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Microbe Atlas · 細菌

Borrelia recurrentis

分類
スピロヘータ / SpirochetesBorrelia
性状
Gram陰性 (G−)らせん菌 Spirochete
科目
Medical Microbiology
トピック
2/30: Borrelia genus5/9: Causative agents of arthropod-borne bacterial infections (list)
原因となる疾患
回帰熱(シラミ媒介性)

🧠 全体像:Borrelia recurrentisはライム病を起こすB. burgdorferi群とは別系統で、が媒介するの起因菌である。病期を追って病像が変わるライム病群と違い、この菌は同じを何度も繰り返す——その正体はによりから次々と逃れる仕組みにある。ヒトだけを宿主とし、戦争・難民キャンプ・災害時など過密で不衛生な環境に強く結びつく「社会が生む感染症」という側面も特徴的。

微生物学的な特徴

形態・染色性()は属共通で、詳細はB. burgdorferiのノートを参照。B. recurrentisは動物宿主を持たないヒト特異的な菌種で、これはBorrelia属の中でも例外的な性質である。💡 種としての境界も実は薄い。 本菌とを起こすB. duttonii・B. crociduraeの平均ヌクレオチド一致度は99%で、3者は同一のゲノム種のエコタイプに過ぎないとみなされている1——ベクターと疫学が違うだけで、ゲノムはほぼ同じものを見ている。人工培地での培養は成功率が低く、確定診断は直接検鏡に依存する。

病原性の仕組み

は吸血時に菌を注入するのではなく、圧潰されたの、または菌を含むの糞が、によって皮膚の傷やなどの粘膜から接種される1——蚊やマダニのような「刺咬による接種」とはが異なる点に注意する。潜伏期は4〜18日(平均7日)で、高熱・悪寒・頭痛・全身の疼痛が突然始まる1。

⚠️ ベクターを介さない経路もある。 輸血・針刺し・感染血液による創汚染は院内感染の経路になりうる1。または経卵伝播しないためリザーバーにならない1——これがマダニ(経卵伝播し長期のリザーバーになる)との決定的な違いで、ヒト集団からを除けば流行が止まる理由でもある。

flowchart TD
  A["圧潰された<span class='jp-term jp-term-diagram' title='louse'>シラミ</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='body cavity fluid'>体腔液</span>や糞の菌が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='curettage'>掻爬</span>で皮膚・粘膜から侵入"] --> B["菌血症・第1回<span class='jp-term jp-term-diagram' title='febrile attack'>発熱発作</span><br>(4-10日・平均5日、高熱・悪寒・頭痛・全身痛)"]
  B --> C["B1b細胞由来の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bactericidal'>殺菌性</span>IgMが<br>補体・T細胞に依存せず菌を溶解<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afebrile interval'>無熱期</span>(5-9日)"]
  C --> D["生き残った菌が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gene rearrangement'>遺伝子再構成</span>により<br>可変主要外膜リポ蛋白の抗原を作り替え"]
  D --> E["免疫系にとって『新種』として再出現<br>第2回<span class='jp-term jp-term-diagram' title='febrile attack'>発熱発作</span>"]
  E -.->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antigenic variation'>抗原変異</span>を繰り返す"| C
  E --> F["再発は重症度を減じながら続く<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='louse'>シラミ</span>媒介型は典型的に1-2回、最大5回)"]

💡 の実体は。 プラスミドに蓄えられたサイレント遺伝子が発現直鎖プラスミドの一端へ転移し、組換えによって新しい可変主要外膜リポ蛋白が作られる1(この機序はのB. hermsiiで詳しく解析されている)。新しい外膜に対する抗体ができるまでは免疫を回避できるため、未治療の感染では異なる型を発現した菌が次々と現れる1。

💡 発作のを担うのはIgMだが、補体には頼っていない。 発作が突然終わるのはB1b細胞が産生するIgM抗体が、補体にもT細胞にも依存せずにスピロヘータを溶解するためである1。本菌は(C4bp・C1-Inh・CFH)に結合する受容体を持ち、さらに結合によりC3b沈着を減らして補体による溶解を回避している1——補体経路を封じている菌が抗体で倒されるという構図になっている。のあいだ菌は脾・肝・腎・眼などに細胞外で残存しうる1。

未治療の発作は4〜10日(平均5日)で危機的にし、5〜9日のをおいて再発する1。再発は重症度を減じながら最大5回まで起こりうるが1、媒介型はダニ媒介型より回数が少なく典型的には1〜2回にとどまる2。

⚠️ 未治療のは致死率が高い。 な歴史的流行では未治療例の致死率が30〜70%と報告されており、治療例では平均2〜6%まで下がる1。一方、文献をプールした解析では未治療例で6%(顕微鏡・577例に限ると10.2%)、極端な事例を除くと約3.1%とされる3——同じ「未治療致死率」でも、歴史的大流行を数えるか近年の報告を統合するかで一桁変わる。小児の致死率は報告により1.9〜5.5%で、エチオピアの15歳未満154例の報告では2.4%と、同じ報告の成人(13.2%)より低かった1。肝脾腫、黄疸、様のを合併し、は約40%にみられる1。妊娠は特にリスクが高く、206例の解析で70.9%に流産・早産などの有害な転帰が観察された3。

感染経路と疫学

  • ベクターは(Pediculus humanus corporis)。を持たないヒト--ヒトの伝播環が成立する
  • 過密・不衛生な環境(戦争、難民キャンプ、自然災害後の避難所など)で集団発生する。現在はエチオピアなど東アフリカの一部地域で流行性を維持
  • が媒介する(Borrelia hermsiiなど、が)とは疫学が異なる別カテゴリーであることに注意——同じ「」という病名でもベクターと背景が違う

起こす疾患

:4〜10日(平均5日)の高熱発作と5〜9日のを繰り返すが1、媒介のではは典型的に1〜2回にとどまる(3〜7回の再発を繰り返すのはの方である)2。発作を経るごとに症状は軽くなる。頭痛・筋肉痛・関節痛を伴い、重症例では肝脾腫・黄疸・・(約40%)を合併する1。

診断

  • のをまたはしてする——など他のスピロヘータと異なり、菌体が比較的大きく通常ので直接視認できる点が診断上の強みである
  • は血中の菌体密度が下がるため検出感度が落ちる。のタイミングでの採血が重要
  • 血清学()・も利用できるが、のための解釈は複雑になりうる

治療と予防

⭐ 薬の選択は「効きの良さ」と「の重さ」のになる。 エチオピアで行われた6件のはいずれもペニシリンまたはテトラサイクリンの単回投与で実施されており、では死亡率に差はなかった。テトラサイクリンのほうが再発が少なく発熱消退も速い一方、の頻度はテトラサイクリンで高かった(比較した5試験のうち3試験でペニシリンが有利)4。

薬剤 有利な点 不利な点
テトラサイクリン系 再発が少ない、発熱消退が速い の頻度が高い
ペニシリン が少ない 再発を防ぎきれないことがある

いずれも死亡率に差はない。ただし原著は組み入れ試験が小規模で質に限界があると明記している4。

  • 臨床ではドキシサイクリンまたはが用いられる。参考資料はドキシサイクリン100 mgを1日2回7〜10日間とする用法を挙げている2
  • 妊婦・8歳未満の小児にはペニシリンまたはが望ましい薬剤とされる2
  • ⚠️ :治療開始後数時間以内に起こり、報告例では2,618例中1,452例(55.8%)という過半数の頻度である3。大量に死滅したスピロヘータからサイトカインが急激に放出され、発熱・悪寒・血圧低下をきたす。抗菌薬の副作用や病状悪化と誤認せず、支持療法(・輸液)で対応する。梅毒の治療時にも起こるが、では頻度も重症度も大きい
  • 予防は衛生環境の改善と駆除(防虫剤処理、衣類の・交換)が中心。ワクチンはない

まとめ

  • B. recurrentisはが媒介し動物宿主を持たない、ヒト特異的なの起因菌である。
  • 病態の核心は(可変主要外膜リポ蛋白のによる切り替え)で、これが「発熱(4〜10日)→無熱(5〜9日)→発熱」を繰り返す機序になる1。発作のはB1b細胞由来のIgMが補体にもT細胞にも依存せず菌を溶解することで起こる1。
  • 伝播はの刺咬ではなく、圧潰されたのや糞の菌がで皮膚・粘膜から侵入する点が蚊・感染と異なる1。は経卵伝播せずリザーバーにならない。
  • 過密・不衛生な環境(戦争・難民キャンプ・災害後)に強く結びつき、東アフリカの一部で流行を維持する。
  • 未治療の致死率は歴史的大流行で30〜70%、治療により平均2〜6%まで下がる1。近年の報告を統合した解析では未治療例で3〜10%台とされ3、数字は集計の仕方で大きく動く。
  • 診断はのによるが有用——菌体が大きく可視化しやすい数少ないスピロヘータである。
  • 治療はテトラサイクリン系またはペニシリンで、単回投与でも有効。テトラサイクリン系は再発が少ない代わりにが多い4。⚠️ は報告例の55.8%に起こる3。

出典

  1. 1.Louse-borne relapsing fever (Borrelia recurrentis infection)(Epidemiology and Infection・2019)全文(PMC6518520)を取得し、伝播が圧潰されたコロモジラミの体腔液または菌を含むシラミの糞が掻爬によって皮膚の傷や結膜などの粘膜から接種されることで起こり、輸血・針刺し・感染血液による創汚染が院内感染の経路になりうること、シラミは経卵伝播しないためリザーバーにならないこと、潜伏期が4〜18日(平均7日)であること、未治療の発作は4〜10日(平均5日)で危機的に終息し5〜9日の無熱期をおいて重症度を減じながら最大5回までの再発が続くこと、発作の終息はB1b細胞が産生する殺菌性IgM抗体が補体およびT細胞に依存せずスピロヘータを溶解することによること、菌はC4bp・C1-Inh・CFHに結合する受容体やプラスミン結合によるC3b沈着の低下で補体による溶解を回避すること、抗原変異はプラスミドに蓄えられたサイレント遺伝子が発現直鎖プラスミドの一端へ転移し組換えによって新しい可変主要外膜リポ蛋白を作ることで起こり機序はダニ媒介のB. hermsiiで詳しく解析されていること、未治療例の致死率が大規模な歴史的流行で30〜70%と報告され治療例では平均2〜6%であること、小児の致死率が1.9〜5.5%で成人(13.2%)より低いこと、髄膜刺激症状が約40%にみられることを確認した。2026-09-28の横断監査でPMC全文を再取得し、上記に加えて本菌と*B. duttonii*・*B. crocidurae*の平均ヌクレオチド一致度が99%で3者が同一ゲノム種のエコタイプとみなされること、小児の致死率が報告で1.9〜5.5%、エチオピアの15歳未満154例では2.4%で同じ報告の成人(13.2%)より低いことを逐語で照合した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Relapsing Fever(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)シラミ媒介回帰熱の流行では典型的に発熱発作は1〜2回にとどまるのに対し、地方病性のダニ媒介回帰熱では症状消退までに3〜7回の再発がみられること、治療はドキシサイクリン100 mgを1日2回7〜10日間投与すること、妊婦・8歳未満の小児にはペニシリンまたはエリスロマイシンが望ましい薬剤とされることを確認した。2026-09-28の横断監査でWayback(2025年12月8日保存の印刷版)から本文を取り直して上記を再確認し、最終更新が2025年5月4日であること、潜伏期が4〜18日であること、シラミが圧潰されて体腔液(hemocoel)中の菌が健常な皮膚・粘膜面から侵入し無傷のシラミは伝播させないことも確認した。⚠️ 以前この claim に含めていた「B. duttonii・B. crocidurae と単一のゲノム種のエコタイプとみなされる」という記述はこの資料には無く、Warrell 2019 の記述だったため削除した閲覧 2026-08-11
  3. 3.Louse-borne relapsing fever—A systematic review and analysis of the literature: Part 2—Mortality, Jarisch–Herxheimer reaction, impact on pregnancy(PLoS Neglected Tropical Diseases(Kahlig P, Neumayr A, Paris DH)・2021)報告2,618例中1,452例(55.8%)にJarisch-Herxheimer反応がみられたこと、未治療例の致死率が集計対象により6%(臨床診断例を含む集計)〜10.2%(顕微鏡・PCR確定例577例)で、極端な事例を除くと全体で約3.1%まで下がること、妊娠206例の70.9%で有害な妊娠転帰が観察されたことを確認した。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Comparison of antibiotic regimens for treating louse-borne relapsing fever: a meta-analysis(Transactions of the Royal Society of Tropical Medicine and Hygiene・2011)抄録で、エチオピアで行われた6件の無作為化比較試験を統合したこと、いずれもペニシリンまたはテトラサイクリンの単回投与を用いていたこと、死亡率に両者の差がなかったこと、Jarisch-Herxheimer反応の頻度を比較した5試験のうち3試験でペニシリンが有利だったこと、再発のリスクはテトラサイクリンで低く発熱消退までの平均時間もテトラサイクリンで短かったこと、結論としてテトラサイクリンが最も効率的だがJarisch-Herxheimer反応の頻度は高いと述べていることを確認した。試験は小規模で質に限界があると原著が明記している。全文は未取得で、確認範囲は抄録に限る。閲覧 2026-09-27