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Disease Atlas · 血液 · 先天性疾患

遺伝性出血性毛細血管拡張症

Hereditary hemorrhagic telangiectasia

別名
HHTOsler-Weber-Rendu病Osler-Weber-Rendu diseaseオスラー病
臓器系
血液循環器耳鼻咽喉科
科目
ENT
トピック
耳鼻咽喉科 28:鼻腔の血流と鼻出血の原因・処置
合併症
動静脈奇形鼻出血
続発疾患
脳膿瘍
治療薬
トラネキサム酸ベバシズマブ
症状
毛細血管拡張

🧠 全体像(HHT、)は、血管内皮の構造を保つENGACVRL1などの遺伝子変異により、皮膚・粘膜のと肺・脳・肝の(AVM)を全身に来す疾患である。診断は反復性・内臓AVM・家族歴の4項目からなるCuraçao基準(3項目以上で確定)に基づく。臨床上もっとも重要なのはによるで、正常なら肺が濾過するはずの血栓・細菌がを介して直接体循環へ流入し、脳卒中・を来しうる——単なる反復性として片付けず、全身のAVMを検索する契機にすることが診療の骨格になる。

病態

ENG(endoglin)・ACVRL1(ALK1)はいずれもTGF-β/BMPシグナル伝達に関わる血管内皮の受容体複合体を構成し、正常な血管新生・成熟・血管壁の安定化を担う。これらの遺伝子変異により血管内皮の構造が脆弱になると、を欠いたまま動脈と静脈が直接吻合するが全身の複数臓器に生じる。

flowchart TD
    A["ENG・ACVRL1・SMAD4の変異<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autosomal dominant inheritance'>常染色体顕性遺伝</span>)"] --> B["TGF-β/BMPシグナル伝達の異常"]
    B --> C["血管内皮・血管壁の構造<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor weakness'>脆弱化</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary bed'>毛細血管床</span>を欠いた異常な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular anastomosis'>血管吻合</span>"]
    D --> E["皮膚・口腔・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasal mucosa'>鼻粘膜</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='telangiectasia'>毛細血管拡張</span>"]
    D --> F["肺・脳・肝の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='AVM'>動静脈奇形</span>"]
    E --> G["反復性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epistaxis'>鼻出血</span>・消化管出血"]
    F --> H["肺AVM:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right-to-left shunt'>右左シャント</span>"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paradoxical embolism'>奇異性塞栓症</span><br>脳卒中・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain abscess'>脳膿瘍</span>"]
    F --> J["脳AVM:破裂性出血"]
    F --> K["肝AVM:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-output heart failure'>高拍出性心不全</span>"]

遺伝学

遺伝子 病型 頻度 機序
ENG HHT1 約61% endoglin(TGF-β受容体複合体の膜蛋白)の機能喪失
ACVRL1 HHT2 約37% ALK1(活性化受容体様キナーゼ1)の機能喪失
SMAD4 -HHT複合症候群 約2% 消化管を合併する複合型

で、臨床的に確定診断されたHHT患者の97%でこの3遺伝子のいずれかに原因変異が同定される1。一般人口における推定は1:6000程度とされる2

臨床像:Curaçao基準

診断は4つの(Curaçao基準)の充足数で判定する。

項目 内容
① 反復性自然 誘因のないを繰り返す
口唇・舌・指先・など特徴的な部位の
③ 内臓病変 肺・脳・肝・消化管などの
④ 家族歴 にHHTの診断がある

3項目以上で確定診断、2項目で、1項目以下では否定的と判定する1。⚠️ 16歳未満の小児では、内臓AVMや家族歴以外の所見がまだ顕在化していないことが多く、基準のが低い。 幼少期に2項目未満であっても、家族歴があれば経過とともに再評価する。

💡 「」は名称が似ているが、とDNA修復異常を特徴とする全く別の疾患であり、HHTとはである。

合併症:肺動静脈奇形と奇異性塞栓症

はHHT患者の15〜45%(別報告では最大50%)に生じ、逆にPAVM全体の約70%はHHTを背景に持つ12

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PAVM'>肺動静脈奇形</span>"] --> B["肺<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary bed'>毛細血管床</span>を経ない<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='right-to-left shunt'>右左シャント</span>"]
    B --> C["血栓・細菌が濾過されず<br>直接体循環へ流入"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paradoxical embolism'>奇異性塞栓症</span>"]
    D --> E["脳卒中・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transient ischemic attack, TIA'>一過性脳虚血発作</span>"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain abscess'>脳膿瘍</span>"]
    B --> G["低酸素血症"]
    A --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='massive hemoptysis'>大量喀血</span>・自然<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hemothorax'>血胸</span>"]

⚠️ PAVMは無症候であることが多いが、脳卒中・・自然という重篤な合併症の原因になりうる。は本来、循環中の小血栓や細菌を濾過する役割を担うが、はこの濾過機構を迂回するため、通常なら問題にならない微小な血栓・菌血症が脳などの遠隔臓器で塞栓・を形成する。原因不明の脳卒中を診た際は、HHTの家族歴・の既往を確認する価値がある。

その他の内臓病変:肝動静脈奇形と消化管出血

はHHT患者の75%に生じ、肺AVMよりもさらに高頻度である1。左右シャント(から門脈・への直接吻合)により・肝雑音を来し、・肝硬変の原因になりうる。

⚠️ 肺AVMとは対照的に、肝AVMへのは避けるべきである。 塞栓術は対症的な効果しか得られない一方、胆管虚血などの合併症率・死亡率が高い1には輸血(貧血の是正)・塩分/水分制限・β遮断薬・利尿薬による内科的管理を行い、内科的治療に抵抗する症候性HAVMに限ってを検討する。肺AVMは治療対象、肝AVMは原則非塞栓・内科的管理という対比を取り違えない。

消化管のによる反復出血は患者の15〜20%で後年に顕在化し、として気づかれることが多い。軽症〜中等症には補充を行い、内視鏡的が出血病変・非出血病変いずれの肢にもなる1

診断とスクリーニング

flowchart TD
    A["Curaçao基準で臨床診断"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contrast echocardiography'>造影心エコー</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bubble study (agitated saline contrast study)'>バブルスタディ</span>)でPAVMをスクリーニング"]
    B --> C{"陽性か"}
    C -->|"陽性"| D["胸部CTで部位・大きさを評価"]
    C -->|"陰性"| E["5〜10年ごとに再検"]
    D --> F{"グレード2・3など<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='paradoxical embolism'>奇異性塞栓</span>リスクが高いか"}
    F -->|"高い"| G["無症候でも塞栓術を検討"]
    A --> H["成人全例・診断時の小児に<br>1回の頭部MRIスクリーニング"]
    H --> I["脳AVMの有無を評価"]

肺AVMのスクリーニングは)を第一選択とし、陽性なら胸部CTで部位・大きさを確認する。初回陰性なら5〜10年ごとに再検する1。脳AVMについては、成人患者全例と診断時の小児に対し、症状の有無によらず1回の頭部MRIスクリーニングを行うことが現在のコンセンサスである1

治療

  • :保湿剤・による鼻腔加湿を基本とし、保湿療法に抵抗する反復性には経口を検討する。2件ので出血の17.3%減少、出血強度の54%減少が報告されている1
  • 消化管出血:軽症〜中等症では補充を行う。重症・難治例には全身性のとして静注(VEGF阻害薬)が中等度のエビデンスで推奨され、5 mg/kgを2週間ごと6回投与するレジメンで出血エピソードの減少・心拍出量の増加が報告されている。有害事象には高血圧、悪心、下痢、頭痛、筋肉痛・腹痛がある1
  • :症候性PAVMは治療により・脳卒中のリスクを有意に減らすため治療対象となる。リスクの高いグレードでは、無症候であっても経が推奨される2

⚠️ HHT患者の反復性を「よくある鼻血」として繰り返しだけで対応しない。 家族歴・口唇や指先のを伴う場合は、全身の内臓AVMを一度は検索する。

まとめ

  • HHTはENG(HHT1、約61%)・ACVRL1(HHT2、約37%)・SMAD4(約2%)の変異による疾患で、皮膚粘膜のと肺・脳・肝のを来す。
  • 診断はCuraçao基準(反復性・内臓AVM・家族歴)の4項目のうち3項目以上で確定、2項目でとする。16歳未満はが低い点に注意する。
  • 最重要の合併症はによるで、肺の濾過を経ずに脳卒中・を来しうる。
  • 肝AVMは75%と高頻度に生じるが、肺AVMとは逆に塞栓術は避け、には内科的管理を行う。消化管として顕在化しやすい。
  • スクリーニングは→胸部CT(肺AVM)、頭部MRI 1回(脳AVM、成人全例・診断時の小児)を基本とする。
  • 治療はへの経口、重症消化管出血への全身性、症候性または高リスクの肺AVMへの経を中心とする。

出典

  1. 1.Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia (HHT)(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)Curaçao基準が反復性自然鼻出血・家族歴・皮膚粘膜毛細血管拡張・内臓病変(AVM)の4項目からなり3項目以上で確定診断、2項目で疑診となること、16歳未満では基準の陰性的中率が低いこと、原因遺伝子がENG(HHT1、61%)・ACVRL1(HHT2、37%)・SMAD4(若年性ポリポーシス合併型、2%)で常染色体顕性遺伝し臨床的確定例の97%で原因変異が同定されること、肺動静脈奇形(PAVM)が患者の15〜45%に生じ右左シャントにより脳卒中・大量喀血・自然血胸・一過性脳虚血発作・脳膿瘍を来しうること、スクリーニングは造影心エコーを第一選択としその後胸部CTを行い陰性なら5〜10年ごとに再検すること、成人全例と診断時の小児に対し無症状でも1回の頭部MRIスクリーニングを行う点で現在のコンセンサスが一致していること、鼻出血への経口トラネキサム酸が2件のRCTで出血持続時間17.3%減少・出血強度54%減少を示したこと、重症消化管出血には全身性抗血管新生療法(ベバシズマブ静注5 mg/kg・2週毎・6回投与)が中等度のエビデンスで推奨され心拍出量増加や出血頻度減少が報告される一方、高血圧・悪心・下痢・頭痛・筋肉痛/腹痛などの有害事象があること、肝動静脈奇形(HAVM)がHHT患者の75%に生じ高拍出性心不全・門脈圧亢進症・肝硬変や左右シャントによる肝腫大・肝雑音を来しうること、肝AVMへのカテーテル塞栓術は対症的効果に留まり合併症率・死亡率が高いため避けるべきとされ高拍出性心不全には輸血・塩分/水分制限・β遮断薬・利尿薬による内科的管理を行い難治例では肝移植を検討すること、消化管毛細血管拡張による反復出血が患者の15〜20%で後年に顕在化し鉄欠乏性貧血として現れやすく軽症〜中等症には鉄剤補充、内視鏡的アルゴンプラズマ凝固が出血病変・非出血病変いずれにも治療選択肢となることを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Hereditary hemorrhagic telangiectasia and pulmonary arteriovenous malformations(Respiratory Medicine Case Reports・2020)HHTの一般人口における推定有病率が1:6000であること、HHT患者の約15〜50%に肺動静脈奇形(PAVM)を認め全PAVM症例の約70%がHHTを背景に持つこと、肺動静脈奇形による右左シャントは肺毛細血管床による濾過を経ずに血流が体循環へ流入するため奇異性塞栓症・片麻痺・脳膿瘍などの重篤な合併症を来しうること、無症候性であっても塞栓術による治療が酸素化・シャント関連症状の改善と出血・奇異性塞栓のリスク低下のために推奨されることを確認した。閲覧 2026-08-11