疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 感染症 · 疾患

ラット咬傷熱

Rat-bite fever

別名
鼠咬症Sodokustreptobacillosis
臓器系
感染症
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 5/11:人獣共通感染症(一覧)とその予防
合併症
感染性心内膜炎細菌性髄膜炎化膿性関節炎
治療薬
ペニシリンGセフトリアキソンドキシサイクリン
原因微生物
Streptobacillus moniliformisSpirillum minus
症状
発熱関節痛皮疹

🧠 全体像:は名前どおり「ネズミに咬まれて起こる」感染症だが、起因菌が2種あり、地域も臨床像もはっきり分かれる——北米で優位なStreptobacillus moniliformisは状が主役、アジア(とくに日本)で優位なSpirillum minus(Sodoku)は咬傷部位の変化が主役で状は稀1。⚠️ どちらも未治療なら致死率約10%前後2だが、培養が難しく非特異的な症状のため診断が遅れやすい1。

起因菌——2種類、2つの顔

Streptobacillus moniliformis Spirillum minus(Sodoku)
地理的分布 北米で優位 アジア(日本など)で優位
菌の形態 の糸状グラム陰性桿菌、側方の膨大 短く太い、密に巻いた桿菌
培養 微好気条件が必要。要求性が高く増殖に2〜3日〜最長7日 人工培地では培養不能。・ライト染色・による直接観察で診断
3日〜3週間(通常7日未満) 約14〜18日
状 50%超で移動性 稀
皮疹 約75%、斑丘疹状・点状出血性・紫斑状 約50%、紫赤褐色の斑状疹
発熱パターン 38.0〜41℃の急激な発熱+目立つ悪寒 3〜7日のを挟んで規則的に再発
咬傷部位 目立った変化を残さないことが多い 硬化・し局所リンパ節腫脹を伴う

1

⚠️ 同じ病名でも、状の有無で起因菌の見当がつく。 「発熱+多発関節痛」ならS. moniliformis、「発熱+した咬傷部位」ならSpirillum minusを疑う、という向きの整理が臨床では効く。

💡 どちらもの口腔内常在菌である。 感染経路は咬傷だけでなく、尿・・便・への曝露や、ペットのネズミを介した接触でも起こりうる2。

合併症——心内膜炎は致死率を跳ね上げる

  • 報告されたS. moniliformis心内膜炎17例中8例は、発症前から(最多は)を有していた1。
  • ⚠️ 未治療全体の致死率が約7〜13%であるのに対し、心内膜炎を合併すると致死率は53%に跳ね上がる1。既存のがある患者では特に警戒する。
  • 他に報告される合併症は髄膜炎、、心筋炎、、全身血管炎、、肝炎、腎炎、敗血症、肺炎、、副腎不全である12。

診断——培養が主役になれない病気

⭐ S. moniliformisは極めて要求性が高く、のに添加されたポリアネトールナトリウムが0.0125%という低濃度でも増殖を阻害する。 血液培養を依頼するときは、この阻害物質の影響との可能性を検査室に伝えておく必要がある1。

  • Spirillum minusは人工培地では培養できない。 ・ライト染色またはによる直接観察が頼りになる1。
  • に基づくアッセイ(296bp産物)がS. moniliformisの同定に利用できる1。
  • には、淋菌血症、ライム病、、エーリキア症、が挙がる2。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rodent'>齧歯類</span>咬傷歴・接触歴+発熱"] --> B{"移動性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polyarthralgia'>多関節痛</span>が目立つか"}
    B -->|"はい"| C["S. moniliformisを疑う<br>血液培養(阻害物質に注意)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polymerase chain reaction'>PCR</span>"]
    B -->|"いいえ・咬傷部位が硬化"| D["Spirillum minusを疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dark-field microscopy'>暗視野顕微鏡</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Giemsa stain'>ギムザ染色</span>で直接観察"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='valvular disease'>弁膜疾患</span>の既往を確認<br>心内膜炎を除外"]
    D --> E

治療——第一選択はペニシリン

⭐ ペニシリンが証明または強く疑われる場合のである1。

対象 用法・用量
成人(非心内膜炎) 静注 40〜60万単位/日を最低7日間。2日以内に反応が無ければ120万単位/日へ増量1
小児(非心内膜炎) 静注 2〜5万単位/kg/日を5〜7日間、その後7日間の経口へ1
心内膜炎 高用量とまたはの併用1
ペニシリンアレルギー ドキシサイクリン100mgを1日2回(静注または経口)2

⚠️ はと関連したとされる一方、・テトラサイクリンはペニシリン不耐性の代替として有効とされる1。より簡便な代替として静注セフトリアキソン1gを1日1回とする記載もある2。治療期間は2週間とされる2。

Haverhill熱——咬まれなくても同じ病気になる

⭐ Haverhill熱は、S. moniliformisで汚染された食品(主に)を摂取して起こる流行性疾患で、咬傷熱と臨床的にほぼ同一の徴候・症状を呈する。 1926年に米国Haverhillで初めて報告され、4週間で86例が発症し、39家族231のは36%、全例が同一の酪農場からの乳製品供給を受けていた1。

💡 咬傷歴の有無では区別できない。 個々の患者を見るだけでは咬傷熱との鑑別は難しく、多数の患者が共通の時間的・地理的曝露を示し、咬傷歴を欠くという疫学パターンで区別する1。

まとめ

  • の起因菌は北米優位のS. moniliformis(状が主体)とアジア優位のSpirillum minus=Sodoku(咬傷部位の硬化・が主体、状は稀)の2種で、臨床像がはっきり異なる。
  • ⚠️ 未治療致死率は約7〜13%だが、心内膜炎を合併すると53%まで跳ね上がる。 既存のがある患者はハイリスク。
  • S. moniliformisは培養が難しく血液培養阻害物質の影響を受け、Spirillum minusは人工培地で培養不能——どちらも「培養で確定」が簡単ではない病気。
  • 第一選択は静注。心内膜炎にはアミノグリコシド併用、ペニシリンアレルギーにはドキシサイクリンを用いる。
  • Haverhill熱は同じS. moniliformisによる食品媒介性の流行で、臨床像は同一だが咬傷歴を欠き、集団発生という疫学パターンで区別する。

出典

  1. 1.Rat Bite Fever and Streptobacillus moniliformis(Clinical Microbiology Reviews・2007)PMC1797630(オープンアクセス全文)で確認した。ラット咬傷熱の起因菌は北米で優位な*Streptobacillus moniliformis*(多形性の糸状グラム陰性桿菌で側方の球状膨大を示す)とアジアで優位な*Spirillum minus*(短く太い密巻きの螺旋桿菌で人工培地では培養不能、診断はギムザ染色・ライト染色・暗視野顕微鏡による直接観察に依る)の2種であること。潜伏期間は*S. moniliformis*で3日〜3週間(通常7日未満)であるのに対し*Spirillum minus*では約14〜18日と長いこと。*S. moniliformis*感染は38.0〜41℃の急激な発熱と目立つ悪寒で発症し、患者の50%超が移動性の多関節痛を、約75%が斑丘疹状・点状出血性または紫斑状の皮疹を呈し、手足には触診で著明な圧痛を伴う出血性小胞が生じうること。*Spirillum minus*感染では咬傷部位が硬化・潰瘍化し局所リンパ節腫脹を伴い、発熱は3〜7日の無熱期を挟んで規則的に再発し、約50%に紫赤褐色の斑状皮疹を認めるが関節症状は稀であること。心内膜炎の報告17例中8例が心内膜炎発症前に弁膜疾患(最多はリウマチ性心疾患)を有していたこと、他に心筋炎・心膜炎・全身血管炎・結節性多発動脈炎・髄膜炎・肝炎・腎炎が合併症として報告されていること。*S. moniliformis*は微好気条件下でのみ増殖する要求性の高い菌で増殖に2〜3日〜最長7日を要し、市販血液培養ボトルのポリアネトールスルホン酸ナトリウムが0.0125%という低濃度でも増殖を阻害すること。16S rRNA遺伝子配列に基づくPCRアッセイ(296bp産物)が記載されていること。未治療での致死率は約7〜13%であるのに対し*S. moniliformis*心内膜炎に限ると致死率53%に達すること。治療の第一選択は静注ペニシリンGで、成人は40〜60万単位/日を最低7日間(2日以内に反応が無ければ120万単位/日へ増量)、小児は2〜5万単位/kg/日を5〜7日間の静注後に7日間の経口ペニシリンVへ切替え、心内膜炎には高用量ペニシリンGとストレプトマイシンまたはゲンタマイシンの併用を要すること、ペニシリン不耐性にはストレプトマイシン・テトラサイクリンが有効な一方エリスロマイシンは治療失敗と関連したこと。Haverhill熱は*S. moniliformis*に汚染された食品(主に牛乳)による流行性疾患で1926年に米国Haverhillで初めて報告され86例が4週間で発症し、咬傷熱と同一の徴候・症状を呈するが多数の患者が共通の時間的・地理的曝露を示し咬傷歴を欠く点で区別されることを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Rat-Bite Fever(StatPearls Publishing・2023)NCBI Bookshelfのライブページ(末尾に「Last Update March 6, 2023」の更新表示)で確認した。ラット咬傷熱の別名がstreptobacillosis・spirillary fever・epidemic arthritic erythemaであること、両病原体とも齧歯類の口腔内常在菌であり、咬傷のほか尿・鼻汁・便・眼分泌物への曝露やペット経由でも感染しうること、大半の症例は日本で報告されるが米国・欧州・オーストラリア・アフリカでも見られること、鑑別診断に髄膜炎菌血症・淋菌血症・ライム病・ブルセラ症・エーリキア症・リケッチア感染症が挙がること、治療の第一選択が静注ペニシリンG 20万単位を4時間ごと、または静注セフトリアキソン1gを1日1回であり、ペニシリンアレルギーには静注または経口ドキシサイクリン100mgを1日2回とし、治療期間は2週間であること、未治療での致死率が約10%であること、合併症として心内膜炎・敗血症・肺炎・髄膜炎・肝膿瘍・副腎不全が挙げられることを確認した。閲覧 2026-09-16