微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · 細菌

Staphylococcus saprophyticus

腐性ブドウ球菌

分類
G+ 球菌 / Gram+ cocciStaphylococcus
性状
Gram陽性 (G+)球菌 Cocci
科目
Medical Microbiology
トピック
2/1: Staphylococcus aureus2/2: Coagulase-negative staphylococci5/8: The most important microbial pathogens of the urinary tract (list)5/26: Normal flora of the genital tract. Pathogens of sexually transmitted diseases (list)
自然耐性薬
ホスホマイシンフシジン酸セフタジジム
原因となる疾患
尿路感染症
作用する薬剤
ニトロフラントイン

🧠 全体像:は()の中でも臨床像が一つに絞られる珍しい菌で、性の若い女性のという一点で覚えればよい。とは同じでも生息部位と病像がはっきり分かれており、両者の鑑別は感受性という単一の検査に集約される。

微生物学的な特徴

、皮膚正常フローラ(主に・会陰部)に生息する。・陰性で、溶血なし()の白色コロニーを作る。

試験 結果 何を分けるか
耐性 (感受性)との鑑別点

⭐ との菌種鑑別は感受性の一点に集約される。 が感受性、本菌が耐性——生息部位(皮膚全体 vs ・会陰部)と臨床像(異物関連感染 vs 若年女性の膀胱炎)が対照的に分かれる。属全体の鑑別試験の対応表は黄色ブドウ球菌のページを参照。⚠️ 耐性は本菌に固有ではなく、S. cohnii・S. xylosus にもとして認められる1。

自然耐性——治療薬の選択に直結する

⚠️ 本菌はとにをもつ。 の想定耐性表現型(=感受性が期待できない組み合わせ)の一覧では、本菌に印が付くのは・セフタジジム・・の4剤で、「その他のおよび黄色ブドウ球菌」に付くのはセフタジジムだけである——つまりとへのは、本菌をほかのブドウ球菌から分ける性質である1。

💡 これは(後天的に耐性遺伝子や変異を得たもの)ではなく、菌種としてもともと持っている耐性である。 は「菌株の圧倒的多数(90%超)が耐性機構をもつか、が・に基づく判定基準を超える」組み合わせをこの一覧に入れており、感受性という結果が出たら疑ってかかる——検査室は通常この組み合わせを試験せず、結果を出さないか、試験せずに耐性と報告することが期待され、臨床側にはその薬をこの菌種に使わないよう助言することとされている1。

💡 逆に、アミノグリコシド系・マクロライド系・クリンダマイシン・バンコマイシン・・は想定耐性の一覧に入っていない。これらに耐性が出たらとして扱う1。

⚠️ 用語の注意:は2023年の改訂で「」という語を使うのをやめ、「想定耐性表現型」に置き換えた——「自然」という語をめぐる議論が難しかったためである1。指している中身は同じなので、古い文献の「」と読み替えてよい。

病原性の仕組み

  • 特別な毒素や莢膜は持たず、への付着能が病原性の中心と考えられている
  • ・会陰部に生息するため尿道口に近く、性交渉が尿道への機械的な菌の移動(“massage”効果)を促しにつながりやすい

感染経路と疫学

  • としてはな部位(・会陰部)に生息する
  • 性の若い女性に好発し、性交渉が尿道への上行を促す誘因になる
  • 秋季に頻度が高いとする報告があるが、臨床的に最も重要なのは年齢・性別・性活動歴のパターンである

起こす疾患

疾患 特徴
尿路感染症() のの原因菌として、大腸菌に次ぐ群に入る

⚠️ 「大腸菌に次ぐ第2位」を「頻度が高い」と読み替えない。 欧州9か国とブラジルの68施設で症状のある18〜65歳女性4,264例を組み入れた調査では、分離3,018株の内訳は大腸菌76.7%に対しEnterococcus faecalis 4.0%・本菌3.6%・Klebsiella pneumoniae 3.5%・Proteus mirabilis 3.5%であった2。順位こそだが絶対頻度は数%で、大腸菌とは桁が違う。⚠️ この分母は18〜65歳の女性全体であり、本菌が相対的に増える性の若年女性に限った内訳ではない。

診断

  • 尿培養で、の白色コロニー
  • 耐性での中から本菌を確定する
  • 若年女性の典型的な膀胱炎症状(頻尿・・)があれば、培養確定前にを開始することも多い

治療と予防

  • に準じて、または地域の耐性率が許せばを用いる。⭐ を選ぶ理由は添付文書の適応菌種にある——米国の添付文書は逐語で「感受性のあるEscherichia coliまたはStaphylococcus saprophyticusによる急性()の治療にのみ適応がある」と書き、本菌を名指ししている3
  • ⚠️ の標準的なのうち、は本菌には当てにならない。 本菌はにで1、米国の(塩)の適応も逐語で「感受性のあるEscherichia coliおよびEnterococcus faecalisによる女性の()の治療にのみ」と書かれ、本菌は適応菌種に入っていない4。💡 として投与したあとに本菌が同定されたら、薬剤の見直しが必要になる
  • ⭐ も米国の添付文書が適応菌種として本菌を名指ししている(Escherichia coli・Proteus mirabilis・Staphylococcus saprophyticusによる18歳以上女性の。185 mg錠を1日3回3〜7日間)5。💡 の3本を添付文書が本菌を挙げているかで並べると、○・○・×となり、本菌を想定した薬の選び方が見通せる
  • (など)も選択肢になるが、耐性化と安全性の懸念からが使えない場合に限定することが推奨される
  • 特別な感染対策は不要——常在菌であり、他者への伝播を問題にする菌ではない

まとめ

  • ()で、・会陰部の常在菌。耐性が(感受性)との鑑別点。
  • 性の若い女性のという単一の臨床像に集約される、の中では病像が特殊な菌種。大腸菌に次ぐ群に入るが、絶対頻度は数%で大腸菌とは桁が違う。
  • 病原性はへの付着能が中心で、外毒素や莢膜のような組織破壊因子は持たない。
  • ⚠️ とに。ののうちは本菌には当てにならず、(または地域の耐性率が許せば)を選ぶ。米国の添付文書が本菌を適応菌種に明記しているのはとで、には入っていない。

出典

  1. 1.Expected Resistant Phenotypes, Version 1.2(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST)・2023)現行版(v1.2、2023年1月)のPDFを取得し、Table 4(グラム陽性菌の想定耐性表現型=感受性が期待できない組み合わせ)の各Rの座標を列見出しの座標と突き合わせて確認した。規則4.1の Staphylococcus saprophyticus に印が付くのはフシジン酸・セフタジジム・ホスホマイシン・ノボビオシンの4剤で、アミノグリコシド系・マクロライド系・クリンダマイシン・バンコマイシン・テイコプラニン・スルホンアミド系には印が無い。⚠️ ノボビオシン耐性は S. saprophyticus 固有ではなく、規則4.2の S. cohnii と4.3の S. xylosus にも付く。ホスホマイシンは規則4.4の S. capitis にも付く。規則4.5「その他のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌および S. aureus」に付くのはセフタジジムのみで、フシジン酸・ホスホマイシン・ノボビオシンは付かない——つまりホスホマイシンとフシジン酸への自然耐性は S. saprophyticus を他のブドウ球菌から分ける性質である。表の前文はグラム陽性菌全般がアズトレオナム・テモシリン・ポリミキシンB/コリスチン・ナリジクス酸に耐性であるとしている。⚠️ 定義の節で、EUCASTがこの版から「intrinsic resistance(自然耐性)」という語を使うのをやめ「expected resistant phenotype」に置き換えたこと、その基準が「菌株の圧倒的多数(すべての分離株の90%超が由来を問わず特徴的な耐性機構を示すか、EUCASTの表に載るPK/PD判定基準を超えるMIC値をとる)」であること、逐語で「a susceptible result should be viewed with suspicion」「Testing should normally be avoided, and laboratories are expected to either not report a result at all, or if a result is desired, to report the isolate as resistant without testing」「Clinical colleagues should be advised against using the agent for the species in question」と書かれていることも確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Surveillance study in Europe and Brazil on clinical aspects and Antimicrobial Resistance Epidemiology in Females with Cystitis (ARESC): implications for empiric therapy(European Urology(Naber KG, et al.)・2008)抄録で、2003〜2006年に欧州9か国とブラジルの68施設で単純性膀胱炎症状のある18〜65歳女性を連続的に組み入れ、臨床データ4,264例を解析して74.6%が尿培養陽性だったこと、分離された3,018株の内訳が Escherichia coli 76.7%、Enterococcus faecalis 4.0%、Staphylococcus saprophyticus 3.6%、Klebsiella pneumoniae 3.5%、Proteus mirabilis 3.5% だったことを確認した(抄録に主要結果として掲載されている数値の範囲)。⚠️ この母集団は18〜65歳の女性全体であり、性活動期の若年女性に限った内訳ではない。閲覧 2026-09-27
  3. 3.MACROBID- nitrofurantoin monohydrate/macrocrystalline capsule(Almatica Pharma LLC / DailyMed (U.S. National Library of Medicine)・2025)openFDA の同一 set id(effective_time 20251014)で米国処方情報を取得して確認した。適応は逐語で "Macrobid is indicated only for the treatment of acute uncomplicated urinary tract infections (acute cystitis) caused by susceptible strains of Escherichia coli or Staphylococcus saprophyticus." であり、⚠️ **ホスホマイシンの添付文書と違って S. saprophyticus が適応菌種に明記されている**。同じ文言はニトロフラントイン(一水和物/マクロクリスタル)の後発品添付文書64件にも共通する。腎盂腎炎・腎周囲膿瘍には適応がない閲覧 2026-09-28
  4. 4.FOSFOMYCIN TROMETHAMINE granule, for solution(Aurobindo Pharma Limited / DailyMed (U.S. National Library of Medicine)・2025)openFDA の同一 set id で米国処方情報(effective_time 20251117)を取得して確認した。適応は逐語で "indicated only for the treatment of uncomplicated urinary tract infections (acute cystitis) in women due to susceptible strains of Escherichia coli and Enterococcus faecalis" であり、⚠️ **Staphylococcus saprophyticus は適応菌種として書かれていない**。続けて逐語で "Fosfomycin tromethamine granules for oral solution is not indicated for the treatment of pyelonephritis or perinephric abscess." とする。用法は18歳以上の女性で1包を単回、水に溶いて服用する。禁忌は本剤への過敏症のみ。閲覧 2026-09-27
  5. 5.PIVYA (pivmecillinam) tablets, for oral use — full prescribing information(U.S. Food and Drug Administration(DailyMedに掲載の添付文書、申請者Utility Therapeutics)・2024)openFDA の同一 set id で現行版(effective_time 20260128)を取得して確認した。適応は逐語で "indicated for the treatment of female patients 18 years of age and older with uncomplicated urinary tract infections (uUTI) caused by susceptible isolates of Escherichia coli, Proteus mirabilis, and Staphylococcus saprophyticus" で、**S. saprophyticus が適応菌種に明記されている**。用法・用量は185 mg錠を1日3回、臨床的に必要な期間に応じて3〜7日間。禁忌はβラクタムへの重篤な過敏症、カルニチン代謝異常に伴う一次性/二次性カルニチン欠乏(メチルマロン酸血症・プロピオン酸血症等)、急性ポルフィリン症。⚠️ 本エントリの year は既存の登録に合わせて2024年のままとしている。閲覧 2026-09-27