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Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 疾患

前立腺肥大症

Benign prostatic hyperplasia

別名
BPH
臓器系
腎・泌尿器
科目
Urology
トピック
泌尿器科学 U-20:前立腺肥大症(BPH)の症状と鑑別診断泌尿器科学 U-21:前立腺肥大症(BPH)の保存的・外科的治療
鑑別疾患
神経因性膀胱前立腺癌尿道狭窄尿道口狭窄排尿筋低活動
続発疾患
尿路感染症尿路結石症前立腺炎精巣上体炎・精巣炎尿失禁
治療薬
タムスロシンテラゾシンドキサゾシンプラゾシンデュタステリドフィナステリドタダラフィルアルフゾシン
症状
血尿切迫性尿失禁肉眼的血尿頻尿夜間頻尿尿勢低下尿意切迫感腹圧排尿残尿感尿線途絶膀胱膨満
検査値
尿流量測定
画像所見
水腎症
スコア
国際前立腺症状スコア
組織像
前立腺結節性過形成前立腺結節性過形成
適応薬
ビベグロン
禁忌薬
アミトリプチリンイプラトロピウムイミプラミンウメクリジニウムオキシブチニンキサノメリン・トロスピウムグリコピロニウムクロミプラミンクロロピラミンジソピラミドジフェノキシレートジメンヒドリナートソリフェナシンダリフェナシンチオトロピウムトルテロジンネオスチグミンビペリデンプロメタジンベタネコールミルナシプラン

🧠 全体像:BPHは前立腺に生じる、加齢とアンドロゲン依存性の良性腺・間質過形成であり、50歳までに男性の約40%にみられる。LUTSは「型)」と「型)」の2軸で捉え、閉塞は前立腺の物理的増大(静的成分)とα1受容体を介した平滑筋緊張(動的成分)の両方から生じる——これがが数日で効き、阻害薬(5-ARI)は数か月かけて効くという作用機序の違いを説明する。診断は→DRE→PSA→IPSS→→超音波の段階的評価で進め、治療は経過観察→薬物療法→手術という段階的アプローチをとるが、尿閉・結石・血尿・水腎症・腎不全・再発性UTIのいずれかがあれば薬物療法を経ずに手術へ進む。

概要・病態

前立腺は解剖学的に・辺縁帯・に分かれるが、BPHは加齢に伴いの腺上皮・間質が過形成を起こす疾患であり、辺縁帯に好発する前立腺癌とは発生部位が異なる。

病因は完全には解明されていないが、アンドロゲンが中心的な役割を果たす。テストステロンは前立腺内でによりへ変換され、DHTがを介して腺上皮・間質の増殖を促進する。加齢そのものが原因というより、加齢に伴うホルモン環境の変化(エストロゲン/アンドロゲン比の変化など)が過形成を助長すると考えられている。

flowchart TD
    A["加齢+アンドロゲン環境の変化"] --> B["テストステロン→DHTへの変換(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='5-alpha reductase'>5-アルファ還元酵素</span>)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prostatic transition zone'>前立腺移行帯</span>の腺上皮・間質過形成"]
    C --> D["前立腺の物理的増大(静的閉塞成分)"]
    C --> E["α1受容体を介した前立腺・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bladder neck'>膀胱頸部</span>平滑<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertonia'>筋緊張亢進</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dynamic component of obstruction'>動的閉塞成分</span>)"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bladder outlet obstruction (BOO)'>膀胱出口閉塞</span>"]
    E --> F
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lower urinary tract symptoms, LUTS'>下部尿路症状</span>"]

💡 この「静的成分」と「動的成分」の二重構造がの根拠になる。は平滑筋を弛緩させて動的成分にすぐ効くため症状緩和が速いが前立腺体積は変えない。5-ARIはDHT産生を減らして静的成分(腺の大きさそのもの)を縮小させるため効果発現は遅いが、長期的には尿閉・手術のリスクを下げる。

臨床像

BPHのLUTSは「」と「」の2系統に分けて捉える。

分類 機序 代表的な症状
に伴う二次的な膀胱の 頻尿、
膀胱出口の物理的・そのもの 、排尿開始の遅延()、・断続的な尿流、排尿終末時の

⭐ 症状の重症度評価には(IPSS)を用いる。過去1か月の7項目(不完全排尿感、頻尿、)を各0〜5点で評価し、合計0〜35点と(0〜6点)を併せて記録する。

IPSS合計点 重症度
0点 無症状
1〜7点 軽症
8〜19点 中等症
20〜35点 重症

⚠️ IPSSは症状の重症度を測るスコアであり、前立腺体積やな有無とは一致しないことがある。の決定にはIPSSに加え、・前立腺体積などの評価を組み合わせる。

合併症

BPHによるは、放置すると以下の合併症を招きうる。

  • :突然の完全排尿不能。など)、アルコール、麻酔・術後の膀胱、長時間の排尿我慢などが誘因となりやすい。⚠️ によるが第一選択で、前にを開始してから排尿トライアル(trial without catheter)を行うのが一般的な対応である。
  • :慢性の貯留・膀胱内圧上昇が両側水尿管・水腎症を経て・腎不全に至ることがある。
  • 血尿・前立腺被膜の拡張した静脈叢が、や膀胱で破綻しを来すことがある。
  • 尿路感染症の増加が細菌の温床となり、膀胱炎や再発性UTIのリスクを高める。
  • その他:、膀胱壁の代償性肥厚(増加→排尿に必要な膀胱内圧上昇→膀胱筋層の肥厚)、

診断

診断は→DRE→PSA→IPSS→→超音波という段階的な流れで進める。

  1. :前立腺の大きさ・硬さ・表面性状・圧痛を評価する。左右対称で弾性硬・平滑な腫大はBPHを示唆する一方、・非対称な結節は前立腺癌を、圧痛は前立腺炎を疑わせる所見である。
  2. PSA:前立腺癌が疑われる場合に測定する。⚠️ PSA単一の(従来4 ng/mL未満が目安)だけでは前立腺癌を除外できない——BPHでも前立腺体積に比例してPSAは上昇するため、年齢別・PSA density・などを併用して解釈する必要がある。5-ARI服用中はPSAが40〜50%低下するため、経過観察中のPSA値はこの補正(おおむね2倍する等)を踏まえて評価しないと、癌の進行を「相対的な」PSA上昇として見逃すリスクがある。
  3. IPSS:症状の重症度とQOLへの影響を数値化する。
  4. :排尿速度を測定する(正常は目安として約20〜25 mL/秒)。BPHではの低下との緩慢化がみられる。
  5. (第一選択)または経直腸的(生検を要する場合)に前立腺体積・・膀胱壁肥厚を評価する。

前立腺癌との鑑別

BPHのLUTSは前立腺癌でも生じうるため、両者の鑑別は診療上の要点である。

項目 BPH 前立腺癌
好発部位 辺縁帯
DRE所見 左右対称・弾性硬・平滑な腫大 ・非対称・結節性
PSA 前立腺体積に見合った上昇にとどまることが多い 体積に不相応な上昇、PSA density・PSA速度の上昇を伴いやすい
症状の経過 LUTSとして緩徐に進行 早期は無症状のことが多く、進行すると症状()などで発見されることもある
確定診断 臨床像+画像で十分なことが多い 疑わしければ前立腺生検で確定

⚠️ BPHと前立腺癌は同時に存在しうる(BPHがあるからといって前立腺癌が除外されるわけではない)ため、DRE・PSAで癌を疑う所見があれば、BPHの診断がついていても生検を検討する。

BPHのLUTSはこの他にも(骨盤内手術後、など)、心不全・利尿薬によるなど多数の疾患・状態と鑑別が必要である。

治療

治療は経過観察→行動療法→薬物療法→手術という段階的アプローチをとるが、手術適応があれば薬物療法を経ずに手術へ進む。

flowchart TD
    A["BPHと診断(IPSS・尿流量・前立腺体積を評価)"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='absolute'>絶対的</span>手術適応の有無<br>(尿閉・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bladder stone'>膀胱結石</span>/憩室・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gross (macroscopic) hematuria'>肉眼的血尿</span>・水腎症・腎不全・再発性UTI)"}
    B -->|"あり"| C["薬物療法を経ず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endovascular/surgical intervention'>外科的治療</span>を検討"]
    B -->|"なし・軽症"| D["経過観察+行動・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dietary therapy'>食事療法</span>"]
    B -->|"なし・中等症〜重症"| E["薬物療法"]
    E --> E1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Alpha-blockers'>α遮断薬</span>(第一選択・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fast-acting'>速効性</span>)"]
    E --> E2["5-ARI(前立腺体積大・進行リスク高の場合に併用〜単独)"]
    E --> E3["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PDE5 inhibitors'>PDE5阻害薬</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='tadalafil'>タダラフィル</span>(ED合併例など)"]
    E -->|"効果不十分・副作用で継続困難"| C
    C --> F["前立腺体積・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ejaculation'>射精</span>機能温存の希望などで術式選択"]

行動・食事療法

  • 水分摂取量の調整(過剰摂取・就寝前摂取を控える)
  • アルコール・摂取の回避・節制
  • リラックスした排尿姿勢、
  • 便秘の是正、・利尿薬など原因薬剤の見直し

軽症でLUTSによる困りごとが少ない患者には、経過観察のみで十分なことも多い。

薬物療法

薬剤群 代表薬 作用機序・特徴
前立腺・平滑筋を弛緩させを解除。中等症〜重症LUTSので、数日〜1週間程度と効果発現が速い。前立腺体積は縮小させない。副作用は(特に)、前に申告が必要)
阻害薬(5-ARI) テストステロン→DHT変換を阻害し静的閉塞成分(前立腺体積)を縮小(最大30%程度)。効果発現は緩徐(数か月〜半年)。前立腺体積が大きい・進行リスクが高い症例と併用または単独使用。PSAを40〜50%低下させるため評価時は補正が必要。副作用は・勃起機能低下
(本適応で承認されている唯一の薬剤、5 mg/日) cGMPを介したにより症状を軽減。を合併するLUTS患者に代わる、またはと併用する選択肢となる

⚠️ +5-ARIの併用療法は、前立腺体積が大きく進行リスクが高い患者(目安として前立腺体積40 mL超、PSA高値など)で長期(12か月以上)投与する前提で検討する。単剤より有害事象(特に)は増えるが、尿閉リスク・将来の手術必要性の低下という利益と天秤にかける。

外科的治療

絶対的手術適応

以下のいずれかがあれば、薬物療法を経ずに手術を検討する。

  • 尿閉(薬物療法での改善が得られない、または反復する場合)
  • または
  • (BPHに起因すると判断されるもの)
  • 水腎症
  • 腎不全(BPHに起因する
  • 再発性尿路感染症

術式の比較

術式 適応となる前立腺体積の目安 特徴
目安30〜80 mL 依然としてゴールド標準。電気で組織切除。方式の普及でが使用可能になり、が本態)のリスクは従来のモノポーラ方式より大きく低下
など 体積上限なし(大きな前立腺にも適応) と同等以上の効果で出血量が少なく、率も低い。80〜100gを超える大きな前立腺にも開腹手術に代わる標準的選択肢となりつつある
目安80〜100 mL超 切除不十分やを避けるため大きな前立腺で行われてきたが、レーザーの普及で選択される頻度は減っている
目安70 mL未満、なし で組織を機械的にする非切除的手技。機能温存を重視する患者に適する
中等度までの前立腺 前立腺組織内に水蒸気を注入し壊死を誘導。外来レベルで施行可能な低侵襲治療
前立腺への動脈血流を選択的に塞栓。周術期リスクが高く手術に耐えられない患者の選択肢

⚠️ (TUNA)はかつて低侵襲選択肢として教えられてきたが、効果の持続性で他の術式に劣るため、現行のAUAガイドラインでは主要な推奨から外れたレガシー技術として位置づけられている。

急性尿閉の初期対応

  1. (またはカテーテル挿入困難時は)による
  2. 誘因(・アルコールなど)の除去
  3. を開始したうえでカテーテル・排尿トライアル(trial without catheter)
  4. 排尿トライアルに失敗する、または尿閉を反復する場合はを検討

まとめ

  • BPHは前立腺の加齢・アンドロゲン依存性ので、静的(体積増大)と動的(平滑筋緊張)の両成分がを起こす。
  • LUTSはの2軸で捉え、IPSSで重症度を数値化する。
  • 合併症として、血尿、尿路感染症があり、慢性の貯留がこれらの背景にある。
  • 診断は→DRE→PSA→IPSS→→超音波の段階的評価で行い、PSAの単一に頼らず、DRE・PSA所見から前立腺癌との鑑別を常に意識する。
  • 治療は経過観察→行動療法→薬物療法(が第一選択、5-ARIは体積が大きく進行リスクが高い例に、はED合併例に)→手術という段階的アプローチをとるが、尿閉・結石・血尿・水腎症・腎不全・再発性UTIがあれば薬物療法を経ず手術に進む。
  • は依然ゴールド標準だが、ホルミウムレーザー・UroLift・Rezum・など、前立腺体積や機能温存の希望に応じた低侵襲選択肢が現行ガイドラインで整備されている。