疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 血液 · 先天性疾患

グランツマン血小板無力症

Glanzmann thrombasthenia

別名
GT血小板無力症Glanzmann血小板無力症
臓器系
血液
科目
Medical PhysiologyInternal Medicine
トピック
止血と血小板の役割内科学 H-07:凝固・止血系の検査
鑑別疾患
MYH9関連疾患フォン・ヴィレブランド病ベルナール・スリエ症候群
続発疾患
鼻出血
治療薬
エプタコグ アルファトラネキサム酸デスモプレシン
症状
出血歯肉出血過多月経遷延出血
検査値
血小板数血小板凝集血小板機能分析装置血算

🧠 全体像:は、血小板膜の(αIIbβ3)が欠けているのである。はフィブリノゲンを介して血小板同士を架橋する受容体、すなわちの最終段階「凝集」そのものを担う。したがって血小板の数も大きさも正常なのに凝集が起こらない。学習の幹は「幼少期からの+正常+塗抹正常」で疑い、のすべてに反応せず、にだけ反応するという凝集パターンで裏づけ、でCD41/CD61の発現低下を確認する、という流れである。⭐ とはちょうど鏡像の関係にある。

何が壊れているか:粘着ではなく凝集

は「 → 活性化 → 凝集」の順に進む。-IX-V複合体がを介して血小板を血管壁へ貼りつけるのに対し、は活性化後に構造を変えてフィブリノゲンを掴み、血小板同士を橋渡しする。αIIbβ3はフィブリノゲンのほか・・・CD40Lも結合する1。

flowchart TD
    A["血管内皮の損傷"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycoprotein Ib'>GPIb</span>-IX-Vと<span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Willebrand factor'>VWF</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adhesion'>粘着</span>"]
    B --> C["血小板の活性化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granule release'>顆粒放出</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycoprotein IIb/IIIa'>GPIIb/IIIa</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conformational change'>構造変化</span><br>(活性化依存性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ligand binding'>リガンド結合</span>)"]
    D --> E["フィブリノゲンによる血小板間の架橋"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet aggregate'>血小板凝集塊</span>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary hemostatic plug'>一次止血栓</span>"]
    G["本症:αIIbβ3の欠損または機能異常"] --> H["Dの段階で止まる"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adhesion'>粘着</span>は起こるが凝集が成立しない"]

💡 反応が残る理由がここにある。 はとの相互作用を人為的に起こさせる試薬で、評価しているのはの経路である。本症ではその経路は無傷なので、によるだけが保たれる2。

遺伝子と分類

は ITGA2B(αIIbをコード、30エクソン)と ITGB3(β3をコード、15エクソン)で、ITGA2B は17q21.31、ITGB3 は17q21.32と、いずれも第17番染色体の近接した領域に座位する12。で男女差はなく、は100万人に1人と見積もられている。の多い集団(フランスのロマ、南インドのヒンドゥー、イラク系ユダヤ人、ヨルダンの遊牧部族)に集積する2。

Caen分類 の発現量 頻度
I型 正常の5%未満 欠如 約78%
II型 正常の5〜20% 残存 約14%
機能(III型・variant) ほぼ正常だが働かない 可変 約8%

⚠️ 機能はで見つからない。 CD41/CD61の発現量が正常だからである2。凝集能検査で「全てのに」なのにが正常でも、本症を否定せず ITGA2B・ITGB3 のへ進む。

臨床像

出血は粘膜皮膚性で、生涯にわたって同じ型の出血を繰り返す。重症度のは大きいが、出血の種類は一貫している2。

出血の型 頻度
60〜80%
60〜90%
20〜60%
消化管出血 10〜20%
1〜2%
  • 大半が5歳未満で診断される。は特に小児で重症出血の最多の原因で、が脆くなくなるにつれ加齢とともに減る2。
  • ⭐ 加齢で軽くなる——ただしと妊娠関連出血は例外2。時はへのエストロゲンの作用が長く続くため、重い出血のリスクが高い。
  • による鉄欠乏で、ヘモグロビン低下・・の増大を伴うことがある2。

検査

⭐ ・大きさ・顆粒はすべて正常であり、・・フィブリノゲンも通常は正常である2。が全て正常な粘膜出血こそが本症を疑う入り口になる。

検査 本症での所見
・塗抹 正常
が300秒超に著明延長。正常なら本症をほぼ除外できる
() ADP・コラーゲン・エピネフリン・・トロンビンのすべてで10%未満。は正常
CD41(GPIIb)/CD61(GPIIIa)の発現低下・欠如。機能は捉えられない
ITGA2B・ITGB3 の2遺伝子に絞ってよい

💡 凝集能検査の読み方はと正反対である。 本症は「だけ保たれる」、は「だけ欠ける」。のノートの低表は、この2疾患を両端に置いて読むと整理できる。

鑑別

疾患 血小板サイズ 決め手
正常 正常 保たれる CD41/CD61の欠如、他の刺激物質で全滅
減少 巨大 欠如(正常血漿で補正されない) CD42a〜dの発現低下
正常 正常 低下(正常血漿で補正される) 抗原・活性の低下
正常 正常 保たれる フィブリノゲンが測定感度以下
正常 正常 保たれる の消失、顆粒の欠乏

⚠️ 後天性がある。 (または近傍のエピトープ)に対する自己抗体が受容体とフィブリノゲン・の結合を阻む病態で、自己免疫疾患・・に続発し、正常のまま遅発性に重いを来す。をはじめとする阻害薬も同じ表現型を作る2。先天性と考えて家族歴を探しても出てこないときにする。

治療

方針 内容 注意
・ 圧迫・局所処置とを第一段階に置く ではによる閉塞に注意する
(rFVIIa) ・が承認。に90 µg/kgを2〜6時間ごと、少なくとも3回静注 他の止血手段と組み合わせて用いる
⚠️ 本症では臨床的有用性が限られる2 や軽症のでの位置づけを持ち込まない
大手術・生命を脅かす出血・他の手段で止まらない出血に限る のリスク
重症の反復出血例で、により良好な成績が報告されている 適応は限られる

⚠️ を「まず輸血」で使わない。 輸血後に最大30%が抗抗体またはを産生し、以後の輸血が効かなくなる。によってが完全に欠損している例で、産生のリスクが最も高い2。

⚠️ 妊娠・分娩は専門施設で計画する。 妊婦の最大70%にまたは抗抗体が存在し、その同定が分娩計画の要になる。一次性が多く、多くがを要する2。

慎重な支持療法のもとでの予後は良好で、多くの成人は日常生活を保てる1。

まとめ

  • は(αIIbβ3)の欠損または機能異常によるので、 ITGA2B・ITGB3 はともに17q21に隣接して並ぶ。
  • は「凝集」の受容体なので、も大きさも正常なのに全てので凝集しない。経路は無傷なので反応だけが残る。
  • Caen分類はI型(発現5%未満・欠如・約78%)、II型(5〜20%・退縮残存・約14%)、機能(発現正常・約8%)。機能はで見逃すのでへ進む。
  • 出血は60〜80%・60〜90%が中心で、加齢とともに軽くなるがと妊娠関連出血は例外。
  • 治療はとを土台に、へrFVIIa 90 µg/kgを2〜6時間ごと。は最大30%にを生じるため適応を絞る。
  • 正常で遅発性の重い粘膜出血なら、自己抗体または阻害薬による後天性の本症をする。

出典

  1. 1.Glanzmann thrombasthenia(Orphanet Journal of Rare Diseases(Nurden AT)・2006)本症が巨核球系を侵し血小板凝集の欠如を特徴とする常染色体劣性の出血性疾患であること、αIIbβ3がフィブリノゲンのほかフォン・ヴィレブランド因子・フィブロネクチン・ビトロネクチン・CD40Lを結合して血小板同士を架橋する主要受容体であること、Caen分類がI型(凝集欠如かつ血餅退縮欠如)・II型(凝集欠如だが血餅退縮は残存)・変異型(αIIbβ3の量はほぼ正常だが活性化依存性のリガンド結合が損なわれる)から成ること、ITGA2B が17q21.31、ITGB3 が17q21.32という第17番染色体長腕の近接した領域に座位すること、世界的な有病率の信頼できる推計は存在せず血族婚の多い集団(南インド・イラク・イスラエル・ヨルダン・イラン・フランス)に多いこと、鑑別がベルナール・スリエ症候群(リストセチン凝集が正常であることで除外できる)・フォン・ヴィレブランド病・無フィブリノゲン血症・貯蔵プール病であること、診断が血小板数と形態の正常・全ての生理的刺激物質への凝集欠如・リストセチン誘発凝集塊形成の正常・フローサイトメトリーによるαIIbβ3の欠損ないし機能異常の確認から成ること、治療が局所止血・デスモプレシン・HLA適合血小板輸血・rFVIIaであり反復輸血でαIIbβ3のエピトープに対する同種抗体が生じて輸血不応となりうること、慎重な支持療法のもとで予後は良好であることを確認した。なおα顆粒フィブリノゲンの含量については本総説に記載を見いだせなかった。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Glanzmann thrombasthenia: genetic basis and clinical correlates(Haematologica(Botero JP, et al.)・2020)本症が ITGA2B(30エクソン・1,039アミノ酸)と ITGB3(15エクソン・788アミノ酸)の病的変異によりインテグリンαIIbβ3=GPIIb/IIIaを欠く常染色体劣性疾患で男女が等しく罹患すること、有病率が100万人に1人と見積もられフランスのロマ・南インドのヒンドゥー・イラク系ユダヤ人・ヨルダンの遊牧部族に集積すること、Caen分類のI型が受容体発現5%未満で約78%・II型が5〜20%で約14%・機能異常型(III型)が発現量正常で約8%を占めること、出血が粘膜皮膚性で紫斑・鼻出血60〜80%・歯肉出血20〜60%・過多月経60〜90%・消化管出血10〜20%・頭蓋内出血1〜2%であること、大半が5歳未満で診断され過多月経と妊娠関連出血を除けば出血の重症度が加齢とともに軽くなること、鼻出血が特に小児で重症出血の最多の原因であること、血小板数・大きさ・顆粒が正常でPT・APTT・フィブリノゲンも通常正常であること、PFA-100の閉塞時間が300秒超に著明延長する一方PFA-100が正常なら本症をほぼ除外できること、光透過法で全ての生理的刺激物質に対する凝集が10%未満に低下・消失する一方リストセチン凝集塊形成は正常に保たれること、フローサイトメトリーのCD41/CD61が I型・II型の量的欠損を捉える一方で機能異常型(III型)は検出できないこと、遺伝子検査は ITGA2B と ITGB3 に絞ってよいこと、rFVIIaが欧州医薬品庁と米国食品医薬品局に承認され急性出血に90 µg/kgを2〜6時間ごと(少なくとも3回)静注すること、血小板輸血を大手術・生命を脅かす出血・他の手段で止まらない出血に限るべきこと、輸血後に最大30%が抗GPIIb/IIIa抗体または抗HLA抗体を生じ未熟終止コドンによりGPIIb/IIIaが完全に欠損する例で同種抗体産生のリスクが最も高いこと、重症例に減弱前処置の同種造血幹細胞移植が成功していること、妊婦の最大70%に抗HLA抗体または抗GPIIb/IIIa抗体が存在し一次性分娩後出血が多いこと、後天性の本症がGPIIb/IIIaに対する自己抗体(自己免疫疾患・リンパ増殖性疾患・形質細胞疾患に続発)またはアブシキシマブ・エプチフィバチド・チロフィバンといったGPIIb/IIIa阻害薬により生じ血小板数正常のまま遅発性の重い粘膜皮膚出血を呈することを確認した。閲覧 2026-09-03