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Disease Atlas · 血液 · 先天性疾患

血友病A・B

Hemophilia A and B

別名
Factor VIII deficiencyFactor IX deficiencyChristmas disease
臓器系
血液
科目
Internal MedicinePediatrics
トピック
内科学 H-11:遺伝性血友病A・B内科学 S-42:血友病小児科 17:凝固異常症小児科 1-04:出血性疾患と免疫性血小板減少症
鑑別疾患
フォン・ヴィレブランド病免疫性血小板減少症
合併症
区画症候群
続発疾患
鼻出血
治療薬
オクトコグ アルファノナコグデスモプレシンエプタコグ アルファトラネキサム酸エミシズマブフィツシランエトラナコゲン デザパルボベクコンシズマブマルスタシマブ
症状
過多月経関節内出血血尿腫脹出血頭蓋内出血頭痛嘔吐拘縮
検査値
フィブリノゲン血算血小板数プロトロンビン時間第VIII因子活性
適応薬
エトラナコゲン デザパルボベクエミシズマブコンシズマブトラネキサム酸フィツシランマルスタシマブ
禁忌薬
アセチルサリチル酸

🧠 全体像:血友病は、の単一因子(第VIII因子=血友病A、=血友病B)がに欠乏する先天性疾患で、(血小板)は保たれるため粘膜出血より関節内・など深部出血が主体となる。学習の幹は「因子活性で重症度を層別化する→出血時は待たずに因子を補充する→重症例は出血前からに切り替える→因子回収が悪ければインヒビターを疑う」。

定義と病態

血友病A・Bは、それぞれ第VIII因子遺伝子(F8、Xq28)と遺伝子(F9、Xq27)の変異によりが低下する遺伝性疾患である。原則のため患者はほぼ男性に限られるが、女性保因者でもにより因子活性が低下し、出血症状を示すことがある。約3分の1は家族歴のない例であり、家族歴がないことは血友病を除外する根拠にならない。

第VIII因子・はいずれもの構子で、活性化と補因子であるが複合体を形成し、を活性化してを維持する。この経路が障害されると、()は正常に形成されてもそれを補強する安定したの形成が不十分となり、いったん止血したようにみえても再出血する遅発性出血が特徴となる。

flowchart TD
    A["F8またはF9遺伝子変異(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='X-linked recessive'>X連鎖劣性</span>)"] --> B["第VIII因子(血友病A)または<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='factor IX'>第IX因子</span>(血友病B)活性低下"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrinsic coagulation cascade'>内因系凝固カスケード</span>での<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombin generation'>トロンビン産生</span>障害"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet plug'>血小板血栓</span>は形成されるが<br>安定した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrin mesh'>フィブリン網</span>が不足"]
    D --> E["深部での出血遷延・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='delayed rebleeding'>遅発性再出血</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='joint cavity'>関節腔</span>への反復出血"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synovial proliferation'>滑膜増殖</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cartilage destruction'>軟骨破壊</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemophilic arthropathy'>血友病性関節症</span>"]
項目 血友病A 血友病B
欠乏因子 第VIII因子
遺伝子 F8(Xq28) F9(Xq27)
血漿中の半減期 約8〜12時間 約18〜24時間(Aより長く、標準製剤でも予防投与の間隔を空けやすい)
血友病全体に占める割合 約80〜85% 約15〜20%
別名 —
への反応 反応を確認した軽症例で有効 無効(放出作用がない)
との関係 第VIII因子はが安定化するため鑑別を要する 直接の関与はない

血友病の重症度は残存するで分類し、この基準は長年変わっていない。

重症度 典型的な出血
重症 < 1 IU/dL(<1%) 明らかな誘因なく、乳幼児期から反復する関節・筋肉出血
中等症 1〜5 IU/dL 軽微な外傷後出血、時に
軽症 > 5〜40 IU/dL 手術・・大きな外傷時のみ出血

因子活性と実際のは必ずしも一致しないため、既往歴や関節の状態も合わせて評価する。

臨床像

血友病の出血は「は保たれ、(凝固)が障害される」パターンで、点状出血や表在性の粘膜出血が主体の・とは対照的である。

障害 出血の性質 代表疾患
(血小板・) 点状出血、紫斑、、、など粘膜表在性 、
(凝固因子) 、血腫、、 血友病A・B
  • :、膝、肘に多く、繰り返すと・が進みに至る
  • :内出血は股関節痛・屈曲・を来し、のリスクにもなる
  • 、頸部・咽頭出血:気道閉塞や致死的経過をたどりうる緊急事態
  • 血尿:による尿路閉塞に注意し、への投与は避ける
  • 出生時の、歩行開始後のは乳幼児期の初発症状として多い
  • 女性保因者:因子活性が低いとや分娩・手術後の出血で診断に至ることがある

⚠️ 後の頭痛・嘔吐、頸部/咽頭の腫脹、腹部・領域の痛みは、画像診断の結果を待たずを先行させる。

診断

血友病を疑う手がかりは、深部出血の既往やX連鎖性の家族歴に、正常・延長という検査パターンが加わることである。ただし軽症例ではが正常域にとどまることがあり、検査正常だけでは除外できない。

flowchart TD
    A["深部出血の既往または家族歴"] --> B["血算・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prothrombin time'>PT</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='activated partial thromboplastin time'>APTT</span>・フィブリノゲンを測定"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='activated partial thromboplastin time'>APTT</span>のみ延長するか"}
    C -->|"いいえ"| D["肝疾患・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disseminated intravascular coagulation'>DIC</span>など<br>他の凝固異常を評価"]
    C -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mixing test'>混合試験</span>(患者血漿+正常血漿)"]
    E --> F{"混合で補正するか"}
    F -->|"補正しない・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='time course'>時間経過</span>で再延長"| G["インヒビターや<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lupus anticoagulant'>ループス抗凝固因子</span>を評価"]
    F -->|"補正する"| H["第VIII因子・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='factor IX'>第IX因子</span>活性を測定"]
    H --> I["第VIII因子低下"]
    H --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='factor IX'>第IX因子</span>低下:血友病Bと診断"]
    I --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Willebrand factor'>vWF</span>抗原・活性も測定し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Willebrand disease'>von Willebrand病</span>と鑑別後に血友病Aと診断"]
    K --> L["遺伝学的検査・保因者/出生前相談"]
    J --> L
検査 血友病での所見
通常正常
正常
延長(軽症では正常のことがある)
第VIII因子・活性 病型・重症度を確定する
抗原・活性 第VIII因子低下時にを除外する
() インヒビター()の力価を定量する
遺伝学的検査 F8・F9変異を同定し、保因者診断・に用いる

欠乏症は歴史的に「血友病C」と呼ばれることがあるが、多くは常染色体性に遺伝し、因子活性との相関が弱いなど病態が異なるため、血友病A・Bとは区別して扱う。

治療

は、出血時の迅速な止血に加え、重症例では出血が起こる前にで関節障害を防ぐことへ比重が移っている。WFH(世界血友病連盟)の第3版は推奨の付記で、従来は1 IU/dL(1%)が十分な目標とされたが1%では出血リスクが残るため、多くの臨床医がより高い(3〜5%超、またはそれ以上)を目指すようになったと述べ、投与量・回数とのを踏まえて個々の活動・生活・に合わせて個別化するとしている1。

flowchart TD
    A["血友病A・Bと診断"] --> B{"重症表現型か"}
    B -->|"軽症・中等症"| C["出血時のみ因子製剤または<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='desmopressin'>デスモプレシン</span>で治療"]
    B -->|"重症"| D["早期から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='routine prophylaxis'>定期予防</span>療法を開始"]
    D --> E["標準・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='half-life extension'>半減期延長</span>型因子製剤、<br>血友病Aは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-TFPI antibody'>抗TFPI抗体</span>等も選択肢"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trough level'>トラフ値</span>・出血頻度・関節所見を定期評価"]
    F --> G{"出血が続く、因子回収が悪いか"}
    G -->|"いいえ"| H["予防を継続し用量・間隔を最適化"]
    G -->|"はい"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Bethesda assay'>Bethesda法</span>でインヒビターを確認"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-potency'>低力価</span>:増量・頻回投与"]
    I --> K["高力価:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bypassing agent'>バイパス止血製剤</span>で止血し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune tolerance induction (ITI)'>免疫寛容導入療法</span>(ITI)を検討"]
治療 要点
(標準・型) 血友病Aは第VIII因子製剤(例:)、血友病Bは製剤(例:)を体重・目標活性・製剤回収率から用量計算する
の機能を模倣し活性化とを架橋する皮下注抗体。血友病Aの予防に用い、インヒビターの有無を問わない。血友病Bには適応がない
(、) ()を阻害し血友病A・B双方の予防に使える新しい皮下注薬。は1日1回皮下注でが必要、は週1回の固定用量で足りるなど実務が異なり、・対象となるインヒビターの有無も薬剤ごとに異なる
(siRNA製剤) を標的とするsiRNA製剤で、血友病A・B(インヒビター有無を問わず)の予防に用いる新しい選択肢
遺伝子治療 血友病Bではを発現させる遺伝子治療が2剤承認されたが、実際に使えるのはのみである2。フィダンアコゲン エラパルボベクは2024年4月に承認されながら3、需要の乏しさを理由に供給企業が2025年2月に全世界で開発・販売を中止した4。血友病A用のバロクトコゲン ロクサパルボベクも2023年に欧米で承認されたが、同じく有効性・安全性上の問題ではなく事業判断として2026年に市場から自主的に撤退し5、現時点でされている血友病A向け遺伝子治療はない。一回投与で済む反面きわめて高額で、既存の予防投与(とくに)で十分な出血抑制が得られる患者が多いため需要が伸びず、承認後の撤退が相次いでいる
(DDAVP) 反応を事前確認した軽症血友病Aの小出血・小手術に使用可能。で低Na血症を予防する。血友病Bには無効
(など) 口腔・鼻・月経など粘膜出血の。ではによる閉塞リスクのため避ける
インヒビター管理 要点
定義 補充した第VIII・IX因子に対するで、期待した因子回収・半減期が得られない、出血が増えるなどの形で顕在化する
頻度 未治療の血友病A患者ので約30%(多くは最初の20曝露日以内)、血友病Bでは最大5%とまれ1
検出 ()で力価を定量し、・高力価で対応を変える
の治療 遺伝子組換え活性型製剤()やなどのを用いる
長期対応 を専門施設で検討する。血友病Bでは製剤に対するアナフィラキシーやのリスクがあり、血友病Aと異なる慎重な適応判断を要する
注意 使用中にを大量併用すると血栓症・のリスクがある。もの影響を受けるため専用試薬を用いる
場面 確認事項
日常生活 アスピリン・・不要なを避け、ワクチンはなど出血の少ない手技を選ぶ
手術・ 血友病センターと連携し、必要因子量を体重・目標活性・製剤回収率から事前に計画する
疑わしい重症出血 頭蓋内・頸部・腹部・出血が疑われれば、画像確定を待たずを開始する
定期フォロー 関節所見、、インヒビター、ワクチン歴を定期的に見直し、で関節機能を維持する

では、血液、整形外科、歯科、、看護、心理・支援を血友病治療センターに統合し、患者・家族へ遺伝形式や保因者検査、生殖選択肢をに説明する。教育と出血時の行動計画を整えることが、生涯を通じた関節機能温存につながる。

まとめ

  • 血友病Aは第VIII因子、血友病Bはの欠乏によるの凝固異常症で、は保たれるため関節内・など深部出血が特徴である。
  • 因子活性により重症・中等症・軽症に分類し、正常・延長(軽症では正常のこともある)を手がかりに・因子活性測定で確定する。
  • 重症例は出血を待たず早期からを行い、は従来の1 IU/dLより高く(多くの臨床医は3〜5%超を目指す)、個々に合わせて設定する。
  • 血友病Aでは、両病型でやなどのが新たな選択肢に加わった。一方で遺伝子治療は承認と撤退が相次ぎ、されているのは血友病B用の1剤だけになっている。
  • 治療反応が乏しい・因子回収が悪い場合はインヒビターを疑い、やを専門施設で検討する。

出典

  1. 1.WFH Guidelines for the Management of Hemophilia, 3rd edition(World Federation of Hemophilia・2020)Wayback保存のWFH公式PDF(www1.wfh.org、184頁)で確認した。推奨の付記(REMARK)で、従来はトラフ値1 IU/dL(1%)が十分な目標とされたが1%では出血リスクが残るため、多くの臨床医はより高いトラフ値(3〜5%超、またはそれ以上)を目標とするのを好むようになったと述べ、高いトラフ値は投与量・投与回数の増加を伴うので個々の活動・生活・薬物動態に合わせて個別化するとしていること(推奨本文が目標値を改訂したのではない)。第VIII因子インヒビターは未治療の血友病A患者で累積約30%に生じ(79%が最初の20曝露日以内)、第IX因子インヒビターは血友病Bで累積最大5%とまれであること。閲覧 2026-09-24
  2. 2.HEMGENIX (etranacogene dezaparvovec-drlb) — FDA Approval Letter(U.S. Food and Drug Administration・2022)エトラナコゲン デザパルボベクが2022年11月22日に血友病B初の遺伝子治療として米国FDAに承認されたことを示す。閲覧 2026-08-02
  3. 3.U.S. FDA Approves Pfizer's BEQVEZ (fidanacogene elaparvovec-dzkt), a One-Time Gene Therapy for Adults with Hemophilia B(Pfizer・2024)フィダンアコゲン エラパルボベクが2024年4月に血友病B向け2剤目の遺伝子治療として米国FDAに承認されたことを示す。閲覧 2026-08-02
  4. 4.Pfizer Halts Production of FDA-Approved Hemophilia B Gene Therapy(AABB (Association for the Advancement of Blood & Biotherapies)・2025)承認から1年足らずの2025年2月に、供給企業が需要の乏しさを理由にフィダンアコゲン エラパルボベクの開発・販売を全世界で中止したこと(商業使用された患者はいなかった)閲覧 2026-08-02
  5. 5.BioMarin Voluntarily Withdraws ROCTAVIAN from the Market(BioMarin Pharmaceutical Inc.・2026)血友病A向け遺伝子治療バロクトコゲン ロクサパルボベク(ROCTAVIAN)を、有効性・安全性上の理由ではなく事業判断として2026年に市場から自主的に撤退させたことを示す。閲覧 2026-08-02