組織病理学

組織病理学 · H2-076A

胞状奇胎

Mola hydatidosa

描出疾患
妊娠性絨毛性疾患(胞状奇胎・絨毛癌)

🧠 全体像:(hydatidiform mole)はの一つで、水腫状に腫大した絨毛と異常な栄養膜増殖を特徴とする。とでは、受精機序、遺伝学、胎児成分、病理像、奇胎後のリスクが異なる。

全胞状奇胎と部分胞状奇胎

項目
典型的な成立 母体核を欠くへ1精子が受精後にゲノムが複製、または2精子が受精 正常へ通常2精子が受精
核型 多くは46,XX。46,XYもある 多くは69,XXY、69,XXX、69,XYY
胎児・胎児膜 原則として認めない 胎児・胎児膜を認めうるが、通常は生存不能
絨毛 びまん性の水腫状腫大、輪郭不整、胎児血管に乏しい 一部の絨毛が水腫状で、正常に近い絨毛と混在
栄養膜増殖 びまん性・になりうる で比較的軽い
性栄養膜・間質で陰性(前向き564例の99.8%)1 ゲノムを含むため陽性(486例の99%)1
奇胎後 部分奇胎より高い(約20%)2 全奇胎より低い(1〜4%)2
flowchart TD
    A["異常受精"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paternal'>父性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='diploid'>二倍体</span>"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paternal'>父性</span>2組を含む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='triploid'>三倍体</span>"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='complete hydatidiform mole'>全胞状奇胎</span>"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='partial hydatidiform mole'>部分胞状奇胎</span>"]
    D --> F["びまん性絨毛水腫・栄養膜増殖"]
    E --> G["部分的絨毛水腫・胎児成分を伴いうる"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uterine evacuation'>子宮内容除去</span>後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human chorionic gonadotropin'>hCG</span>追跡"]
    G --> H

「空のには必ず2精子が受精する」とは限らず、の多くは1精子の受精後重複で生じる。前向き2217例のgenotyping解析では、由来と確定した148例のうち85%が単精子受精由来で、逆には二484例の99%が二精子受精由来だった1。形態が不明瞭な場合はと・解析を組み合わせる。

💡 p57が分けるのは「全奇胎かそれ以外か」だけ。 p57(CDKN1C)は・発現遺伝子の産物なので、ゲノムを欠くでのみ消失する。と非奇胎の水腫性流産はどちらもp57陽性になるため、この2つを分けるには絨毛とのを比べるgenotypingが要る3。

臨床像と管理

妊娠年齢の両極、特に40歳以上ではリスクが上がる。性器出血、高い、妊娠週数より大きい子宮、、甲状腺機能亢進、などを生じうるが、現在は超音波で早期に発見され典型像がそろわないことも多い。

段階 要点
診断 定量、超音波、全身評価を行い、排出組織で病理確定
初期治療 妊孕性温存を望む場合は吸引によるが基本
除去後 を正常化まで定期測定し、型に応じて正常化後も確認4
異常経過 の・、転移、を奇胎後として評価

の正常化確認前に新たな妊娠が成立すると判定が難しくなるため、追跡期間中は有効な避妊を行う。詳しい追跡と治療はを参照する。

💡 正常化後にどこまで追うかは一律ではない。 の除去後にが正常化した英国の全国コホート17,424例で、その後にを発症したのは0.2%(31例)にとどまった。正常化までが56日未満だった群では発症リスクがさらに低く(0.25)、確認の正常値1回で追跡を終えても安全と考えられる一方、56日以上かかった群ではを説明したうえで期間を決める4。

まとめ

  • 全奇胎は主にで胎児成分を欠き、部分奇胎は主にで胎児成分を伴いうる。
  • 絨毛水腫と栄養膜増殖を評価し、必要ならp57と遺伝学的解析を加える。
  • 除去後の追跡により奇胎後を早期に捉える。

出典

  1. 1.Refined diagnosis of hydatidiform moles with p57 immunohistochemistry and molecular genotyping: updated analysis of a prospective series of 2217 cases(Modern Pathology・2021)前向き2217例のうち2080例(94%)が分類可能で、免疫染色に成功した全胞状奇胎564例の99.8%(563例)がp57陰性、部分胞状奇胎486例の99%(481例)がp57陽性であったこと。genotypingを行った全胞状奇胎153例中148例(96.7%)が父性由来(androgenetic)で、そのうち85%が単精子受精由来であったこと。部分胞状奇胎497例中484例(97%)が二父性三倍体で、その99%が二精子受精由来であったこと。例外として母性11番染色体が残存した全奇胎はp57陽性、母性11番染色体を失った部分奇胎はp57陰性となること閲覧 2026-08-24
  2. 2.Diagnosis and Surgical Treatment of Hydatidiform Mole(Diagnostics・2025)胞状奇胎の治療の第一選択は吸引法による子宮内容除去であること。奇胎後妊娠性絨毛性腫瘍は全胞状奇胎の約20%、部分胞状奇胎の1〜4%に発生し、除去後の連続hCG測定による追跡が早期発見に必須であること閲覧 2026-08-24
  3. 3.Hydatidiform Moles: Ancillary Techniques to Refine Diagnosis(Archives of Pathology & Laboratory Medicine・2018)形態のみによる胞状奇胎の診断は経験ある婦人科病理医でも観察者間変動が大きいこと。p57は父性刷り込み・母性発現遺伝子であるため、p57免疫染色単独では母性DNAを欠く全胞状奇胎しか同定できず、部分胞状奇胎と非奇胎はいずれもp57陽性のため区別できないこと。絨毛と脱落膜のDNAを比較するgenotypingが父性のみの全奇胎・diandric triploidの部分奇胎・両親性の非奇胎を分けること閲覧 2026-08-24
  4. 4.Monitoring complete hydatidiform molar pregnancies after normalisation of human chorionic gonadotrophin: national retrospective population study(BMJ Medicine・2025)英国2施設の全国コホート17,424例(全胞状奇胎除去後にhCGが正常化した患者)で、その後に妊娠性絨毛性腫瘍を発症したのは0.2%(31例)のみであったこと。hCGが56日未満で正常化した群では発症リスクがさらに低く(相対リスク0.25)、確認のための正常hCG 1回で追跡を終えても安全と考えられること。56日以上かかった群では残存リスクを説明したうえで追跡期間を決めるべきこと閲覧 2026-08-24