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Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 病態

排尿筋括約筋協調不全

Detrusor-sphincter dyssynergia

別名
DSD排尿筋外尿道括約筋協調不全
臓器系
腎・泌尿器神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 G1-32:排尿・排便障害
上位概念
神経因性膀胱
合併症
膀胱尿管逆流慢性腎臓病
関連疾患
外傷性脊椎・脊髄損傷多発性硬化症
治療薬
ボツリヌス毒素タムスロシン
症状
尿線途絶腹圧排尿
検査値
クレアチニン
画像所見
水腎症

🧠 全体像:(DSD)は、のうちと排尿中枢の間(脊髄病変)で起こる型の中核所見である。正常な排尿は「が収縮する」と「が弛緩する」がによって同時に指令される協調運動だが、⭐ この協調路が絶たれると、が収縮しているまさにそのときに括約筋が逆に閉じる。結果として膀胱は高い内圧をかけながら尿を出せなくなる。⚠️ 危険なのはDSDという現象そのものではなく、それが作る・排尿時の高圧である。 この高圧が水腎症・という不可逆的な上部尿路障害に直結するため、DSDの診断と管理は「症状を軽くする」ためではなく「腎臓を守る」ために行う。

神経支配とDSDが生じる仕組み

排尿時にはが排尿中枢(S2〜S4)を介して、(副交感神経)による収縮と、(、Onuf核起始)による弛緩を同時に指令する1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pontine micturition center'>橋排尿中枢</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sacral spinal cord'>仙髄</span>排尿中枢 S2〜S4"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pelvic nerve'>骨盤神経</span>(副交感神経)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor muscle'>排尿筋</span>を収縮させる"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pudendal nerve'>陰部神経</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='somatic nerve'>体性神経</span>)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='external urethral sphincter'>外尿道括約筋</span>を弛緩させる"]
    C --> E["正常な排尿:<br>収縮と弛緩が同時に起こる"]
    D --> E
    F["橋と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sacral spinal cord'>仙髄</span>の間の脊髄病変<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spinal cord injury, SCI'>脊髄損傷</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multiple sclerosis'>多発性硬化症</span>など)"] --> G["橋からの協調シグナルが<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='sacral spinal cord'>仙髄</span>・末梢に届かない"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor muscle'>排尿筋</span>は収縮するが<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='external urethral sphincter'>外尿道括約筋</span>は弛緩せずむしろ収縮する"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor-sphincter dyssynergia'>排尿筋括約筋協調不全</span>(DSD)"]
    I --> J["高圧のまま尿が出せない"]

💡 DSDは「橋との連絡が切れた」が単独で暴走する現象と捉えると理解しやすい。 の弓自体は保たれているためは収縮できるが、橋からの「今は括約筋を緩めてよい」という指令が届かないため、括約筋は収縮したままになる1。

どの疾患で、どのくらいの頻度で起こるか

DSDは橋より・よりの脊髄病変で生じる。頻度は原疾患で大きく異なる。ガイドラインの表は、では病変レベルによりとDSDが最大95%(は最大83%)と、両者を1つの値でまとめて示している。一方、ではDSD 35%(43〜65%、25%)と項目別に示されており、より低い2。

⚠️ 頻度が低いでも、DSDが上部尿路障害へ進みうる点は変わらない。 ・排尿時の膀胱内圧をに保つことは、泌尿器学的原因による死亡率を大幅に低減させる——患者の生存後死因は、歴史的には腎不全が主体だった2。

⚠️ 上部尿路を傷めるのは「協調不全」自体ではない

⚠️ DSDという所見と、それが実際に腎臓を傷めるかどうかは、切り分けて考える必要がある。 による42例を平均7.1年追跡したコホートでは、尿道からの漏出時膀胱内圧(漏出時圧)が40 cmH2O以下だった20例で0%・2例にとどまったのに対し、40 cmH2Oを超えた22例では68%(15例)・81%(18例)に達した3。

💡 ただしこのコホートでは、対象42例の83%がで、DSDを伴ったのはわずか3例にすぎない。 つまりこの数値が示しているのは「DSDが上部尿路を傷める」ことそのものではなく、原因がDSDであれの低コンプライアンスであれ、・排尿時の内圧が高いこと自体が上部尿路にとって危険であるという、より一般的な原則である3。DSDは、この高圧を作る代表的な機序の1つとして重要視される。

⚠️ さらに、この40 cmH2Oという値を単独の危険指標として使うことを現行の神経泌尿器科ガイドラインは支持していない。 同ガイドラインはの項(3.3.7.b)で漏出時圧を「診断のとしては役に立たないようにみえる」とし、陽性所見の報告はあるものの「感度が低すぎて上部尿路への危険や二次的なを見積もれない」と述べている2。💡 これはMcGuireの結果を否定するものではない。 「40 cmH2Oを超える群は危ない」(McGuireが示したこと)と「40 cmH2O以下なら安全だと言える」(=感度の問題)は別の主張であり、後者が言えないというのがの指摘である。したがって漏出時圧が低いことを根拠に安心せず、病歴・・上部尿路画像・ビデオ尿流動態所見を合わせて危険度を層別化する。

診断

DSDを疑ったらで確認する。は、が疑われる患者の侵襲的には、画像を同時記録するを用いることを推奨している2。

flowchart TD
    A["脊髄病変+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='voiding symptoms'>排尿症状</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urinary intermittency'>尿線途絶</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Valsalva voiding'>腹圧排尿</span>など)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='video urodynamic study'>ビデオ尿流動態検査</span>を計画"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor pressure'>排尿筋圧</span>・尿流量・括約筋<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electromyography'>筋電図</span>を同時記録"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor muscle'>排尿筋</span>収縮中に<br>括約筋が弛緩せず収縮するか"}
    D -->|"はい"| E["DSDと診断"]
    D -->|"いいえ"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor overactivity'>排尿筋過活動</span>単独・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor underactivity'>排尿筋低活動</span>など<br>他の型を検討"]
    E --> G["漏出時膀胱内圧・上部尿路画像を評価し<br>腎機能への危険度を判定"]

排尿時の症状としては(の収縮中に括約筋が閉じるたび流れが途切れる)や(無理に押し出そうとする代償行動)がみられるが、これらだけではDSDとを鑑別できない。

治療

⭐ (CIC)が管理の基盤である。 尿路感染・結石・尿路瘻・・尿路悪性腫瘍のいずれもより頻度が低く、後の下部尿路機能障害における膀胱排出の最適な方法として一般的に推奨される4。

治療 位置づけ
治療の基盤。の収縮に頼らず定期的に膀胱を空にし、圧の上昇時間を減らす4
(膀胱壁)へのA注入 を伴う例で圧そのものを下げる。は「が無効ならを減らすためにへ注入する」ことを強く推奨している(1a)2
へのA注入 DSDそのものに対する処置で、注入部位が上と異なる。効果は数か月しか続かず反復注入を要し、利益は限定的と報告され、⚠️ 適応外(原文 not licensed)である2
(など) の緊張を緩め出口抵抗を下げる。は膀胱出口抵抗を下げるためのの処方を強く推奨している2
切開術 難治例でを機械的に解除する外科的選択肢。・水腎症・の解消、・・の低下に有効とされる一方、⚠️ 不可逆的な処置であり、型集尿器を装着できる男性に限る(を失うため)。多くの患者で定期的な再切開を要し、二次的なの狭小化が起こりうる2

⚠️ 治療のゴールは症状の消失ではなく、上部尿路を守れる圧に下げることである。 見かけ上「漏れていない」状態でも高圧・高尿が続いていれば、水腎症・を介してへ進行しうる。定期的な上部尿路画像と腎機能の監視を治療と並行して続ける。

合併症

⚠️ と水腎症が中心的な合併症である。 放置すればに進行しうる。原因となる脊髄病変は脊椎・・が代表的である。

まとめ

  • DSDはと排尿中枢の間(脊髄病変)で生じ、の収縮中にが弛緩せず逆に収縮するために生じる高圧の排出障害である。
  • 頻度は原疾患で異なり、ではとDSDを合わせて病変レベルにより最大95%、ではDSDが35%とされる。
  • ⚠️ 上部尿路を傷めるのはDSDという現象そのものではなく、それが(あるいは低コンプライアンスが)作る・排尿時の高圧である。 漏出時圧40 cmH2O超は・のリスクを大きく高めるが、現行のガイドラインはこの圧を単独の危険指標として用いることを支持していない(感度が低すぎる)。
  • 診断はで、収縮中の括約筋の異常な収縮を確認する。
  • 治療はを基盤に、(膀胱壁)へのA注入・・切開術を組み合わせ、目標は症状消失ではなく上部尿路を守れる圧まで下げることである。へのA注入はDSD自体を狙う処置だが効果は数か月で適応外である。

出典

  1. 1.Neural control of the lower urinary tract(Comprehensive Physiology・2015)下部尿路の神経制御に関する総説で、副交感神経性の骨盤神経が仙髄S2-S4分節から、交感神経性の下腹神経が胸腰髄T11-L2分節から、体性神経性の陰部神経が仙髄の運動ニューロン(Onuf核)からそれぞれ起始することを確認したほか、対麻痺患者の排尿時膀胱内圧曲線を示した図で、排尿筋と外尿道括約筋の協調関係が失われ排出障害につながることを確認した(本文で直接確認)。閲覧 2026-09-07
  2. 2.EAU Guidelines on Neuro-Urology — The Guideline(European Association of Urology (EAU)・2026)2026年3月改訂版(Limited Update March 2026)の全文PDFを発行元サイトから取得して確認した。疫学の表で、脊髄損傷の欄は「排尿筋過活動と排尿筋括約筋協調不全(DSD)が最大95%、排尿筋低活動が最大83%(病変レベルによる)」と両者を1つの値でまとめて示しており、多発性硬化症の欄は排尿筋過活動43〜65%、DSD 35%、排尿筋低活動25%と項目別に示していること(同じ脊髄損傷の欄にある35%は変性性頸髄症の下部尿路症状の有病率で別の数値である)。蓄尿・排尿時の膀胱内圧を安全域に保つことが泌尿器学的原因による死亡率を大幅に低減させること(脊髄損傷患者の生存後死因は歴史的に腎不全が主体であったこと)。セクション3.3.7で神経因性膀胱が疑われる患者の侵襲的尿流動態検査にはビデオ尿流動態検査を用いることが推奨されていること。同3.3.7.bの尿流動態検査の項が排尿筋漏出時圧について「診断の道具としては役に立たないようにみえる」「陽性所見の報告はあるが、感度が低すぎて上部尿路への危険や二次的な膀胱障害を見積もれない」と述べていること。ボツリヌス毒素Aの推奨が「抗ムスカリン薬が無効なら神経因性排尿筋過活動を減らすために排尿筋へ注入する」(強い推奨、エビデンスレベル1a)であり、DSDに対する外尿道括約筋への注入は別の節(3.4.2.e.7 膀胱頸部・尿道の処置)に置かれ、効果が数か月しか続かず反復注入を要し、利益は限定的と報告され、かつ適応外(原文 not licensed)と記されていること。膀胱出口抵抗を下げるためにα遮断薬を処方することが強い推奨であること。括約筋切開術は自律神経過反射・水腎症・反復性尿路感染の解消と排尿筋圧・残尿・膀胱尿管逆流の低下に有効な手技である一方、不可逆的でコンドーム型集尿器を装着できる男性に限るべきであり、多くの患者で定期的な再切開を要し、二次的な膀胱頸部の狭小化が起こりうることを確認した。閲覧 2026-09-07
  3. 3.Prognostic value of urodynamic testing in myelodysplastic patients(The Journal of Urology・1981)二分脊椎による神経因性膀胱42例を平均7.1年追跡したコホートで、尿道からの漏出時膀胱内圧が40cmH2O以下だった20例では膀胱尿管逆流0%・尿管拡張2例にとどまったのに対し、40cmH2Oを超えた22例では膀胱尿管逆流68%(15例)・尿管拡張81%(18例)に達したこと。なおこのコホートは35例(83%)が排尿筋無反射で、反射性排尿筋活動は7例、うち排尿筋括約筋協調不全を伴ったのは3例にとどまるため、この所見は協調不全に固有のものではなく蓄尿時内圧の高さに帰属することを確認した。閲覧 2026-09-07
  4. 4.Bladder Management Strategies for Urological Complications in Patients with Chronic Spinal Cord Injury(Journal of Clinical Medicine・2022)清潔間欠導尿は、尿路感染・結石・尿路瘻・尿道狭窄・尿路悪性腫瘍のいずれも留置カテーテルより頻度が低く、脊髄損傷後の神経因性下部尿路機能障害における膀胱排出の最適な方法として一般的に推奨されることを確認した(本文で直接確認)。閲覧 2026-09-07