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Disease Atlas · 血液 · 先天性疾患

ベルナール・スリエ症候群

Bernard-Soulier syndrome

別名
BSSベルナール・スーリエ症候群
臓器系
血液
科目
Medical PhysiologyInternal Medicine
トピック
止血と血小板の役割内科学 H-15:血小板減少患者の診断アプローチ内科学 H-07:凝固・止血系の検査
鑑別疾患
MYH9関連疾患グランツマン血小板無力症血小板型フォン・ヴィレブランド病免疫性血小板減少症
治療薬
エプタコグ アルファデスモプレシントラネキサム酸
症状
出血歯肉出血過多月経遷延出血
検査値
血算血小板数リストセチン誘発血小板凝集血小板凝集
スコア
出血評価ツール(ISTH-BAT)

🧠 全体像:は、血小板膜の-IX-V複合体そのものが欠けているのである。-IX-Vはを介して血小板を損傷血管壁へ最初に貼りつける受容体なので、失われるとの初手が成立しない。臨床の幹は「幼少期からの粘膜出血+血小板減少+塗抹での」で疑い、にだけ反応しないという凝集パターンで裏づけ、でCD42の発現低下を確認する、という流れである。⚠️ 最も多い落とし穴はとしてステロイド・を行うことで、塗抹を自分で見れば避けられる。

受容体のどこが壊れているか

-IX-V複合体は、α・β・GPIX・GPVの4つのが集まってできる血小板限定の受容体である。結合部位を持つのはαで、露出したコラーゲンに捕捉されたを介して血小板を血管壁へさせる。

サブユニット 遺伝子 染色体 位置づけ
α GP1BA 17p12 結合部位を担う最大のサブユニット
β GP1BB 22q11.2 複合体の効率的なに必須
GPIX GP9 3q21 複合体の効率的なに必須
GPV GP5 3q29 結合が緩く、欠けても発現と結合は保たれる

⭐ α・β・GPIXは互いに強く結びついており、どれか1つを欠くだけで複合体全体の表面発現が著しく落ちる。だから3つの遺伝子のどこに変異があっても表現型はほぼ同じになる。一方GPVの結合は緩く、その欠如は発現も結合能も妨げない——実際、本症の病的変異は GP1BA・GP1BB・GP9 でのみ同定されており、GP5 では見つかっていない1。

flowchart TD
    A["GP1BA・GP1BB・GP9 のいずれかの変異"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycoprotein Ib'>GPIb</span>-IX-V複合体の表面発現が著減"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Willebrand factor'>VWF</span>を介した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet adhesion'>血小板粘着</span>が成立しない"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='megakaryocyte'>巨核球</span>からの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Thrombopoiesis'>血小板産生</span>が障害される"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary hemostasis'>一次止血</span>の破綻=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucocutaneous bleeding'>粘膜皮膚出血</span>"]
    D --> F["血小板減少と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='giant platelet'>巨大血小板</span>"]

遺伝形式はで、に伴う報告が多い。報告例は約100例、推定は100万人に1人未満だが、と未報告のため実際はこれより高いと考えられている1。

💡 同じ GP1BA でも、機能喪失なら本症、ならという正反対の疾患になる。後者は血小板の反応性がむしろ亢進する例外的な血小板疾患である2。

臨床像

出血症状は多くの場合、出生直後から乳幼児期に現れる。紫斑、、、が中心で、消化管出血や血尿はより稀である。・・・といった手術操作や外傷、月経が重篤な出血の契機になる。出血は粘膜皮膚が主体で、大きな血腫はほとんど見られない1。

重症度と頻度にはが大きい。教育と外傷予防が行き届いていれば日常生活はおおむね正常に送れるが、外傷・手術の際の重篤な出血は常に念頭に置く1。

診断

flowchart TD
    A["幼少期からの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucocutaneous bleeding'>粘膜皮膚出血</span>"] --> B["血算と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral smear'>末梢血塗抹</span>"]
    B --> C{"血小板減少+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='giant platelet'>巨大血小板</span>か"}
    C -->|"いいえ"| D["他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bleeding disorder'>出血性疾患</span>を検索"]
    C -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet aggregation test'>血小板凝集検査</span>"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ristocetin'>リストセチン</span>にだけ反応しないか"}
    F -->|"いいえ"| G["他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet dysfunction'>血小板機能異常</span>を検索"]
    F -->|"はい"| H["正常血漿を加えて補正されるか確認"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flow cytometry'>フローサイトメトリー</span>でCD42a〜dを測定"]
    I --> J["遺伝学的検査で変異を同定"]

血算と塗抹

は典型的には2万〜10万/µLで、血小板は主容積11〜16 µm³・径4〜10 µmと著しく大型になる1。

⚠️ はをリンパ球と数え違える。 正確なにはが要る。したがって血算の数値だけを見て「血小板減少の程度」を語ると、実際より低く見積もることになる1。

凝集パターン

本症に特徴的なのは、の孤立性の欠如である。ADPやコラーゲンへの反応は正常に保たれ、トロンビンへの反応は低下しうる。の反応原理と濃度別の読み方はのノートに譲る1。

⭐ 正常血漿を加えても補正されないという点がとの決定的な違いである。では血漿側()が足りないので正常血漿で補われるが、本症では受容体そのものが無いので何を足しても凝集しない1。

確定と補助所見

でCD42a〜d(-IX-V複合体の各サブユニット)の発現低下ないし欠如を示すことで確定する。補助所見としての著明な低下が恒常的に認められ、これはの欠如による結合不全と依存性の低下に帰せられている1。

鑑別

病態 血小板サイズ 反応 決め手
巨大 欠如(正常血漿で補正されない) CD42a〜dの発現低下
正常 保たれる (CD41/CD61)の欠如、他の刺激物質でほぼ全滅
正常〜やや大 保たれる 経過が後天性、他の原因の除外
巨大 保たれる 、難聴・腎症・
正常 低下(正常血漿で補正される) 抗原・活性の低下
大きめ 低濃度で過剰反応 GP1BA の

💡 GPIbかGPIIb/IIIaかが、を伴う本症とを分ける軸である。は「」の受容体なので反応が落ち、は「凝集」の受容体なのですべてに反応しなくなる代わりに反応は残る。

⚠️ とのが繰り返し報告されている。 本症がステロイドやで治療され、当然ながらしなかった例が積み重なっている1。血小板減少を見たら塗抹で血小板の大きさを自分で確認する。

治療

治療は一般的な出血予防と、出血時・手術時の止血に分かれる1。

方針 内容 注意
生活上の予防 外傷の回避、アスピリンなどの回避、の維持、思春期以降の女性での月経管理 予防が治療の中心である
出血時と手術時の主たる止血手段 を産生するリスクがあり、以後の輸血が効かなくなりうる
・(rFVIIa) 一部の患者でを短縮したと報告されている 全例で有効とは示されていない
粘膜出血に対する補助 ではによる閉塞に注意する
生命を脅かす出血を繰り返す稀な症例で考慮されうる 適応はきわめて限られる

は変異が同定された家系では理論上可能だが、本症が生命を脅かす出血を起こすことは稀で、良好な予防のもとでほぼ正常な生活の質が保てること、や自体が出血と流産のリスクを伴うことから、されにくいとされている1。

まとめ

  • は、血小板-IX-V複合体の欠損によるのである。
  • GP1BA・GP1BB・GP9 のいずれの変異でも複合体全体の発現が落ちるため表現型はほぼ同じで、GP5 では病的変異が同定されていない。
  • 幼少期からの、血小板減少、の3つで疑う。自動器はを数え落とす。
  • にだけ反応せず、しかも正常血漿を加えても補正されない点がと決定的に違う。確定はのCD42a〜dで行う。
  • としてステロイド・を行う例が繰り返し報告されている。
  • 治療は外傷とアスピリンの回避を軸とし、出血時・手術時はを用いる。の産生に注意する。

出典

  1. 1.Bernard-Soulier syndrome (hemorrhagiparous thrombocytic dystrophy)(Orphanet Journal of Rare Diseases・2006)GPIb-V-IX複合体の4サブユニットをコードする遺伝子がGP1BA(17p12)・GP1BB(22q11.2)・GP5(3q29)・GP9(3q21)であり病的変異はGP1BA・GP1BB・GP9で同定されGP5では同定されていないこと(原著の表記はGPIBA・GPIBB)、GPIbα・GPIbβ・GPIXのいずれか1つを欠くと複合体全体の表面発現が著減する一方GPVの欠如は発現もVWF結合能も妨げないこと、常染色体劣性であること、報告例が約100例で有病率は100万人に1人未満と推定されるが過小診断により実際はより高いと考えられること、血小板数が典型的には2万〜10万/µLで血小板が著しく大型(主容積11〜16 µm³、径4〜10 µm)のため自動計数器がリンパ球と誤認し用手法を要すること、リストセチン誘発凝集の孤立性欠如が正常血漿の添加で補正されずこの点がフォン・ヴィレブランド病と異なること、ADP・コラーゲンへの凝集反応は正常でトロンビンへの反応が低下しうること、プロトロンビン消費の著明な低下が恒常的に認められること、CD42a〜dに対するモノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリーで確定すること、免疫性血小板減少性紫斑病と誤診されステロイドや脾摘が無効に行われてきたこと、治療が外傷とアスピリンの回避・口腔衛生・出血時や手術時の血小板輸血(抗血小板同種抗体産生のリスクを伴う)であり一部の患者でデスモプレシンとrFVIIaが出血時間を短縮したこと、生命を脅かす症例では造血幹細胞移植が考慮されうることを確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.Global prevalence of platelet-type von Willebrand disease(Research and Practice in Thrombosis and Haemostasis・2025)血小板型フォン・ヴィレブランド病がGP1BA(GPIbα)の機能獲得型変異による常染色体顕性の血小板疾患であり、血小板の反応性が「低下」ではなく「亢進」する点で他の血小板疾患のなかで例外的であることを確認した閲覧 2026-09-03