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Drug Atlas · C18 Antibiotics / 抗菌薬 · 必修

ホスホマイシン

fosfomycin

分類
Antibiotics / 抗菌薬
商品名(日本)
ホスミシン
商品名(EU)
Monuril
科目
Pharmacology
トピック
C18: Metronidazole. Fidaxomicin. Rifaximin. Nitrofurantoin. Fosfomycin
標的微生物
Escherichia coliEnterococcus faecalis
副作用
下痢頭痛
相互作用
メトクロプラミド
自然耐性の微生物
Staphylococcus saprophyticus
対象疾患
尿路感染症

🧠 全体像:は、βラクタム系(ペプチド架橋)とも(D-Ala-D-Ala結合)とも標的が重ならない、の最初の一段階を止めるという独自の機序を持つ抗菌薬である。分子量が小さく、βラクタム系とはまったく異なる経路(MurA阻害)で作用するため、βラクタム耐性菌にも活性を保つことがある。臨床的な最大の価値はに対するという圧倒的な利便性だが、それを可能にしている「尿中には高濃度で集まるが血中・組織内にはほとんど届かない」という上の性質が、そのまま腎盂腎炎・前立腺炎・菌血症には使えないという限界の理由にもなっている。

⚠️ 守備範囲は思うより狭い。 米国の処方情報が適応菌種として挙げているのは大腸菌とEnterococcus faecalisだけで、のもう一つの代表的な起因菌であるStaphylococcus saprophyticusは含まれていない——本菌はにをもち、 の想定耐性表現型の一覧でも本菌とS. capitisにだけ印が付いている1。腎盂腎炎・にも適応がない2。

薬効群の中での位置づけ

に使うは、それぞれ守備範囲と投与のしやすさで住み分けている。

薬剤 機序 投与 に使えるか 特徴
MurA阻害→ペプチドグリカン合成の最初の一段階を阻害 単回3 g 不可(血中・が不十分) に優れる。βラクタム耐性菌にも活性を保つことがある
還元代謝物が/蛋白を非特異的に障害 5日間 不可(同様に組織移行不十分) 妊娠中の使用実績が豊富
の2段階阻害 3日間 可(地域の耐性率次第) 局所の大腸菌耐性率が高い地域では第一選択から外れる
/阻害 3日間 可 副作用・耐性化を避けるためでは温存が推奨される

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fosfomycin'>ホスホマイシン</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacteria'>細菌細胞</span>内へ<br>取り込まれる(GlpT/UhpTトランスポーター経由)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phosphoenolpyruvate (PEP)'>ホスホエノールピルビン酸</span>(PEP)の<br>類似体としてMurA酵素の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='active site'>活性中心</span>へ結合"]
    B --> C["MurA(UDP-GlcNAcエノールピルビル転移酵素)の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cysteine residue'>システイン残基</span>へ共有結合的に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alkylation'>アルキル化</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peptidoglycan precursor'>ペプチドグリカン前駆体</span>合成の<br>最初の一段階が不可逆的に停止"]
    D --> E["細胞壁を組み立てられず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacteriolysis (lysis)'>溶菌</span>"]
    F["βラクタム系・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Glycopeptides'>グリコペプチド系</span>より<br>上流(細胞質内)の段階を止める"] -.->|"標的が重ならない"| G["βラクタム耐性菌にも<br>活性を保つことがある"]

💡 「の最初の一手」を止めるとは、具体的にはこういうことである。 ペプチドグリカンの前駆体合成は、まずMurAが(PEP)をUDP-N-に転移させるところから始まる。はこのPEPに構造がよく似ており、MurAののに共有結合して酵素を不可逆的に潰してしまう。βラクタム系が標的にする()も、が標的にするD-Ala-D-Alaも、この最初の一段階より後の工程の話であり、標的が重ならないことがの少なさにつながっている。

薬物動態

項目 値・特徴
(塩) 約30〜40%
分布 尿中には投与後24〜48時間以上、を大きく上回る高濃度で持続。血中・は治療域に届かない
代謝 ほとんど受けない
排泄 主体(未変化体、)
半減期 約4時間だが、尿中への持続的な濃縮効果のため単回投与で数日分の効果が続く

⭐ 腎盂腎炎に使えない理由は、機序ではなくにある。 MurA阻害という機序自体は腎実質の細菌にも通用するが、の単回投与では血中・腎実質内濃度がに届かない。だから膀胱内の菌には圧倒的な濃度で効く一方、腎盂・血流に及んだ感染には無力になる。静注用のナトリウム製剤(欧州・日本でへの併用療法に用いられる)は経口製剤とはがまったく異なり、この限界には当てはまらない。

適応

領域 使いどころ
泌尿器 尿路感染症のうち()の第一選択、単回投与で完結。妊娠中の膀胱炎にも比較的安全に使用できる

用法・用量

:3 gを1回、空腹時(食後2〜3時間)、就寝前に排尿後服用する。小児・・・には用いない。実際の用量・適応は施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • 禁忌:への過敏症
  • ⚠️ 腎盂腎炎・前立腺炎・菌血症には無効(組織移行不十分)。発熱・側腹部痛を伴う場合はを疑い他剤へ切り替える
  • などを促進する薬剤との併用での血中・尿中濃度が低下し、効果が減弱するため併用は避ける
  • 重度腎障害では尿中濃度が十分に得られず効果が不十分になりうる

副作用

頻度 内容
高頻度 下痢、悪心、頭痛
注意 (他の抗菌薬同様)
重篤・まれ 過敏反応、まれに(主に静注製剤での報告)

まとめ

  • MurA阻害という、βラクタム系・のどちらとも標的が重ならない独自機序での最初の一段階を止める。
  • に単回3 gで完結するという利便性が最大の価値。
  • 尿中には高濃度で持続的に濃縮されるが血中・は不十分なため、腎盂腎炎・前立腺炎・菌血症には無効(機序ではなく上の限界)。
  • 標的が上流(細胞質内)にあるため、βラクタム耐性菌(産生菌など)にも活性を保つことがある。
  • などとの併用で吸収・尿中濃度が低下し効果が減弱する。
  • 妊娠中のにも使用できる数少ない選択肢の一つ。

出典

  1. 1.Expected Resistant Phenotypes, Version 1.2(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST)・2023)現行版(v1.2、2023年1月)のPDFで、Table 4(グラム陽性菌の想定耐性表現型=感受性が期待できない組み合わせ)にホスホマイシンの印が付くのが規則4.1の Staphylococcus saprophyticus と規則4.4の S. capitis であり、規則4.5「その他のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌および S. aureus」には付かないことを確認した。表の前文はグラム陽性菌全般がアズトレオナム・テモシリン・ポリミキシンB/コリスチン・ナリジクス酸に耐性であるとしている。⚠️ EUCAST はこの版から「intrinsic resistance」という語をやめ「expected resistant phenotype」に置き換えており、基準は全分離株の90%超が特徴的な耐性機構を示すか判定基準を超える MIC をとることである閲覧 2026-09-28
  2. 2.FOSFOMYCIN TROMETHAMINE granule, for solution(Aurobindo Pharma Limited / DailyMed (U.S. National Library of Medicine)・2025)openFDA で米国処方情報を取得して確認した(effective_time 20250925)。適応は逐語で "indicated only for the treatment of uncomplicated urinary tract infections (acute cystitis) in women due to susceptible strains of Escherichia coli and Enterococcus faecalis" で、⚠️ Staphylococcus saprophyticus は適応菌種に書かれていない。続けて逐語で "Fosfomycin tromethamine granules for oral solution is not indicated for the treatment of pyelonephritis or perinephric abscess." とする。用法は18歳以上の女性で1包を単回、水に溶いて服用する閲覧 2026-09-28