組織学

組織学 · 15.4

女性生殖:乳腺と胎盤

Female reproductive system — Mammary gland & placenta

応用トピック
乳房疾患胞状奇胎絨毛癌母乳育児

🧠 乳腺は「エストロゲンが導管を育て、プロゲステロン・プロラクチンが腺房を育て、オキシトシンが搾り出す」という4ホルモンの役割分担で覚える。 胎盤は「絨毛の外側のが母体血に直接浸り、内側のがその土台を作る」という2層の栄養膜()が母児間のをする構造として理解する。

乳腺:変形したアポクリン汗腺

乳腺は発生学的にが変形した腺(08-3-appendagesのと同系統)で、15〜20個の葉に分かれ、それぞれが独自のをもち乳頭に開口する。

flowchart TD
  A["腺房:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intralobular'>腺葉内</span>導管につながる"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactiferous ducts'>乳管</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interlobular'>小葉間</span>を走る"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lactiferous sinus'>乳管洞</span>:乳頭直下の拡張部、乳汁を一時貯留"]
  C --> D["乳頭の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='porus lactiferus'>乳管口</span>"]

間質は結合組織と脂肪組織からなり、実質(腺房・導管)とは対比的にホルモンに応じて変化しにくい。

⚠️ 「に乳汁を溜める」という古典的な図は、超音波による再検討で否定されている。 授乳中の女性21人を超音波で調べた研究では、は典型的な洞を示さず、容易にされ、主の数は片側9.6±2.9本(従来の15〜20という葉の数より少ない)、径は1.9±0.6 mmにすぎなかった。しかもすべてのがの半径内で分岐しており、最初の分岐は乳頭から8.0±5.5 mmの位置にある。著者らは「は乳汁を貯留する構造ではなく輸送する構造」としている1。組織像・模式図に出てくる「」は、固定・標本作製に伴う拡張を見ている可能性が高い——用語としては残るが、貯留槽として覚えない。

4つのホルモンによる制御

ホルモン 標的 作用
エストロゲン 導管 導管の増殖・伸長・分岐
プロゲステロン 腺房 腺房()の増殖・分化
プロラクチン 腺房 (タンパク質・糖・脂質・水)
オキシトシン (02-5-glands)の収縮による

⭐ エストロゲン=導管を“作る”、プロゲステロン・プロラクチン=腺房を“育て働かせる”、オキシトシン=できた乳汁を“出す”というの役割分担で覚えると混同しない——非妊時()は導管主体で腺房がほとんど発達していないのに対し、妊娠中はプロゲステロン・プロラクチンの上昇により腺房が著しく増殖し、には腺房主体の組織像へと劇的に変化する。

胎盤:絨毛と栄養膜

胎盤の機能単位は絨毛で、母体血に浸されたに突出し、母児間のガス・栄養・交換の場となる。絨毛の表層は栄養膜の2層からなる。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='syncytiotrophoblast'>合胞体性栄養膜</span>:多核の融合細胞層、母体血に直接接する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='outer layer'>外層</span>"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytotrophoblast'>細胞性栄養膜</span>:単核の幹細胞様<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inner layer'>内層</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='syncytiotrophoblast'>合胞体性栄養膜</span>を供給"]
  B --> C["絨毛間質の結合組織+胎児毛細血管"]
層 特徴
多核・境界不明瞭な融合細胞、など胎盤ホルモンを分泌、母体血と直接接触
単核、境界明瞭、をもちを供給する幹細胞的な層。の切片では不連続に見える(数が減るのではなく分散する)2

💡 妊娠が進むにつれの層が薄く不連続になり、母児間のの障壁(胎盤関門)がより薄くなる——これはに胎児の急速な成長に伴うの需要増加に対応するためのな変化として理解できる。

⚠️ ただし「が消える/減る」は切片の見え方に引きずられた表現で、実際には数が増えている。 ディセクター法で核の絶対数を数えると、妊娠37〜39週の胎盤には栄養膜の核が平均6.4×1010個あり、その90%が、残る10%がにある。13週から満期までに核数は9倍に増える一方、核1個あたりの栄養膜容積(約970 µm³)も1個が支える増殖単位の容積(約11,000 µm³)も一定で、栄養膜の成長は純粋な過形成=増殖単位の追加で進む2。つまりは絨毛表面積の急拡大に対して同じ密度で分散していくため切片では連続層に見えなくなるのであって、幹細胞供給が止まるわけではない。関門が薄くなること自体は正しいが、その理由は「の消失」ではなく「絨毛の細分化と表面積増大に伴う層の引き伸ばし」と押さえる。

まとめ

  • 乳腺は変形したで、エストロゲン(導管)・プロゲステロン/プロラクチン(腺房)・オキシトシン(射乳)の4ホルモンで制御される。
  • は腺房が著しく発達し、非妊時の導管主体の組織像から大きく変化する。
  • 胎盤絨毛は(母体血に接する)と(、幹細胞的)の2層の栄養膜に覆われる。
  • にはが薄くなり、母児間のの障壁がより薄くなる(は数が減るのではなく、拡大した絨毛表面へ分散して切片上で不連続に見える)。
  • 授乳中の超音波ではは認められず、主は片側約9〜10本で内で分岐する。は貯留ではなく輸送の構造。

出典

  1. 1.Anatomy of the lactating human breast redefined with ultrasound imaging(Journal of Anatomy・2005)授乳中の女性21人の超音波で、乳管は典型的な洞(乳管洞)を示さず容易に圧縮され、主乳管数は左9.6±2.9・右9.2±2.9本、乳管径1.9±0.6 mm、すべての乳管が乳輪の半径内で分岐し初回分岐は乳頭から8.0±5.5 mm。洞が無く細く分岐が早いことから、乳管は乳汁を貯留するのではなく輸送する構造と結論閲覧 2026-08-24
  2. 2.From 13 weeks to term, the trophoblast of human placenta grows by the continuous recruitment of new proliferative units: a study of nuclear number using the disector(Placenta・1992)ディセクター法による絶対数計測で、妊娠37〜39週の胎盤は栄養膜核を平均6.4×10^10個もち、その90%が合胞体性栄養膜、残り10%が細胞性栄養膜にある。13週から満期までに核数は9倍に増え、核あたりの栄養膜容積も増殖単位の大きさも一定で、栄養膜の成長は純粋な過形成(新しい増殖単位の追加)である閲覧 2026-08-24