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Microbe Atlas · 細菌

Enterococcus faecalis

分類
G+ 球菌 / Gram+ cocciEnterococcus
性状
Gram陽性 (G+)球菌 Cocci
科目
Medical Microbiology
トピック
2/5: Streptococcus agalactiae, Enterococcus genus
自然耐性薬
セフトリアキソンセフォタキシムセフタジジムセフェピムスルファメトキサゾール+トリメトプリム
原因となる疾患
Caroli病感染性心内膜炎急性胆管炎産褥敗血症・産褥感染心臓デバイス関連感染性心内膜炎前立腺炎胆石症特発性細菌性腹膜炎尿路感染症腹膜炎・消化管穿孔
作用する薬剤
アモキシシリンアンピシリンイミペネム+シラスタチンオリタバンシンゲンタマイシンダプトマイシンテイコプラニンニトロフラントインバンコマイシンピペラシリンホスホマイシンリネゾリド

🧠 全体像:は毒素で攻めるのではなく、「どこでも生きられる強靭さ」だけで日和見感染を起こす菌として読む。高塩濃度・胆汁・広い温度域に耐える生存力の強さは、そのままへの種としてのという臨床上の落とし穴に直結する——などで広域セファロスポリンを経験的に使うと腸球菌だけが生き残り、後からとして顕在化する。E. faecalisは臨床で分離される腸球菌のうち最も多い種で、E. faeciumに比べると耐性は軽度である。

微生物学的な特徴

、短い連鎖またはペアで配列する。で、溶血はα・β・γのいずれもとりうる(多くは=溶血なし)——属レベルの鑑別試験の全体像はのページの対応表を参照。

項目 内容
6.5% NaCl(高温下でも)に耐える
耐性——胆道に定着・感染しうる
陽性(で黒〜暗褐色に呈色)
陽性

病原性の仕組み

  • 特別な外毒素・莢膜を持たず、生育の容易さと環境耐性そのものが病原性因子——を形成し、カテーテル・などの異物表面に定着する
  • 腸内細菌科と異なり、天然の多剤耐性を背景に院内感染で選択されやすい:米国の成人の集計(2015〜2017年)では、E. faecalisは病原体全体の7.9%で5位、グラム陽性菌では黄色ブドウ球菌(11.8%)に次ぎ、(6.8%)より多かった1

感染経路と疫学

  • 、尿道、に常在し、として発症することが多い
  • カテーテル・・などの異物留置、腹腔内・胆道の手術操作がになる
  • 広域セファロスポリンの使用歴は腸球菌感染のリスクを上げる(により選択されるため)

起こす疾患

疾患 機序
尿路感染症 カテーテル関連が多い
心内膜炎の原因菌の約10%が腸球菌で、その9割超がE. faecalis。高齢者に多く、医療関連の発症も少なくない。経カテーテル大動脈弁植込み後の心内膜炎では腸球菌が2割超を占める2。緩徐な経過をとることが多い
・ 胆汁に耐性のため胆道に定着・感染しうる
腹膜炎・消化管穿孔・ の混合菌の一つ
前立腺炎 尿道からの
・ の起因菌の一つ

診断

  • 血液寒天培地で灰色のつやのあるコロニー、溶血像は一定しない
  • での、6.5% NaClでの発育でと確定する
  • 尿・胆汁からの検出はの混入の可能性があり、臨床像・複数菌の有無と合わせて解釈する

治療と予防

⚠️ はに種としてを持つ(への親和性が低いため)。セファロスポリン主体のは腸球菌をカバーしないため、などで広域セファロスポリンを使うと腸球菌が選択されて後から顕在化する。もでは感性に見えることがあるが、菌が環境中の葉酸を利用できるためでは無効である。

  • 第一選択はアンピシリン・アモキシシリン(E. faeciumよりアンピシリン感受性を保つ株が多い)
  • 心内膜炎では2剤を併用する。日本循環器学会の2026年ガイドラインは、ペニシリンに対する次の2つを、・ともにいずれも Class I としている2。
併用 位置づけ 注意点
アンピシリン+ 高度耐性( >500 μg/mL)でない株に。は4〜6週(は短期2週の選択肢あり)、は6週 腎毒性があるため週1〜2回腎機能を確認する。・10 mm以上の膿瘍・免疫抑制例では2週の短期投与を避ける
アンピシリン+セフトリアキソン 高齢者・例(50 mL/分未満)で優先し、高度耐性株では第一選択。は4〜6週、は6週 E. faecium には無効なので使わない

💡 なぜ併用で効くのか。 アミノグリコシド単剤は細胞壁を通過できず無効だが、細胞壁作用薬で壁を傷つけると菌体内への取り込みが可能になる。セフトリアキソンは単独では効かない()が、アンピシリンと異なるを飽和させることでに働く——「単独では無効な薬が併用では効く」という例外なので、の一覧と矛盾しない。

  • β-ラクタムアレルギーにはバンコマイシン
  • ⚠️ はE. faecalisでは少数派。 米国の医療器具関連感染では、はE. faecalisで7.2%、E. faeciumで82.1%だった1。株にはリネゾリドまたはを選ぶ(日本では腸球菌へのは適応外)
  • 尿路感染には・も選択肢になる
  • 腸・尿路の処置前の心内膜炎予防投与は、以前より対象が大きく絞られた。 米国心臓協会は2007年の改訂で、泌尿生殖器・消化管の処置のためだけに心内膜炎予防の抗菌薬を投与することを推奨しないとした3。日本の2026年ガイドラインは、での生検・ポリペクトミー、胆道手術、尿道拡張などを「考慮してもよいが、投与するのは高リスク群」(Class IIb)、(とくに患者)を Class IIa とし、挿入や膀胱尿道鏡は予防投与を推奨しない(Class III)。標準はアモキシシリン2 gの経口単回投与である2

まとめ

  • 臨床で分離される腸球菌で最も多い種(腸球菌性心内膜炎では9割超)。、高塩濃度・という強靭さが病原性の背景。
  • ・に種としてを持つ——広域セファロスポリンの使用は腸球菌を選択してしまう。
  • カテーテル・など異物関連感染、胆道感染、が主な臨床像。
  • 第一選択はアンピシリン。心内膜炎ではアンピシリン+(高度耐性でない株)またはアンピシリン+セフトリアキソン(高齢者・・高度耐性で優先)の2剤併用とする。
  • E. faeciumよりアンピシリン感受性・バンコマイシン感受性を保つ株が多く、全体として耐性は軽度。

出典

  1. 1.Antimicrobial-resistant pathogens associated with adult healthcare-associated infections: Summary of data reported to the National Healthcare Safety Network, 2015-2017(Infection Control & Hospital Epidemiology(Weiner-Lastinger LM, et al./CDC NHSN)・2020)PMC全文(PMC8276252)で確認した。米国NHSNに2015〜2017年に報告された成人の医療関連感染(中心ライン関連血流感染・カテーテル関連尿路感染・人工呼吸器関連事象・手術部位感染)の病原体356,633件で、Table 3 の頻度順位が大腸菌17.5%・黄色ブドウ球菌11.8%・Klebsiella属8.8%・緑膿菌8.0%・Enterococcus faecalis 7.9%(5位)・コアグラーゼ陰性ブドウ球菌6.8%(6位)・Enterobacter属4.6%・Enterococcus faecium 3.8%であること、Table 10 のバンコマイシン耐性がE. faecalisで医療器具関連感染7.2%・手術部位感染3.4%、E. faeciumで82.1%・55.6%であることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.JCS 2026 Guideline on the Management of Infective Endocarditis(Circulation Journal(日本循環器学会)・2026)J-STAGEの全文PDFで確認した。本文3.3が、腸球菌属は心内膜炎の原因菌の約10%を占め、高齢者に多く医療関連の発症も少なくないこと、経カテーテル大動脈弁植込み後の人工弁心内膜炎の2割超を占めること、そのうちEnterococcus faecalisが90%超で一般にペニシリン感受性が良好であること、ゲンタマイシン高度耐性(MIC >500 μg/mL)の株ではゲンタマイシンを併用薬に選ばないこと、第一選択はアンピシリン+ゲンタマイシン(MIC 500 μg/mL以下の場合)で、治療開始時にクレアチニンクリアランス50 mL/分未満の腎機能障害がある例とゲンタマイシン高度耐性株ではアンピシリン+セフトリアキソン併用を推奨し、この併用はE. faeciumには無効で用いないこと、β-ラクタムアレルギーではバンコマイシン、バンコマイシン耐性腸球菌にはリネゾリドまたはダプトマイシンを選ぶこと(ダプトマイシンは日本では腸球菌に未承認)を述べていること。Table 28(自己弁)が、ペニシリン感受性腸球菌にアンピシリン+ゲンタマイシン(4〜6週)とアンピシリン+セフトリアキソン(4〜6週、高齢者・腎機能障害例で優先、ゲンタマイシン高度耐性株では第一選択)をいずれもClass I・LOE B、バンコマイシン(β-ラクタムアレルギー時)をClass IIaとしていること。本文3.3が、ゲンタマイシン投与中は週1〜2回腎機能を確認し、人工弁・10 mm以上の膿瘍・免疫抑制例では2週の短期投与を避けるとしていること。Table 29(人工弁)が、同じ2つの併用をいずれもClass I・6週としていること。Table 38 が消化管(下部消化管内視鏡での生検・ポリペクトミー、胆道手術など)と泌尿生殖器(尿道拡張、経腟分娩など)の処置を「予防投与を考慮してもよいが、投与するのは高リスク群」のClass IIb、経尿道的前立腺切除術(とくに人工弁患者)をClass IIa、尿道カテーテル挿入・経尿道的内視鏡(膀胱尿道鏡など)を予防投与を推奨しないClass IIIとしていること、本文3.3が従来の欧米の指針は歯科以外の予防投与を勧めてこなかったと述べていること、Table 41 が歯科・心血管以外の侵襲的処置前の標準レジメンをアモキシシリン2 g経口単回(経口不能ならアンピシリン・スルバクタム3 gまたはセファゾリン、β-ラクタムアレルギーではバンコマイシンまたはテイコプラニン)としていることを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Prevention of infective endocarditis: guidelines from the American Heart Association(American Heart Association (AHA)・2007)抄録で確認した。1997年版を改訂した2007年の主要な変更点の第5項として、泌尿生殖器または消化管の処置を受ける患者に、心内膜炎の予防だけを目的として抗菌薬を投与することは推奨しない("Administration of antibiotics solely to prevent endocarditis is not recommended for patients who undergo a genitourinary or gastrointestinal tract procedure.")と述べていることを確認した。閲覧 2026-09-27