疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 神経 · 疾患

多発性硬化症

Multiple sclerosis

臓器系
神経免疫・膠原病
科目
NeurologyPathologyPediatrics
トピック
神経内科 G1-23:多発性硬化症の症候と診断神経内科 G3-05:多発性硬化症の臨床病型と治療病理学 C/110:髄鞘疾患(脱髄性疾患)小児科 3-09:小児神経免疫疾患:ADEM・多発性硬化症・Guillain-Barré症候群
鑑別疾患
MOG抗体関連疾患メニエール病横断性脊髄炎視神経脊髄炎スペクトラム障害身体症状症・変換症・病気不安症進行性多巣性白質脳症副腎白質ジストロフィー良性発作性頭位めまい症・前庭神経炎頸髄症
続発疾患
三叉神経痛神経因性膀胱尿失禁声帯麻痺
関連疾患
ギラン・バレー症候群
治療薬
メチルプレドニゾロンナタリズマブフィンゴリモドリツキシマブグラチラマーバクロフェンチザニジンガバペンチンクラドリビンアレムツズマブ
症状
しびれ核間性眼筋麻痺倦怠感視力低下視神経炎振戦神経障害性疼痛切迫性尿失禁発熱複視痙性麻痺小脳性運動失調眼振半側顔面痙攣尿線途絶
検査値
抗体価髄液検査
適応薬
アレムツズマブオザニモド

🧠 全体像(MS)は中枢神経系(視神経・脳・脊髄)に限局する自己免疫性で、診断の核心は「病変が空間的(複数部位)かつ時間的(複数時期)に多発している」ことを、臨床像・MRI・髄液所見を統合して示すことにある——単一の症状や1回のMRIだけでは確定しない。臨床経過はを起点に、活動性(再発・新規MRI病変)と進行性(再発と独立した障害蓄積)という2つの軸で記述され、治療は近年「弱い薬から段階的に強くする」段階的治療から、予後不良因子を持つ例では診断早期から高有効性薬を選ぶ個別化へと重心が移っている。

病態

自己免疫性脱髄のカスケード

(HLA-DRB1*15:01など)と環境因子(EBV既感染、低ビタミンD、高緯度居住、喫煙)が組み合わさり、に対するが破綻する。CD4陽性T細胞(Th1・Th17)を中心とするが血液脳関門を越えて中枢神経に浸潤し、とその髄鞘を標的として攻撃する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic predisposition'>遺伝的素因</span>+環境因子(EBV既感染・低ビタミンD・高緯度・喫煙)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myelin antigen'>髄鞘抗原</span>に対する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune tolerance'>自己免疫寛容</span>の破綻"]
    B --> C["CD4陽性T細胞(Th1・Th17)を中心とする<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune cell'>免疫細胞</span>の中枢神経浸潤"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligodendrocyte'>オリゴデンドロサイト</span>・髄鞘の傷害"]
    D --> E["活動性プラーク(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foamy macrophage'>泡沫マクロファージ</span>、進行中の脱髄)"]
    E --> F["軸索の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conduction disturbance'>伝導障害</span>・軸索傷害"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute exacerbation'>急性増悪</span>=再発(症候の新規出現)"]
    E --> H["慢性活動性プラーク(辺縁脱髄+中心の軸索喪失・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gliosis'>グリオーシス</span>)"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inactive'>非活動性</span>(沈黙)プラーク(炎症消退、髄鞘喪失+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gliosis'>グリオーシス</span>のみ)"]
    I --> J["再発と独立した緩徐な障害進行(PIRA)"]

💡 中枢神経の髄鞘は由来で、末梢神経のと異なり1細胞が複数のする必要があるために乏しい。再発のたびに脱髄・を繰り返すうちに前駆細胞が枯渇し、が不完全になって軸索傷害が蓄積する。これが「再発とは独立した進行(PIRA:progression independent of relapse activity)」と呼ばれる、近年注目されているくすぶり型の病態の基盤である。

⭐ 病理学的にプラークは脳室周囲・視神経・脳幹・脊髄に好発し、時期によって活動性プラーク()、慢性活動性プラーク(辺縁脱髄+中心軸索喪失)、プラーク(炎症なし)に分類される。

分類

臨床経過による分類(2013年Lublin改訂)

病型 定義 備考
中枢神経脱髄に典型的な単相性の初発エピソード MSと確定する前段階。MRI等でMSの基準を満たせば・早期治療の対象
MS(RRMS) 明瞭な再発と部分的・完全な回復を反復 MSの初発病型として最多。活動性あり/なしを付記
(SPMS) RRMSの後、再発とは独立した障害進行が持続 活動性あり/なし、進行あり/なしを付記
(PPMS) 発症時から緩徐な進行が主体で、再発が目立たない 活動性あり/なし、進行あり/なしを付記

⚠️ 「(PRMS)」はかつての4病型分類(1996年)に含まれていたが、2013年のLublin改訂で独立病型としては廃止された。現在この経過を示す例は「活動性を伴う」として記述する。

MSの主要な鑑別:NMOSD・MOGAD

MSに類似した中枢脱髄をきたす疾患として、抗4(AQP4)抗体陽性のと、(MOGAD)を鑑別する。MSでは特異的な自己抗体が同定されていないのに対し、NMOSDとMOGADはそれぞれ特異的な抗体を診断・治療標的の軸とする点が最大の違いである。

項目 MS NMOSD(AQP4抗体陽性) MOGAD
特異抗体 同定されていない (高力価は高特異度) は他疾患でも陽性となり得るため解釈に注意)
典型病変 脳室周囲・皮質/・脊髄(短分節) 視神経()、延髄、視床下部、長大な脊髄病変(LETM) (両側性が多い)、大きくまだら状の脳病変、脊髄病変
髄液 CSF特異的陽性が多い 陰性のことが多い 陰性のことが多い
治療の方向性 (下記) 抗補体薬・抗薬・抗CD19薬などNMOSD特異的治療 ステロイド・IVIG・に反応しやすく、再発予防は個別化

⚠️ NMOSDにMSの(特にβ、)を誤投与すると増悪しうるため、抗体検査による鑑別を治療開始前に確実に行う。

小児期発症MSとADEMとの鑑別

小児ではが中枢脱髄の重要な鑑別となる。ADEMは感染後などに生じる単相性の経過をとり、脳症(意識障害)を伴う点がMSと異なる。

項目 ADEM 小児期発症MS
経過 単相性が典型 時間的・空間的に多発、再発性
意識 脳症が診断上重要 通常は明らかな脳症を伴わない
MRI 大きく境界不明瞭な両側病変が多い 典型部位(脳室周囲など)の境界明瞭病変
急性期治療 高用量静注ステロイド、難治例でIVIG・ 高用量ステロイド。再発予防薬は専門医が選択

臨床像

  • :片眼のがMSの初発症状として頻度が高い。
  • 病変により、患側眼の内転障害と対側眼の外転時眼振をきたす。の原因となる。
  • 、帯状の締め付け感など。
  • :頸部をすると背部から四肢への感覚が放散する現象で、後索病変を示唆する。
  • :体温上昇(入浴、発熱、運動)により既存の症状が一時的に悪化する現象。の伝導が体温上昇でさらに障害される可逆的な現象であり、新たな脱髄や再発そのものではない。
  • 運動・亢進、失調、振戦、
  • 膀胱直腸障害など。
  • 疲労・:情報や注意の低下、気分症状。これら単独ではMSに特異的ではない。

⚠️ 典型的な再発は、発熱や感染がない状態で新規または増悪した神経症候が通常24時間以上持続するものと定義される。のような体温上昇に伴う一過性の症状増悪(偽再発)と混同しない。

診断

MSの診断は、典型的な中枢神経脱髄症候を前提に、(複数の中枢位に病変)と(複数の時期に病変が生じている)を示し、かつ他のより適切な診断がないことを確認する2017年改訂に基づく。

  • MRI:脳室周囲・皮質/・テント下・脊髄のに病変があればを満たす。造影病変と病変が混在する、またはに新規病変が出現すればを満たす。脳室周囲の病変は脳室に対して直角に並ぶ特徴的な形態()を示すことが多い。
  • 髄液:CSF特異的陽性は2017年改訂での代替所見として採用され、を満たす典型的な(CIS)で、MRI上はを示さなくても陽性があればMSと診断できるようになった。
  • などで無症候性のを補助的に評価することがある。
  • :NMOSD、MOGAD、感染性、血管炎、、ビタミンB12欠乏、脳血管危険因子に伴う非特異的などを臨床像に応じて除外する。MRIは片頭痛や加齢でも生じるため、非典型例で病のみから診断してはならない。
flowchart TD
    A["中枢神経脱髄に典型的な単相性エピソード(CIS)"] --> B["MRIで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dissemination in space'>空間的多発性</span>を確認"]
    B --> C{"MRIで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dissemination in time'>時間的多発性</span>(新規病変・造影と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unenhanced imaging'>非造影</span>の混在)を満たすか"}
    C -->|"はい"| D["MS確定診断"]
    C -->|"いいえ"| E["髄液でCSF特異的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligoclonal bands (OCB)'>オリゴクローナルバンド</span>を確認"]
    E -->|"陽性"| D
    E -->|"陰性"| F["経過観察・MRI再検で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dissemination in time'>時間的多発性</span>の出現を待つ"]
    A --> G["非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='typical finding'>典型所見</span>(脳症、視神経以外の眼科的異常、末梢神経障害など)"]
    G --> H["NMOSD・MOGAD・ADEM・感染・血管炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcoidosis'>サルコイドーシス</span>など鑑別を優先"]

⭐ 2017年改訂McDonald基準の要点は、①症候性・無症候性を問わず病変をの判定に使えるようになったこと、②皮質病変もの部位として認められたこと、③典型的CISでMRI上のがある場合、CSF特異的陽性のみでの代替として確定診断できるようになったことである。

治療

急性期(再発)治療

機能障害を伴う再発には高用量(通常3〜5日間)を行い、回復を早める。軽微なのみなど機能障害が乏しい再発では必ずしも投与しない。ステロイド投与前には感染を除外し、の重症再発ではを検討する。

⚠️ 低用量の経口を漫然と継続する治療は現在の標準ではない。

疾患修飾療法(DMT)

診断後は疾患活動性、予後不良因子、年齢、、妊娠計画、感染・悪性、モニタリング、本人の価値観を統合し、で選択する。近年は「弱い薬から段階的に強くする」段階的治療だけでなく、予後不良因子を持つ例では診断早期から高有効性薬を選ぶ戦略も広く検討されるようになっている。

有効性の目安 代表薬 主な注意点
中等度(注射薬) β、 長期使用経験が豊富だが有効性は限定的
中等度( など 血球数・肝機能、感染、催奇形性、S1P調節薬の初回投与時徐脈などを薬剤別に監視
高有効性 JCウイルス・投与期間・既往免疫抑制歴から(PML)リスクを層別化して監視する
高有効性 抗CD20抗体(リツキシマブなど) 再発型に高い有効性。にも適応。B細胞減少に伴う感染・、ワクチン反応低下を管理
高有効性( 少数回投与で長期抑制を狙う治療。感染、、悪性腫瘍を厳格に監視
進行型に限定 (活動性を伴うSPMS) CYP2C9遺伝子型、心拍・感染リスクを確認して導入

のPML(JCウイルスによる)リスクは、JCウイルス(インデックス)で層別化する:抗体陰性ではリスクが低く、陽性例でもが低いほどリスクは低い。が高い例、投与期間が長い例(特に2年以上)、の使用歴がある例でリスクが上昇するため、定期的な測定と投与期間に応じたモニタリングを継続する。

症候・生活支援

問題 管理例
、局所
などの、抗うつ薬などを個別化
/排出障害の評価に基づくまたは
リハビリテーション、補助具、選択例で
疲労・認知・気分 睡眠、薬剤、貧血、うつを評価したうえで運動療法、エネルギー配分指導、心理支援

は、標準的なに反応しない高活動性の選択例に対し、専門施設で慎重に検討される治療であり、一般的な「幹細胞療法」として広く提供されるものではない。

まとめ

  • MSは中枢神経系限局の自己免疫性で、と環境因子(EBV、低ビタミンD、高緯度、喫煙)を背景にCD4陽性T細胞が・髄鞘を攻撃し、脱髄と軸索傷害を蓄積させる。再発とは独立した緩徐な障害進行(PIRA)はくすぶり型の病態を反映する。
  • 臨床経過はCIS、RRMS、SPMS、PPMSの4病型(2013年Lublin改訂)に活動性・進行性の修飾語を付けて記述し、旧分類のPRMSは現在は独立病型として用いない。NMOSD・MOGAD・小児のADEMは重要な鑑別で、抗体検査と髄液・MRI所見で区別する。
  • 臨床像は、膀胱直腸障害、疲労など多彩。
  • 診断は2017年改訂McDonald基準に基づき、MRIでの空間的・とCSF特異的を組み合わせ、他疾患の除外を経て確定する。
  • 急性期は高用量ステロイドパルス(抵抗例は)、再発予防は疾患活動性・予後因子に応じて中等度〜高有効性のを早期から個別化し、はJCウイルスに基づくPMLリスク管理を継続する。症候管理とリハビリテーションを並行して行う。