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Disease Atlas · 運動器 · 疾患

化膿性関節炎(敗血症性関節炎)

Septic Arthritis

別名
化膿性関節炎敗血症性関節炎細菌性関節炎
臓器系
運動器感染症
科目
PathologyInternal MedicinePediatricsMedical MicrobiologyDermatology
トピック
病理学 C/94:変性性・炎症性関節疾患病理学 C/92:骨髄炎/Paget病内科学 R-15:関節炎の鑑別診断小児科 3-35:小児急性血行性骨髄炎微生物学 2/1:黄色ブドウ球菌内科学 R-06:痛風皮膚科 2-05:男性の淋菌感染症
鑑別疾患
関節リウマチ偽痛風若年性特発性関節炎痛風反応性関節炎
続発疾患
敗血症
治療薬
バンコマイシンセフトリアキソンセフェピムジクロキサシリンフルクロキサシリンクリンダマイシンダプトマイシンリネゾリドドキシサイクリンシプロフロキサシンピペラシリンアモキシシリン
原因微生物
Staphylococcus aureusStreptococcus agalactiaeEscherichia coliHaemophilus influenzaeNeisseria gonorrhoeaeSalmonella entericaStaphylococcus epidermidisPseudomonas aeruginosaPasteurella multocida
症状
発熱悪寒倦怠感疼痛腫脹圧痛関節痛
検査値
C反応性蛋白(CRP)プロカルシトニン白血球数血算赤沈尿酸結晶
元疾患
菌血症
原因となる疾患
骨髄炎
適応薬
テイコプラニン

🧠 全体像は「関節が壊れるまでの猶予が数日しかない」緊急症である。血行性に到達した細菌が滑膜で増殖すると、好中球由来のプロテアーゼとサイトカインが軟を数日で不可逆的に破壊するため、による診断確定と、ドレナージ+抗菌薬による治療開始を同時並行で急ぐことが診療の幹になる。起因菌は年齢・背景でほぼ決まり、抗菌薬単独では不十分でドレナージが必須という原則はすべての背景に共通する。

病態

感染経路

細菌がに到達する経路は3つに分けられる。

経路 特徴
最多の経路。滑膜は基底膜を欠き血流が豊富で、菌血症があれば容易に定着する
隣接骨髄炎からの波及 乳児はの一部が内にありを貫く血管がを連絡するため、骨髄炎が波及しやすい。年長児・成人は外にあり波及しにくい
直達・穿刺 外傷、関節注射、手術、人工関節手技に伴う直接接種

年齢・背景別の起因菌

起因菌は年齢と背景でほぼ決まり、経験的抗菌薬選択の出発点になる。

背景 主な起因菌
新生児 Staphylococcus aureus、B群溶血性Streptococcus agalactiae)、Escherichia coliなどのグラム陰性桿菌
小児・成人(性的を除く) Staphylococcus aureusが第1位。小児では培養が難しいKingella kingaeも見逃されやすい
性的の若年成人 Neisseria gonorrhoeaeによる(DGI)が最多になりうる
人工関節・免疫抑制 緑膿菌などのグラム陰性桿菌
動物・ヒト咬傷 Pasteurella multocida(イヌ・ネコ)、Eikenella corrodens(ヒト咬傷)

そのほか、2歳未満ではHaemophilus influenzae b型(普及後は稀)、鎌状赤血球症ではSalmonella属が特徴的である。

💡 で、菌血症期は・少数の末梢膿疱性皮疹の三徴を呈し培養は陰性のことが多いが、進行すると少数関節に限局する単関節となり培養陽性率が上がる。

軟骨破壊の機序

関節内で細菌が増殖すると好中球が大量に動員される。好中球由来のプロテアーゼ(など)とサイトカイン(IL-1、TNFなど)が軟・II型コラーゲンを分解し、も直接組織を傷害する。

⚠️ この軟数日で不可逆に進行する。診断・治療の遅れが関節機能予後を左右するため、疑った時点で緊急対応する。

臨床像

典型像は急性ので、罹患関節は膝が最多、次いで股関節である。関節の腫脹・熱感・発赤に加え、でも激しい痛みを訴える点が非炎症性疾患との違いになる。発熱・悪寒・感を伴うことが多いが、乳児・高齢者やステロイド・使用中の患者では全身症状が乏しいこともある。深部関節(股関節・)の強い痛みと可動域制限、人工関節、免疫抑制、菌血症のリスクを伴う場合は緊急対応を要するである。

小児の股関節:Kocher基準

小児の股関節痛では、と自然軽快するの鑑別が課題になる。は①発熱38.5℃超、②、③ESR 40 mm/hr以上、④12,000/mm³超の4項目からなる予測ルールで、該当項目数0→4個につれの推定確率がおよそ0.2%→99.6%と上昇するとされた(原著コホート)。CairdはCRP 2.0 mg/dL超を5番目に追加し、5項目すべてで確率はおよそ98%と報告している。

⚠️ Kocher・Caird基準は単施設コホートの予測ルールでは限定的である。近年(2024〜2025年)の複数施設研究では、培養が難しいKingella kingae感染で基準を満たさない偽陰性例が指摘されており、満たさないことだけを根拠に除外してはならない。あくまで穿刺の要否を判断する補助であり、疑いが強ければ点数にかかわらず穿刺を急ぐ。

診断

による検査が診断の中心であり、抗菌薬投与前に迅速に施行する。

flowchart TD
    A["急性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monoarthritis'>単関節炎</span>を疑う"] --> B["直ちに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arthrocentesis'>関節穿刺</span>"]
    B --> C["細胞数・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutrophil percentage'>好中球比率</span><br>目安50,000/µL超だが低値でも否定不可"]
    B --> D["Gram染色・培養"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polarization microscope'>偏光顕微鏡</span>で結晶を確認"]
    D -->|"陽性"| H["起因菌を確定"]
    E -->|"結晶陽性"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crystal-induced arthritis'>結晶誘発性関節炎</span>も考慮<br>感染合併は除外しない"]
    C --> J["血液培養2セット"]
    J --> K["画像で範囲・合併症を評価"]
    K --> L["ドレナージ+抗菌薬を開始"]
    H --> L
    I --> L
検査 意義・注意点
細胞数・ 目安50,000/µL超・は感染を強く示唆するが感度・特異度は6〜7割程度で、低値でも否定できない
Gram染色 迅速だが陰性でも除外できない
培養 確定診断の柱。淋菌やKingella kingaeは特別な培地・迅速な接種が必要で見逃されやすい
(結晶) 痛風・との鑑別に必須だが、結晶陽性でも感染合併を除外しない
血液培養 血行性感染で陽性率が高く、培養陰性でも手掛かりになる
画像(X線・超音波・MRI) X線は初期変化に乏しい。超音波は穿刺に有用。MRIは骨髄炎合併・深部関節評価に優れるが、所見が乏しくても否定にならず穿刺を遅らせない

治療

原則:ドレナージ+抗菌薬

関節ドレナージ(穿刺洗浄、または下・洗浄)と抗菌薬の併用が原則であり、ドレナージを伴わない抗菌薬単独投与では不十分である。培養検体採取後はすみやかにドレナージする。

flowchart TD
    A["診断・強い疑い"] --> B["培養採取後ただちに経験的抗菌薬"]
    B --> C["関節ドレナージ<br>穿刺洗浄または鏡視下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='open (invasive)'>観血的</span>洗浄"]
    C --> D["培養・感受性で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='narrow-spectrum'>狭域</span>化"]
    D --> E{"淋菌性か"}
    E -->|"はい"| F["セフトリアキソン単剤へ"]
    E -->|"いいえ"| G["起因菌に応じ継続"]
    F --> H["反応をみて<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral drugs'>経口薬</span>へ切替検討"]
    G --> H

経験的抗菌薬

状況 主な選択肢
起因菌確定前(MRSAリスク考慮) バンコマイシンセフトリアキソン。グラム陰性菌リスクが高ければも。若年成人ではこの組み合わせが淋菌もカバーする
MSSA確定 )、クリンダマイシン
MRSA確定 バンコマイシン(代替:リネゾリド
淋菌性 セフトリアキソン単剤が基本。クラミジア未除外ならドキシサイクリンを追加
グラム陰性菌リスク(新生児・免疫抑制・人工関節) 配合)
動物・ヒト咬傷 アモキシシリン配合剤。ペニシリンアレルギーはドキシサイクリン

投与期間は複雑でない例で総3〜4週間が広く用いられてきたが、十分なドレナージ後はより短い期間でもとする報告が増えている。骨髄炎感染と同様、温存・再置換・を専門的に選ぶ別枠の管理を要する。

鑑別診断

急性の鑑別では、を最優先で除外しながら他の病態を考える。

疾患 手がかり
痛風 (針状・強い)。併存しうるため結晶陽性でも培養を省略しない
(菱形・弱い)。高齢者に多い
先行する消化管・尿路感染から1〜数週間後に発症し、培養は陰性
小児の慢性・反復性の関節炎で、全身状態の悪化は急性感染症ほど強くない
骨髄炎 隣接骨の圧痛・画像所見が手がかり。乳児はへの直接波及があり併存しうる
小児の股関節痛で最多。ウイルス感染後に多く自然軽快するが、不足だけでは除外できない

まとめ

  • が最多の感染経路で、乳児では骨髄炎からの直接波及も重要になる。
  • 起因菌は背景でほぼ決まる:新生児はS. aureus・B群・グラム陰性桿菌、小児・成人はS. aureusが最多、性的の若年成人はN. gonorrhoeae、人工関節・免疫抑制は、咬傷はPasteurella・Eikenellaである。
  • 好中球由来のプロテアーゼ・サイトカインで軟が数日で不可逆的に進行するため、疑った時点で緊急対応する。
  • 診断の中心は(細胞数・・Gram染色・培養・結晶)と血液培養。小児股関節ではKocher・Caird基準を補助的に用いるが、やKingella感染での限界を踏まえ穿刺の判断を点数だけに委ねない。
  • 治療は関節ドレナージ+抗菌薬が原則で、ドレナージを伴わない抗菌薬単独では不十分。経験的にはバンコマイシンセフトリアキソン等を用い培養で化し、淋菌性はセフトリアキソン単剤、は別枠の管理を要する。