組織病理学

組織病理学 · H2-077A

前立腺結節性過形成

Nodular hyperplasia

描出疾患
前立腺肥大症

🧠 全体像:、すなわち良性前立腺過形成(benign prostatic hyperplasia: BPH)は、・で腺上皮と線維筋性間質が結節状に増殖する良性病変である。40歳代以降に増え、尿道からを生じうるが、前立腺癌のではない。

発生と形態

flowchart TD
    A["加齢と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='androgen-dependent'>アンドロゲン依存性</span>"] --> B["前立腺内の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dihydrotestosterone'>DHT</span>作用"]
    B --> C["上皮・間質の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth factor'>増殖因子</span>シグナル"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transformation zone (prostate: transition zone)'>移行帯</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='periurethral'>尿道周囲</span>に結節形成"]
    D --> E["尿道<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass effect'>圧排</span>・膀胱出口抵抗"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='voiding symptoms'>排尿症状</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='residual urine (post-void residual)'>残尿</span>・尿閉"]

前立腺内ではがテストステロンをへ変換し、を介して病変の維持に関与する。「加齢でが必ず増え、が一律に増える」と単純化せず、局所の上皮間質相互作用を含む病態として理解する。実測では前立腺内濃度はで上昇しておらず、血漿テストステロンが加齢とともに低下しても前立腺内では正常値に保たれる。前立腺で優位なのはtype 2ので、は血清を約70%、前立腺内を85〜90%まで抑える1。

所見 要点
部位 ・
腺性結節 、、内腔突出を伴う腺
上皮 との性を保つ
間質性結節 平滑筋とが増生
腺 結節周囲で細長く圧迫される
外科的被膜 外側前立腺がされてできる境界で、真の解剖学的被膜ではない

の保持は前立腺腺癌との重要な鑑別点である。

💡 過形成と癌は、出てくる帯が違う。 104例の帯別解析では、発生帯を同定できた88癌のうち68%が辺縁帯、24%が、8%がから生じており、過形成の本拠地であるは癌の主座ではなかった2。癌はで見つかることが多く過形成結節の中から出たようにみえるが(非癌67例中でにより診断されたのは2例のみ)、これは同じ帯に併存しうることを示すのであって、過形成が癌へ進展することを意味しない。

症状・評価・治療

症状群 代表例
排尿開始遅延、、間欠尿
頻尿、、
合併症 、、、上部尿路障害

では平滑で弾性硬の腫大を示しやすいが、前立腺容量と症状の強さは一致しない。40〜79歳の地域住民集団では、年齢はの変動の3%しか説明せず、前立腺容量と率を加えても説明できるのはさらに10%にとどまった(ただし年齢調整後、容量50mL超では中等症以上の症状のが3.5倍)3。評価では症状、尿検査、を基本とし、必要に応じ、尿流、前立腺容量、などを確認する。

軽症では経過観察、治療希望例ではなどを用いる。は前立腺腫大がある場合に進行・尿閉リスクを下げる目的で選ぶ。平均4.5年追跡した3,047例の試験では、が臨床的進行(の4点以上の悪化・・尿失禁・・のいずれか)のリスクを34%下げ、(39%減)とは異なりとの必要性も有意に減らした。両者の併用は66%減で単剤より優れていた4。難治性症状、反復性尿閉・感染、、などでは手術、、その他の低侵襲治療を個別に検討する。

正準ノートは前立腺、臨床病理の補足は前立腺炎/を参照する。

まとめ

  • BPHは・の腺性・間質性過形成である。
  • 性とを保ち、腺癌のではない。
  • 治療は組織学的過形成そのものではなく、症状・閉塞・合併症に基づいて選ぶ。

出典

  1. 1.Dihydrotestosterone and the concept of 5alpha-reductase inhibition in human benign prostatic hyperplasia(World Journal of Urology・2002)前立腺の主たるアンドロゲンはジヒドロテストステロンだが、その濃度は良性前立腺過形成で上昇しておらず、血漿テストステロンが加齢とともに低下しても前立腺内では正常値に保たれる。前立腺で優位な5α還元酵素はtype 2で、フィナステリドは血清DHTを約70%、前立腺内DHTを85〜90%抑制する閲覧 2026-08-24
  2. 2.Zonal distribution of prostatic adenocarcinoma. Correlation with histologic pattern and direction of spread(The American Journal of Surgical Pathology・1988)根治的前立腺摘除標本104例のうち発生帯を同定できた88癌では、68%が辺縁帯、24%が移行帯、8%が中心帯から発生していた。移行帯癌の大半は経尿道的切除で診断され、しばしば前立腺過形成結節内から発生したようにみえた(非移行帯癌67例中で経尿道的切除により診断されたのは2例のみ)閲覧 2026-08-24
  3. 3.Natural history of prostatism: relationship among symptoms, prostate volume and peak urinary flow rate(The Journal of Urology・1995)40〜79歳の地域住民無作為抽出集団で、年齢は症状スコアの変動の3%しか説明せず、前立腺容量と最大尿流量率を加えても説明できるのはさらに10%にとどまった。年齢調整後、前立腺容量50mL超の男性が中等症以上の症状をもつオッズは3.5倍だった閲覧 2026-08-24
  4. 4.The long-term effect of doxazosin, finasteride, and combination therapy on the clinical progression of benign prostatic hyperplasia(The New England Journal of Medicine・2003)平均4.5年追跡した3,047例の二重盲検試験(MTOPS)で、臨床的進行(AUA症状スコアのベースラインから4点以上の悪化・急性尿閉・尿失禁・腎機能障害・反復性尿路感染のいずれか)のリスクはドキサゾシンで39%(P<0.001)、フィナステリドで34%(P=0.002)低下し、併用では66%低下(P<0.001)した。急性尿閉と侵襲的治療の必要性を有意に減らしたのは併用とフィナステリドのみで、ドキサゾシンでは減らなかった閲覧 2026-08-24