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Microbe Atlas · 細菌

Borrelia recurrentis

分類
スピロヘータ / SpirochetesBorrelia
性状
Gram陰性 (G−)らせん菌 Spirochete
科目
Medical Microbiology
トピック
2/30: Borrelia genus5/9: Causative agents of arthropod-borne bacterial infections (list)
原因となる疾患
回帰熱(シラミ媒介性)

🧠 全体像Borrelia recurrentisはライム病を起こすB. burgdorferi群とは別系統で、が媒介するの起因菌である。病期を追って病像が変わるライム病群と違い、この菌は同じ発熱発作を何度も繰り返す——その正体はによりから次々と逃れる仕組みにある。ヒトだけを宿主とし、戦争・難民キャンプ・災害時など過密で不衛生な環境に強く結びつく「社会が生む感染症」という側面も特徴的。

微生物学的な特徴

形態・染色性(Giemsa染色)は属共通で、詳細はB. burgdorferiのノートを参照。B. recurrentisは動物宿主を持たないヒト特異的な菌種で、これはBorrelia属の中でも例外的な性質である。人工培地での培養は成功率が低く、確定診断は直接検鏡に依存する。

病原性の仕組み

は吸血時に菌を注入するのではなく、吸血中に潰されるかヒトがした際に、の体液()中の菌が皮膚の傷から侵入する——蚊やマダニのような「刺咬による接種」とはが異なる点に注意する。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='body louse'>コロモジラミ</span>の体液(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemolymph'>血リンパ</span>)中の菌が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='curettage'>掻爬</span>・圧潰で皮膚から侵入"] --> B["菌血症・第1回発熱発作<br>(3-7日間、高熱・悪寒・頭痛・筋肉痛)"]
  B --> C["特異的IgMが補体依存性に菌を溶解<br>血中から一時的に消失(無熱期)"]
  C --> D["生き残った菌が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gene rearrangement'>遺伝子再構成</span>により<br>表面蛋白(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='variable major protein, Vmp'>可変主要蛋白</span>)の抗原を作り替え"]
  D --> E["免疫系にとって『新種』として再出現<br>第2回発熱発作"]
  E -.->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antigenic variation'>抗原変異</span>を繰り返す"| C
  E --> F["回を重ねるごとに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary exposure'>免疫記憶</span>が蓄積し<br>発作は弱く・間隔は短くなる"]

💡 の実体は B. recurrentisは染色体外にある複数のと多数のを持ち、により発現する表面蛋白()の型を切り替える。これにより既存抗体が効かない菌体亜集団が再び増殖でき、発熱発作が数回(典型的には3〜10日間隔で数回)繰り返される。

⚠️ 未治療のは致死率が高い。 特に妊婦・状態・がある集団での死亡率が高く、大流行時の未治療例は古典的に30〜80%と報告されてきたが、文献をプールした解析では未治療例で6%(顕微鏡・PCRに限ると10.2%)、極端な集団発生を除くと3.1%とされる。肝脾腫、黄疸、DIC様のを合併しうる。

感染経路と疫学

  • ベクターはPediculus humanus corporis)。を持たないヒト--ヒトの伝播環が成立する
  • 過密・不衛生な環境(戦争、難民キャンプ、自然災害後の避難所など)で集団発生する。現在はエチオピアなど東アフリカの一部地域で流行性を維持
  • が媒介するBorrelia hermsiiなど、が保菌動物)とは疫学が異なる別カテゴリーであることに注意——同じ「」という病名でもベクターと背景が違う

起こす疾患

:3〜7日間の高熱発作と、それに続く数日間の無熱期を繰り返すが、媒介のでは発熱発作は典型的に1〜2回にとどまる(3〜7回の再発を繰り返すのはダニ媒介の方である)。発作を経るごとに症状は軽くなり間隔は不規則になる。頭痛・筋肉痛・関節痛を伴い、重症例では肝脾腫・黄疸・・髄膜炎症状を合併する。

診断

  • 発熱期のをGiemsa染色またはしてする——など他のスピロヘータと異なり、菌体が比較的大きく通常ので直接視認できる点が診断上の強みである
  • 無熱期は血中の菌体密度が下がるため検出感度が落ちる。発熱発作のタイミングでの採血が重要
  • 血清学()・PCRも利用できるが、のため血清診断の解釈は複雑になりうる

治療と予防

  • ドキシサイクリンまたはの単回〜短期投与で著効する
  • ⚠️ :治療開始後数時間以内に高頻度で(ではしばしば梅毒治療時より頻度が高いとされる)起こる。大量に死滅したスピロヘータからサイトカインが急激に放出され、発熱・悪寒・血圧低下をきたす。抗菌薬の副作用や病状悪化と誤認せず、支持療法(・輸液)で対応する
  • 予防は衛生環境の改善と駆除(防虫剤処理、衣類の・交換)が中心。ワクチンはない

まとめ

  • B. recurrentisが媒介し動物宿主を持たない、ヒト特異的なの起因菌である。
  • 病態の核心はによる表面蛋白の切り替え)で、これが「発熱→無熱→発熱」を繰り返す機序になる。
  • 伝播はの刺咬ではなく、圧潰・によりの体液中の菌が皮膚から侵入する点が蚊・感染と異なる。
  • 過密・不衛生な環境(戦争・難民キャンプ・災害後)に強く結びつき、東アフリカの一部で流行を維持する。
  • 診断は発熱期のによるが有用——菌体が大きく可視化しやすい数少ないスピロヘータである。
  • 治療はドキシサイクリン・ペニシリンの短期投与。⚠️ が高頻度に起こる。