脳神経内科学

脳神経内科学 · G3-05

多発性硬化症の臨床病型と治療

G3-05: Clinical types and treatment of multiple sclerosis

前提:病態
髄鞘疾患(脱髄性疾患)
前提:正常
自然自己免疫と病的自己免疫
薬剤
アレムツズマブ
疾患
多発性硬化症

🧠 全体像:(MS)は中枢神経の炎症性脱髄と障害を反復・進行させる疾患である。病型名だけで治療を決めず、「再発または新規病変という活動性」と「再発と独立した進行」の有無を継続的に評価し、早期にを選ぶ。

現在の臨床経過分類

経過 定義 評価の修飾語
MS(RRMS) 明瞭な再発と部分的・完全な回復を反復 活動性あり/なし、悪化あり/なし
(SPMS) RRMSの後、再発とは独立した障害進行が持続 活動性あり/なし、進行あり/なし
(PPMS) 発症時から徐々に障害が進行 活動性あり/なし、進行あり/なし

「(PRMS)」は古い4病型分類の用語で、現在は独立病型として用いず、活動性を伴うPPMSとして記述する1。

💡 2013年改訂で「活動性」「進行」という修飾語が導入され、これに伴いPRMSという独立病型が廃止された。 同じ改訂で、上MS様の病変を認めるが臨床症候を伴わない「臨床孤立症候群(CIS)」もMS病型のスペクトラムに新たに組み込まれた1。

症候と再発の確認

、、、感覚障害、、膀胱直腸障害、疲労、疼痛、認知・が生じる。再発とは感染や発熱がない状態で新規・増悪した神経症状が通常24時間以上続くことであり、発熱や感染に伴う一過性増悪は偽再発として区別する。

疾患修飾治療

flowchart TD
  A["MSを診断"] --> B["活動性・進行・予後不良因子・妊娠希望・感染リスクを評価"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disease-modifying therapy (DMT)'>疾患修飾薬</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shared decision-making'>共同意思決定</span>で選択"]
  C --> D["再発・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>・障害・安全性を定期監視"]
  D --> E{"活動性または進行が続くか"}
  E -->|"はい"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adherence'>アドヒアランス</span>と診断を再確認し、治療強化・変更"]
  E -->|"いいえ"| G["有効性と安全性を監視し継続"]
戦略・薬剤例 主な位置づけ・注意
、酢酸 の経験が多いが、有効性は中等度
、、 。血球・肝機能、感染、催奇形性、初回心拍など薬剤別監視が必要
高有効性。JCV抗体、投与期間、既往免疫抑制からリスクを評価2
再発型に高い有効性3。はPPMSにも適応4。感染・免疫グロブリン・ワクチンを管理
、 選択例で用いる治療。感染、自己免疫、悪性腫瘍等を厳格に監視
活動性を伴うSPMSで検討5。CYP2C9や心拍・感染リスクを確認

薬剤選択は疾患活動性、年齢、、妊娠計画、感染・悪性腫瘍リスク、モニタリング可能性、本人の価値観を統合する。単純な「段階的に弱い薬から」という一律運用ではなく、予後不良例では早期高有効性治療も検討する。

💡 妊娠中は自然に再発率が下がり、に上がる。 欧州12か国254例・269妊娠の前向き研究(PRIMSコホート)では、妊娠前の年間再発率0.7に対しは0.2まで低下し、出産後最初の3か月間に再発率が上昇した後、妊娠前の水準へ戻った6。この生理的変動を踏まえたうえで、妊娠計画のある患者の選択(催奇形性・授乳との適合性)を個別化する。

再発治療

機能障害を来す再発には高用量を通常3〜5日投与し、回復を早める7。ただし、長期の障害度を改善する効果を示すデータは乏しい7。軽微ななどでは必ずしも投与しない。感染を除外し、の重症再発ではを検討する。低用量の経口を漫然と用いる治療ではない。

💡 高用量に限れば、も静注と同等の効果が示されている。 199例を対象にした(COPOUSEP試験)で、経口1000mg/日・3日間は同用量・同日数の静注群と比較され、28日目の改善達成率に有意差がなくが確認された8。これは上記の「低用量の経口を漫然と用いる治療ではない」という記述と矛盾しない——が示されたのはあくまで高用量のであり、低用量の経口漫然投与とは別である。

症候・生活支援

問題 管理例
、、、局所
、抗うつ薬などを個別化
と・排出障害を評価し、や
リハビリテーション、補助具、選択例で
疲労・認知・気分 睡眠・薬剤・貧血・うつを評価し、運動、エネルギー配分、心理支援

は高活動性で標準治療に反応しない選択例に専門施設で検討する治療であり9、一般的な「幹細胞療法」として提供しない。

まとめ

  • MSはRRMS、SPMS、PPMSを活動性と進行性の修飾語とともに記述する。
  • PRMSは歴史的分類であり、現在は活動性を伴うPPMSとして扱う。
  • は早期に個別化し、再発・・障害進行と薬剤固有の安全性を継続監視する。

出典

  1. 1.Defining the clinical course of multiple sclerosis: the 2013 revisions(Neurology(International Advisory Committee on Clinical Trials of MS)・2014)2013年改訂により、再発寛解型・二次進行型・一次進行型という基本病型に「活動性の有無」「進行の有無」という修飾語を付記する形式が導入されたこと、この活動性という修飾語の導入によって進行再発型MS(PRMS)という独立病型を廃止し急性増悪を伴う一次進行型は活動性を伴うPPMSとして記述することとしたこと、臨床孤立症候群(CIS)がMS病型スペクトラムに新たに組み込まれたことを、本文Glossaryおよび New disease courses 節で確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.Anti-JC virus antibody levels in serum or plasma further define risk of natalizumab-associated progressive multifocal leukoencephalopathy(Annals of Neurology(Plavina T, et al.)・2014)ナタリズマブ関連PML患者71例と非PMLの抗JCV抗体陽性患者2,522例の比較で、免疫抑制薬の使用歴がない患者では抗JCV抗体indexの分布がPML群で有意に高く(p<0.0001)、抗体の陽性・陰性という二分法だけでなくindex値によってPMLリスクをさらに層別化できることを確認した閲覧 2026-08-27
  3. 3.Ocrelizumab versus Interferon Beta-1a in Relapsing Multiple Sclerosis(New England Journal of Medicine(OPERA I and OPERA II Clinical Investigators)・2017)再発型MS患者821例・835例を対象とした同一デザインの2つの第3相試験(OPERA I・II)で、オクレリズマブ600mg・24週ごと静注群はインターフェロンβ-1a皮下注群に比べ、年換算再発率がOPERA Iで0.16対0.29(46%低下)、造影病変数がOPERA Iで94%減少するなど、再発型MSにおいて既存の実薬(インターフェロンβ-1a)を上回る大きな効果量を示したことを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Ocrelizumab versus Placebo in Primary Progressive Multiple Sclerosis(New England Journal of Medicine(ORATORIO Clinical Investigators)・2017)一次進行型多発性硬化症患者732例を2対1でオクレリズマブ600mg・24週ごと群とプラセボ群に無作為割付けした第3相試験で、12週時点で確定した障害進行がオクレリズマブ群32.9%・プラセボ群39.3%(ハザード比0.76、95%CI 0.59-0.98、p=0.03)とオクレリズマブ群で有意に低かったこと。一次進行型MSに有効性を示した最初の疾患修飾薬の無作為化試験であることを確認した閲覧 2026-08-27
  5. 5.Siponimod versus placebo in secondary progressive multiple sclerosis (EXPAND): a double-blind, randomised, phase 3 study(The Lancet(EXPAND Clinical Investigators)・2018)二次進行型MS患者1,651例(EDSS 3.0-6.5、ベースラインで64%は過去2年間に再発を経験していない)を2対1でシポニモド2mg/日群とプラセボ群に無作為割付けした第3相試験で、3か月時点の確定障害進行がシポニモド群26%・プラセボ群32%(ハザード比0.79、95%CI 0.65-0.95、相対リスク減少21%、p=0.013)と有意に低かったこと。活動性・非活動性を問わず登録した二次進行型MS全体を対象とした試験であったことを確認した閲覧 2026-08-27
  6. 6.Rate of pregnancy-related relapse in multiple sclerosis(New England Journal of Medicine(Pregnancy in Multiple Sclerosis Group)・1998)欧州12か国のMS女性254例・269妊娠を対象にした前向き研究(PRIMSコホート)で、妊娠前年の年間再発率0.7±0.9に対し妊娠第1三半期0.5±1.3(p=0.03)・第3三半期0.2±1.0と妊娠後半にかけて再発率が有意に低下したこと、出産後最初の3か月間に再発率が上昇し、その後妊娠前の水準に戻ったことを確認した閲覧 2026-08-27
  7. 7.Corticosteroids or ACTH for acute exacerbations in multiple sclerosis(Cochrane Database of Systematic Reviews・2000)MS急性増悪に対しステロイドまたはACTHとプラセボを比較した無作為化二重盲検試験6件(377例)のコクランレビューで、投与後5週間以内の病状悪化阻止・安定化に保護効果(オッズ比0.37、95%CI 0.24-0.57)を認めたこと。一方、1年後の転帰を報告した試験は51例の1件のみで経口メチルプレドニゾロンとプラセボの間に新規増悪予防・長期障害度改善のいずれにも差を検出できず、長期進行に対する効果を示すデータは1年を超えて存在しないと結論していることを確認した閲覧 2026-08-27
  8. 8.Oral versus intravenous high-dose methylprednisolone for treatment of relapses in patients with multiple sclerosis (COPOUSEP): a randomised, controlled, double-blind, non-inferiority trial(The Lancet(COPOUSEP investigators)・2015)再発寛解型MSの再発患者199例を、経口メチルプレドニゾロン1000mg/日・3日間群とプラセボ点滴を併用した静注メチルプレドニゾロン1000mg/日・3日間群に1対1で無作為割付けし、非劣性マージン15%で検証した二重盲検試験(COPOUSEP試験)で、28日目の改善達成率が経口群81%・静注群80%(絶対差0.5%、90%CI -9.5〜10.4)と非劣性が示されたこと。不眠が経口群でやや多かった(77%対64%)ものの有害事象の頻度は概ね同様であったことを確認した閲覧 2026-08-27
  9. 9.Effect of Nonmyeloablative Hematopoietic Stem Cell Transplantation vs Continued Disease-Modifying Therapy on Disease Progression in Patients With Relapsing-Remitting Multiple Sclerosis: A Randomized Clinical Trial(JAMA・2019)過去1年に2回以上再発した再発寛解型MS患者110例を、非骨髄破壊的自家造血幹細胞移植(シクロホスファミド200mg/kg+抗胸腺細胞グロブリン6mg/kg併用)群55例と、より強力または異なるクラスへ変更した疾患修飾薬群55例に無作為割付けした試験(MIST試験)で、障害進行(EDSS 1.0点以上の増加が6か月間隔の2回評価で持続)が移植群3例・DMT群34例(ハザード比0.07、95%CI 0.02-0.24)と移植群で有意に少なかったこと。標準治療に反応しない選択例を対象とした予備的研究であり、長期転帰と安全性の確認にはさらなる研究が必要と著者が結論していることを確認した閲覧 2026-08-27