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Microbe Atlas · 細菌

Brucella melitensis

マルタ熱菌

分類
G− 球桿菌 / Gram− coccobacilliBrucella
性状
Gram陰性 (G−)球桿菌 Coccobacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/22: Brucella genus
原因となる疾患
ブルセラ症脊椎椎体炎・椎間板炎

🧠 全体像:は「マクロファージに住み着いた菌がを巡回する」病気として読むと全体が1枚の絵になる。マクロファージに貪食されてもを阻害して生き延び、そのままマクロファージを乗り物にして肝・脾・骨髄・リンパ組織を巡る。到達した臓器でマクロファージが壊れるたびに発熱→→再発熱という「」が生まれる。曝露歴は一貫してまたは——B. melitensisはヤギ・ヒツジ由来で、ヒトに対して属の中で最も病原性が強い種であり、地中海沿岸に由来する「」の名の通りヒトの主体をなす。

微生物学的な特徴

小型ので。低温環境でも生存できる一方、発育が極めて遅いである。

項目 内容
形態 、
発育性状 低温でも、標準培地での発育に日数〜週単位を要する(現在の自動血液培養システムでは検出が早まっているが、疑う場合は培養期間の延長と検査室への事前連絡が望ましい)
細胞内寄生性 ——マクロファージなど分裂中の細胞内で増殖し、を阻害することで殺菌を免れる
に分類——培養操作自体が検査者への曝露リスクとなるため、疑う場合は検体提出前に検査室へ連絡する

病原性の仕組み

flowchart TD
  A["動物との直接接触<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unpasteurized dairy products'>未殺菌乳製品</span>の摂取"] --> B["Brucella がマクロファージに貪食される"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phagolysosome fusion'>ファゴリソソーム融合</span>を阻害<br>マクロファージ内で生存・増殖"]
  C --> D["リンパ管 → 所属リンパ節 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='thoracic duct'>胸管</span> → 血流"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reticuloendothelial organs'>網内系臓器</span>へ到達<br>(肝・脾・骨髄・リンパ組織)"]
  E --> F["マクロファージ融解の繰り返し"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='undulant fever'>波状熱</span>・肝脾腫・(慢性化で)<span class='jp-term jp-term-diagram' title='osteoarticular involvement'>骨関節病変</span>"]

💡 なぜ「波状」のになるのか。 マクロファージ内で増殖した菌がある程度の菌量に達するとマクロファージが破裂(融解)し、放出された菌体成分・が発熱を起こす。マクロファージに再度取り込まれ増殖するまでの間はするため、発熱とを繰り返す「」という周期的なが生まれる。

感染経路と疫学

  • 直接感染:(ヤギ・ヒツジ)との直接接触——食肉解体業者・獣医・牧畜従事者などが中心
  • 間接感染:されていない乳製品(生乳・非殺菌チーズなど)の摂取
  • 地中海沿岸・中東・中央アジアなどからの輸入チーズが先進国でのの原因になることがある
  • のリスクが高い——細菌感染症の中でも古くから代表的なの原因菌として知られる。1982〜2007年の文献レビューでは、検査室での曝露の88%は明らかな事故ではなく通常の同定作業中に菌が化したことによるもので、曝露の80%はB. melitensisだった。潜伏期の中央値は8週間(1〜40週)と長く、抗菌薬による曝露後予防で発症を防げた1

起こす疾患

臨床像・診断の実務・治療レジメンの使い分けはのノートに詳しい。

病態 特徴
発熱の上昇・下降を繰り返す。発汗・・頭痛・関節痛を伴う
肝脾腫 (肝・脾)へのマクロファージを介した播種による
精巣・陰嚢の腫脹 男性患者でみられる特徴的な所見(・)
慢性化した症例で・脊椎炎・骨髄炎として出現
・心内膜炎 まれだが、心内膜炎はによる死亡の主な原因となる

診断

⚠️ 培養そのものが危険。 に分類され、培養操作自体が検査者への感染リスクとなるため、疑う場合は検体提出前に検査室へ連絡し慎重な取り扱いを依頼する。

検査 内容
血液培養 標準法で検出可能なことが多いが、陰性でも否定できない。喀痰・尿・脳脊髄液・骨髄・リンパ節穿刺液も検体になりうる
() 患者血清中の特異抗体を、抗原をしながらとして測定する標準的な法
・IgM 迅速スクリーニングとして利用
抗原を皮内注射しをみる——現在は的な位置づけが中心

治療と予防

  • 2剤以上の併用を6週間以上行う——細胞内寄生菌であるため、同じ期間なら単剤治療は併用よりが多く、治療期間も6週間以上のほうが短期間より有利である2
  • ⭐ 併用の組み方にも差がある。のでは、ドキシサイクリン+リファンピシンはドキシサイクリン+より(主に再発)が多く(2.80)、はに劣らなかった。望ましい治療はアミノグリコシドを含む2剤または3剤併用とされる2。ドキシサイクリン+リファンピシンの6週間併用はだけで完結するため広く使われるが、再発の多さと引き換えである
  • 脊椎炎・心内膜炎・など重症・複雑例では、ドキシサイクリン+リファンピシンにアミノグリコシドを加えた3剤併用を用いる
  • 8歳未満の小児・妊婦ではドキシサイクリンを避け、リファンピシン+を用いる
  • 💡 はで感受性を示すことがあっても臨床的には再発率が高く推奨されない——細胞内寄生菌に対するの乏しさが一因とされる
  • 予防は乳製品の、のワクチン接種・による感染源対策、・獣医の着用。ヒト用ワクチンは存在しない

まとめ

  • は3菌種いずれも「マクロファージに乗ってを巡回する」病態で、B. melitensis(ヤギ・ヒツジ由来)はヒトに対して属内で最も病原性が強い。
  • 感染経路はとの直接接触、またはの摂取。マクロファージ内でを阻害して生存し、リンパ管→→血流を経て肝・脾・骨髄に到達する。
  • ・肝脾腫が典型像で、慢性化すると(・脊椎炎)を来す。心内膜炎はまれだが致死的合併症の主因。
  • のため培養は危険——検体提出前に検査室へ連絡する。診断は血液培養と()が中心。
  • 治療は6週間以上の併用が基本で、単剤治療は避ける。ではドキシサイクリン+がドキシサイクリン+リファンピシンより(主に再発)が少なく、はに劣らなかったため、アミノグリコシドを含む2剤または3剤併用が望ましいとされる。重症・複雑例は3剤併用とする。
  • 予防は乳製品のと側の管理が中心で、ヒト用ワクチンはない。

出典

  1. 1.A literature review of laboratory-acquired brucellosis(Journal of Clinical Microbiology・2013)抄録で、1982〜2007年の英語文献のレビューにおいて検査室でBrucellaに曝露した167人のうち、明らかな検査室事故による曝露は11%(18人)にすぎず88%(147人)は通常の同定作業中の菌のエアロゾル化によるものだったこと、曝露の80%(135/167)がBrucella melitensisによること、抗菌薬による曝露後予防が発症を防いだこと、潜伏期の中央値が8週間(範囲1〜40週)であったことを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Treatment of human brucellosis: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials(BMJ(Skalsky K, Yahav D, Bishara J, et al.)・2008)抄録で、ランダム化比較試験30件・77治療群のメタアナリシスにおいて、ドキシサイクリン+リファンピシンはドキシサイクリン+ストレプトマイシンより主に再発の多さによって全体の治療失敗が有意に多いこと(相対危険度2.80、95%信頼区間1.81〜4.36、13試験)、ゲンタマイシンはストレプトマイシンに劣らないこと(2試験)、同じ期間なら単剤は併用より治療失敗が多いこと(相対危険度2.56、5試験)、6週間以上の治療が短期間より有利であること、望ましい治療はアミノグリコシドを含む2剤または3剤併用であるという結論を確認した。閲覧 2026-09-27