)は、10分以内の止血達成(2.54、95%信頼区間1.22〜5.29)、早期再出血(0.42)・遅発再出血(0.45)の減少を示した一方、投与法で結果が割れることを指摘した。を浸したガーゼ・綿球では一貫した利益(2.98)が得られたが、噴霧(アトマイザー)投与では一貫しなかった(0.29)6。

💡 NoPACだけが陰性なのは矛盾ではなく、組み入れた集団が違う。NoPACはでも止まらなかった患者に限っており、他の試験より止まりにくい集団である。「初期処置にすると止血が早まる・再出血が減る」ことと「難治例でを回避できる」ことは別の主張であり、後者は支持されていない。

再発予防

  • 噴霧・鼻腔洗浄、加湿、へので乾燥を防ぐ。
  • 鼻ほじり、強い鼻かみ、刺激物への曝露を避ける。
  • 高血圧や凝固異常があれば、原疾患を適切に管理する。
  • 後は時期、再出血時の対応、受診の目安を患者に明確に説明する。

まとめ

  • の第一手は座位との持続圧迫であり、出血点を見ずに盲目的を行わない。
  • 抗凝固薬・は生命を脅かす出血でない限り一律に中止・拮抗しない。
  • 後方出血や循環不安定例は気道・循環管理と専門的止血を早期に組み合わせる。
  • 局所は標準処置にする補助手段であり、浸したガーゼ・綿球で用いる。難治例の回避を期待する使い方は支持されていない。

出典

  1. 1.Clinical Practice Guideline: Nosebleed (Epistaxis) Executive Summary(American Academy of Otolaryngology–Head and Neck Surgery Foundation (AAO-HNSF)・2020)鼻翼圧迫は5分以上が推奨、抗凝固薬・抗血小板薬は生命を脅かす出血でない限り中止・拮抗せず局所止血処置を優先、高血圧と鼻出血の直接的因果関係は確立していない閲覧 2026-08-02
  2. 2.Marevan 0.5mg Tablets — Summary of Product Characteristics (SmPC)(electronic medicines compendium(英MHRA登録のSmPC)・2026)4.9項が、生命を脅かす出血ではワルファリンを中止しプロトロンビン複合体製剤(第II・VII・IX・X因子)30〜50単位/kgを、入手できなければ新鮮凍結血漿15 mL/kgを投与するとし、抗凝固を中断できる生命を脅かさない出血にはビタミンK1(フィトメナジオン)10〜20 mgの緩徐静注を挙げていること、4.8項が呼吸器系の副作用として鼻出血を挙げていることを確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Pradaxa 150 mg hard capsules — Summary of Product Characteristics (SmPC)(electronic medicines compendium(英MHRA登録のSmPC)・2025)4.4項が、生命を脅かす出血・制御不能な出血で抗凝固作用の速やかな中和を要する成人には特異的中和薬イダルシズマブが利用でき、小児では有効性・安全性が確立していないと記載していること、4.8項が鼻出血を「common」に分類していることを確認した。閲覧 2026-09-05
  4. 4.Tranexamic acid for patients with nasal haemorrhage (epistaxis)(Cochrane Database of Systematic Reviews・2018)成人6件のRCT(692例)を統合し、通常治療に経口または局所トラネキサム酸を加えると10日以内の再出血が67%から47%へ減る(リスク比0.71、95%信頼区間0.56〜0.90、3試験225例、質は中)が、局所投与単独のエビデンスは1試験68例のみで質は低く不確実であること、他の止血薬との比較では10分以内の止血率が70%対30%(リスク比2.35、95%信頼区間1.90〜2.92、3試験460例、質は中)であることを確認した。閲覧 2026-09-05
  5. 5.The Use of Tranexamic Acid to Reduce the Need for Nasal Packing in Epistaxis (NoPAC): Randomized Controlled Trial(Annals of Emergency Medicine・2021)英国26救急部の二重盲検プラセボ対照RCT(496例)で、一次止血法と局所血管収縮薬でも止まらない自然発症鼻出血に綿ロールへ浸した局所トラネキサム酸を追加しても、前鼻腔パッキングの必要性は減らなかった(43.7%対41.3%、オッズ比1.107、95%信頼区間0.769〜1.594、P=0.59)ことを確認した。組入れ基準が「一次止血法と血管収縮薬で止まらなかった患者」に限られる点も原文で確認した。閲覧 2026-09-05
  6. 6.A meta-analysis on the efficacy of topical tranexamic acid for epistaxis: Does the method of administration affect the success rate?(Australasian Emergency Care・2026)成人の自然発症前方鼻出血を対象とした18研究(うち16件がRCT)2760例のメタ解析で、局所トラネキサム酸が10分以内の止血達成(オッズ比2.54、95%信頼区間1.22〜5.29)、早期再出血(オッズ比0.42)・遅発再出血(オッズ比0.45)の減少と関連し、投与法別ではトラネキサム酸を浸したガーゼ・綿球が一貫した利益(オッズ比2.98)を示す一方、噴霧投与は一貫しなかった(オッズ比0.29)ことを確認した。閲覧 2026-09-05