微生物学

微生物学 · 5/15

菌血症・心内膜炎・敗血症の微生物学的診断

Microbiological diagnosis of bacteriaemia, endocarditis, and sepsis

応用トピック
感染性心内膜炎
微生物
Eikenella corrodensStaphylococcus epidermidisViridans group streptococci
疾患
菌血症

🧠 菌血症・心内膜炎・敗血症は、どれも「血液培養」という同じ入口から診断されるが、問うている中身は別々である。 菌血症は単に「血流に菌がいるか」という事実の証明、心内膜炎は「心臓の弁にどの菌が定着しているか」というな起因菌の同定、敗血症は「その感染に対するが制御不能になっているか」という重症度の評価である。本稿は起因菌の一覧に絞って整理し、・病態機序・血液培養の採取プロトコルの詳細は1/36:敗血症を参照する。

3疾患の位置づけ

菌血症 心内膜炎 敗血症
定義 血流中に細菌が存在すること 心内膜(心臓の)の炎症 感染に対するなが生命を脅かす臓器機能不全を来す病態
危険因子 免疫抑制、、代謝性疾患、 、弁膜症、、 多くは(菌血症)を契機に生じる
主な症状 無症候〜非特異的なことが多い 頻脈、頻呼吸、WBC上昇、、胸痛 頻脈、頻呼吸、筋肉痛、低体温/、皮疹
診断 血液培養 血液培養 血液培養

心内膜炎の起因菌

病原体 病型 備考
Staphylococcus aureus 急性の最多原因菌 非ではが主体。が前に出るのは
Streptococci viridans group 亜急性の最多原因菌 もとから障害のある弁、とくにに多い
Staphylococcus epidermidis — に多い
Listeria monocytogenes —
Streptococcus pneumoniae —
Enterococci —
Bartonella henselae 亜急性
群(Haemophilus・Aggregatibacter・Cardiobacterium・Eikenella・Kingella) 亜急性 口腔咽頭常在の発育緩徐なグラム陰性桿菌群。国際前向きコホートの心内膜炎5,591例中77例(1.4%)と頻度は低く、他の起因菌より若年に起こりも4%対18%と低い1。かつて「」の代表とされたが、現代のでは標準の5日間の培養期間内に検出でき、群を狙ったは不要とされる23

⭐ 急性=S. aureus、亜急性=viridans group という対応は頻出の対比。 S. aureusは病原性が強く、もとは正常だった弁にも取りついて急激に破壊するを起こす。viridans group(口腔内常在の依存性の弱毒菌)は、もとから障害のある弁にゆっくり定着してを起こす——菌のと、取りつける弁の条件が対になっているのがこの対比の中身である。

⚠️ 「」を両者の共通点にしない。 は全体としては(・大動脈弁)が主戦場で、が前に出るのはのS. aureusという条件つきの話である。viridans groupが侵すのは既存の障害弁、とくにであってではない。・がリスクを上げる点はいずれの菌にも共通する。

💡 心内膜炎の臨床診断は修正に基づく——2023年に大幅改訂された。 1994年に提唱され2000年に修正されたは、2023年にDuke-ISCVID基準として更新され、心臓手術中の直視所見が新たなに加わり、・/が画像所見のに組み込まれ、血液培養の採血間隔と「別々の」という要件は撤廃された4。⚠️ 簡略化ではなく要件そのものの削除であり、別々の部位から採ること自体は best practice として引き続き推奨されている4。この改訂はそのものではなく「どう組み合わせて確定診断するか」という枠組みの変更である点に注意する。

敗血症の起因菌

病原体 好発状況
Escherichia coli 小児
Streptococcus pneumoniae —
Streptococcus agalactiae 乳児
Pseudomonas属 院内感染
Klebsiella属 院内感染
Clostridium difficile 院内感染
Neisseria meningitidis 大学生・など集団生活環境

診断の中核:血液培養

菌血症・心内膜炎・敗血症のいずれも血液培養が診断の中核であり、採取プロトコル(好気性+嫌気性ボトルを1セットとして3セットを20分間隔で、抗菌薬投与前・発熱上昇期に採取する。ただし採血間隔と「別々の」は、上記のとおりのの要件からは撤廃されている)やの仕組みは1/36:敗血症に記載した通りである。

培養期間は通常5日間である(施設によって上限を5〜7日に置く)。連続モニタリング式のでは5〜7日目に陽性化する微生物はごくわずかで、総説が引くMarginsonらの検討では陽性血液培養の2.7%(臨床的に意味のあるものは0.5%)にとどまった。総説によれば、この時間帯に出てくるのはCO2産生の乏しい菌や発育の遅い菌・真菌(Candida属・・Brucella属など)が主体である3。

⚠️ 「培養期間を一律に延ばせばが拾える」は、現代のでは成り立たない。 連続モニタリング式の装置を用いた研究では培養期間の延長が血液培養の感度を有意には改善せず、群による心内膜炎でも標準の5日間の培養で分離できている。で疑われるの高い人獣共通感染症の病原体を狙って特殊ボトルを長く回すことも、日常診療では推奨されていない3。

💡 代わりに行うのは「狙いを定めた検査の追加」である。 AHAのに関する2025年の科学的声明は、72時間の時点ですべての血液培養が陰性なら、すでに採取した血液培養のに加えてCoxiella burnetiiとBartonella属の血清学(流行地に居住歴があればBrucella属も)、血漿または全血のメタゲノムまで検査を広げてよいとしている5。Bartonella属の血液培養そのものは特殊な条件と2週間以上のを要し、真菌性でもに核酸増幅・1,3-・を併せることが重要とされる5。⭐ は「全例で長く回す」ものではなく、特定の菌を狙って検査室に依頼するものである。

まとめ

  • 菌血症は「血流に菌が存在する」という事実の証明、心内膜炎は「心臓の弁のどこにどの菌が定着したか」というな同定、敗血症は「が制御不能か」という重症度評価であり、いずれも血液培養が診断の核となる。
  • 心内膜炎は急性の最多原因菌がS. aureus、亜急性の最多原因菌がStreptococci viridans group。侵される弁は全体として(・大動脈弁)が主体で、が主体になるのはのS. aureusに限られる。その他Staph epidermidis(カテーテル関連)、Listeria monocytogenes、Strep pneumoniae、Enterococci、Bartonella henselae(亜急性)も原因となる。
  • は年齢・状況で特徴づけられ、E. coliは小児、Strep agalactiaeは乳児、緑膿菌属・Klebsiella属・C. difficileは院内感染、N. meningitidisは大学生・などの集団生活環境で多い。
  • 血液培養の培養期間は通常5日間で、5〜7日目に陽性化するものはごくわずかである。群を狙ったは不要で、はBartonella属・真菌など狙いを定めた場合に検査室へ依頼する35。
  • ・病態機序(〜のスペクトラム)と血液培養の採取プロトコルの詳細は1/36を参照。

出典

  1. 1.HACEK infective endocarditis: characteristics and outcomes from a large, multi-national cohort(PLOS ONE・2013)28か国64施設の前向きコホート(International Collaboration on Endocarditis Prospective Cohort Study)に登録された感染性心内膜炎5,591例のうちHACEK群によるものは77例(1.4%)にとどまり、他の起因菌による心内膜炎に比べて若年(47歳対61歳)で、院内死亡(4%対18%)・1年死亡(6%対20%)はいずれも有意に低かったことを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Utility of extended blood culture incubation for isolation of Haemophilus, Actinobacillus, Cardiobacterium, Eikenella, and Kingella organisms: a retrospective multicenter evaluation(Journal of Clinical Microbiology(American Society for Microbiology)・2006)4施設の検討で、HACEK群は現行の自動血液培養装置と培地を用いれば標準の5日間の培養期間内に検出可能(検出までの中央値2〜3日)であり、HACEK群を狙った延長培養は不要であることを確認した——古典的に「培養陰性心内膜炎」の代表とされてきたHACEK群も、現代の培養法では検出できることを示す。閲覧 2026-08-26
  3. 3.How to Optimize the Use of Blood Cultures for the Diagnosis of Bloodstream Infections? A State-of-the Art(Frontiers in Microbiology・2016)血液培養ボトルの培養期間は通常5〜7日を上限とし、5〜7日目に陽性化する微生物はごくわずかである(総説が引くMarginsonらの検討では陽性血液培養の2.7%、うち臨床的に意味のあるものは0.5%)。5〜7日目に出るのは低CO2産生菌や発育の遅い菌・真菌(Candida属・偏性嫌気性菌・Brucella属など)が主体である。連続モニタリング式の自動培養装置を用いた研究では培養期間の延長が血液培養の感度を有意には改善せず、HACEK群による感染性心内膜炎でも標準の5日間の培養で分離できたとまとめている。培養陰性心内膜炎で発育要求性の高い人獣共通感染症の病原体を狙った特殊ボトルの延長培養は日常診療では推奨されない。また採取した血液量が血流感染の検出を左右する最も重要な因子であり、ボトルの充填不足が見逃しの主因になる閲覧 2026-09-07
  4. 4.The 2023 Duke-International Society for Cardiovascular Infectious Diseases Criteria for Infective Endocarditis: Updating the Modified Duke Criteria(Duke University / International Society for Cardiovascular Infectious Diseases (ISCVID)・2023)感染性心内膜炎の臨床診断基準は1994年のDuke基準・2000年の修正Duke基準から2023年にDuke-ISCVID基準へ改訂され、心臓手術中の直視所見が新たな大基準として追加され、心臓CT・18F-FDG PET/CTが画像所見の大基準に組み込まれ、血液培養の採血間隔・穿刺部位(別々の静脈穿刺)の要件が撤廃された(原文は "complex requirements for blood cultures specifying the timing and the need for separate venipunctures should be discontinued"・"it is no longer required by the Duke Criteria"。別穿刺部位は best practice としては引き続き推奨される)。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Blood Culture-Negative Endocarditis: A Scientific Statement From the American Heart Association(American Heart Association(Journal of the American Heart Association)・2025)培養陰性心内膜炎の診断手順として、72時間の時点ですべての血液培養が陰性であれば、すでに採取した血液培養の延長培養、Coxiella burnetiiとBartonella属の血清学(流行地に居住歴があればBrucella属も)、血漿または全血のメタゲノムシークエンスへ検査を広げてよいと述べる。真菌性の培養陰性心内膜炎でも、血液培養の延長培養(特殊培地の併用の有無を問わず)と核酸増幅・1,3-β-D-グルカン・ガラクトマンナンによる補強が重要とする。Bartonella属の血液培養は特殊な条件と2週間以上の延長培養を要すると表に明記している閲覧 2026-09-07