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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

ライム病

Lyme disease

別名
Borreliosisボレリア症
臓器系
感染症
科目
DermatologyMedical MicrobiologyInternal Medicine
トピック
皮膚科 1-22:ライム病(ボレリア症)微生物学 2/30:ボレリア属内科学 S-54:ライム病
鑑別疾患
アナプラズマ症ベル麻痺(末梢性顔面神経麻痺)細菌性髄膜炎頸椎・腰椎椎間板ヘルニアによる神経根症
関連疾患
バベシア症
治療薬
ドキシサイクリンアモキシシリンセフトリアキソンセフロキシム(-アキセチル)
原因微生物
Borrelia burgdorferiBorrelia afzeliiBorrelia garinii
症状
顔面神経麻痺発熱頭痛倦怠感筋痛紅斑動悸失神呼吸困難胸痛

🧠 全体像:ライム病は(Ixodes属)が媒介するBorrelia burgdorferi群のスピロヘータ感染症であり、拡大するを早期に認識し、神経・心臓・関節への前に治療するのが核心である。典型的なは臨床診断してよく、血清検査を待って治療を遅らせてはならない。

病原体と感染経路

北米では主に*Borrelia burgdorferi、欧州ではB. afzelii、B. garinii*を含む複数種が原因となる。(成虫は野生シカ、幼虫は野生げっ歯類を宿主とする)に長時間刺咬されるほど感染リスクが高い。感染マダニの吸血部位から菌が皮膚内を遠心性に拡大し、その後血行性に神経系、心臓、関節、別の皮膚部位へ播種する。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hard-shelled tick'>硬マダニ</span>(Ixodes属)の吸血"] --> B["皮膚内でBorreliaが増殖"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='early localized'>早期限局期</span>:拡大する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythema migrans'>遊走性紅斑</span>"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hematogenous Spread'>血行性播種</span>"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='early disseminated'>早期播種期</span>:多発紅斑・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facial nerve palsy'>顔面神経麻痺</span>・髄膜炎"]
  D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='early disseminated'>早期播種期</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='AV conduction disturbance'>房室伝導障害</span>を伴う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lyme carditis'>ライム心炎</span>"]
  D --> G["晩期:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='large joint'>大関節</span>炎・末梢神経障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acrodermatitis chronica atrophicans'>慢性萎縮性肢端皮膚炎</span>"]

臨床病期

病期 主な所見
刺咬後3〜30日ごろ、通常5 cm以上へ徐々に拡大する。発熱、倦怠感、頭痛、筋痛を伴いうる
多発性、(が最多)、髄膜炎、、・失神を伴う
晩期 間欠性または持続性の炎(膝など)、末梢神経障害。欧州では

は必ずしも(ブルズアイ)ではなく、均一な紅斑、中心、淡い中央部など多様である。単なると異なり日ごとに拡大する点が重要な鑑別点となる。では房室ブロックが急速に変動しうるため、失神・呼吸困難・胸痛・や高度があれば入院・を検討する。

脳神経障害は顔面神経だけではない

急性期のでは顔面神経(第VII脳神経)麻痺が最も多く、(VIII)がこれに次ぐ。頻度は下がるが(III)・三叉神経(V)・(VI)など他の脳神経も侵されうる1。

⚠️ 迷走神経(第X脳神経)の枝であるが侵されるとをきたす。 きわめてまれで、2010年時点の報告は6例にとどまり、いずれも片側性で嗄声・を主症状とし呼吸困難は伴わず、抗菌薬治療で全例が改善していた。同年、4週間続く激しいに続いて急速にをきたした66歳女性(ライム多発)が、嗄声からへ進行して両側声帯がで固定し、のが98%から80%へ低下してでの監視を要した症例が初めて報告された。セフトリアキソンを3週間投与しては回復し、6か月後に喉頭の異常は残らなかった2。血清反応以外に手がかりのない片側がセフトリアキソン投与7日目に完全回復した15歳女児の報告もあり、通常の検索で原因のつかめないでは抗抗体を調べることが勧められている3。

💡 は「まれだから覚えなくてよい」所見ではない。原因不明のの原因検索に組み込む価値があるのは、ライム病由来なら抗菌薬で可逆的だからである。逆にライム病側から見れば、髄膜神経根の経過中に嗄声が出たら気道の問題に転じうる合図として扱う。

診断

flowchart TD
    A["曝露歴と臨床像"] --> B{"典型的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythema migrans'>遊走性紅斑</span>"}
    B -->|"あり"| C["検査を待たず臨床診断"]
    B -->|"なし"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='two-tier serologic testing'>二段階血清検査</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enzyme-linked immunosorbent assay'>ELISA</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immunofluorescence assay (IFA)'>免疫蛍光法</span>などの第一段階"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Western blot'>ウェスタンブロット</span>で確認"]
    F --> G{"臓器病変"}
    G -->|"関節炎"| H["必要時に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='joint fluid'>関節液</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='polymerase chain reaction'>PCR</span>を補助"]
    G -->|"神経病変"| I["髄液所見と髄液内抗体を統合"]
  • でのマダニ曝露と典型的があれば臨床診断し、血清検査結果を待たず治療する。感染早期は抗体陰性になりうる。
  • 紅斑が非典型、または神経・心臓・状では、第一段階免疫測定と()からなる二段階血清学的検査を用いる。
  • 孤立したIgM陽性は発症30日以後に偽陽性が増え、既感染抗体は治療後も残るため治癒判定には使わない。
  • での受診時は髄液所見が鑑別の手がかりになる。の髄膜炎はで亜急性の経過をとり、優位・急性発症で進行するとはも治療プロトコルも異なるため混同しない。

治療・予防

病態 標準的方針
単純な ドキシサイクリン100 mg 1日2回を10日間(小児4.4 mg/kg/日を2回に分割、1回上限100 mg)、またはアモキシシリン500 mg 1日3回もしくは500 mg 1日2回を14日間(いずれもより長い投与より優先される・強い推奨)。ドキシサイクリンとβラクタム薬のいずれも使えない患者では第二選択としてアジスロマイシンを用いる(5〜10日間、米国では7日間が推奨される)1
・ 病型と重症度により経口ドキシサイクリン(で検討されてきた用法は200 mg 1日1回で、の用法とは異なる)または静注セフトリアキソン・・などを選び、通常14〜21日間治療する1。や重症中枢神経病変では入院のうえ静注治療とし、臨床的改善が得られたら経口へ切り替えて総投与期間を満たす
ライム関節炎 推奨を通常28日間1。反応不十分例は診断を再評価し、への変更を含め専門医管理とする

💡 ドキシサイクリンのは、この10年で書き方が変わった。 を懸念して8歳未満では長らく回避されてきたが、その懸念は主に旧世代のテトラサイクリン系での経験に基づくもので、ドキシサイクリンとの関連はその後の研究(多くは観察研究で症例数も限られる)で疑問視されている。2020年のガイドラインは「少なくとも14日までの投与であれば幼小児にも安全だとするコンセンサスが形成されつつある」としつつ、「安全性についてのデータはなお望まれる」とも明記している。断定ではなく方向の転換として読むのが正確である。ライム髄膜炎のようにでよく検討されているのがドキシサイクリンだけという場面もあり、小児でも使用できる1。なおこのコンセンサスの対象は幼小児であって、妊娠中・授乳中についてはこの記述は当てはまらない。

⚠️ 治療後に疲労・疼痛が残っても、やを示す所見なしに長期・反復抗菌薬を続けない1。神経症状、失神、著しい徐脈は緊急評価が必要である。

Ixodes属マダニ刺咬による曝露後予防は、①マダニがIxodes属と同定できる、②高蔓延地域での曝露である、③付着時間が36時間以上と推定される、の3条件をすべて満たす高リスク咬傷に限って行う(強い推奨・高い確実性)。この場合、マダニ除去後72時間以内のドキシサイクリン単服(成人200 mg、小児4.4 mg/kg、上限200 mg)を年齢を問わず投与する1。高リスクと高い確度で分類できない咬傷では予防投与をせず経過観察する(3条件のどれか1つでも欠ければ適応外である)。、処理衣類、帰宅後の全身マダニチェックと早期除去が基本のである。

まとめ

  • ライム病はBorrelia感染症で、皮膚から神経・心臓・関節へする。
  • はとは限らず、時間とともに拡大することが診断の鍵であり、典型例は血清検査なしに臨床診断する。
  • 、髄膜炎、変動する房室ブロック、炎から播種を疑う。は第VII・VIII脳神経が中心だが他の脳神経も侵されうるので、まれな()まで含めて可逆的な原因としてする。
  • 適切な短期抗菌薬(にはドキシサイクリン10日間など)が基本で、持続する非特異症状に長期抗菌薬を反復しない。

出典

  1. 1.Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America (IDSA), American Academy of Neurology (AAN), and American College of Rheumatology (ACR): 2020 Guidelines for the Prevention, Diagnosis and Treatment of Lyme Disease(Infectious Diseases Society of America / American Academy of Neurology / American College of Rheumatology・2021)遊走性紅斑はドキシサイクリン10日間またはアモキシシリン・セフロキシムアキセチル14日間をより長い投与より推奨(強い推奨)、いずれも使えない場合の第二選択はアジスロマイシン(5〜10日、米国では7日間)、ドキシサイクリンの歯牙着色の懸念は旧世代テトラサイクリン系の経験に基づき「少なくとも14日までなら幼小児にも安全というコンセンサスが形成されつつある」が「安全性データはなお望まれる」と併記、急性脳神経障害は第VII・VIII脳神経が主で頻度は下がるがIII・V・VIなども侵される、神経ボレリア症の経口ドキシサイクリンは200 mg 1日1回で通常14〜21日間、単回曝露後予防はマダニがIxodes属と同定・高蔓延地域・付着36時間以上の3条件を満たす高リスク咬傷に限り除去後72時間以内に成人200 mg・小児4.4 mg/kg(上限200 mg)、ライム関節炎は経口28日間を初期治療とする、治療後の非特異的症状に再感染・治療失敗の客観的根拠なく追加の抗菌薬を投与しないことを推奨閲覧 2026-08-02
  2. 2.A case of Lyme neuroborreliosis with bilateral recurrent laryngeal nerve palsy(JRSM Short Reports・2010)ライム病による反回神経麻痺は2010年時点で報告6例のみで、いずれも片側性・嗄声または咽頭痛が主症状・呼吸困難を伴わず抗菌薬で予後良好だったこと、同論文が報告した66歳女性はライム多発神経根炎の経過中に両側声帯が傍正中位で固定して失声・呼吸困難をきたし酸素飽和度が98%から80%へ低下してICU監視を要し、セフトリアキソン3週間投与で反回神経機能が正常化、6か月後に喉頭の異常を残さなかったことを確認した閲覧 2026-09-05
  3. 3.Recurrent laryngeal nerve paralysis due to subclinical Lyme borreliosis(The Journal of Laryngology & Otology・2010)嗄声と弱い声で紹介された15歳女児の右反回神経麻痺が、頭蓋内・頸部・胸部の器質的病変と炎症性・傍腫瘍性・内分泌代謝性の原因をすべて除外したうえでライム病血清反応陽性のみを認め、セフトリアキソン静注7日目に喉頭内視鏡で完全回復が確認されたこと、原因の判然としない反回神経麻痺では抗ボレリアIgMのスクリーニングが勧められることを抄録本文で確認した(全文は非公開のため未読)閲覧 2026-09-05