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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 疾患

産褥敗血症・産褥感染

Puerperal sepsis (postpartum infection)

臓器系
生殖・産婦人科感染症
科目
Obstetrics
トピック
産科学 43:異常産褥と産褥敗血症
上位概念
敗血症
鑑別疾患
深部静脈血栓症
続発疾患
分娩後出血
関連疾患
骨盤内炎症性疾患丹毒・蜂窩織炎
治療薬
クリンダマイシンゲンタマイシンアンピシリンバンコマイシンピペラシリンセフトリアキソン
原因微生物
Streptococcus agalactiae / GBSStreptococcus pyogenes / GASEscherichia coliBacteroides fragilisEnterococcus faecalisStaphylococcus aureusMycoplasma hominis
症状
悪寒圧痛水疱排尿痛発熱頻尿浮腫
検査値
血算乳酸
スコア
qSOFASOFAスコア
原因となる疾患
壊死性軟部組織感染症

🧠 全体像を理解する幹は「分娩後の子宮内・生殖器は感染に対して脆弱な状態が数週間続く」という一点にある。胎盤剥離面はそのものであり、頸管は開大し、は培地になりうる。ここに帝王切開創・・長時間の器械的操作が加わると、を中心に、創感染・尿路感染・という複数の感染源が並行して起こりうる。個々の感染源を鑑別しながらも、敗血症(感染に伴う臓器障害)の徴候があれば、原因の確定を待たずに・蘇生・を同時に進める——これは一般の敗血症診療と同じ原則だが、特有の帝王切開既往による危険因子の集約病歴・診察が難しい急速進行例(GAS感染)という3点をして考える必要がある。

概要・定義

は、分娩後(多くは42日以内)に生殖器・骨盤内・手術創・乳腺・尿路などに生じる感染の総称であり、その中で最も頻度が高く中心的な病型がである。は、これらのを契機として臓器障害が生じた状態を指し、敗血症の産科的な概念として位置づけられる。

  • は、胎盤剥離面という広い創面、開大した頸管、子宮内腔への器械操作歴、出血による免疫能低下が重なり、生殖器感染がもともと成立しやすい。
  • WHOは母体敗血症を「妊娠中・分娩時・・流産後の感染に起因する、生命を脅かす臓器障害」と定義しており、と同じ枠組み(感染+臓器障害)に立ちつつ、妊娠・の生理的変化(頻脈・・生理的など)を踏まえて評価する必要がある。
  • 通常のは妊婦では偽陽性になりやすいため、Maternal Early Warning Criteria(MEWC)やMEOWS、obstetrically modified SOFA(omSOFA)などの産科修正版スコアを併用する施設が増えている。ただし、どのスコアも単独でを診断・除外できる十分な精度は持たず、あくまで早期認識のための補助と位置づける。
  • 世界的に敗血症は妊産婦死亡の主要な原因の一つであり、・高血圧性疾患と並ぶ回避可能な母体重症化・死亡要因として扱われる。

病因・危険因子

は単一の病態ではなく、ごとに危険因子・起因菌が異なる複数の病型からなる。多くは・嫌気性菌を含むであり、単一の起因菌を想定しないことがの前提になる。

病型 危険因子 典型的な起因菌
帝王切開(特に陣痛・破水後の緊急手術)、長時間破水・、頻回の、胎盤用手剥離・胎盤遺残、、貧血、肥満、糖尿病 B群溶血性レンサ球菌(GBS)大腸菌などの腸内細菌科、Bacteroides fragilisなどの嫌気性菌、Enterococcus faecalis
帝王切開創感染 肥満、糖尿病、長時間手術、、術前抗菌薬予防の未実施・不十分 黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)、皮膚常在菌、腟内細菌の混入
会陰・腟創感染 重度、血腫形成 皮膚・腟内フローラの
尿路感染・腎盂腎炎 ・膀胱、産科的操作による尿閉 Escherichia coliなど腸内細菌科
授乳確立期の、不完全な排乳 Staphylococcus aureus
帝王切開(経腟分娩よりリスクが高い)、、若年・、高血圧性疾患合併、 の起因菌と重なる
・トキシックショック 会陰・腹壁創部の血腫や虚血、糖尿病、免疫不全、まれに健常産婦にも急速発症 (GAS)(単独)、Staphylococcus aureusとの混合

帝王切開は全体を通じて最大級の危険因子であり、・創感染・のいずれのリスクも経腟分娩より明らかに高い。陣痛・破水を経てからの緊急帝王切開は、よりさらにリスクが高い。

💡 妊娠・中の女性は非妊娠時に比べてGAS侵襲性感染症のリスクが著しく高く(非妊娠時の数倍〜数十倍、早期はさらに高い)、健常な経過の分娩後でも急速進行する・トキシックショック症候群を来しうる。この事実が、後述する「所見に不釣り合いな症状」への警戒につながる。

臨床像・診断

病型別の臨床像

  • :産後発熱、悪寒、下腹部痛、、悪臭のあるが中心となる。生理的があるため、単独では診断しない。
  • 創感染:帝王切開創では発赤・熱感・圧痛・排膿・がみられ、筋膜の有無を必ず確認する。会陰創では増悪する会陰痛・悪臭・排膿・を評価し、血腫や深部感染を除外する。
  • 尿路感染、頻尿、痛、
  • :片側性の乳房発赤・熱感・・圧痛と発熱。膿瘍形成を疑う波動があれば画像評価とドレナージを検討する。
  • 治療にもかかわらず持続する発熱と、腹部・骨盤の圧痛が特徴的だが、局所所見に乏しいことも多くになりやすい。画像は超音波・CT・MRIを用いるが、MRIが軟部組織・血栓の描出に優れる。
  • ・トキシックショック:所見に不釣り合いな激痛、急速な浮腫・水疱・皮膚、全身毒性が特徴で、数時間単位で進行しうる。

⚠️ 「創部の見た目は軽症に見えるのに痛みが強い」「しない」「バイタルの変化が急速」は、いずれも・GAS性トキシックショック・を疑う所見であり、局所所見の軽さだけで安心してはならない。

鑑別と検査

産後発熱では、のほか、尿路感染、創感染、、肺炎(を含む)、を系統的に鑑別する。

検査 目的
血算、CRP 補助的。生理的があるため単独診断には使わない
血液培養、・創部培養 起因菌・感受性の同定。ただし抗菌薬開始を遅らせない
乳酸、腎・肝機能、凝固 臓器障害の評価。臓器障害があればとして扱う
超音波、CT 胎盤遺残、骨盤内膿瘍、血腫、の評価
MRI の範囲評価に有用な場合がある

診断は主に臨床的であり、単一の確定検査は存在しない。臓器障害を示唆する所見(意識変容、頻呼吸、低血圧、乏尿、乳酸上昇など)があれば、起因菌やの特定を待たずにとして緊急対応へ移行する。

治療

産褥子宮内膜炎の抗菌薬治療

  • 標準的な初期治療はクリンダマイシンの静注併用である。
  • 腸球菌感染を疑う場合、または48時間の治療で臨床反応が乏しい場合はアンピシリンを追加する。
  • アンピシリン・など単剤の広域β-ラクタム系薬も同等の有効性が報告されており、代替として選択しうる。
  • 静注治療は臨床的に改善し、が持続するまで継続する。単純例において一律にへ切り替える必要は乏しい。
  • 48〜72時間で改善しなければ、耐性菌、胎盤遺残、骨盤膿瘍、創感染、を再評価する。

💡 であるため、単一の起因菌をカバーする薬への絞り込みを急がない。を待たずクリンダマイシン+で好気性・嫌気性の両方を広くカバーするを開始し、培養は治療反応不良時の見直しに用いる位置づけにとどめる。

病型別の感染源制御・追加治療

病型 治療の要点
帝王切開創・会陰創感染 培養、排膿・、創部管理。黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)を想定する場合はバンコマイシンを考慮
胎盤遺残・骨盤膿瘍 ・ドレナージなどが薬剤治療の効果を左右する
を継続してもしない場合に臨床診断的に疑い、抗凝固(ヘパリン系)を併用することがある。抗凝固に反応してすること自体が診断の裏付けになる場合がある
・トキシックショック 直ちに外科的探索・広範バンコマイシンなどを含む広域併用に加え、毒素産生抑制目的でクリンダマイシンを併用)。画像検査のために手術を遅らせない
尿路感染・腎盂腎炎 セフトリアキソンなど腸内細菌科をカバーする薬剤を選択
授乳・排乳の継続を基本とし、黄色ブドウ球菌をカバーする抗菌薬を用いる。膿瘍形成があればドレナージを追加する

(ドレナージ・・胎盤遺残の除去)は抗菌薬の補助ではなく、それ自体が治療の中心である。 遺残組織や膿瘍、壊死組織を残したまま抗菌薬だけで治癒を待つと、どれだけ広域・大量に投与しても反応不良に終わる。

産褥敗血症としての対応

flowchart TD
    A["産後発熱を認める"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vital sign'>バイタルサイン</span>・意識・尿量・子宮/創部/乳房/下肢を評価"]
    B --> C{"臓器障害の徴候があるか(意識変容・頻呼吸・低血圧・乏尿・乳酸上昇)"}
    C -->|"あり"| D["産科敗血症として緊急対応:培養採取は抗菌薬開始を遅らせない"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='broad-spectrum antibiotics'>広域抗菌薬</span>を直ちに開始"]
    E --> F["晶質液を個別化して投与、必要ならノルアドレナリンで昇圧"]
    F --> G["胎盤遺残・膿瘍・壊死組織など<span class='jp-term jp-term-diagram' title='source control'>感染源制御</span>を急ぐ"]
    G --> H["母体反応と胎児・新生児状態を反復評価"]
    C -->|"なし"| I["病型別の臨床診断(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Endometritis'>子宮内膜炎</span>/創感染/尿路感染/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mastitis'>乳腺炎</span>等)"]
    I --> J["病型に応じた抗菌薬・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='source control'>感染源制御</span>を開始"]
    J --> K["48〜72時間で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antipyresis'>解熱</span>・改善しなければ再評価(膿瘍・遺残・耐性菌・骨盤<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombophlebitis'>血栓性静脈炎</span>)"]
  • の病態生理・蘇生原則(乳酸評価、循環蘇生、ノルアドレナリンによる昇圧、臓器支持)は一般の敗血症と共通であり、に特有なのは感染源が生殖器・産科的処置に由来する点と、分娩後であるため胎児を気にせず必要な検査・処置を行える点である。
  • 低血圧に対する晶質液投与は、や心疾患合併例では肺水腫に注意しながら反応を再評価する。
  • 子宮内容遺残、膿瘍、感染創、壊死組織は薬剤だけでは治らない。、ドレナージ、などのを抗菌薬開始と並行して急ぐ。
  • のため分娩様式・胎児の考慮は不要だが、新生児が同居・母乳栄養中であれば、感染性・薬剤の授乳への影響を評価し、母児の分離が必要かを個別に判断する。

まとめ

  • を中心に、創感染、尿路感染、など複数の病型からなり、多くは・嫌気性菌を含むである。
  • 帝王切開は全体の最大級の危険因子であり、特に陣痛・破水後の緊急帝王切開でリスクが高い。
  • は臨床診断が中心で、クリンダマイシン静注を基本とし、腸球菌疑いや反応不良時はアンピシリンを追加する。
  • でもしない発熱として臨床診断されやすく、抗凝固が診断の裏付けになることがある。
  • 妊娠・はGAS侵襲性感染症のリスクが著しく高く、健常な経過でも急速進行する・トキシックショック症候群を来しうるため、所見に不釣り合いな症状を軽視しない。
  • 臓器障害の徴候があれば、起因菌・の確定を待たずに敗血症として・蘇生・を同時に進める。