疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 運動器 · 疾患

人工関節感染

Prosthetic Joint Infection

別名
人工関節周囲感染PJIperiprosthetic joint infection
臓器系
運動器感染症
科目
Traumatology and OrthopedicsMedical Microbiology
トピック
外傷学 25:人工関節置換術の原則微生物学 2/2:コアグラーゼ陰性ブドウ球菌微生物学 2/32:ジフテリア菌、ジフテロイド、プロピオニバクテリウム属
鑑別疾患
化膿性関節炎人工関節の無菌性弛み
治療薬
バンコマイシンリファンピシン
原因微生物
Staphylococcus aureusStaphylococcus epidermidisCutibacterium(旧Propionibacterium)acnesPeptostreptococcus属(Finegoldia magnaなど)
症状
疼痛腫脹発熱
検査値
C反応性蛋白(CRP)赤沈

🧠 全体像:は「自然関節のとは別枠のルール」で動く病態である。核心は——菌が表面に膜を作って抗菌薬・から身を守るため、抗菌薬だけでは制圧できず、そのものの扱い(温存するか、するか)がの分かれ目になる。発症からのが起因菌の毒性との運命を左右し、術後まもない急性発症は温存の余地があるが、時間が経ってからの緩徐な発症はが前提になりやすい、という対比が理解の軸になる。

病態

自然関節の化膿性関節炎との違い

はそのものへの感染であり、が数日で進行する緊急症として扱われる。一方、は表面という・無免疫の環境を舞台にする点が本質的に異なる。周囲にはが形成され、抗菌薬の組織移行や好中球の貪食が届きにくいため、もも自然関節のとは別に組み立てる必要がある1。

発症時期と起因菌

発症までのは、原因菌の毒性の強さをおおまかに反映する。

病型 主な起因菌 特徴
早期(術後まもない発症) Staphylococcus aureus 毒性が強く、術中のまたは創部からの侵入で急性に発症する
遅発性(術後数か月〜数年を経て顕在化) (など)、Cutibacterium acnes いずれも皮膚常在の低毒性菌で、により発症が緩徐になる。C. acnesは人工関節で突出して多い
血行性 遠隔(・皮膚軟部組織感染・尿路感染など)由来の菌血症の原因菌。Peptostreptococcus属(Finegoldia magnaなど)の関与もある もともと安定していたに、別部位の感染から血流を介して二次的にする

💡 「毒性が強い菌ほど早く症状を出す」という対比が発症時期の違いを生む。 S. aureusは増殖が速く炎症反応も強いため数日〜数週間で症状化するが、やC. acnesはの中でゆっくり増殖するため、疼痛や機能低下が緩徐に進行し、発見までに数か月〜数年を要することがある2。

臨床像

急性発症では発熱・疼痛・腫脹・創部の発赤や排膿などに似た所見を呈する。一方、遅発性では全身症状に乏しく、持続する関節痛・可動域制限・の緩み(弛み感)だけが手がかりになることが多く、X線上のやコンポーネントの位置異常が唯一の所見であることもある。⚠️ 全身症状が乏しいからといって感染を否定できない点が、遅発性PJIを見逃しやすくしている。

診断

⭐ は自然関節のとは別に定められている。 2011年に策定されたMusculoskeletal Infection Society(MSIS)基準は、2018年のInternational Consensus Meeting(ICM)で血液・マーカーと術中所見を組み合わせた評価法へ改訂され、感度97.7%・特異度99.5%と報告されている1。は同一菌の2回以上の培養陽性、またはと交通する瘻孔(サイナストラクト)の存在で、いずれかを満たせば単独で確定診断となる1。

低毒性菌によるでは培養が偽陰性になりやすいため、摘出したを超音波処理して付着菌を遊離させるが診断感度を上げる手段として用いられる2。C. acnesは発育が遅く標準的な培養期間では検出できないため、が必要になる(詳細はCutibacterium acnesの項を参照)。

治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prosthetic joint infection'>人工関節感染</span>を診断"] --> B{"発症からの時間・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='implant'>インプラント</span>の安定性"}
    B -->|"急性発症・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='implant'>インプラント</span>安定"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='debridement'>デブリードマン</span>+<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='implant'>インプラント</span>温存(DAIR)"]
    B -->|"遅発性・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='implant'>インプラント</span>緩み"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='implant'>インプラント</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='removal (of a tube/catheter/drain)'>抜去</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='two-stage'>二期的</span>再置換<br>(抗菌薬<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spacer'>スペーサー</span>留置後に再置換)"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='single-stage'>一期的</span>再置換<br>(同一手術で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='removal (of a tube/catheter/drain)'>抜去</span>・再置換)"]
    D --> G["困難例:切断・関節固定"]
    C --> H["長期抗菌薬<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biofilm'>バイオフィルム</span>活性薬を含む)"]
    E --> H
    F --> H

⭐ を温存するかするかが最初のになる。 ガイドラインは、温存下の、(または再置換を伴う切除)、再置換、切断のそれぞれについて管理指針を示している3。+抗菌薬+温存(DAIR)は早期術後・急性血行性感染での選択肢だが、報告された成功率には大きな幅がある4。⚠️ 遅発性・が成熟した感染ではDAIRの適応にならないことが多く、(再置換が標準的)が前提になりやすい。

抗菌薬は起因菌をカバーしへの活性を持つ薬剤(リファンピシン併用など)を選び、後の総投与期間は12週を超えるべきではないとされる2。・が疑われるではバンコマイシンが軸になる。

鑑別診断

疾患 手がかり
(自然関節) 人工関節がなく軟骨そのものへの感染。・が別枠になる
人工関節の無菌性弛み 感染を伴わない機械的な緩み。臨床像・画像が似るが上昇や培養陽性を欠く

まとめ

  • は表面のを舞台にする点で、自然関節のと・が別枠になる。
  • 早期発症はS. aureusなど毒性の強い菌、遅発性・緩徐発症はやCutibacterium acnesなど低毒性のが目立ち、血行性感染は遠隔からの二次的なである。
  • はMSIS基準からICM 2018基準へ改訂され、同一菌の2回以上の培養陽性またはサイナストラクトの存在がになる。低毒性菌の検出には・が有用。
  • 治療は温存(DAIR、早期・急性例が対象)か(再置換が標準的)かの分岐が最初の判断で、抗菌薬は活性薬を含め後は12週を超えない期間が目安になる。

出典

  1. 1.The 2018 Definition of Periprosthetic Hip and Knee Infection: An Evidence-Based and Validated Criteria(The Journal of Arthroplasty・2018)抄録で確認した。2011年のMusculoskeletal Infection Society(MSIS)基準を7年間運用した経験と新しい診断法の登場を踏まえ、血液・関節液マーカーや術中所見を組み合わせた評価法(International Consensus Meeting、ICM基準)へ改訂したこと、新基準が感度97.7%・特異度99.5%を示し旧MSIS基準より優れた性能を報告したことを確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Periprosthetic joint infection: current concepts and outlook(EFORT Open Reviews・2019)抄録で確認した。PJIの管理上の核心が微生物のインプラント表面へのバイオフィルム形成にあること、ソニケーション培養などバイオフィルム検出法により低毒性病原体による慢性感染の診断感度が上がること、再手術後の抗菌薬治療の総期間は12週を超えるべきではないと明記していることを確認した。閲覧 2026-09-07
  3. 3.Diagnosis and Management of Prosthetic Joint Infection: Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America(Clinical Infectious Diseases(Infectious Diseases Society of America)・2013)抄録で確認した。人工関節感染(PJI)の管理法として、インプラント温存下のデブリードマン、抜去(一期的または二期的再置換を伴う切除関節形成術)、一期的再置換、切断のそれぞれについて、エビデンスに基づく推奨と専門家の意見に基づく推奨を示すガイドラインであることを確認した。閲覧 2026-09-07
  4. 4.Debridement, antibiotics, and implant retention (DAIR) for the early prosthetic joint infection of total knee and hip arthroplasties: a systematic review(Journal of ISAKOS・2024)DAIRは早期術後・急性血行性人工関節周囲感染の選択肢だが報告された成功率には大きな幅があることを確認した。閲覧 2026-09-07