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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

アナプラズマ症

Anaplasmosis

別名
ヒト顆粒球性アナプラズマ症Human granulocytic anaplasmosisHGA
臓器系
感染症血液
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 5/9:節足動物媒介性細菌感染の起因菌(一覧)
鑑別疾患
ライム病
合併症
血球貪食性リンパ組織球症
関連疾患
バベシア症
治療薬
ドキシサイクリン
原因微生物
Anaplasma phagocytophilum
症状
発熱悪寒筋痛頭痛倦怠感
検査値
白血球数血小板数アミノトランスフェラーゼ(AST・ALT)

🧠 全体像:は、マダニに刺された既往のある発熱患者で「・血小板減少・」が揃ったときに思い浮かべる病気である。起因菌 Anaplasma phagocytophilum は好中球の中に潜り込んで自分を守る細胞内寄生菌で、⭐ 同じマダニ(Ixodes属)がライム病・・エーリキア症など複数の病原体を同時に運びうるため、単独の感染として完結しないことがある。⚠️ 確定診断を待つはない。 治療はドキシサイクリンの経験的投与が中心で、これは検査確定前に開始してよい・むしろ開始すべき数少ない感染症の一つである。

起因菌と媒介するマダニ

Anaplasma phagocytophilum はグラム陰性ので、米国北・中ではIxodes scapularis(アメリカクロアシマダニ)、米国ではIxodes pacificus、欧州ではIxodes ricinus、アジアではIxodes persulcatusによって媒介される1。北米での主なはシロアシマウスで、シカ・リス・ハタネズミも副次的なとなる1。米国では北・中北部での報告が最も多い2。

⭐ 同じマダニが複数の病原体を同時に持っていることがある。 Ixodes属のマダニは、の起因菌のほかライム病(Borrelia burgdorferi)・・エーリキア症・・Powassanウイルス感染症も媒介しうるため、単独感染とは限らない1。

病態——好中球を住処にする細菌

⚠️ この菌は白血球を「攻撃する」のではなく「住み着く」。 A. phagocytophilum は好中球の細胞質内小胞で生存し、・に選択的に感染する1。リソソームとの融合や好中球のを阻害することで殺菌機構を回避し、感染細胞の内側から宿主の防御をすり抜ける1。潜伏期は1〜2週間である1。

臨床像

⭐ 古典的な症状は発熱・悪寒・倦怠感・頭痛・筋痛で、いずれも非特異的である1。・下痢・咳・関節痛・・を伴うこともあるが、いずれも症例の50%未満にとどまる1。⚠️ 発疹はまれ(約10%)で、出現した場合は他の病原体とのを疑う手がかりになる——ライム病ののような特徴的な皮疹はそのものの所見ではない1。

検査でそろう「3徴」

所見 特徴
⭐ 低下
⭐ 低下 血小板減少
⭐ ・上昇。症例の70%で認める

(上表は StatPearls の記載に基づく1。)重症例ではさらにクレアチニン・・・の上昇を伴う1。⭐ 発熱+この検査3徴の組み合わせが、マダニ曝露歴のある患者でを疑う入口になる。

⚠️ 軽症では済まない例が一定数ある。 症候性例の33〜50%が入院を要し、3〜7%は呼吸不全・・など生命を脅かす合併症に進む1。まれに、(約1%)や障害・・脱髄性などの末梢神経病変、(まれだが重篤)を来すこともある1。致死率は概して1%未満だが、免疫抑制患者では入院・重症化率が高くなる1。

鑑別——ライム病・エーリキア症との違い

flowchart TD
    A["マダニ曝露歴+発熱"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythema migrans'>遊走性紅斑</span>があるか"}
    B -->|"あり"| C["ライム病を第一に疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='enzyme-linked immunosorbent assay'>ELISA</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Western blot (WB)'>ウエスタンブロット</span>で確認"]
    B -->|"なし・非特異的"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Leukopenia'>白血球減少</span>・血小板減少・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated liver enzymes'>肝酵素上昇</span>があるか"}
    D -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaplasmosis'>アナプラズマ症</span>・エーリキア症を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral smear'>末梢血塗抹</span>でモルラの局在を確認"]
    D -->|"なし"| F["他の鑑別(ウイルス性疾患など)も検討"]
    E --> G{"モルラはどの細胞に出るか"}
    G -->|"好中球"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaplasmosis'>アナプラズマ症</span><br>(ヒト顆粒球性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaplasmosis'>アナプラズマ症</span>)"]
    G -->|"単球"| I["ヒト単球性エーリキア症"]
ライム病 ヒト単球性エーリキア症
起因菌 Anaplasma phagocytophilum Borrelia burgdorferi Ehrlichia chaffeensis
特徴的皮疹 まれ(約10%、で多い) が特徴的 まれ
・血小板減少・ 血液検査は非特異的なことが多い ・血小板減少・(と酷似)
モルラの局在 好中球 (該当なし) 単球
確定診断 4倍上昇・・塗抹 ・ 上昇・・塗抹

(上表は StatPearls の記載に基づく1。)⚠️ ヒト単球性エーリキア症はがとほぼ同じで、両者をだけで見分けるのは難しい。 決め手はでのモルラがどの白血球系統に出るか(好中球なら、単球ならエーリキア症)である1。⭐ 同じマダニが両方を媒介しうるため、片方が陽性でも他方を除外したことにはならない1。

診断

  • : 好中球内の細胞質内凝集体(モルラ)。未治療患者の25〜75%で検出され、罹病1週目に最も感度が高い1。
  • PCR: 感度67〜90%、特異度60〜85%。迅速に結果が得られる1。
  • 血清学的検査: での4倍以上の上昇を陽性とする1。
  • そのほか骨髄・脾臓・リンパ節・肝臓・肺組織への、培養・も確認手段になる1。

治療——確定診断を待たずに始める

⭐ ドキシサイクリンが年齢を問わず成人・小児のである3。は、関連疾患の中でドキシサイクリンが最も効果的な治療であり、代替薬を投与された患者は致死率が高いとしている3。とは、段階の関連疾患全例へのドキシサイクリン投与を推奨しており、早期治療が死亡・重症化を防ぐとしている3。

項目 内容
用量 ドキシサイクリン 100 mg 1日2回
期間 14〜21日間、または後少なくとも3日間を含める
ライム病合併時 10日間に短縮
8歳未満でBorrelia burgdorferi 後3日までドキシサイクリンを投与し、残りの14日間の療程をアモキシシリンまたはへ切り替えてを避ける
3日で臨床的改善がない場合 Babesiaを検討する

(上表は StatPearls の記載に基づく1。)

⚠️ 確定検査(塗抹・・血清学)の結果を待って治療を開始しない。 マダニ曝露歴があり原因不明の発熱に・血小板減少を伴う患者では、検査結果を待たずに経験的にドキシサイクリンを開始する——これがの一貫した方針である31。

まとめ

  • はAnaplasma phagocytophilumによる、Ixodes属の細胞内寄生菌感染で、好中球の中で生存し免疫からの殺菌機構を回避する。
  • 臨床像は発熱・悪寒・倦怠感・頭痛・筋痛と非特異的だが、⭐ ・血小板減少・の3徴が診断の手がかりになる。発疹はまれで、出るときはむしろ他病原体とのを疑う。
  • ライム病はと血清検査で区別できるが、ヒト単球性エーリキア症はがほぼ同一で、でのモルラの局在(好中球 vs 単球)が鑑別点になる。同じマダニが複数の病原体を媒介しうるため、を常に念頭に置く。
  • 診断は(モルラ)・・の4倍上昇で確定するが、⚠️ 治療は確定診断を待たず、の時点でドキシサイクリンを経験的に開始する。
  • ドキシサイクリンは成人・小児とも第一選択で、100 mg 1日2回・14〜21日間(後最低3日間を含む)が基本。8歳未満でライム病を合併する場合のみ、後にアモキシシリン等へ切り替えてを避ける。
  • 症候性例の33〜50%が入院し、3〜7%は呼吸不全・など重篤な経過をたどりうる。まれにを合併する。

出典

  1. 1.Human Granulocytic Anaplasmosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)NCBI Bookshelfのライブページで確認した(2023年8月8日最終改訂、Guzman N・Yarrarapu SNS・Beidas SO)。*Anaplasma phagocytophilum*がグラム陰性の細胞内寄生菌で、米国北東部・中西部では*Ixodes scapularis*、西部では*Ixodes pacificus*、欧州では*Ixodes ricinus*、アジアでは*Ixodes persulcatus*によって媒介されること、北米での主要な保有宿主がシロアシマウス(*Peromyscus leucopus*)でありシカ・リス・ハタネズミも副次的な保有宿主であること、菌が好中球の細胞質内小胞で生存し骨髄系・単球系前駆細胞に選択的に感染すること、リソソーム融合と呼吸バーストを阻害して殺菌機構を回避すること、潜伏期が1〜2週間であること、古典像が発熱・悪寒・倦怠感・頭痛・筋痛でありそれ以外の悪心嘔吐・下痢・咳・関節痛・項部硬直・錯乱は症例の50%未満にとどまること、発疹はまれ(約10%)で通常は他病原体との混合感染例にみられること、検査所見が白血球減少・血小板減少と70%での肝逸脱酵素上昇であり重症例ではクレアチニン・LDH・CK・アミラーゼの上昇も伴うこと、症候性例の33〜50%が入院を要し3〜7%が呼吸不全・敗血症性ショック・多臓器不全など生命を脅かす合併症に至ること、ライム病がBorrelia burgdorferiによる別個の病原体でErythema migrans(遊走性紅斑)とELISA・ウエスタンブロットで診断される点で区別されること、ヒト単球性エーリキア症は同様に発熱・頭痛・筋痛・血小板減少・白血球減少・肝酵素上昇を呈するが形態学的にはmorulaeが単球(アナプラズマ症は好中球)に出現する点で区別されること、Ixodes属のマダニがアナプラズマ症・ライム病・バベシア症・エーリキア症・リケッチア症・Powassanウイルス感染症を同時に媒介しうるため混合感染がありうること、診断には末梢血塗抹での好中球内モルラ(未治療例の25〜75%、罹病1週目に感度最高)・PCR(感度67〜90%、特異度60〜85%)・4倍以上の抗体価上昇を示す血清学的検査・組織の免疫組織化学が用いられること、ドキシサイクリン(成人・小児とも第一選択、100 mg 1日2回、解熱後最低3日間を含め14〜21日間、ライム病合併時は10日間に短縮)が治療の中心であること、Borrelia burgdorferi混合感染のある8歳未満の小児は解熱後3日までドキシサイクリンを投与し残りの14日間の療程をアモキシシリンまたはセフロキシムへ切り替えて歯牙着色を避けること、治療開始3日で臨床的改善がなければBabesia混合感染を検討すること、未治療の場合の合併症として呼吸不全・敗血症性ショック・多臓器不全・横紋筋融解症・日和見感染・中枢神経系合併症(髄膜脳炎が約1%、腕神経叢障害・脳神経麻痺・脱髄性多発神経障害などの末梢病変)・まれだが重篤な血球貪食性リンパ組織球症があること、致死率は概して1%未満だが免疫抑制患者では入院・重症化率が高いこと、治療の遅れが不良な転帰と関連するという逸話的報告があることを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.About Anaplasmosis(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2024)2024年9月4日最終更新のライブページで確認した。起因菌が*Anaplasma phagocytophilum*であること、米国東部では*Ixodes scapularis*(アメリカクロアシマダニ)、西海岸では*Ixodes pacificus*(西部クロアシマダニ)が媒介すること、米国北東部・中西部北部での報告が最も多いことを確認した。閲覧 2026-09-06
  3. 3.Treatment of Anaplasmosis(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2024)ライブページで確認した(ページ個別の最終更新日は明記を確認できなかったため、同一サイト内の About ページの更新日2024年9月4日に準じて扱う)。ドキシサイクリンが年齢を問わず成人・小児のアナプラズマ症に推奨される抗菌薬であること、リケッチア関連疾患の中で最も効果的な治療であるとされ、代替薬を投与された患者では致死率が高いこと、米国小児科学会とCDCが疑診段階のリケッチア関連疾患全例にドキシサイクリンを推奨していること、早期治療が死亡・重症化を防げることを確認した。閲覧 2026-09-06