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Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 疾患

前立腺炎

Prostatitis

臓器系
腎・泌尿器
科目
UrologyInternal Medicine
トピック
泌尿器科学 U-16:前立腺と男性生殖器の炎症性疾患内科学 I-09:尿路感染症:無症候性細菌尿・膀胱炎・前立腺炎
鑑別疾患
間質性膀胱炎前立腺癌
続発疾患
敗血症
関連疾患
精巣上体炎・精巣炎尿路感染症
治療薬
シプロフロキサシンレボフロキサシンスルファメトキサゾール+トリメトプリムセフトリアキソンドキシサイクリンアジスロマイシンタムスロシン
原因微生物
Escherichia coliEnterococcus faecalisNeisseria gonorrhoeaeChlamydia trachomatis D–K
症状
悪寒圧痛倦怠感排尿痛発熱頻尿不安疼痛尿意切迫感
原因となる疾患
前立腺肥大症淋菌感染症

🧠 全体像:前立腺炎は一つの病気ではなく、NIH分類のI〜IVという性格の異なる4つの病態の総称である。鍵となる問いは2つ——「培養で細菌が証明されるか」(I・IIは陽性、IIIは陰性、IVは無症候)と「急性か、3か月以上続く慢性か」。(I)は敗血症に進みうる緊急疾患で、前立腺への機械的刺激(・強い)は禁忌に近い。(II)は同一菌による反復性尿路感染症としてふるまい、の長期投与が必要になる。前立腺炎の9割以上を占めるのが(III、CP/CPPS)で、培養陰性・であり、単一の抗菌薬では治らず、UPOINTSに基づく多角的治療が中心となる。IVは無症状で治療対象にならない。この「I・II=感染症として治療」「III=+多角的治療」「IV=経過観察のみ」という区分けが前立腺炎全体の骨格である。

概要

  • 定義:前立腺の炎症・感染、またはそれに関連した骨盤・会陰部の疼痛症候群の総称。単一の疾患ではなく、病因・病態を異にする4病型(NIH分類)をまとめた呼称である。
  • 疫学:50歳未満の男性における最も頻度の高い泌尿器科疾患であり、生涯のいずれかの時点で男性の相当割合が前立腺炎様の症状を経験する。病型別ではが前立腺炎全体の90%以上を占め、急性・(NIH I・II)は少数派である。
  • NIH分類
分類 名称 培養 特徴
I 陽性 急性発症。発熱・悪寒・会陰部痛・緊急疾患
II 陽性 同一菌による3か月以上の慢性・反復性感染
III 陰性 3か月以上の骨盤・会陰部・陰茎・精巣の疼痛。感染性病原体が同定されない
IIIA  炎症性CP/CPPS 陰性 精液・(EPS)に炎症細胞を認める
IIIB  非炎症性CP/CPPS 陰性 炎症細胞を認めない
IV 無症状。前立腺生検・精査などで偶発的に炎症細胞を検出。治療対象外
  • 病因の全体像:I・IIは尿路由来の細菌感染(大腸菌などの腸内細菌が主体、性感染症由来の淋菌・クラミジアもあり得る)。IIIは単一の病因が同定されず、の機能異常・神経の感作・心理要因など複数の要素が絡むの疼痛症候群と考えられている。IVは病因を問わず組織学的な炎症所見のみを反映する。

病態

flowchart TD
    A["前立腺炎"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='NIH I'>急性細菌性前立腺炎</span><br>培養陽性・急性発症"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='NIH II'>慢性細菌性前立腺炎</span><br>培養陽性・反復性(3か月以上)"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='NIH III'>慢性骨盤痛症候群</span><br>培養陰性・3か月以上の疼痛"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IIIA'>炎症性</span><br>EPS・精液に炎症細胞あり"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IIIB'>非炎症性</span><br>炎症細胞なし"]
    A --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='NIH IV'>無症候性炎症性前立腺炎</span><br>無症状・偶発的に炎症細胞を検出"]

急性細菌性前立腺炎(NIH I)

  • 主経路は尿道からの:会陰部に定着した腸内細菌(大腸菌などのEscherichia coli、Klebsiella、Proteus、Enterococcus faecalisなど)が尿道から膀胱を経て前立腺腺房に達する。
  • もう一つの重要な経路が性感染症である。35歳未満の性活動性が高い男性、および高リスク性行動のある35歳以上の男性では、Neisseria gonorrhoeae(淋菌)・Chlamydia trachomatis(クラミジア)による尿道炎が前立腺へ波及することがある。
  • そのほか、経直腸的前立腺生検後の、血行性感染(まれ)もある。
  • 炎症により前立腺は充血・腫大し、腺房内に膿瘍を形成しうる。強い機械的刺激(、強い)は炎症組織から血中へ細菌を押し出し、菌血症・敗血症を誘発するため避ける。
flowchart TD
    A["尿道への病原体侵入"] --> B["経路①:会陰部の腸内細菌が尿道→膀胱を経て前立腺へ上行"]
    A --> C["経路②:淋菌・クラミジアによる尿道炎が前立腺へ波及"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute bacterial prostatitis'>急性細菌性前立腺炎</span>"]
    C --> D
    D --> E{"適切な抗菌薬で治癒するか"}
    E -->|"いいえ:同一菌が反復"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic bacterial prostatitis'>慢性細菌性前立腺炎</span>へ移行<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='corpora amylacea (prostatic concretions)'>前立腺結石</span>・導管閉塞が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lesion (focal)'>病巣</span>を温存し抗菌薬が届きにくくなる"]
    E -->|"はい"| G["治癒"]

慢性細菌性前立腺炎(NIH II)

  • 急性期を経ずに緩徐に発症することも多く、同一菌による尿路感染症を反復するのが特徴。
  • 様のが抗菌薬の組織移行を妨げ、除菌を困難にする。は脂溶性が高く前立腺組織へのに優れるため、この病型で特に重要な選択肢となる。

慢性骨盤痛症候群(NIH III、CP/CPPS)

  • 培養・画像検査で感染性病原体や原因が同定されないであり、単一の病因モデルでは説明できない。
  • 想定される機序は、の筋緊張・筋膜性疼痛(myofascial pain)、末梢・中枢神経系の疼痛感作、自己免疫的・炎症性の機序、心理ストレスなど多因子にわたる。
  • UPOINTS分類(Urinary:/Psychosocial:心理要因/Organ-specific:前立腺局所所見/Infection:感染既往/Neurologic-systemic:神経・全身性疼痛/Tenderness:筋骨格の圧痛/Sexual dysfunction:)は、このを反映して患者ごとの表現型(フェノタイプ)を整理し、治療標的を絞るための枠組みである。
  • IIIAとIIIBは精液・EPSの炎症細胞の有無で区別されるが、臨床経過や治療反応に大きな差はないとされ、両者とも多角的治療の対象になる点は共通する。

無症候性炎症性前立腺炎(NIH IV)

  • 前立腺生検、精査、PSA高値の精査などの過程で、無症状のまま組織や精液に炎症細胞が偶発的に検出される状態。
  • それ自体は治療対象ではないが、PSA上昇の原因となり得るため、前立腺癌の評価時に鑑別として念頭に置く。

病型比較表

病型 主な機序 培養 治療の中心
急性細菌性(I) 尿道からの(腸内細菌/淋菌・クラミジア) 陽性 抗菌薬(緊急性あり)
慢性細菌性(II) 同一菌のによる温存 陽性 長期抗菌薬(4〜6週)
筋・神経・心理要因が絡む疼痛 陰性 UPOINTSに基づく多角的治療
無症候性炎症性(IV) 偶発的な組織学的炎症 治療不要(経過観察)

臨床像

  • :発熱、悪寒、感などの全身症状に加え、会陰部・・陰嚢の疼痛、、頻尿、、時に尿閉を伴う。重症では敗血症様の所見(頻脈、低血圧、意識変容)を呈することがある。
  • :急性期ほどの全身症状は目立たず、(頻尿、)や会陰部・骨盤の不快感が数か月にわたって反復し、同じ菌による膀胱炎・尿路感染症を繰り返す病歴が特徴的。
  • :3か月以上続く会陰部・恥骨上部・陰茎・精巣・下腹部の疼痛がで、(頻尿、)、時痛、勃起機能障害などの、不安・抑うつなどの心理苦痛を伴うことが多い。症状の強さは経過中に変動する。
  • :定義上、症状はない。
病型 全身症状 局所疼痛 経過
急性細菌性 発熱・悪寒あり(時に敗血症様) 強い会陰部痛、前立腺の著明な圧痛 頻尿・・尿閉 急性
慢性細菌性 目立たない 軽度〜中等度の骨盤・会陰部不快感 反復する頻尿・ 慢性・反復性
CP/CPPS なし 3か月以上の会陰部・陰茎・精巣・下腹部痛 頻尿・がありうる 慢性・
無症候性炎症性 なし なし なし のみ

診断

病歴・身体診察

  1. (急性か慢性か)、、疼痛の部位・持続期間(3か月を区切りとする)、性行動歴・STD既往、発熱・悪寒の有無、前立腺生検などの器械操作歴を確認する。
  2. では敗血症様所見(異常)、発熱の有無を評価する。
  3. は病型によって意味が異なる:
    • が疑われる場合は愛護的に行い、前立腺は腫大・著明な圧痛を示すことが多い。
    • やCP/CPPSの評価では、採取のためにを併用したを行う。

⚠️ が強く疑われる場合、・強いによる前立腺への機械的刺激は菌血症・敗血症を誘発するリスクがあるため避ける。 診察はできるだけ愛護的に行い、局所の圧痛の確認にとどめる。

尿検査・培養

  • ではの尿検査・尿培養(重症・入院例では血液培養も)を提出する。によるEPS採取は急性期には行わない。
  • ・CP/CPPSの鑑別には、4-glass法(Meares-Stamey法)または簡便な2-glass法前後のを比較する方法)を用いる。
検査 採取検体 目的
4-glass法(Meares-Stamey法) (尿道由来)②(膀胱由来)③④マッサージ後 を4検体で比較し、感染の局在(尿道・膀胱・前立腺)を同定する。手技が煩雑
2-glass法 マッサージ前後の2本 4-glass法と同等の診断精度で、より簡便なため臨床では広く用いられる
  • マッサージ後検体(EPSまたはマッサージ後尿)のがマッサージ前より明らかに多ければ、前立腺由来の感染()を支持する。細菌が証明されず白血球のみ優位ならCP/CPPS(IIIA)、いずれも陰性ならCP/CPPS(IIIB)を考える。

慢性骨盤痛症候群の除外診断

CP/CPPSはを満たすがあるわけではなく、他疾患を除外した上で成立する診断である。尿路感染症、性感染症(淋菌・クラミジア)、、前立腺癌(PSAが前立腺炎で一過性に上昇しうる点に注意)、/膀胱疼痛症候群、障害などを鑑別に挙げる。

flowchart TD
    A["3か月以上続く骨盤・会陰部・陰茎・精巣の疼痛"] --> B["尿検査・尿培養"]
    B --> C{"細菌尿でUTIとして説明できるか"}
    C -->|"はい"| D["尿路感染症として治療"]
    C -->|"いいえ"| E["STD検査(淋菌・クラミジア)"]
    E --> F{"陽性か"}
    F -->|"はい"| G["性感染症として治療"]
    F -->|"いいえ"| H["4-glass法/2-glass法でEPS・マッサージ後尿を評価"]
    H --> I{"前立腺由来に細菌・白血球が証明されるか"}
    I -->|"細菌陽性"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='NIH II'>慢性細菌性前立腺炎</span>"]
    I -->|"白血球のみ陽性"| K["炎症性CP/CPPS(NIH IIIA)"]
    I -->|"いずれも陰性"| L["非炎症性CP/CPPS(NIH IIIB)"]
    A --> M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bladder cancer'>膀胱癌</span>・前立腺癌・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interstitial cystitis'>間質性膀胱炎</span>/膀胱疼痛症候群・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stricture'>尿道狭窄</span>などを並行して除外"]

⚠️ CP/CPPSの診断は「培養陰性だから何もない」ではなく、他の疾患を除外した上で成立する積極的なである。除外を怠って安易にCP/CPPSと決めつけない。

治療

flowchart TD
    A["病型を確定"] --> B{"急性細菌性か"}
    B -->|"はい"| C["抗菌薬(重症度に応じ静注→経口)+αブロッカー<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='prostatic massage'>前立腺マッサージ</span>は禁忌"]
    C --> D{"尿閉・膿瘍があるか"}
    D -->|"尿閉"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='suprapubic catheter'>恥骨上カテーテル</span>で膀胱ドレナージ(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Foley'>経尿道的</span>操作は最小限)"]
    D -->|"膿瘍"| F["経直腸・経会陰的US/CT誘導下ドレナージ"]
    B -->|"いいえ:慢性細菌性か"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluoroquinolone'>フルオロキノロン系</span>などを4〜6週間投与"]
    B -->|"いいえ:CP/CPPSか"| H["新規診断例のみ抗菌薬トライアル(2〜4週)"]
    H --> I["UPOINTSに基づく多角的治療:αブロッカー・NSAIDs・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pelvic floor physical therapy'>骨盤底理学療法</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phytotherapy'>フィトセラピー</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='psychotherapy'>心理療法</span>など"]
    B -->|"いいえ:無症候性炎症性か"| J["治療不要・経過観察"]

急性細菌性前立腺炎(NIH I)

  • 緊急性のある感染症として扱う。敗血症様所見・尿閉・免疫抑制状態などがあれば入院・を検討する。
  • 抗菌薬(重症度・起因菌の想定により選択):
病態 推奨レジメン 期間
重症・入院例 静注、またはセフトリアキソン(±アミノグリコシド) ・改善後に経口へ切り替え、総投与期間2〜4週間
軽症・外来例(腸内細菌が主体と想定) 経口または 2〜4週間
35歳未満の性活動性が高い男性・高リスク性行動のある35歳以上の男性でSTD由来が疑われる場合 セフトリアキソン単回筋注+ドキシサイクリン(ドキシサイクリン・非遵守が懸念される場合はアジスロマイシンを代替として検討) ドキシサイクリンは10日間前後(尿道炎単独の7日間より長めに設定される)
  • αブロッカーなど)は平滑筋を弛緩させを軽減する目的で併用できる。
  • 尿閉があればで膀胱を排出する。カテーテル操作は炎症組織への刺激・菌血症のリスクがあるため最小限にする。
  • 膿瘍形成が疑われる場合は経直腸または経会陰的な超音波/CT誘導下ドレナージを検討する。

⚠️ ・強いによる機械的刺激は菌血症・敗血症を誘発するリスクがあるため、では避ける。

慢性細菌性前立腺炎(NIH II)

慢性骨盤痛症候群(NIH III、CP/CPPS)

⚠️ 培養で細菌が証明されないCP/CPPSに対して、抗菌薬を漫然とすることは有効性が乏しく耐性菌のリスクを高めるため避ける。抗菌薬トライアルは新規診断例に限定して2〜4週間にとどめ、無効なら中止する。

単一の治療法で有効なものはなく、UPOINTSの各領域に応じた多角的治療(multimodal therapy)を組み合わせる。

領域・アプローチ 内容
薬物療法 αブロッカー()、NSAIDs(疼痛)、(慢性疼痛)、(ケルセチン、花粉エキスなど)
骨盤底へのアプローチ 治療、筋膜リリース)、温坐浴
心理アプローチ 、ストレス管理、不安・抑うつの評価
神経調節・その他 経皮的、体外衝撃波療法(施設により実施可否が異なる)
禁煙、規則的な運動、・刺激物の制限
  • 治療反応はが大きく、患者のUPOINTS表現型に応じて治療を組み替える個別化アプローチが推奨される。

無症候性炎症性前立腺炎(NIH IV)

  • 無症状であり治療は不要。前立腺癌評価中にPSA上昇の原因として偶発的に見つかった場合は、その旨を念頭に置いた上でPSAの経過を追う。

まとめ

  • 前立腺炎はNIH分類のI〜IVという性格の異なる4病態の総称であり、「培養陽性か陰性か」「急性か3か月以上の慢性か」で整理する。
  • (I)は敗血症に進みうる緊急疾患で、・強いは禁忌に近い。起因菌は腸内細菌が中心だが、若年・高リスク性行動では淋菌・クラミジアも想定し、セフトリアキソン+ドキシサイクリンを併用する。
  • (II)は同一菌ので、などを4〜6週間投与する。
  • 前立腺炎の大多数を占める(III)は培養陰性のであり、抗菌薬のは避け、UPOINTS分類に基づく多角的治療(薬物療法・・心理アプローチ)を組み合わせる。
  • (IV)は無症状で治療対象外だが、PSA上昇の原因として前立腺癌の鑑別時に念頭に置く。
  • 診断では4-glass法/2-glass法で前立腺由来の感染を局在診断し、CP/CPPSは尿路感染症・性感染症・前立腺癌・/膀胱疼痛症候群などを除外した上で成立する。