婦人科学

婦人科学 · 38

胞状奇胎

Hydatidiform mole

前提:正常
栄養膜の発生女性生殖:乳腺と胎盤染色体異常
疾患
妊娠性絨毛性疾患(胞状奇胎・絨毛癌)
スコア
修正WHO予後スコア

🧠 全体像:は絨毛の水腫状腫大と栄養膜増殖を特徴とする異常妊娠で、とでは遺伝学・病理・悪性化リスクが異なる。吸引除去後もを追跡し、またはからを早期発見する。

妊娠性絨毛性疾患

非腫瘍性/前腫瘍性
、 、、、

全胞状奇胎と部分胞状奇胎

項目
核型・由来 多くは46,XX。母体核を欠くに精子が受精しゲノムが重複。46,XYもある 多くは69,XXY/XXX/XYY。正常に2精子など
胎児組織 なし 胎児・胎児血管を認めうるが通常生存不能
絨毛 びまん性水腫、血管を欠く 一部絨毛のみ水腫、胎児血管を含む
栄養膜増殖 びまん性・ ・軽度
陰性(発現遺伝子がない) 陽性
・子宮サイズ 著増、妊娠週数より大きいことがある 上昇は比較的軽度、流産様が多い
超音波 胎児なし、・ 胎児・と肥厚した胎盤
奇胎後GTN 約15〜20%(総説では約20%)1 約1〜5%(総説では1〜4%)

肉眼的な組織は水腫状に腫大した絨毛、超音波の多発小像は絨毛水腫を反映する。両側性のは高刺激で生じ、多くは低下とともに退縮する。

臨床像と診断

  • 妊娠初期のが最も多い。、妊娠週数より大きい子宮、骨盤圧迫感を伴うことがある。
  • 高により甲状腺機能亢進、を生じる。妊娠20週未満のは重要な手掛かりである。
  • 定量、、血算、血液型・Rh、肝腎・甲状腺機能を評価する。
  • 確定診断は排出組織の病理で行うが、形態のみの判定は経験ある婦人科病理医でもが大きい。を入口に置き、必要に応じてSTR genotyping(絨毛との型を比較する)へ進む2。

💡 超音波も形態診断も単独では足りない。 組織学的に奇胎が疑われた821例をp57+STR genotypingによる精密診断で再分類したでは、超音波単独の全体正確度は44.38%、原病理の形態診断のみの全体正確度は65.97%(59.11%、κ=0.364)にとどまった3。超音波像は手掛かりであって確定診断ではない。

💡 p57が分けるのは「全奇胎かそれ以外か」だけ。 p57は・発現遺伝子の産物なので、を欠くで消失する。と非奇胎流産はどちらもを持つためp57陽性となり、両者の区別にはgenotypingが要る(のみ=全奇胎、diandric triploid=部分奇胎、両親性で対立遺伝子が均衡=非奇胎)2。

⚠️ p57陰性=の確定、ではない。 前向き2217例の集積では全奇胎の99.8%がp57陰性、部分奇胎の99%がp57陽性と相関はきわめて高いが、11番染色体が残存した全奇胎はp57陽性に、11番染色体を失った部分奇胎はp57陰性になる。家族性両親性奇胎(両親性の全奇胎)やandrogenetic/biparental mosaicも形態やp57と食い違うため、形態・p57・genotyping・妊娠歴を突き合わせて判断する4。

初期治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydatidiform mole'>胞状奇胎</span>を疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human chorionic gonadotropin'>hCG</span>・超音波・全身評価"]
    B --> C["吸引による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uterine evacuation'>子宮内容除去</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathological diagnosis'>病理診断</span><br>全奇胎/部分奇胎"]
    D --> E["定量<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human chorionic gonadotropin'>hCG</span>を1〜2週ごとに測定"]
    E --> F{"正常化するか"}
    F -->|"はい"| G["型に応じた確認・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surveillance'>サーベイランス</span>"]
    F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plateau'>プラトー</span>/上昇"| H["奇胎後GTNとして病期・リスク評価"]
  • 妊孕性温存を希望する場合の標準は吸引除去である1。組織を病理へ提出する。やの併用は除去の安全性・確実性を高める。
  • は吸引開始後に用い、出血を管理する。RhD陰性で感作されていない患者にはを投与する。
  • がない例や奇胎後GTNの高リスク例では子宮摘出を選べるが、転移を防ぎきれないため術後追跡は必要である1。
  • 予防的メトトレキサートは毒性と耐性化の問題があり、追跡可能な患者へルーチンに投与しない。

hCG追跡と奇胎後GTN

  • 除去後48時間以内に基準を測り、その後1〜2週ごとに正常化を確認する。
  • 正常化後の追跡期間は奇胎の型とで異なる。FIGO系の運用では部分奇胎は1か月後の確認、は月1回6か月追跡する方法が一般的である。
  • 追跡中は判定を妨げる新規妊娠を避け、有効な避妊を用いる。

💡 の6か月追跡は一律固定ではなくなりつつある。 英国2施設の全国コホートで、除去後にが正常化した17,424例のうち、その後GTNを発症したのは0.2%(31例)のみだった。が56日未満で正常化した群では発症リスクがさらに低く(0.25)、確認の正常 1回で追跡を終える短縮プロトコルが提案されている。一方56日以上かかった群ではを説明したうえで追跡期間を決める5。

奇胎後GTNは次のパターンまたは組織学的などで診断する。

  • 4測定値(1、7、14、21日)にわたりが(±10%以内)
  • 3測定値(1、7、14日)にわたりが10%超上昇
  • 正常化後の、転移病変、組織学的

GTNのFIGO病期

病期 広がり
I 子宮体部に限局
II 付属器・腟など性器内へ進展
III 肺転移(性器病変の有無を問わない)
IV その他の遠隔転移

⚠️ このはGTNに対する病期であり、除去前のをStage Iなどと分類するものではない。

修正WHO予後スコア

因子 0点 1点 2点 4点
年齢 40歳未満 40歳以上 - -
流産 -
からの期間 4か月未満 4〜6か月 7〜12か月 12か月超
治療前(IU/L) 10³未満 10³〜10⁴未満 10⁴〜10⁵未満 10⁵以上
(子宮を含む) 3 cm未満 3〜4 cm 5 cm以上 -
転移部位 肺 脾・腎 消化管 肝・脳
転移数 0 1〜4 5〜8 8超
既治療化学療法 なし - 単剤失敗 2剤以上失敗

合計0〜6点は低リスク、7点以上は高リスクとして治療を選ぶ。低リスクには毒性の少ない治療を、高リスクにはを用いるという個別化が原則で、FIGOの診断・に従うことで治療成績の報告が統一される6。

まとめ

  • は・p57陰性・びまん性病変、は多くが・p57陽性・胎児組織ありである。
  • 標準治療は吸引除去とで、予防的をルーチンには用いない。
  • 形態診断も超音波も単独では正確度が低く(それぞれ約66%、約44%)、p57を入口に必要時genotypingへ進むのが現在の実務である。
  • の・から奇胎後GTNを診断し、と修正スコアでリスク分類する。の追跡は正常化までの日数(56日未満か否か)で短縮しうる。

出典

  1. 1.Diagnosis and Surgical Treatment of Hydatidiform Mole(Diagnostics・2025)胞状奇胎の治療の第一選択は吸引法による子宮内容除去であること。子宮鏡や術中超音波の併用が除去の安全性・確実性を高めること。挙児希望がない例や奇胎後GTNの高リスク例では子宮全摘が適応となりうること。奇胎後GTNは全胞状奇胎の約20%、部分胞状奇胎の1〜4%に発生し、除去後の連続hCG測定による追跡が必須であること閲覧 2026-08-21
  2. 2.Hydatidiform Moles: Ancillary Techniques to Refine Diagnosis(Archives of Pathology & Laboratory Medicine・2018)形態のみによる胞状奇胎の診断は経験ある婦人科病理医でも観察者間変動が大きいこと。p57は父性刷り込み・母性発現遺伝子であるため、p57免疫染色単独では母性DNAを欠く全胞状奇胎しか同定できず、部分胞状奇胎と非奇胎はいずれもp57陽性のため区別できないこと。絨毛と脱落膜のDNAを比較するgenotypingが父性のみの全奇胎・diandric triploidの部分奇胎・両親性の非奇胎を分けること(アルゴリズム的診断法)閲覧 2026-08-21
  3. 3.Reappraisal and refined diagnosis of ultrasonography and histological findings for hydatidiform moles: a multicentre retrospective study of 821 patients(Journal of Clinical Pathology・2025)組織学的に胞状奇胎が疑われた821例をp57免疫染色とSTR genotypingによる精密診断を真の基準として再評価すると、788例(95.98%)が全胞状奇胎448例・部分胞状奇胎213例・非奇胎流産127例へ再分類され、超音波単独の全体正確度は44.38%(全奇胎の感度44.33%、部分奇胎37.5%)、原病理の形態診断のみの全体正確度は65.97%、一致率59.11%(κ=0.364)にとどまったこと。したがってp57とDNA genotypingを日常診断に組み込むべきこと閲覧 2026-08-21
  4. 4.Refined diagnosis of hydatidiform moles with p57 immunohistochemistry and molecular genotyping: updated analysis of a prospective series of 2217 cases(Modern Pathology・2021)前向き2217例のうち2080例(94%)が分類可能で、全胞状奇胎の99.8%(563/564)がp57陰性、部分胞状奇胎の99%(481/486)がp57陽性であったこと。例外として母性11番染色体が残存した全奇胎はp57陽性、母性11番染色体を失った部分奇胎はp57陰性となること。genotypingを行った全奇胎153例中5例は両親性(家族性両親性奇胎)で非奇胎と誤分類されうること、androgenetic/biparental mosaic 56例が存在すること閲覧 2026-08-21
  5. 5.Monitoring complete hydatidiform molar pregnancies after normalisation of human chorionic gonadotrophin: national retrospective population study(BMJ Medicine・2025)英国2施設の全国コホート17,424例(全胞状奇胎除去後にhCGが正常化した患者)で、その後GTNを発症したのは0.2%(31例)のみであったこと。hCGが56日未満で正常化した群では発症リスクがさらに低く(相対リスク0.25)、確認のための正常hCG 1回で追跡を終えても安全と考えられること。56日以上かかった群では残存リスクを説明したうえで追跡期間を決めるべきこと閲覧 2026-08-21
  6. 6.Gestational Trophoblastic Disease: Current Evaluation and Management(Obstetrics and Gynecology・2021)妊娠性絨毛性疾患の多くは生殖機能を温存したまま管理できること。FIGOの診断・病期分類に従うことで治療成績の報告が統一されること。危険因子に基づいて個別化し、低リスクには毒性の少ない治療を、高リスクには積極的な多剤併用療法を用いること閲覧 2026-08-21