微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · 細菌

Brucella abortus

分類
G− 球桿菌 / Gram− coccobacilliBrucella
性状
Gram陰性 (G−)球桿菌 Coccobacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/22: Brucella genus
原因となる疾患
ブルセラ症

🧠 全体像:Brucella abortusは属内の基本病態——マクロファージに乗ってを巡回しを起こす——をBrucella melitensisと共有しつつ、リザーバーがである点で区別される種である。動物では胎盤に親和性が高く流産(アボーション)を起こすことからがつき、衛生の文脈では「」と呼ばれる。ヒトの臨床像・診断・治療はB. melitensisと共通するため、ここではB. abortusに固有の疫学を中心に扱う。

微生物学的な特徴・病原性の仕組み

グラム陰性・の球桿菌で、マクロファージ内でを阻害して生存するという基本性状は属共通——詳しい機序・が生まれる理由はBrucella melitensisを参照。の分類ではカテゴリーB——「散布が中等度に容易」「中等度の発病率と低い」「診断能力との強化を要する」群——に置かれており、この区分は種ではなくBrucella属単位で与えられている1。培養操作自体が検査者への感染リスクとなる点も同じである。

感染経路と疫学

  • リザーバーは。感染したは胎盤に菌が親和性を持つため流産・を起こしやすく(動物側の病名「」の由来)、出産・流産に伴う胎盤・への曝露が感染(獣医・畜産従事者)の主な経路になる
  • 未殺菌の・乳製品の摂取も感染経路になる
  • 米国ではの事業によりのがほぼ排除され、既知の感染群はグレーターイエローストーン地域(イエローストーン・グランドティトン両国立公園に隣接するアイダホ・ワイオミング・モンタナの一部)の外には残っていない。同地域の野生のエルクとバイソンがとして残存しており、ワイオミング州には冬季にエルクへ給餌する州・連邦の給餌場がある2。輸入未殺菌チーズによるも続いている
  • ⭐ 「溢れ出し」の向きが逆転した。 もともとからエルク・バイソンへ溢れ出た疾患が、今はエルクからへ繰り返し逆流している。1990〜2002年には同地域のに既知の症例が無かったが、2002年4月〜2012年4月にビーフ牛13群と飼養バイソン4群で発生し、計17件の伝播事例が調査され、いずれも感染源は野生のエルクと判定された。バイソンからへの伝播は実験的にも自然界でも示されているが、この地域ではとバイソンを空間的・時間的に分離する管理が続いているため報告されていない2
  • ヒトに病原性を持つ主要3菌種(B. melitensis・B. suis・B. abortus)の中では臨床経過が比較的軽症とされることが多いが、無治療での慢性化・合併症のリスクは他種と同様に存在する

起こす疾患・診断・治療

臨床像(・肝脾腫・)、診断(血液培養・)はいずれもBrucella melitensisと共通する。治療も共通で、2剤以上を6週間以上併用して単剤治療を避けるのが原則である。⭐ ただし併用の組み方には差がある——30件のでは、ドキシサイクリン+リファンピシンはドキシサイクリン+より主に再発の多さによってが有意に多く(2.80)、はに劣らず、望ましいのはアミノグリコシドを含む2剤または3剤併用とされている3。だけで完結するドキシサイクリン+リファンピシンが広く使われるのは利便性によるもので、再発の多さと引き換えである。重症・複雑例では3剤併用を用いる。

予防は乳製品のと、側のワクチン接種・による感染源対策が中心。⚠️ 用のRB51株は流産を減らす効果はあるが感染そのものは防がないため、接種済みの群でも感染が成立しうる2。診断の実務・治療レジメンの使い分けの詳細はのノートを参照。

まとめ

  • B. abortusはを主なリザーバーとするブルセラ属菌で、動物では胎盤親和性から流産を起こす()。
  • ヒトへの感染経路は出産・流産に伴う胎盤への、またはの摂取。
  • 病態生理・診断・治療はB. melitensisと共通——マクロファージ内寄生によるへの播種、、2剤以上を6週間以上の併用治療。ではアミノグリコシドを含む併用が望ましいとされ、ドキシサイクリン+リファンピシンは再発が多い。
  • 米国ではの事業でのがほぼ排除されたが、グレーターイエローストーン地域の野生のエルク・バイソンがとして残り、エルクからへの逆流が2002〜2012年に17件確認されている。

出典

  1. 1.Bioterrorism Agents/Diseases(Centers for Disease Control and Prevention・2018)2018年4月4日最終レビューのページ(本体は自動取得を拒否したため、Wayback Machineの2024年11月16日保存版を curl で取得して本文を確認)で、カテゴリーBに「ブルセラ症(*Brucella*属)」として属単位で挙げられていることを確認した。種ごとの区分ではない。カテゴリーBの定義は「散布が中等度に容易」「中等度の発病率と低い致命率をもたらす」「CDCの診断能力の特定の強化と疾病サーベイランスの強化を要する」である。閲覧 2026-09-28
  2. 2.Transmission of Brucellosis from Elk to Cattle and Bison, Greater Yellowstone Area, USA, 2002–2012(Emerging Infectious Diseases・2013)Europe PMC(PMC3840865)の全文で確認した。ウシのブルセラ症が米国の家畜からほぼ排除され、既知の感染家畜群はグランドティトン国立公園とイエローストーン国立公園に隣接するアイダホ・ワイオミング・モンタナの一部(グレーターイエローストーン地域)の外には残っていないこと、同地域のバイソンとエルクが病原巣として残り、ワイオミング州には冬季にエルクへ給餌する州および連邦の給餌場があること、もともとウシからエルク・バイソンへ溢れ出た疾患が現在はエルクからウシへ繰り返し逆流していること、1990〜2002年には同地域の家畜に既知の症例が無かったこと、2002年4月〜2012年4月に同地域のビーフ牛13群と飼養バイソン4群でブルセラ症が見つかり、さらに伝播時点での混牧と所有権移転により3群が追加で確認され(原著は全体を「17件の伝播事例」と数えている。表は伝播事例単位なので群数と一致しない)、いずれも疫学・微生物学的調査により野生のエルクからウシまたは飼養バイソンへの伝播と判定されたこと、バイソンからウシへの伝播は実験的にも自然界でも示されているがグレーターイエローストーン地域では報告がなく、ウシとバイソンを空間的・時間的に分離する厳格な管理が続いているためと考えられること、17群のうち14群は発見時の血清陽性率が10%未満・11群は3%未満で流産の報告もほとんど無く、これは厳格なサーベイランスと同地域での広範なワクチン接種によると考えられること、弱毒生ワクチンRB51株は流産を減らす効果はあるが感染そのものは防がないことを確認した。DOIの著者・題名・誌名はCrossrefで照合した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Treatment of human brucellosis: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials(BMJ(Skalsky K, Yahav D, Bishara J, et al.)・2008)Europe PMCの抄録で確認した(全文は未取得)。ランダム化比較試験30件・77治療群のメタアナリシスで、ドキシサイクリン+リファンピシンがドキシサイクリン+ストレプトマイシンより主に再発の多さによって全体の治療失敗が有意に多いこと(相対危険度2.80、95%信頼区間1.81〜4.36、13試験、異質性なし)、この結果が菌血症例と複雑性ブルセラ症の患者でも一貫していたこと、ドキシサイクリン+ストレプトマイシンの2剤はドキシサイクリン+リファンピシン+アミノグリコシドの3剤併用より治療失敗が有意に多いこと(相対危険度2.50、95%信頼区間1.26〜5.00、2試験)、ゲンタマイシンがストレプトマイシンに劣らないこと(2試験)、キノロン+リファンピシンがドキシサイクリンとの併用より有意に劣ること(相対危険度1.83、5試験)、同じ期間なら単剤が併用より治療失敗が多いこと(相対危険度2.56、95%信頼区間1.55〜4.23、5試験)、6週間以上の治療が短期間より有利であること、望ましい治療はアミノグリコシドを含む2剤または3剤併用であるという結論を確認した。閲覧 2026-09-27