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Microbe Atlas · 細菌

Borrelia garinii

分類
スピロヘータ / SpirochetesBorrelia
性状
Gram陰性 (G−)らせん菌 Spirochete
科目
Medical Microbiology
トピック
2/30: Borrelia genus5/9: Causative agents of arthropod-borne bacterial infections (list)
原因となる疾患
ライム病

🧠 全体像:Borrelia gariniiはB. burgdorferi・B. afzeliiと同じ媒介の複合体に属する欧州・アジア優位種で、皮膚よりも神経系から分離されやすい菌種である。ドイツのの再評価では、皮膚由来株がB. afzeliiに大きく偏る一方、髄液由来株ではB. gariniiが単独で最も多い1。この「皮膚ではなく髄液から出てくる」という偏りが本菌種の読み方の軸で、よりも先に神経症状で発見されることも珍しくない。

微生物学的な特徴

形態・染色性・培養の困難さは属共通で、詳細はB. burgdorferiのノートを参照。渡り鳥がとして関与するとされ、欧州からアジア(シベリア・日本を含む)まで分布が広い点もB. burgdorferi(北米・シカ由来)と異なる。

⚠️ かつての「神経親和性の強いB. garinii」の一部は、別種Borrelia bavariensisに切り出された。 B. garinii OspA型4と呼ばれていた群が独立種B. bavariensisとして記載されたため、1990〜2000年代の文献で「B. garinii」として報告されたの一部は、現在の分類ではB. bavariensisにあたる1。欧州でヒトに病原性を持つ種として挙げられるのはB. burgdorferi sensu stricto・B. afzelii・B. bavariensis・B. gariniiで、さらに新種B. spielmaniiも病原性を持つ可能性があるとされる(ドイツでは皮膚由来株からのみ検出され、髄液由来株からは出ていない)1。「3菌種」で割り切れる構図ではない。

病原性の仕組み

B. gariniiは皮膚に偏るB. afzeliiと対照的に中枢・から分離されやすく、早期から髄膜・神経根・脳神経に到達しやすい。皮膚外症状(大半が)を呈した患者20例から得られた10株のうち9株がB. gariniiだった一方、・慢性萎縮性皮膚炎の患者70例の皮膚由来58株のうち57株は別の遺伝群であり、原著は菌種と病型の関連として、またごとに病原性が異なることの示唆として報告している2。この神経親和性の機序は完全には解明されていないが、菌体表面蛋白による神経組織細胞への高い接着性が関与すると考えられている。

なお、神経症状はライム病感染の3〜15%に生じる1。菌種の偏りは「その菌種に感染すれば神経症状が出る」という意味ではない。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hard-shelled tick'>硬マダニ</span>刺咬"] --> B["第1期:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythema migrans'>遊走性紅斑</span><br>(欠く例も少なくない)"]
  B --> C["早期から神経系へ移行"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphocytic meningitis'>リンパ球性髄膜炎</span>"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radiculitis'>神経根炎</span><br>(強い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radicular pain'>神経根痛</span>が特徴)"]
  C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cranial neuritis'>脳神経炎</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facial nerve palsy'>顔面神経麻痺</span>、しばしば両側性)"]
  D --> G["Bannwarth症候群<br>(髄膜炎+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radiculitis'>神経根炎</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cranial neuritis'>脳神経炎</span>の三徴)"]
  E --> G
  F --> G

⭐ Bannwarth症候群(Garin-Bujadoux-Bannwarth症候群)は欧州の成人における急性ライム病の症状として、に次いで多い。 ・激しい・の三徴を呈する。根痛はマダニ刺咬またはから平均4〜6週(幅は1〜18週)後に始まり、夜間に増悪する。患者の4分の3は1〜4週後にを来し、麻痺が感覚障害より多い。約60%にがあり、を除くすべての脳神経が侵されうるが、例の80%超で顔面神経が侵され、そのうち約3分の1が両側性である1。両側性を見たら・・を鑑別に挙げる。

💡 根症状を伴わない孤立性髄膜炎は、欧州では主に小児で見られる。 成人のが「髄膜炎+」の形をとりやすいのに対し、小児では髄膜炎単独で現れることが多い1。年齢で見え方が変わる点が診断の落とし穴になる。

感染経路と疫学

  • 伝播経路・マダニ付着時間の考え方はB. burgdorferiと共通
  • 北米のライム病はB. burgdorferi sensu strictoのみによるが、欧州ではB. afzelii・B. bavariensis・B. gariniiもヒトに病原性を持つ1
  • ⭐ 菌種の偏りは「皮膚か髄液か」で読む。 ドイツの242株を再評価した内訳は次のとおりで、種の明らかな優位が見られたのは皮膚由来のみだった1
分離元 B. garinii B. bavariensis B. afzelii
髄液(72株) 29% 22% 21%
皮膚(160株) 12% 12% 67%

💡 髄液由来株でB. gariniiが最も多いのは事実だが、過半ではない。 髄液由来株の内訳は3菌種がそれぞれ2割前後で並んでおり、「欧州のはほぼB. gariniiによる」と読むのは行き過ぎである。一方で皮膚由来株はB. afzeliiが3分の2を占め、こちらは明確に偏っている——つまり本菌種の特徴は「神経に偏る」よりも「皮膚に偏らない」と表現するのが正確である1。

起こす疾患

第1期()・関節炎などの臨床像はB. burgdorferiと重なるが、ではを欠いたまま神経症状で発症することが多い——の既往が報告されるのは患者の34〜46%にとどまり、急性例で報告されるのも25〜50%である1。「紅斑がないからライム病ではない」と外せない。

病期 神経症状
、(激しい痛み)、(顔面神経に多い)
慢性期 (症例の約3.3%、95%CI 2.2〜4.4%。痙性・とを伴うが最多)、末梢神経障害1

診断・治療

診断・治療の原則はB. burgdorferiのノートと共通するが、を疑う場合は髄液と血清を同時に採取して調べる。確定に必要なのは、①臨床的な疑い(・髄膜炎/髄膜・)、②髄液の()、③特異的な(髄液/血清の。Reiber法で血液髄液関門の機能を織り込んで算出する)——この3つが揃うことである1。

⚠️ は発症直後には陰性のことがある。 は発症2週目ごろに始まり、6〜8週後には99%超の患者で検出されるようになる。発症ごく初期の陰性はを否定しない。逆に、髄液のを伴わないの陽性は、現在のの証拠と解釈してはならない——が治癒したあとも何年にもわたって陽性のまま残りうるため、抗菌薬治療の効果判定の指標にも適さない1。

抗菌薬

⚠️ 「中枢神経病変だからセフトリアキソン静注」ではない。 現行のS3ガイドラインは、早期・晩期いずれのに対してもドキシサイクリン・セフトリアキソン・・のいずれか1剤で治療することを推奨しており(いずれも推奨度↑↑)、経路を静注に限定していない。早期では「ドキシサイクリンとβラクタム薬は神経症状に対する有効性・安全性が同等」がレベルIaの記述として置かれている(合意率100%)1。

病期 投与期間 推奨の強さ
早期 14日間 推奨度↑・レベルI(6週間投与が2週間投与にの臨床的利益を示さなかった無作為化試験とにもとづく)
晩期 14〜21日間 推奨度↑・レベルIV
  • ⚠️ 上ほぼ確実または確定のによるには、抗菌薬にステロイドを併用しない(推奨度↓↓、合意率100%)1。特発性(Bell麻痺)でのステロイド使用とは方針が異なるため、鑑別が付く前後で扱いを切り替える必要がある。
  • 8歳未満へのドキシサイクリン投与制限は撤回された——歯のが生じないという近年のデータによる1。
  • 治療効果の判定はで行う(推奨度↑↑)。髄液所見やの正常化を追いかけない1。

まとめ

  • B. gariniiは欧州・アジア優位の起因種で、B. afzeliiが皮膚由来株の3分の2を占めるのに対し、本菌種は髄液由来株で単独最多(29%)という偏りを示す。ただし過半ではなく、B. bavariensis(旧B. garinii OspA型4)・B. afzeliiもそれぞれ2割前後を占める。
  • 代表的な病像はBannwarth症候群(+夜間に増悪する+)。欧州の成人ではに次いで多い症状で、約60%にがあり、その80%超が顔面神経である。
  • を欠いたまま神経症状で発症することがあり、両側性の鑑別に挙がる。神経症状が出るのは感染の3〜15%である。
  • 診断は臨床的疑い+髄液の+特異的なの3点。は発症2週目ごろから陽性化するため、ごく早期の陰性では否定できない。
  • 治療はドキシサイクリン・セフトリアキソン・・のいずれか1剤(早期は14日間、晩期は14〜21日間)。早期ではドキシサイクリン経口とβラクタム薬が同等とされ、静注に限定されない。にステロイドを併用しない。

出典

  1. 1.Guidelines for diagnosis and treatment in neurology - Lyme neuroborreliosis(Deutsche Gesellschaft für Neurologie(AWMF S3ガイドライン 030/071、GMS German Medical Science 掲載)・2025)2020年版を改訂した現行のS3ガイドラインの全文(Europe PMC の公開全文)で確認した。神経症状は感染の3〜15%に生じ、多発根炎・髄膜炎、まれに脳脊髄炎として現れること。治療は早期神経ボレリア症・晩期神経ボレリア症のいずれもドキシサイクリン・セフトリアキソン・セフォタキシム・ペニシリンGのいずれか1剤で行う(いずれも推奨度↑↑)ことが推奨されており、静注セフトリアキソンに限定していない。早期神経ボレリア症では「ドキシサイクリンとβラクタム薬は神経症状に対する有効性と安全性が同等」がレベルIaの記述として置かれ(合意率100%)、投与期間は14日(推奨度↑、レベルI。6週間投与が2週間投与に上乗せの臨床的利益を示さなかった無作為化試験とプール解析にもとづく)、晩期神経ボレリア症では14〜21日(推奨度↑、レベルIV)とされる。診断は臨床的疑いに加えて髄液の炎症性変化とボレリア特異的な髄腔内抗体産生(Reiber法による髄液/血清抗体指数)の併存で確定し、髄腔内抗体産生は発症2週目ごろに始まり6〜8週後には99%超で検出されるが、髄液の炎症性変化を伴わないボレリア特異的抗体指数の陽性は、神経ボレリア症が治癒したあとも何年にもわたって陽性のまま残りうるため、抗菌薬治療の管理指標として適さず、現在の神経ボレリア症の証拠と解釈してはならない(合意率100%)。治療効果の判定は臨床症状で行う(推奨度↑↑)。診断基準上ほぼ確実または確定の神経ボレリア症による顔面神経麻痺には、抗菌薬に併用してステロイドを投与すべきでない(推奨度↓↓、合意率100%)。8歳未満へのドキシサイクリン投与制限は歯の黄染が生じないという近年のデータにより撤回された。欧州ではB. afzelii・B. bavariensis・B. garinii もヒトに病原性を持ち、B. garinii OspA型4がB. bavariensis として独立種とされたのちにドイツの242株を再評価すると、髄液由来72株の内訳はB. garinii 29%・B. bavariensis 22%・B. afzelii 21%、皮膚由来160株はB. afzelii 67%・B. bavariensis 12%・B. garinii 12%で、単一菌種の明らかな優位が見られたのは皮膚由来のみだった。Garin-Bujadoux-Bannwarth症候群は欧州の成人における急性ライム病の症状として遊走性紅斑に次いで多く、根痛は刺咬または遊走性紅斑から平均4〜6週(1〜18週)後に始まり夜間に増悪し、4分の3の患者が1〜4週後に神経脱落症状を来して麻痺が感覚障害より多いこと、Bannwarth症候群の約60%に脳神経障害があり嗅神経を除くすべての脳神経が侵されうること、脳神経障害例の80%超で顔面神経が侵されることを確認した。欧州では根症状を伴わない孤立性髄膜炎は主に小児で観察される。中枢神経系の関与はまれで、系統的レビューによれば**神経ボレリア症症例の**約3.3%(95%CI 2.2〜4.4%。古い症例集積では4〜5%)であり、その最多の病型は痙性・失調性歩行と膀胱障害を伴う脊髄炎である。顔面神経麻痺は脳神経障害例の80%超を占め、そのうち約3分の1が両側性となる。遊走性紅斑の既往が報告されるのは神経ボレリア症患者の34〜46%にとどまり、急性の神経ボレリア症例で遊走性紅斑が報告されるのは25〜50%である。また新種 Borrelia spielmanii もヒトへの病原性を持つ可能性があり、ドイツの皮膚由来160株のうち4株(いずれも遊走性紅斑)から検出されたが、髄液由来72株からは検出されていない。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Different Genospecies of Borrelia burgdorferi Are Associated with Distinct Clinical Manifestations of Lyme Borreliosis(Clinical Infectious Diseases(van Dam AP, et al.)・1993)皮膚外症状を呈したライム病患者20例(うち17例が神経ボレリア症)の髄液3株・皮膚7株の計10株のうち9株がB. gariniiだった一方、遊走性紅斑または慢性萎縮性皮膚炎の患者70例の皮膚由来58株のうち57株は別の遺伝群(group VS461)であり、著者らがこれを「group VS461とB. gariniiはそれぞれ皮膚症状・皮膚外症状と関連する」「B. burgdorferiの遺伝型は病原性が異なることを示唆する」と関連として述べていることを抄録で確認した(原因と断定してはいない)。著者名と表題はCrossrefで照合した。閲覧 2026-09-27