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Microbe Atlas · 細菌

Eikenella corrodens

分類
G− 球桿菌 / Gram− coccobacilliEikenella
性状
Gram陰性 (G−)球桿菌 Coccobacilli通性嫌気性 Facultative
科目
Medical MicrobiologyTraumatology and Orthopedics
トピック
5/1: Bacteria causing skin and wound infections (list) and their diagnosis5/15: Microbiological diagnosis of bacteriaemia, endocarditis, and sepsis外傷学 21:手の軟部組織・腱損傷と手感染症
自然耐性薬
クリンダマイシンメトロニダゾールエリスロマイシン
原因となる疾患
ヒト咬傷創感染化膿性関節炎(敗血症性関節炎)化膿性屈筋腱鞘炎

🧠 全体像:Eikenella corrodensは「弱い菌なのに、入る場所が悪いせいで手を壊す」菌である。口腔・の常在菌で、単独では病原性が乏しい1。ところが拳を握って相手の歯に当てた創では、歯が包とのすぐ上を貫き、拳を開いた瞬間に本来無菌の・へ菌が引き込まれる2。この菌を覚える価値は、の標準的な(第1世代セファロスポリン+クリンダマイシン)がこの菌には当てにならないという一点にある。群の“E”としての心内膜炎はそちらのノートで扱い、ここでは咬傷と口腔由来のを軸に読む。

微生物学的な特徴

要求性の高いグラム陰性ので、球桿菌〜短い直桿菌として観察される13。同定の手がかりは、培養皿の上に現れる2つの感覚的な所見に集約される。

項目 内容
グラム染色 グラム陰性の球桿菌〜短桿菌
酸素要求性 。CO2 を加えた環境で発育がよい
培地 血液寒天・で発育。では通常発育しない1
コロニー 35〜37℃・5% CO2 で24時間後に0.2〜0.5 mmの点状1。寒天表面をくぼませることが corrodens(する)の由来
におい 様(様)のにおいを放つ1
生化学的性状 ・

💡 「ピットを作る」と「のにおい」は、検査室が電話で伝えてくる所見である。 ・の検体でこの2つが揃ったら、同定結果を待たずに抗菌薬の組み立てを見直してよい。

⚠️ 発育が遅い。 だけでは集落が見えるまで2〜3日かかり、標準的な培養期間では「陰性」と報告されうる1。では速く育つ菌に覆い隠される点も、Pasteurella multocidaのように標準培地で素直に育つ咬傷菌との大きな違いである。

病原性の仕組み

外毒素による組織破壊ではなく、接種された場所が病態を決める。

flowchart TD
    A["口腔・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oropharynx'>中咽頭</span>の常在菌<br>単独では<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low pathogenicity'>低病原性</span>"] --> B["拳を握った状態で<br>相手の歯が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metacarpophalangeal (MCP) joint'>MCP関節</span>上の皮膚を貫く"]
    B --> C["拳を開くと創が閉じ<br>菌が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='joint cavity'>関節腔</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extensor tendon sheath'>伸筋腱鞘</span>へ引き込まれる"]
    C --> D["本来無菌の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic environments'>嫌気環境</span>で<br>口腔内嫌気性菌とともに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mixed infection (polymicrobial infection)'>混合感染</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='septic arthritis'>化膿性関節炎</span>・骨髄炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tenosynovitis'>腱鞘炎</span>"]
    A --> F["歯科処置・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='periodontitis'>歯周炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal injury'>粘膜損傷</span>"]
    F --> G["頭頸部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deep abscess'>深部膿瘍</span>・菌血症"]

浅い皮膚感染ではなくの感染として現れるため、抗菌薬だけでは治りにくい。ドレナージが不十分だったり投与期間が短かったりするとする1。

感染経路と疫学

  • ヒトの口腔・の常在菌12。したがって感染は基本的に内因性か、口腔内容のによる
  • 感染したヒトの30%から分離される4。同じ研究で56%が、44%が歯で咬みついた創であり、多くが手の創で54%が入院を要した
  • は感染ではない。同研究の分離は中央値4株(好気性3・嫌気性1)で、Streptococcus anginosus 52%・Fusobacterium nucleatum 32%・黄色ブドウ球菌 30%・Prevotella melaninogenica 22%が併存した4
  • 咬傷以外では、歯科処置・・を契機に頭頸部のを起こす。成人・小児とも頭頸部が最も多い感染部位である1
  • イヌ・ネコの口腔にも存在し、動物からも検出されうる1

起こす疾患

疾患 位置づけ
でへされた場合の代表的
・骨髄炎 への接種から関節・骨へ波及する。咬傷歴のない免疫正常者にも起こりうる1
蜂窩織炎 周囲のとして。単独感染は少ない
頭頸部の ・から。成人・小児で最も多い感染部位1
群の一員としての病像。詳細はそちらのノートを参照

診断

  • 検体は膿・・組織で採る。 からの表在は常在菌との区別がつかない
  • 検査室へ「発育の遅い口腔内常在菌を疑う」と伝える。 のみでは2〜3日、症例によってはそれ以上のが必要になる1
  • 様のにおいがすることが同定の手がかりになる1。寒天表面をくぼませる所見も併せて見る
  • ではX線を必ず撮る。の(折れた歯)と骨髄炎・を見落とさないため
  • 培養陰性が続くでは、検体の・が有用なことがある

治療と予防(自然耐性を含む)

⚠️ の定番の組み合わせが、この菌には効かない。 クリンダマイシン・メトロニダゾール・には本来的に耐性である1。嫌気性菌カバーのつもりでクリンダマイシンやメトロニダゾールを足しても、創の主役の一つであるこの菌は素通りしてしまう——Pasteurella multocidaでクリンダマイシン単剤を避けるのと同じ構図である。

⚠️ 第1世代セファロスポリンも当てにしない。 ・第2〜・には通常感受性だが、第1世代セファロスポリンへの感受性は一定しない3。経口で改善せず排膿と静注を要した小児例が報告されている。+クリンダマイシンというのは、では成り立たない。

まとめ

  • 口腔・常在の要求性の高いグラム陰性球桿菌で、単独では病原性が弱い。
  • 臨床上の核心は——歯が包・の直上を貫き、拳を開くと菌がへ引き込まれる。感染したヒトの30%から分離される。
  • 同定の手がかりは寒天表面をくぼませるコロニー(の由来)と様のにおい。発育が遅く、標準培養では陰性と報告されうるのでを依頼する。
  • ⚠️ クリンダマイシン・メトロニダゾール・にで、第1世代セファロスポリンへの感受性も一定しない。の定番である+クリンダマイシンはに使えない。
  • 第一選択はアモキシシリン/。の膿は必ずドレナージし、投与期間を切り詰めない(しやすい)。

出典

  1. 1.Eikenella corrodens in a patient with septic arthritis: A case report(IDCases(Elsevier)・2025)Eikenella corrodens が要求性の高い通性嫌気性グラム陰性球桿菌で、口腔・中咽頭の常在菌として一般に病原性の弱い菌とみなされること、成人・小児とも頭頸部が最も多い感染部位であること。35〜37℃・5% CO2 環境の血液寒天またはチョコレート寒天で24時間以内に0.2〜0.5 mmの点状コロニーを作り「漂白剤様」のにおいを放つこと、MacConkey寒天では通常発育せず、好気培養のみでは集落が見えるまで2〜3日の延長培養を要すること。フルオロキノロン・ペニシリン系・アジスロマイシン・一部のセファロスポリンに通常感受性で、クリンダマイシン・メトロニダゾール・エリスロマイシンには本来的に耐性であり、βラクタマーゼ産生はまれであること。膿瘍のドレナージが不十分な場合や抗菌薬の投与期間が不足した場合に再燃しやすいこと。本症例は培養で発育を認めるまで120時間を要した閲覧 2026-09-03
  2. 2.Human Bites(StatPearls (NCBI Bookshelf), National Library of Medicine・2023)Eikenella corrodens がヒトの常在菌であること。拳を握って生じる創はMCP関節包と伸筋腱鞘の直上を損傷するため感染しやすく、拳を開いたあとに関節腔・腱鞘という本来無菌の嫌気環境へ細菌が深く入り込むこと。皮膚を貫くヒト咬傷創にはアモキシシリン/クラブラン酸を1週間予防投与すること閲覧 2026-09-03
  3. 3.Pediatric acute dacryocystitis due to Eikenella corrodens: A case report(Journal of Infection and Chemotherapy・2020)Eikenella corrodens が中咽頭・気道に常在する通性嫌気性グラム陰性桿菌であること、通常はペニシリン・第2世代および第3世代セファロスポリン・カルバペネムに感受性である一方、第1世代セファロスポリンへの感受性は一定しないこと。本症例は経口セファレキシンに反応せず、外科的排膿と静注セフォタキシムを要した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-03
  4. 4.Clinical presentation and bacteriologic analysis of infected human bites in patients presenting to emergency departments(Clinical Infectious Diseases(Infectious Diseases Society of America)・2003)感染したヒト咬傷50例の多施設前向き研究で、56%が拳咬傷、44%が咬みつき創であったこと、多くが手の創で54%が入院したこと。創培養の分離菌数は中央値4株(好気性3・嫌気性1)で、Streptococcus anginosus 52%、Fusobacterium nucleatum 32%、Staphylococcus aureus 30%、Eikenella corrodens 30%、Prevotella melaninogenica 22%であったこと。Prevotella と S. aureus には βラクタマーゼ産生株が多かったこと、アモキシシリン/クラブラン酸とモキシフロキサシンが主要分離菌に対し in vitro で良好な活性を示したこと。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-03