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Symptoms · Published

腹圧排尿

Straining to void

別名
いきみ排尿
臓器系
腎・泌尿器
科目
UrologyRehabilitation
トピック
泌尿器科学 U-10:排尿時痛と排尿困難リハビリテーション 04:脊髄損傷のリハビリテーション:神経学的後遺症・合併症とその管理
関連疾患
骨盤臓器脱神経因性膀胱前立腺肥大症尿道狭窄排尿筋低活動膀胱尿管逆流
スコア
国際前立腺症状スコア

🧠 全体像:正常な排尿はの収縮だけで完結し、腹圧はほとんど必要ない。は、その収縮だけでは排尿が始まらない・続かない・終わらないときに、体が腹圧という別の力を動員して補う代償行動である。代償である以上、背景には「なぜの収縮だけでは足りないのか」という原因が必ずあり、そこを特定せず腹圧のかけ方だけを覚えても意味が無い。さらに重要なのは、この代償行動そのものが害になりうることである。ことにでは、腹圧が生む高い膀胱内圧が上部尿路を痛める側に働く。

定義と用語の整理

排尿)は、ICSの標準化用語報告「1.2 」において、排尿の流れを開始・維持・改善するために用いる筋性努力と定義される1。この定義に付く注記は、恥骨上部を圧迫するを一部の患者が尿流の開始・維持に用いると述べ、症状としてのを結び付けている1IPSSでは項目6として「尿を出し始めるために力を入れたり、いきんだりする必要があるか」を頻度で問う——これが症状としてのにあたる。

同じ報告の「5.5 膀胱圧出法」は、これとは別に膀胱内圧を上げて排出を促すために加える手技の総称として、腹圧をかける・を閉じたまま呼気努力を行いを上げる)・(恥骨上部を手で圧迫する)の3つを挙げる1こちらは患者が訴える症状ではなく、膀胱を空にするために外部から加える管理・治療側の手技であり、症状としてのと取り違えない。

💡 正常な排尿では腹圧はほとんど不要である。 の収縮との弛緩が協調すれば、それだけで排尿は始まり完結する。が起きているということは、この協調のどこかが壊れているという合図であり、症状名としては「排出症状」の1つだが、実質は代償行動として読む方が臨床的に正確である。

病態生理

が必要になる機序は3つに分けられる。

機序 内容 代表
の収縮力そのものが不足し、腹圧で補って初めて尿が出る ・末梢の障害)、、加齢、骨盤内手術後
膀胱出口の閉塞 出口の抵抗が高く、の力だけでは超えられず腹圧を足して押し出す 、女性では
排尿時の協調障害 が収縮しても骨盤底・が弛緩せず、腹圧で無理に押し出そうとする 、機能性

の機序(か)と重なるが、その代償として現れる行動という一段別の層にある。も同じ排出障害の別の現れで、いずれも単独では機序を決められない。

⚠️ 見逃してはいけないもの

⚠️ そのものが上部尿路を痛める。 特にがある患者では、腹圧で無理に押し出そうとするほど出口抵抗の高い状態で膀胱内圧が上がり、高尿になる。この高圧がと水腎症を介してに進む。症状を紛らわせるつもりの腹圧が、原因治療を怠ったまま続けば腎不全につながる。が、で膀胱内圧がにあると確認できない限り推奨されないのはこのためである2

⚠️ 骨盤底・骨盤内の構造そのものを傷める。 繰り返す腹圧はを悪化させる。閉塞やを放置したまま腹圧だけで排尿を続けると、この悪化が積み重なる。

⚠️ 慢性尿閉が「腹圧でなんとか出ている」形に隠れる。 腹圧を足せば見かけ上は排尿できてしまうため、本人も周囲もの存在に気づきにくい。無症候のままに至ってから発見されることがあり、の訴えがあればを先送りしない。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Valsalva voiding'>腹圧排尿</span>の訴え"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological assessment'>神経学的評価</span><br>会陰部感覚・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anal sphincter tone'>肛門括約筋トーヌス</span>・既往歴"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='post-void residual volume'>残尿量測定</span>"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='residual urine (post-void residual)'>残尿</span>が多いか"}
    D -->|"少ない"| E["排尿習慣・機能性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='voiding dysfunction'>排尿障害</span>を評価"]
    D -->|"多い"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uroflowmetry'>尿流量測定</span><br>腹圧による波形の変動を確認"]
    F --> G{"侵襲的評価が必要か"}
    G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pressure-flow study'>圧尿流検査</span>で<br>収縮力不足か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='outlet obstruction'>出口閉塞</span>かを分ける"]
    G -->|"いいえ"| I["病歴・身体所見で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='working diagnosis'>暫定診断</span>し治療を開始"]
    H --> J["上部尿路(腎機能・水腎症)を評価"]

💡 の波形に腹圧による凹凸が現れることがある。滑らかな釣鐘型ではなく、腹圧をかけたタイミングで流量が段階的に増える波形は、の収縮だけでは足りていないことの間接的な手がかりになる。

対症療法の考え方

には「腹圧のかけ方を指導する」という対症療法は存在しない。は代償行動であり、代償させている原因を取りに行くことが治療である。

  • 背景がなら、閉塞そのものを解除する(なら薬物療法・手術、なら整復・手術)。
  • 背景がなら、腹圧やで無理に出すのではなくに置き換える。は自排尿できない患者の標準的治療であり、特にではは、で膀胱内圧がにあると確認できない限り推奨されない2
  • が疑われる場合は、腹圧を強めるほど高尿を助長するため、原因治療(など)とを優先し、腹圧という代償手段そのものを減らす方向で介入する。

まとめ

  • は、の収縮だけでは排尿を開始・維持・改善できないときに腹圧をかける代償行動である。は膀胱内圧を上げて排出を促す外部からの手技(膀胱圧出法)であり、患者自身の代償行動とは別の概念として区別する。正常な排尿では腹圧はほとんど不要である。
  • 機序は、膀胱出口の閉塞、排尿時のの3つに分けられ、と同じ排出障害の別の現れである。
  • そのものが害になる。特にでは高尿が・水腎症・腎不全を招き、も悪化させる。慢性尿閉が腹圧で隠れ、無症候のままに至ることもある。
  • 治療は「腹圧のかけ方の指導」ではなく原因治療である。閉塞は解除し、にはを用いる。でのは、で膀胱内圧がにあると確認できない限り推奨されない。

出典

  1. 1.The Standardisation of Terminology in Lower Urinary Tract Function: Report from the Standardisation Sub-committee of the International Continence Society(International Continence Society (ICS)・2002)「1.2 排尿症状」で腹圧排尿を「排尿の流れを開始・維持・改善するために用いる筋性努力」と定義し、この定義に付く注7が恥骨上部圧迫(Credé手技)を一部の脊髄損傷患者が尿流の開始・維持に用いると述べて腹圧排尿とCredé手技を結び付けていること、これとは別に「5.5 膀胱圧出法」が膀胱内圧を上げて排出を促す手技の総称として腹圧をかける・Valsalva法・Credé手技の3つを挙げていることを確認した閲覧 2026-08-04
  2. 2.EAU Guidelines on Neuro-Urology(European Association of Urology (EAU)・2026)「3.4.2.a 介助排尿(Credé手技・Valsalva法・反射誘発排尿)」の項で、これらの手技が生む高い膀胱内圧は尿路にとって危険であり、尿流動態検査で膀胱内圧が安全域にあることが確認されない限り使用を控えるべきとされていること、「3.4.2.e.3」で間欠導尿・留置カテーテルが自排尿できない患者の標準的治療とされていることを確認した閲覧 2026-08-04