疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 疾患

尿道狭窄

Urethral stricture

別名
尿道狭窄症urethral stricture disease
臓器系
腎・泌尿器
科目
Urology
トピック
泌尿器科学 U-06:尿路の狭窄と瘻孔泌尿器科学 U-05:尿道・外性器損傷とその早期・晩期合併症泌尿器科学 U-09:尿失禁と尿流動態検査(urodynamics)
鑑別疾患
前立腺肥大症尿道口狭窄排尿筋低活動
合併症
急性腎障害尿路結石症急性腎盂腎炎・腎膿瘍
続発疾患
尿失禁
原因微生物
淋菌
症状
尿勢低下尿線途絶腹圧排尿残尿感排尿痛
検査値
尿流量測定
画像所見
水腎症
原因となる疾患
泌尿生殖器外傷

🧠 全体像は、尿道壁のにより内腔が狭小化し、を中心とする排出症状を来すの代表的な原因である。と症状だけでは区別しにくいが、病因が構造的な瘢痕である点、に反応しない点、を伴いうる点で機序が異なる。病因は「①(骨盤骨折・跨座位損傷)」「②医原性(留置・)」「③炎症性(尿道炎後・尿道硬化症)」の3群に整理すると理解しやすく、この3群の頻度は地域によって大きく異なる——欧米では医原性・特発性が主体だが、資源の乏しい地域では感染性が主体を占める。診断はを初期評価とし、・超音波で狭窄の部位・長さ・重症度を確定するという順序をたどり、治療は「短い球部には拡張術・DVIU・尿道形成術のいずれも初回選択肢になりうるが、再発したら反復治療ではなく尿道形成術に切り替える」という原則で一貫している。

定義

尿道壁のにより尿道内腔が狭小化した状態を指す。用語上「」は前部尿道(陰茎部・球部)のを指すのが本来の用法で、後部尿道(・前立腺部)の狭窄は複合体を含むため区別して「複合体狭窄」と呼ばれることが多い1。女性は尿道が短く可動性があるためそのものが稀である。

病因

の病因は3群に整理できる。

病因群 具体例 特徴
骨盤骨折関連尿道損傷(後部尿道)、跨座位損傷(straddle injury、球部尿道) の晩期合併症として生じる
医原性 留置、手術(TUR-P など)、手術、前立腺摘除術、 欧米では最多の病因群
炎症性 尿道炎後(淋菌感染後が代表)、 資源の乏しい地域では感染性が病因の主体を占める

⭐ 欧米における内訳は、特発性が41%、医原性が35%(・長期)、が19%、炎症性が15%である1特発性が最大の群を占める点は見落とされやすい。

💡 は他の病因より狭窄が長くなりやすく、陰茎部尿道に好発し、尿道癌との関連も指摘されている。生検を要することがある病因である。

病態

flowchart TD
    A["尿道粘膜・海綿体の損傷"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='traumatic'>外傷性</span><br>(骨盤骨折・跨座位損傷)"]
    A --> C["医原性<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catheterization'>カテーテル留置</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transurethral procedure'>経尿道的処置</span>)"]
    A --> D["炎症性<br>(尿道炎後・尿道硬化症)"]
    B --> E["尿道壁の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scarring'>瘢痕化</span><br>"]
    C --> E
    D --> E
    E --> F["尿道内腔の狭小化"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bladder outlet obstruction (BOO)'>膀胱出口閉塞</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor muscle'>排尿筋</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='compensatory hypertrophy'>代償性肥大</span><br>→やがて疲労・機能不全"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='residual urine (post-void residual)'>残尿</span>・尿閉<br>反復性尿路感染症<br>上部尿路への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pressure overload'>圧負荷</span>"]

膀胱出口の抵抗が上がると、に収縮力を高めて瘢痕部の抵抗に打ち勝とうとする。この代償が続くうちにが疲労し、(いったん流れが途切れて再収縮する)という特徴的な排尿パターンを生む——の病態生理で扱う「」の典型例がである。放置すればの代償はやがて破綻し、の増加、尿閉、反復性尿路感染症、水腎症を介した上部尿路障害へ進行しうる。

臨床像

排出症状が中心で、・二段排尿・排尿後尿・原因不明の・反復性尿路感染症のいずれかを呈する。約70%は閉塞症状のみでを伴わない1

⚠️ との鑑別点をで押さえる。 は器具操作歴・外傷歴を伴いやすく、に反応せず、時の飛距離低下・分裂(尿道内腔の狭小化により精液の排出路も障害される)というにはない所見を伴いうる。のノートでも「尿道操作歴・外傷歴があれば加齢性のとは別にそのものを疑う」という同じ注意点を扱っている。

進行すると陰茎・陰嚢の浮腫、会陰部の腫脹(尿道周囲膿瘍・尿溢流)を来すことがある1

診断

flowchart TD
    A["排出症状を疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uroflowmetry'>尿流量測定</span>(初期評価)"]
    B --> C{"Qmax 12 mL/秒未満か<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pointed'>尖鋭</span>な平坦部を示すか"}
    C -->|"示唆的"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retrograde urethrography'>逆行性尿道造影</span>/<br>超音波<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urethrography'>尿道造影</span>"]
    C -->|"非典型"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='benign prostatic hyperplasia (BPH)'>前立腺肥大症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor underactivity'>排尿筋低活動</span><br>など他の原因を再検討"]
    D --> F["狭窄の部位・長さ・重症度を確定"]
    F --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute urinary retention'>急性尿閉</span>・高度閉塞か"}
    G -->|"あり"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='suprapubic catheter'>恥骨上カテーテル</span>留置で<br>尿路を確保"]
    G -->|"なし"| I["重症度に応じ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を選択"]

初期評価にはを用いる。Qmax(最大尿流率)12 mL/秒未満、および流量曲線での鋭い平坦部を示す所見がを示唆する1はスクリーニングとしては有用だが、低流量の原因を単独では確定できない点はの鑑別)でも扱った限界と同じである。

確定診断にはが標準検査で、狭窄の部位・長さ・重症度を評価する。超音波は非侵襲的な代替法で、男性前部尿道において高い感度・特異度を持つが、検者の熟練度に依存する2下に迅速かつ確定的に診断でき、そのまま治療(拡張術)へ移行できる利点がある。

治療

⚠️ 短い球部では初回治療の選択肢が複数あるが、再発したら方針を切り替えるという原則を押さえる。

病態 治療
短い(2cm未満)球部・初回 尿道拡張術、、尿道形成術のいずれも初回選択肢となる。は簡便だが3年以内の再発率が約65%と高く1、尿道形成術は80〜95%の成功率を示す2
拡張術・DVIU失敗後の再発性狭窄 反復したではなく尿道形成術を提示する。3cm未満の再発性球部に限り、薬剤コーティングとの併用を代替として考慮してもよい2
長い狭窄・陰茎部 置換(移植)尿道形成術。口腔が第一選択の移植材料で、総合成功率は85%超1
広範囲・多発性・高リスク例 会陰部尿道瘻術。根治ではなく選択肢だが、を保ちながら高い患者満足度が得られる
留置で尿道への追加外傷を避け、4〜6週間の尿道安静期間を置いてから根治術式を検討する1

💡 持続的な自己も内腔を保つ手段として用いられ、3か月以下より4か月超続けたほうが再発率が低いとされる1

尿道形成術を実施しないは、実施可能なへ紹介することが推奨される2

合併症

放置されたは「瘢痕の進行→内腔のさらなる狭小化」という悪循環をたどる。反復性尿路感染症、の形成)、慢性の尿失禁)、水腎症を介した、尿道瘻がありうる。

まとめ

  • は尿道壁のによる内腔狭小化で、の代表的な原因である。病因は・医原性・炎症性の3群に整理でき、欧米では医原性・特発性が主体、資源の乏しい地域では感染性が主体を占める。
  • と症状が重なるが、に反応しない点・を伴いうる点・器具操作歴や外傷歴を伴いやすい点で鑑別する。
  • 診断は(Qmax 12 mL/秒未満、鋭い平坦部)を初期評価とし、または超音波で狭窄の部位・長さ・重症度を確定する。
  • 短い球部では拡張術・DVIU・尿道形成術のいずれも初回選択肢になりうるが、の再発率は3年で約65%と高く、再発すれば反復治療ではなく尿道形成術に切り替える。長い狭窄・陰茎部には口腔による置換尿道形成術を用いる。
  • 放置すれば反復性尿路感染症、、水腎症を介した腎障害に進行しうる。

出典

  1. 1.Urethral Strictures(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)尿道狭窄の解剖学的分類(前部尿道が全体の92.2%を占め、球部尿道46.9%・陰茎部尿道30.5%・球陰茎部合併9.9%・全尿道性4.9%に細分されること)、欧米での病因の内訳(特発性33〜41%、医原性33〜35%[経尿道的切除41%・長期カテーテル留置36%・膀胱鏡検査12.7%・尿道下裂手術6.3%・前立腺摘除3.2%の内訳を含む]、外傷性19%、炎症性15%[尿道硬化症・淋菌感染後を含む])、典型的な排出症状(尿勢低下・腹圧排尿・残尿感・二段排尿・尿線途絶・排尿後尿滴下・原因不明の排尿痛・反復性尿路感染症で約70%が閉塞症状のみを呈すること)、前立腺肥大症との違い(α遮断薬に反応せず射精障害を伴いうる点)、尿流量測定でQmax 12 mL/秒未満が示唆所見となり尖鋭で明瞭な平坦部を呈すること、逆行性尿道造影・排尿時膀胱尿道造影が尿道全体の狭窄部位・数・長さ・重症度を描出すること、短い(2cm未満)球部尿道狭窄への尿道拡張術・内視鏡下尿道切開術(DVIU)がいずれも3年以内に約65%の再発率を示すこと、短い球部尿道狭窄への吻合的尿道形成術が90%超の成功率(勃起機能障害・再発とも約5%)を示すこと、長い狭窄への置換(移植)尿道形成術が85%超の総合成功率を示し口腔粘膜移植が第一選択の移植材料であること、急性尿閉には恥骨上カテーテル留置で尿道への追加外傷を避け4〜6週間の尿道安静期間を置くことを確認した閲覧 2026-08-10
  2. 2.Urethral Stricture Disease Guideline Amendment (2023)(American Urological Association (AUA)・2023)尿道狭窄の診断に尿道膀胱鏡検査・逆行性尿道造影・排尿時膀胱尿道造影・超音波尿道造影のいずれかを用いること(Statement 3)、逆行性尿道造影が狭窄の長さ・部位・重症度を評価する標準検査である一方、超音波尿道造影が男性前部尿道で高い感度・特異度を持つ非侵襲的な代替法であること、短い(2cm未満)球部尿道狭窄には尿道拡張術・内視鏡下尿道切開術(DVIU)・尿道形成術のいずれを初回治療として提示してもよいこと(内視鏡的治療の成功率35〜70%に対し尿道形成術は80〜95%、Statement 7)、拡張術またはDVIUに失敗した再発性前部尿道狭窄には反復した内視鏡的治療ではなく尿道形成術を提示すべきであること(Statement 11a)、3cm未満の再発性球部尿道狭窄では薬剤コーティングバルーンと内視鏡治療の併用を代替として考慮しうること(Statement 11b)、尿道形成術を実施しない術者は実施可能な術者へ紹介すべきであること(Statement 12)を確認した閲覧 2026-08-10