内科学

内科学 · S-54

ライム病

Lyme Disease

前提:病態
ボレリア属
疾患
ライム病
症状
顔面神経麻痺

🧠 全体像:ライム病はが媒介する感染症である。は臨床診断し、典型例で抗体検査を待たない。未治療では神経・心臓・関節へ播種するため、病期と臓器障害に応じてと静注薬を使い分ける。

病原体・感染経路

北米では主にBorrelia burgdorferi、欧州ではB. afzelii、B. gariniiを含む複数種が原因となる。森林・草地で感染マダニに刺咬され、付着時間が長いほど感染リスクが高い。

病期と臨床像

病期 代表所見
刺咬後3〜30日ごろの拡大する、発熱、倦怠感、筋痛
多発性紅斑、、髄膜炎・、
晩期 の間欠性単関節・、末梢神経障害、欧州での

は均一な紅斑でもよく、必ずしもではない。典型的ながあれば血清検査を待たずに診断・治療を始める1。では房室ブロックが急速に変動し得るため、失神、呼吸困難、胸痛、や高度があれば入院・を考える。

診断

flowchart TD
    A["曝露歴と臨床像"] --> B{"典型的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythema migrans'>遊走性紅斑</span>"}
    B -->|"あり"| C["検査を待たず臨床診断"]
    B -->|"なし"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='two-tier serologic testing'>二段階血清検査</span>"]
    D --> E["標準法または修正二段階検査"]
    E --> F{"臓器病変"}
    F -->|"関節炎"| G["必要時に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='joint fluid'>関節液</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='polymerase chain reaction'>PCR</span>を補助"]
    F -->|"神経病変"| H["髄液所見と髄液内抗体を統合"]

💡 2段階血清検査の第2段階は、もうでなくてよい。 1994年以来の標準2段階検査は、感度の高い()またはを第1段階、を第2段階としてきた。2019年7月29日にが「第2段階をではなく2つ目のにする」適応で複数の血清検査を承認し、はこれを修正2段階検査(MTTT)として、標準法と並ぶ推奨手順に位置づけた2。旧来の標準2段階検査が否定されたわけではなく、両方が現行の推奨である。

初期は抗体陰性になり得る。孤立したIgM陽性は発症30日以後には偽陽性が増え、既感染抗体は治療後も残るため治癒判定に使わない。

治療・予防

  • :ドキシサイクリン、アモキシシリン、を通常10〜14日
  • 髄膜炎・:ドキシサイクリンまたはセフトリアキソンを病型に応じて選択し、通常14〜21日間3
  • 、重症中枢神経病変:入院しセフトリアキソンなど静注治療
  • 関節炎:28日間を初期治療とする3。反応不十分時は再評価し、漫然と長期抗菌薬を続けない

💡 ドキシサイクリンの小児制限は緩んだ。 を理由に8歳未満を避ける運用が長く続いたが、ライム病で用いる14日程度までの短期投与は年齢を問わず安全というコンセンサスに転換している3。

、処理衣類、帰宅後の全身マダニチェックと早期除去が基本である。曝露後の単回ドキシサイクリンは、①マダニがIxodes属と同定できる、②高蔓延地域での刺咬である、③付着が36時間以上——の3条件をすべて満たす場合に限り、マダニ除去後72時間以内に投与する3。条件を満たさない刺咬にはルーチンに予防投与しない。

⚠️ 「慢性ライム病」に長期抗菌薬を反復しない。 ライム病に起因するとされたに対し、長期抗菌薬治療は短期治療を上回るの改善を示さなかった4。ガイドラインも、やの根拠がないかぎり追加の抗菌薬を投与しないよう勧告している3。

まとめ

  • は形が多様で、典型例は血清検査なしに診断する。
  • 、髄膜炎、変動する房室ブロック、炎から播種を疑う。
  • 適切な短期抗菌薬が基本で、持続する非特異症状に長期抗菌薬を反復しない。

出典

  1. 1.Lyme borreliosis-from tick bite to diagnosis and treatment(FEMS Microbiology Reviews・2018)Ixodes属マダニが媒介するBorrelia感染症で、遊走性紅斑から神経、関節、心臓、皮膚へ播種し得ること、典型的遊走性紅斑は血清検査を待たず臨床診断することを確認した。閲覧 2026-08-25
  2. 2.Updated CDC Recommendation for Serologic Diagnosis of Lyme Disease(Morbidity and Mortality Weekly Report (Centers for Disease Control and Prevention)・2019)1994年以来の標準2段階検査は感度の高い酵素免疫測定法(EIA)または蛍光抗体法を第1段階、ウェスタンブロットを第2段階としてきたが、2019年7月29日にFDAが第2段階をウェスタンブロットではなく2つ目のEIAとする修正2段階検査(MTTT)の適応で複数の血清検査を承認し、CDCはFDAが当該用途で承認した検査をCDC推奨手順として扱うよう勧告したことを確認した。閲覧 2026-08-25
  3. 3.Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America (IDSA), American Academy of Neurology (AAN), and American College of Rheumatology (ACR): 2020 Guidelines for the Prevention, Diagnosis and Treatment of Lyme Disease(Infectious Diseases Society of America / American Academy of Neurology / American College of Rheumatology・2021)ドキシサイクリンは8歳未満でも14日程度までの短期使用は安全というコンセンサスに転換、単回曝露後予防はマダニがIxodes属と同定・高蔓延地域・付着36時間以上の3条件を満たす場合に限る、神経ボレリア症は通常14〜21日間、ライム関節炎は経口28日間を初期治療とする、治療後の非特異的症状に再感染・治療失敗の客観的根拠なく追加の抗菌薬を投与しないことを推奨閲覧 2026-08-25
  4. 4.Randomized Trial of Longer-Term Therapy for Symptoms Attributed to Lyme Disease(The New England Journal of Medicine・2016)ライム病に起因するとされた遷延症状に対し、長期抗菌薬治療が短期治療を上回る健康関連QOLの改善を示さなかったことを確認した。閲覧 2026-08-25