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Microbe Atlas · 細菌

Staphylococcus epidermidis

表皮ブドウ球菌

分類
G+ 球菌 / Gram+ cocciStaphylococcus
性状
Gram陽性 (G+)球菌 Cocci
科目
Medical Microbiology
トピック
2/1: Staphylococcus aureus5/15: Microbiological diagnosis of bacteriaemia, endocarditis, and sepsis
原因となる疾患
カテーテル関連血流感染化膿性関節炎(敗血症性関節炎)感染性心内膜炎眼内炎菌血症骨髄炎心臓デバイス関連感染性心内膜炎新生児敗血症人工関節感染脊椎椎体炎・椎間板炎涙嚢炎
作用する薬剤
テイコプラニンバンコマイシン

🧠 全体像:は皮膚全体を覆う常在菌でありながら、の代表種としてによる異物関連感染の主因になる——黄色ブドウ球菌が毒素と侵襲力で攻めるのに対し、本菌は「の表面に張りつき、そこに居座る」ことだけで病気を起こす。このの高さゆえに血液培養の最頻菌でもあり、検出=感染とは限らない——「本物の菌血症か、採血手技による汚染か」を毎回判断させる菌としての臨床的な難しさが本菌の核心である。

微生物学的な特徴

、ブドウの。だがは陰性——この一点が黄色ブドウ球菌(陽性)との鑑別点で、の鑑別試験全体は黄色ブドウ球菌のページの対応表を参照。

項目 内容
溶血 なし()、培地上は白色コロニー
ウレアーゼ 陽性(尿素→アンモニア)
感受性——(耐性)との鑑別点

病原性の仕組み

  • 病原性の中核は:菌体表面のや接着蛋白を介してカテーテル・人工関節・などの表面に付着し、多糖を主体とする膜を作って抗菌薬・から菌体を保護する
  • 外毒素や莢膜のような積極的な組織破壊因子は持たず、皮膚全体に常在するという生息範囲の広さが、バリアが破れた際の侵入源としての頻度を押し上げている
flowchart TD
    A["皮膚常在の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='S. epidermidis'>表皮ブドウ球菌</span>"] --> B["皮膚バリアが破れる<br>(カテーテル挿入・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical wound'>手術創</span>)"]
    B --> C["異物(カテーテル・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prosthetic valve'>人工弁</span>・人工関節)表面に付着"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='teichoic acid'>テイコ酸</span>を介して<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biofilm'>バイオフィルム</span>を形成"]
    D --> E["抗菌薬・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune cell'>免疫細胞</span>から保護"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catheter-related bloodstream infection, CRBSI'>カテーテル関連血流感染</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prosthetic valve'>人工弁</span>心内膜炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prosthetic joint infection'>人工関節感染</span>"]

感染経路と疫学

  • 皮膚全体(特に腋窩・などの湿潤部位)に常在し、として自身の菌が創部・カテーテル挿入部から侵入する
  • 医療者の手指を介したも起こりうる
  • 米国の成人の集計(2015〜2017年)では、は病原体全体の6.8%を占め、その約半数(47.4%)がだった。では黄色ブドウ球菌と並んで最も多く報告される病原体に入る1
  • 高リスク:、・人工関節などの、新生児(未熟な皮膚バリア、の主要な院内感染菌の一つ)

起こす疾患

疾患 特徴
はの最多の原因菌2
心内膜炎の代表的な原因菌。ただしの約8%も占めるので、が無くても否定しない。病原性が低いぶん診断が遅れ、・を来しやすい3
骨髄炎・ 周囲に生じる
中心静脈カテーテル留置中ので問題になる

診断

⭐ 血液培養陽性=感染とは限らない。 本菌はであるため採血時のが不十分だと容易に混入し、黄色ブドウ球菌とは対照的に血液培養の最頻原因菌になる。しかも同時にの最多の原因菌でもある——この二面性が解釈を難しくしている2。真の菌血症を疑う根拠は次の通り。

  • 別々の部位から採った複数セットの血液培養で、陽性の割合が高い(真の感染を示す最良の指標。1セットのみの陽性はを疑う)
  • 中の患者で1本だけ陽性のときは、抗菌薬開始やカテーテルの前に、カテーテル経由とから追加の血液培養を採って確かめる2
  • ・人工関節・カテーテルなど異物が留置されている
  • 発熱・炎症反応の上昇など臨床像が感染と矛盾しない

⚠️ 例外:Staphylococcus lugdunensis。 同じでも黄色ブドウ球菌並みの病原性をもち、・周囲への進展・遠隔のを起こす3。でも黄色ブドウ球菌に準じて扱うので2、「陰性だから汚染」と片付けない。

治療と予防

  • しばしば多剤耐性であり、が必須。日本ではの約80%がである3
  • 感受性が分かるまではバンコマイシン(を念頭に置く)、代替に。感受性と分かればなど黄色ブドウ球菌に準じた薬へ切り替える
  • のため多くの抗菌薬に抵抗性を示し、異物の(カテーテル交換、・人工関節の再置換)が治療の本体になる場面が多い
病態 治療の要点
合併症のない カテーテルをすれば抗菌薬5〜7日。温存するならを併用して10〜14日。血管内・整形外科的なが無く、後の追加血液培養で菌血症の消失を確認できれば、抗菌薬なしで経過をみる選択肢もある2
心内膜炎() 黄色ブドウ球菌に準じ、+β-ラクタム系、またはバンコマイシン+(2週間)をいずれも6〜8週(日本ではの承認は心内膜炎に限られる)。株による心内膜炎のは約40%とに匹敵する3
  • 予防はカテーテル挿入時の・、不要なカテーテルの早期

まとめ

  • の代表種。・陰性、感受性で同定する。
  • 病原性の中核はによる異物関連感染(カテーテル・・人工関節)。
  • 血液培養の最頻菌——黄色ブドウ球菌と異なり検出=感染ではなく、複数セット陽性かどうかで真の菌血症を判断する。
  • 真の感染でもの最多の原因菌であり、の約8%も占める。S. lugdunensis は黄色ブドウ球菌に準じて扱う。
  • 日本では約80%がで、治療はバンコマイシンと異物が基本。合併症のないはすれば抗菌薬5〜7日で足りる。

出典

  1. 1.Antimicrobial-resistant pathogens associated with adult healthcare-associated infections: Summary of data reported to the National Healthcare Safety Network, 2015-2017(Infection Control & Hospital Epidemiology(Weiner-Lastinger LM, et al./CDC NHSN)・2020)PMC全文(PMC8276252)で確認した。米国NHSNに2015〜2017年に報告された成人の医療関連感染の病原体356,633件で、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌は6.8%で6位であり、その内訳ではStaphylococcus epidermidisが11,482件と47.4%を占めたこと、黄色ブドウ球菌とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が病棟・ICU・長期急性期病院の中心ライン関連血流感染で最も多く報告される病原体に含まれることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Clinical Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Intravascular Catheter-Related Infection: 2009 Update by the Infectious Diseases Society of America(Infectious Diseases Society of America (IDSA)・2009)PMC全文(PMC4039170)で確認した。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌はカテーテル関連感染の最多の原因であると同時に血液培養の最多の汚染菌であり、複数部位から採った血液培養で陽性の割合が高いことが真のカテーテル関連血流感染の最良の指標であること、カテーテル留置中の患者で血液培養1本だけからコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が発育した場合は、抗菌薬開始やカテーテル抜去の前に、疑わしいカテーテル経由と末梢静脈から追加の血液培養を採ること(A-II)、合併症のないカテーテル関連血流感染ではカテーテルを抜去すれば抗菌薬5〜7日、温存するなら抗菌薬ロック療法を併用して10〜14日とすること(B-III)、血管内・整形外科的な人工物が無くカテーテルを抜去し、抗菌薬を使っていない時点の追加血液培養で菌血症の消失を確認できれば、抗菌薬なしで経過観察する選択肢もあること(C-III)、Staphylococcus lugdunensis によるものは黄色ブドウ球菌と同様に扱うこと(B-II)を確認した。2026-09-27時点でIDSAの改訂版は出ていない。閲覧 2026-09-27
  3. 3.JCS 2026 Guideline on the Management of Infective Endocarditis(Circulation Journal(日本循環器学会)・2026)J-STAGEの全文PDFで確認した。本文3.2.1が、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌は人工弁心内膜炎の一般的な原因菌で血管内カテーテルなど医療関連感染と関連が深く、自己弁心内膜炎の原因菌の約8%を占めるため、弁置換歴が無くても血液培養で検出されたら心内膜炎を否定しないこと、病原性が低いため診断が遅れやすく弁破壊・弁輪部膿瘍を来しやすいこと、日本ではコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の約80%がメチシリン耐性でメチシリン耐性株による心内膜炎の院内死亡率は約40%とMRSAに匹敵すること、Staphylococcus lugdunensis は黄色ブドウ球菌並みの病原性をもつことを述べていること。本文3.2.5がコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の心内膜炎は黄色ブドウ球菌に準じて治療し、感受性判明まではMRSAに選ぶ薬を使うとしていること。Table 27(人工弁)が、メチシリン耐性ブドウ球菌にダプトマイシン+β-ラクタム系とバンコマイシン(+ゲンタマイシン2週間)をいずれもClass I・6〜8週、テイコプラニン(+ゲンタマイシン)を腎機能障害例の代替としてClass IIbとし、ダプトマイシンの国内承認が右心系心内膜炎に限られることを注記していることを確認した。閲覧 2026-09-27