小児科学

小児科学 · 3-35

小児急性血行性骨髄炎

Acute hematogenous osteomyelitis in children

前提:病態
骨髄炎/Paget病黄色ブドウ球菌
微生物
HACEK group
疾患
化膿性関節炎(敗血症性関節炎)

🧠 全体像:小児骨髄炎の多くは血行性で、へが播種する。局所痛・・を使わない所見から疑い、血液培養とを採取し、で骨・軟部組織の広がりを確認する。経験的抗菌薬は黄色ブドウ球菌を必ず覆い、培養と臨床反応に応じて狭域化する。

感染経路と病原体

病型 特徴
小児・思春期に多く、が典型。通常は
性 開放骨折、、手術・から侵入。多菌種のことがある
感染 隣接する皮膚・軟部組織・から波及

最重要病原体は黄色ブドウ球菌である。年齢、鎌状赤血球症、免疫不全、、水曝露、、地域の頻度により、、肺炎球菌、Kingella kingae、、グラム陰性菌などを追加で考える。

💡 起因菌は年齢で入れ替わる。 小児骨・全体で見ると、生後6〜48か月ではKingella kingaeが黄色ブドウ球菌より優勢な一方、4歳を超えると黄色ブドウ球菌が再び主体になると報告されている1。Hib・導入後は、単施設ので・肺炎球菌による骨・が5歳未満でほとんど検出されなくなったとされる2。鎌状赤血球症患児の骨・では、菌が同定できた例の過半をが占めたとする多施設報告もある3。

臨床像

  • 局所の、圧痛、腫脹、熱感、発赤、可動域制限。
  • 発熱、悪寒、倦怠感はありうるが、乳幼児やKingella感染では軽いことがある。
  • 乳幼児では、、、学童では・が手掛かりとなる。
  • 隣接する、、筋炎、、を評価する。

診断

flowchart TD
    A["局所<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone pain'>骨痛</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='claudication'>跛行</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='affected limb'>患肢</span>不使用+発熱"] --> B["血液培養+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='complete blood count'>CBC</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='C-reactive protein'>CRP</span><br>抗菌薬前が望ましい"]
    B --> C["単純X線で骨折・腫瘍などを確認"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で骨髄・関節・膿瘍を評価"]
    D --> E["血液培養陽性で臨床像が一致"]
    D --> F["培養陰性・非典型・重症・手術適応"]
    F --> G["骨/膿瘍検体を培養・病理へ"]
    E --> H["標的抗菌薬"]
    G --> H
  • 血液培養は抗菌薬前に採取する。は診断特異度が低いが、治療反応のとして有用。
  • 単純X線は初期骨髄炎を除外できないが、骨折、腫瘍、異物などの鑑別に有用。
  • MRIは追加画像の第一選択で、、・軟部組織膿瘍、関節病変を評価する。
  • 💡 小児183例の前向き研究では、単純X線の感度は病日1日目相当で0.16と低く、病日15日目相当まで待つと0.82まで上昇した一方、は病日3日目相当で感度0.81に達し、(病日7日目相当)も感度0.81だった。単純X線以外の画像は病初期から同程度に有用で、だけが特別に早いわけではない4。
  • は全例の「確定検査」ではない。血液培養陰性、非典型病原体、治療不応、排膿手術時などに、骨・膿瘍検体を採取する。
  • 💡 は測らないことが提案されている。 PIDS/の2021年ガイドラインは、の診断においてがやに優る利点は現時点の根拠では示されておらず、評価の一部として測定しないことを提案している5。

治療

循環不全・急速進行例では培養採取後ただちに抗菌薬を開始する。安定例では侵襲的検体採取を計画する短時間の遅延が許容されることもあるが、漫然と待たない。

状況 方針
MSSAを必ず覆う。地域頻度、既往培養、重症度によりクリンダマイシンまたはバンコマイシン等を選ぶ。⚠️ 抗薬ではKingella kingaeを十分に覆えない(下記)
緑膿菌・グラム陰性菌カバー 足底、特定の水曝露、免疫不全などリスクがある場合に追加。全小児へ一律にを併用しない
経口切替 、局所症状改善、低下、内服可能、感受性のある高薬がある場合に早期切替を検討
治療期間 合併症のない黄色ブドウ球菌性では総3〜4週が目安。病原体、反応、膿瘍、壊死、骨盤・脊椎病変で延長
手術 敗血症・急速進行、排膿可能な大きな膿瘍、、、抗菌薬不応で・ドレナージ

⚠️ 抗薬を選んだ時点でKingella kingaeが覆えなくなる。 K. kingaeはバンコマイシンに耐性で、クリンダマイシン・リネゾリドにもしばしば耐性であり、とも十分な抗菌活性を与えない——市中型を狙って選んだ薬では守備範囲の外になる6。2021年の骨髄炎ガイドラインは同じ事柄を「クリンダマイシンやバンコマイシンはKingellaに対する活性を持たない」と、より強い言い方で書いている5。同ガイドラインは、就学前児やK. kingaeによる感染を考える状況(の骨髄炎など)では、経験的な抗治療にアンピシリン、βラクタム/配合剤(βラクタマーゼ産生株に対して)、またはセファロスポリンを追加することを考慮しうるとしている。もう一つの運用として、抗薬への臨床反応を48〜72時間観察し、反応が不十分なときにKingellaに活性のある薬剤の追加を考える書き方も示している5。

⚠️ 「この年齢層で最も多い起因菌」と書けるのは、骨髄炎と関節炎を合算した疫学までである。 生後6〜48か月でK. kingaeが黄色ブドウ球菌より優勢だという報告は、上記のとおり小児骨・全体を分母にしたもので、骨髄炎単独の値ではない1。2021年ガイドライン自身は「北米では全年齢層を通じて黄色ブドウ球菌がの最頻の起因菌である」と明記し、「はK. kingaeが起こす感染のうち最も目立つもので、骨への進展も起こりうる」として、K. kingaeの詳細を関節炎のガイドラインへ委ねている5。

「感染人工関節は必ず除去」とは限らず、発症時期、固定性、軟部組織、病原体に応じて温存手術または一期・二期再置換を専門的に選ぶ。これは典型的小児血行性骨髄炎とは別の管理である。

⚠️ 静注期間短縮のエビデンス。 フィンランドの(培養陽性131例、生後3か月〜15歳)は、静注期間を2〜4日に短縮したうえで計20日間投与する群と30日間投与する群を比較し、が7〜10日以内に20 mg/L以下へ低下しの多くが消退した時点で終了する方針のもとで両群とも良好な転帰を示した7。成人の骨・症を対象にした無作為化試験でも、7日以内に経口へ切り替える方針が静注継続にだった(小児のエビデンスではない)8。ただし新生児、複数、膿瘍・を伴う例、免疫不全、確実な経口吸収が見込めない例では、従来どおりのより長い静注期間が選ばれる。

反応不良時の再評価

48〜72時間で改善しなければ、抗菌薬の用量・到達性・感受性、服薬、未排膿膿瘍、隣接関節炎、、耐性菌、結核・真菌、腫瘍・などの診断違いを再評価する。

まとめ

  • 小児ではの血行性骨髄炎が多く、黄色ブドウ球菌が中心である(2021年ガイドラインは北米では全年齢層を通じて最頻と明記している)——ただし骨髄炎と関節炎を合算した小児骨・では、生後6〜48か月でKingella kingaeが黄色ブドウ球菌を上回るとの報告がある。
  • 血液培養とを抗菌薬前に採り、で病変範囲と膿瘍を確認する。は測らないことが提案されている(・に優る利点が示されていない)。
  • は全例必須ではなく、培養陰性・非典型・重症・手術例で価値が高い。
  • ⚠️ 抗薬(クリンダマイシン・バンコマイシン・リネゾリド・)ではKingella kingaeを十分に覆えない。 就学前児やの骨髄炎など本菌を考える状況では、アンピシリン・βラクタム/配合剤・セファロスポリンの追加を考慮するか、48〜72時間の反応を見て追加を判断する。
  • 一律のバンコマイシン+ではなく、地域耐性と個別リスクに合わせて狭域化する——⚠️ ただし狭域化の名のもとにK. kingaeのカバーを落とさない。 抗薬だけに絞るのは、この年齢層では狭域化ではなく取りこぼしになる。

出典

  1. 1.The Contemporary Bacteriologic Epidemiology of Osteoarticular Infections in Children in Switzerland(The Journal of Pediatrics・2018)スイスの単施設・9年間(2007-2015年)の後方視的研究で、0-15歳217例の小児骨・関節感染のうち菌が同定できた138例(63.6%)の内訳は、生後6-48か月ではKingella kingaeが87.7%、4歳超では黄色ブドウ球菌が78.2%を占め、年齢層により優勢菌が入れ替わることを確認した(全年齢ではKingella kingae 47.8%・黄色ブドウ球菌35.5%)。閲覧 2026-08-27
  2. 2.The recent bacterial etiology of childhood osteoarticular infections focusing on the vaccine initiation for Streptococcus pneumoniae and Haemophilus influenzae: A single-center retrospective analysis in Japan(Journal of Orthopaedics・2022)日本の単施設・24年間(1995-2019年)の後方視的研究で、15歳以下の骨・関節感染185例(急性骨髄炎65例・化膿性関節炎120例)のうち菌が同定できた85例(46.0%)の68.2%を黄色ブドウ球菌が占めた。肺炎球菌・インフルエンザ菌は4歳以下43例中10例(23.3%)に対し5歳以上42例中1例(2.4%)と若年層に偏り、2013年の定期接種化前後でその割合は63例中10例から21例中1例へ減少し、黄色ブドウ球菌の占める割合は62.5%から85.7%へ増加したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Bone and Joint Infections in Children With Sickle Cell Disease in French Guiana: A 13-Year Retrospective Multicenter Review(The Pediatric Infectious Disease Journal・2024)フランス領ギアナの13年間(2010-2022年)・多施設後方視的研究で、鎌状赤血球症患児(平均年齢7.2歳)の骨・関節感染53エピソードのうち菌が同定できたのは13例のみで、その過半(8/13)をサルモネラ属が占めたことを確認した。菌同定群は未同定群より入院期間が長く(40.4日対16.8日)、感染関連合併症も多かった。閲覧 2026-08-27
  4. 4.The accuracy of different imaging techniques in diagnosis of acute hematogenous osteomyelitis(Medicina (Kaunas, Lithuania)・2009)リトアニアの前向き研究で、1-18歳183例(うち急性血行性骨髄炎156例)を対象に単純X線・超音波・骨シンチグラフィ・CT・MRIの診断精度を比較し、早期単純X線(中央値で入院1日目)の感度は0.16と低く、後期単純X線(同15日目)で0.82まで上昇した一方、骨シンチグラフィ(同3日目)は感度0.81、MRI(同7日目)も感度0.81と、単純X線以外の検査は病初期から同程度に有用だったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Clinical Practice Guideline by the Pediatric Infectious Diseases Society and the Infectious Diseases Society of America: 2021 Guideline on Diagnosis and Management of Acute Hematogenous Osteomyelitis in Pediatrics(Pediatric Infectious Diseases Society / Infectious Diseases Society of America・2021)学会サイトが掲げる全文で確認した(Journal of the Pediatric Infectious Diseases Society 10巻8号801〜844頁)。IDSAのガイドライン一覧はこれを「CURRENT」と表示している。経験的治療について、市中型MRSAへの活性は地域の感受性データと過去の市中型MRSA感染・定着の既往に基づいて考慮すべきだとし、S. aureus以外の起因菌へのカバーは臨床像・身体所見・曝露歴・危険因子がS. aureusと合わないか他の菌のカバーを要するとき(低年齢のKingella kingae、鎌状赤血球症などのヘモグロビン異常症でのSalmonella属など)に妥当としている。本文は、就学前児やK. kingaeによる感染を考える状況(骨端の骨髄炎など)では、経験的な抗MRSA治療にアンピシリン、βラクタム/βラクタマーゼ阻害薬配合剤(βラクタマーゼ産生株に対して)、またはセファロスポリンを追加することを考慮しうるとし、クリンダマイシンやバンコマイシンといった抗MRSA薬は「Kingellaに対する活性を持たない」と明記している。もう一つの運用として、抗MRSA薬への臨床反応を48〜72時間観察し、反応が不十分なときにKingellaに活性のある薬剤の追加を考えるという書き方も示している。また血清プロカルシトニンについては、急性血行性骨髄炎の診断でCRPや赤沈に優る利点が現時点の根拠では示されておらず、評価の一部として測定しないことを提案している。適用範囲は北米の生後1か月から18歳未満のそれまで健康であった小児で、新生児は除外されている。細菌性関節炎は本ガイドラインの対象外で、別のガイドラインが扱うと明記されている。⚠️ 起因菌の頻度について、同ガイドラインは逐語で「S. aureusは北米では全年齢層を通じて急性血行性骨髄炎を起こす最頻の起因菌である」と述べ、また「化膿性関節炎はK. kingaeが起こす筋骨格系感染のうち最も目立つもので、骨への進展も起こりうる」として、K. kingae感染の詳細をコンパニオンの急性細菌性関節炎ガイドラインに委ねている。同ガイドラインは別の箇所で「K. kingaeは典型的にセファロスポリンに感受性でクリンダマイシンとバンコマイシンに耐性である」と、程度を書き分けた表現も用いている。閲覧 2026-09-08
  6. 6.Clinical Practice Guideline by the Pediatric Infectious Diseases Society (PIDS) and the Infectious Diseases Society of America (IDSA): 2023 Guideline on Diagnosis and Management of Acute Bacterial Arthritis in Pediatrics(Pediatric Infectious Diseases Society / Infectious Diseases Society of America・2023)学会サイトが掲げる全文で確認した。本ノートではこの出典を*Kingella kingae*の薬剤感受性の記述にだけ用いている。逐語で「K. kingaeはペニシリン系(抗ブドウ球菌ペニシリンは顕著な例外)とセファロスポリン、およびフルオロキノロン・ST合剤に一般に感受性である。K. kingae株はバンコマイシンに耐性で、クリンダマイシンとリネゾリドにもしばしば耐性である」と述べ、別の箇所では「K. kingaeやその他のグラム陰性の起因菌に対しては、市中型MRSAに活性のある薬剤の多くが十分な抗菌活性を与えない(抗ブドウ球菌ペニシリン・バンコマイシン・クリンダマイシン・ダプトマイシン・リネゾリドを含む)」として、これらを用いる場合はアンピシリンまたはセファロスポリンによる経験的カバーの追加が必要になると書いている。2021年の急性血行性骨髄炎ガイドラインが同じ事柄を「Kingellaに対する活性を持たない」と書くのに対し、本2023年版は耐性の程度を薬剤ごとに書き分けている。本2023年版の適用対象は小児の急性細菌性関節炎で骨髄炎は対象外だが、2021年版自身がK. kingae感染の詳細を本ガイドラインへ委ねている。閲覧 2026-09-08
  7. 7.Short- versus long-term antimicrobial treatment for acute hematogenous osteomyelitis of childhood: prospective, randomized trial on 131 culture-positive cases(The Pediatric Infectious Disease Journal・2010)生後3か月〜15歳の培養陽性急性血行性骨髄炎131例を対象に、静注期間を2〜4日に短縮したうえでクリンダマイシンまたは第1世代セファロスポリンを計20日間投与する群と30日間投与する群に無作為割付けした前向き試験で、CRPが7〜10日以内に20 mg/L以下へ低下し臨床所見の多くが消退した時点で終了する方針のもと、両群とも軽度後遺症1例を除き全例治癒し、24%は手術を要さなかったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  8. 8.Oral versus Intravenous Antibiotics for Bone and Joint Infection(The New England Journal of Medicine(OVIVA Trial Collaborators)・2019)骨・関節感染症の成人1054例を対象にした無作為化非劣性試験(OVIVA試験)で、治療開始または手術から7日以内に経口抗菌薬へ切り替える群は静注継続群に対し1年時点の治療失敗率で非劣性だった(14.6%対13.2%)ことを確認した。対象は成人であり小児のエビデンスではない。閲覧 2026-08-27