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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

アフリカ睡眠病

Human African trypanosomiasis

別名
睡眠病アフリカトリパノソーマ症HAT
臓器系
感染症神経
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 4/19:トリパノソーマ・ブルーセイ
鑑別疾患
マラリア
関連疾患
シャーガス病
治療薬
エフロルニチンメラルソプロールスラミンフェキシニダゾールペンタミジンニフルチモクス
原因微生物
Trypanosoma brucei
症状
傾眠発熱頸部リンパ節腫脹頭痛関節痛筋肉痛昏睡
検査値
髄液検査
適応薬
エフロルニチンスラミンフェキシニダゾールペンタミジンメラルソプロール

🧠 全体像:は「ひとつの病名の下に、進み方もも治療も違う2つの病気が並んでいる」ところから読む。西〜中央アフリカの T. b. gambiense 型はヒト自身がで数か月〜数年かけて進む慢性の病気であり、東〜南部アフリカの T. b. rhodesiense 型は動物がで数週間〜数か月で命に関わる急性の病気である。もうひとつの軸は第1期()と第2期()の区別で、長らくこれはで決めるほかなく、しかも病期を決めることが治療そのものを決めていた——第1期の薬は中枢神経へ届かず、第2期の薬は毒性が強すぎて第1期に使えなかったからである1。⚠️ この構図は2019年と2024年の二度、によって書き換えられた。 病期を問わず飲めるが現れたことで、注射もも多くの患者で不要になりつつある。寄生虫学(による、の生活環)はTrypanosoma bruceiのノートに譲る。

gambiense型と rhodesiense型——同じ病名の別の病気

項目 gambiense型 rhodesiense型
分布 西〜中央アフリカ 東〜南部アフリカ
症例の割合(2018〜2022年) 92%1 残りすべて1
主たる ヒト(動物も感染しうるが疫学的役割は小さい)1 ・野生動物1
経過 緩徐に進行(数か月〜数年) 急速に進行(数週間〜数か月)
少ない 多い——中枢神経に及ぶ前に多臓器障害で死亡しうる1
治療が疾病対策に及ぼす効果 大きい——ヒトの保虫源を減らすことが伝播の遮断そのものになる1 小さい(が残るため)。ただし救命効果は確実1
2030年の目標 伝播の断絶(症例ゼロ)1 上の問題としての排除1

⭐ 「がヒトか動物か」が、疫学対策・排除目標・治療の意味づけまで一本で貫いている。 gambiense型は患者を見つけて治すこと自体が伝播を止める手段になるので排除目標は「症例ゼロ」に置ける。rhodesiense型はが残るため患者を治しても伝播は止まらず、目標は上の問題としての排除にとどまり、対策の重心はOne Healthとに移る1。

💡 非流行国から報告される症例の多くは rhodesiense型である。 ・南部アフリカの国立公園やサファリを訪れた旅行者から毎年少数が報告されており1、渡航後のとしてはこちらを先に考えることになる。臨床像そのもの——刺咬部の下疳、すなわち後頸部のリンパ節腫脹、波状の発熱、進行すると傾眠・昏睡——はTrypanosoma bruceiのノートで扱う。

病期は髄液で決める

第1期の症状(頭痛・発熱・脱力・関節痛・筋肉痛・リンパ節腫脹)は非特異的で、これだけでは中枢神経に及んでいるかを判断できない1。病期はで決める。

病期 髄液所見1
第1期() 白血球 5/µL以下 かつ 髄液中にを認めない
第2期() 白血球 5/µL超 または 髄液中にを認める

⚠️ どちらか一方でも満たせば第2期である。 「白血球が正常だから第1期」と決めてしまうと、髄液中に虫体がいる例を取り逃がす。

💡 なぜ病期の判定がそのまま治療の判定だったのか。 第1期に使う薬(・)は一般に第2期を治せず、第2期に使う薬(・・)は有効ではあるものの毒性が強く投与も難しいため第1期に用いることができなかった1。「どこに虫がいるか」が「どの毒を使うか」を決める構図だったのであり、経口で両病期に効く薬が現れて初めてこの構図が緩んだ。

治療——2019年と2024年で二度書き換わった

2019年の暫定ガイドラインがgambiense型の第1期・第2期にを導入し、2024年版でこれが rhodesiense型の一次治療にも拡大された1。rhodesiense型第2期の患者の大半がに曝露せずに済むようになったことが、2024年版の最大の実務的な意味である1。

gambiense型(WHO 2024)[^who-hat-treatment-2024]

患者 推奨
6歳以上かつ体重20 kg以上、第1期または非重症の第2期(100/µL未満) を、第1期ではより、第2期ではNECT(・併用療法)より優先する
重症の第2期(100/µL以上) NECTをより優先する
6歳未満または体重20 kg未満 第1期は、第2期はNECT
妊婦 従来の推奨に従う。もも第1三半期を過ぎてから投与しうる。⚠️ ただし全身状態が中等度・重度に障害されていれば救命目的に/単剤/NECTを投与しなければならない。待てる場合は月1回以上評価し、NECTは分娩後とする

rhodesiense型(WHO 2024)[^who-hat-treatment-2024]

患者 推奨
6歳以上かつ体重20 kg以上、第1期 をより優先する
6歳以上かつ体重20 kg以上、第2期 をより優先する。嚥下できない・禁忌がある・嘔吐が続く・経口吸収が疑わしい場合はを選びうる
6歳未満または体重20 kg未満 第1期は、第2期は
推奨薬が直ちに入手できないとき で暫定的に治療を開始し、入手でき次第切り替える
妊婦 急速な経過ゆえに治療を遅らせられない。とが望ましく、第1三半期を過ぎてから投与しうる。とは理論上禁忌だが救援治療として必要になりうる。とリスクを患者・家族に明示する

💡 妊婦の扱いが2型で違って見えるのは、待てるかどうかの差である。 gambiense型は緩徐なので第1三半期を過ぎるまで待つ余地があり、待つ場合は月1回以上の評価を続ける。rhodesiense型は急速なので待てない——全身状態が中等度以上に障害されていれば、救命を主目的にを直ちに投与する。⚠️ ただし「待てる」のは gambiense型が軽症のあいだだけである。 gambiense型でも全身状態が中等度・重度に障害されていれば、同じく救命目的の治療を直ちに行う——型ではなく重症度が待てるかどうかを決める。⭐ どちらの型でも授乳は治療中も継続してよい1。

⚠️ 「待てる」は「何もしない」ではない。 gambiense型で経過観察できる場合も、月1回以上の臨床評価を続けたうえで、の危険を下げることを主目的にまたはを投与する(NECTは分娩後)1。⭐ 分娩後は新生児を診察し、血中に循環するの有無を確認する1。母体の治療を終えた時点で完結しない——ヒトがである gambiense型では、母子間の伝播が疫学対策の穴にもなる。

⚠️ これらの推奨はいずれも「条件付き」で、エビデンスの確実性は低い〜非常に低いと格付けされている1。年間の症例数そのものが少ないことがそのまま試験規模のになっている。

⚠️⚠️ は「処方すれば効く薬」ではない。 は投与条件そのものを推奨として明記している1。

  • その日の主たる食事の最中または直後に、できれば毎日同じ時刻に服用させる——治療域の血中濃度に達するには食後投与が必須で、処方者は毎日の服薬直前に食事を確保できると確信できることが処方の条件になる
  • 各回の服用を訓練された医療者が直接監視する()
  • 10日間の全日程をさせる
  • 精神疾患を有する患者、体重35 kg未満の小児、例外的にで治療する100/µL以上の患者、が危ぶまれる患者では入院を必須とする。rhodesiense型ではこれに加え、の既往(の危険)と服用後の嘔吐も入院の理由になる

用量は1錠600 mgで、体重によって錠数が変わり、しかも4日目と5日目の間で減量する1。

体重 負荷期(1日1回) (1日1回)
35 kg以上 3錠(1800 mg)を4日間 2錠(1200 mg)を6日間
20〜34 kg 2錠(1200 mg)を4日間 1錠(600 mg)を6日間

⚠️ 「10日間毎日同じ量」ではない。 10日分(35 kg以上で24錠、20〜34 kgで14錠)が1つのウォレットにまとめて供給されるのは、この2段階の用法を取り違えさせないためである。

⚠️ 飲み落としの許容範囲も決められている1。理想ではないが許容できるとされるのは、最低7回——負荷期(1〜4日目)の4回すべてに加えて(5〜10日目)の6回のうち少なくとも3回——が正しく服用された場合である。

  • 負荷期の1回を飛ばして1日を超えたら、治療をゼロからやり直す
  • 2回目の飲み落とし(受診しない、を飲み込まない、絶食のまま来る)が起きた患者は経口にとみなし、代替治療へ切り替える
  • 嘔吐したときは同日に再投与しない。⭐ 境目は服用から2時間で、2時間未満なら吸収不完全とみなして翌日に同じ用量をやり直し(治療は1日延びる)、2時間を超えていればその回は有効とみなす

条件を満たせない患者には、代わりに従来の治療を用いる——これがガイドラインの明示する原則である1。

有効性の実データ

病型・病期 比較対照
gambiense型 第1期(18か月成功率) 成人 97.9%、6歳以上の小児 98.6%(死亡率1.6%・1.4%) 。の報告値より良好にみえるが追跡期間と有害事象の種類が異なる
gambiense型 第2期・100/µL超(18か月成功率) 86.9% NECT 98.7%——有意にNECTが優る
gambiense型 第2期・100/µL以下(18か月成功率) 98% NECT 95.9%——有意差なし
rhodesiense型(12か月成功率) 第1期 100%、第2期 94.3%(死亡率0%・2.9%) 。第2期の死亡率はの歴史的データより大幅に低い

出典: 2024ガイドラインが引く導入の根拠データ1。

⚠️ ちょうど100/µL がどちらに入るかは、表と推奨で書き方が違う。 上の試験データは原著の記述どおり「100/µL超」対「100/µL以下」で分けられているが、ガイドラインがの基準として定義する重症第2期は「 ≥ 100/µL」であり、ちょうど100/µLは重症側に入る1。臨床で使うのは後者の境界である。

⭐ 重症第2期でだけNECTが勝つ——この一点が「に全面移行した」と言い切れない理由であり、100/µLという閾値が残り続けている理由でもある。

⚠️ 腰椎穿刺そのものが省けるようになった

2024年版は、病期を決めずに治療してよい患者群を初めて明文化した。6歳以上かつ体重20 kg以上で、①臨床判断として重症を疑う所見に乏しく、②を早期に捉えられる確実な追跡が見込める患者は、による病期決定を要さず、で治療してよい(条件付き推奨、確実性は非常に低い)1。

⚠️ 逆に、が必要なのに実施できなかった場合や、結果が信頼できない場合は NECT を優先する1。「穿刺できなかったから」ではない——分からないときは重症第2期を想定した側に倒すという向きである。

治療は終わりではない——追跡と再発

⚠️ 治療成績の判定には最長24か月の追跡を要する。再発は治療から1年以上経ってから起こりうる1。急性感染症の感覚で「10日飲み切ったら終わり」と考えると、この病気では再発を取り逃がす。

⭐ どの薬で治療したかによって、追跡の要否そのものが変わる1。

治療 系統的・能動的な追跡 理由
・NECT(gambiense型) 推奨されない。症状が再び出たら受診するよう指導するにとどめる 有効性が高く、注射薬なので全日程のが保証される
(gambiense型) 必要性が高い。治療後 6・12・18・24か月、および症状がしたときはいつでも 経口ゆえにと併用食の摂取が不十分になりうる。再発が12〜24か月と遅く起こりうる
rhodesiense型(薬を問わず) 治療終了時(10日目)・1か月・3か月に受診。6か月・12か月にも検査。病院で行えなければ電話などの遠隔手段や訓練を受けた保健従事者・地域保健員でもよい が小規模コホートでしか評価されておらず、進行が速いぶん再発が数週〜数か月と早く起こりうる

💡 「のほうが手間がかからない」は追跡まで含めると逆になる。 注射薬は投与を医療者がさせるので追跡を省けるが、は服薬が患者側に委ねられるぶん、系統的な追跡で埋め合わせる必要がある——直接を求める理屈(前述)と同じ構図が、治療後にも続いている。

再発の判定

再発の定義は、体液または組織のいずれかにを認めることである1。虫体が見えないときは、初診時の値によらず髄液ので判定する。

治療後の時期 数 判定1
3か月(0〜4か月の窓) — 数は信頼できる情報を与えない。 虫体の検出のみで診断する
6か月(5〜9か月の窓) 6〜49/µL 経過は不確実。臨床像が再発を示唆すれば救援治療を検討してよい。そうでなければ再追跡を強く推奨(gambiense型は12か月、rhodesiense型は1〜3か月後)
6か月(5〜9か月の窓) 50/µL以上 再発。救援治療が必要
12か月以降(10〜24か月の窓) 20/µL以上 再発。救援治療が必要

⚠️ 閾値が時期によって下がる(50 → 20/µL)ことに注意する。 時間が経つほど炎症は引いているはずなので、同じ細胞数でも遅い時期のほうが再発を示唆する重みが大きい。⚠️ rhodesiense型の基準はエビデンスに基づくデータが無く、gambiense型の基準を援用したものであるとガイドライン自身が断っている1。

再発時の救援治療(gambiense型)

一次治療 再発時1
NECT
年齢・体重と数に応じてまたはNECT
NECT まず NECT-long(400 mg/kg/日を2回に分けて計14日間。はNECTと同じ10日間)。代替は単剤100 mg/kgを6時間ごと(400 mg/kg/日)14日間、または年齢・体重が適合し100/µL未満なら(人道的使用)
上記の救援治療後も再発 毒性ゆえの最終手段としてを考慮する

⚠️ がgambiense型で残している適応はこれだけである。 ガイドラインは、重篤で生命を脅かす副作用の頻度の高さから、gambiense型で残る唯一の適応は一次治療および救援治療(NECT・NECT-long・・単剤を適宜含む)の後に反復する再発の治療であると明記している1。「大幅にした」の中身はこの一文である。

再発時の救援治療(rhodesiense型)

⚠️ rhodesiense型では、再発したら病期決定に戻る。 で治療した患者が再発した場合は、で病期を決め直したうえで、病期に応じてまたはを投与する1。

一次治療 再発時1
で病期を決め直し、病期に応じてまたは
(6歳未満または体重20 kg未満の患者) 病期に応じてまたは
人道的使用としてによる救援治療を考慮しうる

⭐ gambiense型と受け皿が逆を向いている。 gambiense型では後の再発を別系統のNECTが受けるのに対し、rhodesiense型では受け皿が従来の注射薬に戻る——がしたのはgambiense型の話であって、rhodesiense型では今も第2期の実働薬である。⚠️ を省いてよいのは前述のとおり初回治療の一部の患者に限られ、再発時には病期決定が要る。

アコジアボロール——単回経口という次の段階

はで治療を完結させる薬である。コンゴ民主共和国とギニアの10施設で行われた単群第2/3相試験(DNDi-OXA-02-)では、15歳以上のgambiense型208例(うち後期167例)に960 mgを空腹時に単回投与し、後期例の18か月成功率は 95.2%(95%信頼区間91.2〜97.7)だった。薬剤関連の有害事象は14%に生じたがいずれも軽度〜中等度で、ではNECTの歴史的成功率94%と同程度だった2。早期・中の症例では6・12・18か月のいずれの時点でも成功率100%だった3。

⭐ と食事の向きが逆である。 は食後でなければ治療域に届かないが、の主要試験は空腹時投与で行われている。「だから同じように飲ませればよい」とはならない。

規制上の位置づけ(2026年9月時点)

2026年2月24日、のCHMPがに肯定的意見を採択した。 適応は「12歳以上かつ体重40 kg以上の青少年および成人における、gambiense型の第1期()および第2期()——100/µL以上で髄液中の有無を問わない重症第2期を含む——の治療」で、域外での使用を意図した医薬品を扱う-M4all(規則726/2004 第58条)手続きによる科学的意見である3。はDNDi(顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ)とSanofiらが開発した薬剤で、この肯定的意見はgambiense型が流行するサハラ以南アフリカ諸国での登録手続きを容易にすることを目的としている4。

⭐ 「重症第2期を含む」という一句は審査の途中で足されたものである。 の当初の適応文言には重症第2期が含まれておらず、CHMPは 2024分類との不一致が処方者の誤解を招くとして、100/µL以上の集団を明示的に適応へ加えさせた3。⚠️ ここがとの最大の違いである——は重症第2期には推奨されず、その領域はNECTが担っていた(前述)。

💡 年齢の下限12歳は試験集団そのものではない。 主要試験の組入れは15歳以上で、12〜14歳への拡大は「標的がヒトの分子ではないこと・疾患が同一であること・治療反応が類似すると見込まれること」を根拠とした外挿による。体重40 kg未満で下限が引かれたのは、960 mgという単一用量の・リスクがその体重帯では不確実だったためである3。⚠️ したがって小児のギャップは埋まっていない。 6歳未満・20 kg未満の患者が従来治療に戻るという構図(前述)は、が入っても変わらない。

⚠️ 単回投与でも「飲ませて終わり」ではない。 CHMPが挙げた主要なリスクは薬物相互作用とである3。

  • 半減期が長く、をはじめCYP2C・・P糖蛋白の強力なであり、同時にの強力な阻害薬である。 影響は単回投与のあとも長く続き、やを含む多くの併用薬に及ぶ。⭐ マラリアのとのは重なるので、これは机上の話ではない
  • ほぼ全例での「短縮」が報告された。 治療関連の不整脈は同定されなかったが、臨床的意義は不明とされている。⚠️ でよく問題になる延長ではなく短縮である点を取り違えない
  • ヒトでの妊娠・授乳のデータは無いか極めて限られ、非臨床では生殖毒性と乳汁への移行が示されている

の現行ガイドラインは2024年6月版であり、その全文には一度も現れない1。⚠️ したがって現時点で「が推奨する治療」を答える設問では、依然として/NECT///の枠組みで答えることになる。

💡 単回投与が効くことの意味は、治癒率の数字より運用にある。 が要求する「食事の最中または直後・直接監視・10日間・5日目の減量」という条件は、医療資源の乏しい地域ではそれ自体が障壁になる。単回投与ならこの条件がまるごと消え、しかも第1期・第2期の双方に使えるため治療前のそのものが不要になる——CHMPが未充足の医療として認めたのはこの点である3。

疫学——報告数が歴史的な低水準にある

  • 20世紀を通じて壊滅的な流行を繰り返したが、30年にわたる持続的な対策の結果、2018年以降の年間報告数は1000例未満にとどまっている1
  • 治療薬は製造企業から寄贈され、を通じて無償で配分されている1
  • 分布は焦点的で、農作業・漁労・狩猟・水汲み・薪拾いなどと接触する活動を通じて感染する。全年齢・両性が危険にさらされるが、は小児より成人で高い1

まとめ

  • は T. b. gambiense(西〜中央アフリカ、慢性、ヒトが、症例の92%)と T. b. rhodesiense(東〜南部アフリカ、急性、動物が)に分かれ、経過も対策も排除目標も違う。
  • 病期は髄液で決める——第1期は白血球5/µL以下かつ虫体陰性、第2期は5/µL超または虫体陽性。どちらか一方でも満たせば第2期。
  • 病期の判定が治療の判定だったのは、第1期の薬が中枢神経へ届かず、第2期の薬が毒性ゆえに第1期に使えなかったから。
  • ⚠️ が2019年にgambiense型へ、2024年に rhodesiense型へ導入され、両病期に使えるとして一次治療になった。 は大幅にし、gambiense型で残る唯一の適応は一次治療と救援治療のあとに反復する再発の治療だけになった。
  • ただし重症第2期(ガイドラインの定義では ≥ 100/µL)では NECT が優る。根拠となった試験は「100/µL超」対「100/µL以下」で分けられており、100/µL超で18か月成功率98.7%対86.9%だった。閾値が残っているのはこのためである。
  • は食事の最中または直後の投与・直接監視・10日間が処方の条件で、満たせない患者には従来治療を用いる。用量は1日1回・4日目と5日目の間で減量(35 kg以上なら1800 mg×4日→1200 mg×6日)。
  • 6歳未満または体重20 kg未満は対象外で、gambiense型は/NECT、rhodesiense型は/に戻る。
  • 妊婦ではどちらの型もを第1三半期を過ぎてから用いる。ただし待てるのは軽症のあいだだけで、どちらの型でも全身状態が中等度・重度に障害されていれば救命目的に直ちに投与する(rhodesiense型は経過が急速なぶん、その状況に至りやすい)。授乳は治療中も継続してよい。
  • 単回経口のは2023年に後期gambiense型で18か月成功率95.2%を示し、2026年2月24日にEMA CHMPの肯定的意見を得た(12歳以上・40 kg以上、第1期と重症第2期を含む第2期、-M4all)。⚠️ 2026年9月時点で、の現行2024年6月版ガイドラインには収載されていない。 主なリスクは強力な誘導・阻害による薬物相互作用(・)との短縮。
  • 再発時の受け皿は型で違う。gambiense型は後ならNECT、NECT後ならNECT-long(400 mg/kg/日を14日間)で、反復する再発の最終手段だけがである。rhodesiense型はで病期を決め直したうえで従来の注射薬(・)へ戻る——がしたのはgambiense型の話である。
  • ⚠️ 治療のは治癒の確認ではない。 成績判定には最長24か月の追跡を要し、再発は1年以上経ってから起こりうる。・NECT(注射薬でが保証される)では系統的追跡は推奨されないが、経口では6・12・18・24か月の追跡が要る。再発は体液・組織の虫体で定義し、虫体が見えないときは数で判定する(6か月時点は50/µL以上、12か月以降は20/µL以上)。
  • 報告数は2018年以降年1000例未満で、はgambiense型の2030年伝播断絶を目標に掲げている。

出典

  1. 1.Guidelines for the treatment of human African trypanosomiasis(World Health Organization・2024)病期の定義が第1期=髄液白血球5/µL以下かつ髄液中にトリパノソーマを認めない、第2期=髄液白血球5/µL超または髄液中にトリパノソーマを認める、であること、2018〜2022年の症例の92%がgambiense型で残りがrhodesiense型であること、2018年以降の年間報告数が1000例未満であること、gambiense型ではヒトが主たる保有宿主でrhodesiense型では家畜と野生動物が保有宿主であること、rhodesiense型は寄生虫血量が多く中枢神経に及ぶ前に多臓器障害で死亡しうること、非流行国から報告される症例の多くが東部・南部アフリカの国立公園を訪れた旅行者のrhodesiense型であること、2019年のWHO暫定ガイドラインがgambiense型の第1期と第2期にフェキシニダゾールを導入し重症第2期(髄液白血球100/µL以上)と6歳未満または体重20 kg未満の小児を除外したこと、2024年版でフェキシニダゾールがrhodesiense型の一次治療にも拡大されたこと、gambiense型で6歳以上かつ20 kg以上の患者では第1期でペンタミジンより・髄液白血球100/µL未満の第2期でNECTよりフェキシニダゾールを優先し、髄液白血球100/µL以上の重症第2期ではNECTを優先すること、6歳未満または20 kg未満では第1期ペンタミジン・第2期NECTとすること、重症を疑う所見に乏しく確実な追跡が見込める6歳以上かつ20 kg以上の患者では腰椎穿刺による病期決定を省いてフェキシニダゾールで治療しうること、腰椎穿刺が必要なのに実施できない場合や結果が信頼できない場合はNECTを優先すること、rhodesiense型では6歳以上かつ20 kg以上で第1期はスラミンより・第2期はメラルソプロールよりフェキシニダゾールを優先し、嚥下不能・禁忌・持続する嘔吐・経口吸収が疑わしい場合はメラルソプロールを選びうること、6歳未満または20 kg未満では第1期スラミン・第2期メラルソプロールとすること、推奨薬が直ちに入手できない場合はペンタミジンを暫定治療とすること、フェキシニダゾールは十分な食事の直後に服用させ各回を訓練された医療者が直接監視し10日間の全日程を完遂させることが処方の条件であること、精神疾患を有する患者・体重35 kg未満の小児・例外的にフェキシニダゾールで治療する髄液白血球100/µL以上の患者・服薬遵守が危ぶまれる患者では入院を必須とすること、gambiense型第1期の単群試験でフェキシニダゾールの18か月時点の治療成功率が成人97.9%・6歳以上の小児98.6%(死亡率1.6%・1.4%)だったこと、第2期の無作為化試験で髄液白血球100/µL超ではフェキシニダゾール86.9%に対しNECT 98.7%とNECTが有意に優れ、100/µL以下では98%対95.9%で有意差がなかったこと、rhodesiense型の単群試験で12か月時点の治療成功率が第1期100%・第2期94.3%(死亡率0%・2.9%)でメラルソプロールの歴史的データより死亡が大幅に低かったこと、治療薬が製造企業から寄贈されWHOを通じて無償で配分されていること、2030年の目標がgambiense型は伝播の断絶(症例ゼロ)・rhodesiense型は公衆衛生上の問題としての排除であること、フェキシニダゾールが1錠600 mgで1日1回10日間の内服であり体重35 kg以上では負荷期に3錠(1800 mg)を4日間・維持期に2錠(1200 mg)を6日間、体重20〜34 kgでは負荷期に2錠(1200 mg)を4日間・維持期に1錠(600 mg)を6日間とすること、成人用ウォレットが24錠・小児用(6歳以上かつ20〜34 kg)が14錠であること、錠剤はその日の主たる食事の最中または直後に服用させ毎日同じ時刻が望ましいこと、重症第2期の定義が髄液白血球100/µL以上であり100/µLちょうどは重症側に入る一方、フェキシニダゾール対NECTの試験成績は原著の記述上100/µL超と100/µL以下で分けて示されていること、治療が許容されるには最低7回——負荷期1〜4日目の全4回に加えて維持期5〜10日目の6回のうち少なくとも3回——が正しく服用される必要があること、負荷期の飲み落としで1日を超えた場合は治療をゼロからやり直すこと、2回目の飲み落としが起きた患者は経口フェキシニダゾールに不適格とみなし代替治療を立てること、嘔吐時は同日に再投与せず服用から2時間未満の嘔吐は吸収不完全とみなして翌日に同用量をやり直し(治療が1日延びる)2時間を超えていればその回を有効とみなすこと、gambiense型の妊婦では従来の推奨に従いフェキシニダゾールは第1三半期を過ぎてから投与しうること、rhodesiense型の妊婦では急速な経過ゆえに治療を遅らせられずフェキシニダゾールとペンタミジンが第1三半期を過ぎてから投与でき望ましいこと、スラミンとメラルソプロールは理論上禁忌だが救援治療として必要になりうること、妊婦の全身状態が中等度または重度に障害されている場合は救命を主目的にフェキシニダゾールを直ちに投与しなければならないこと、ベネフィットとリスクを患者と家族に明示すべきこと、授乳はHAT治療中も継続すべきことを確認した。さらに2026-09-05の再取得で、治療成績の判定に最長24か月の追跡を要し再発が治療後1年以上経ってから起こりうること、ペンタミジンとNECTで治療した患者では有効性が高く注射薬ゆえ全日程の完遂が保証されるため系統的・能動的な追跡が推奨されず症状再燃時の受診指導にとどめること、経口フェキシニダゾールは服薬遵守と併用食の摂取が不十分になる危険があるため系統的追跡の必要性が高くgambiense型では治療後6・12・18・24か月および症状再燃時に受診させること、rhodesiense型ではフェキシニダゾールが小規模コホートでしか評価されておらず進行が速く再発が数週〜数か月と早く起こりうるため治療終了時(10日目)・1か月・3か月に受診させ6か月・12か月にも検査を要し病院で行えない場合は電話等の遠隔手段や訓練を受けた保健従事者・地域保健員によってもよいこと、再発の定義が体液または組織のいずれかにトリパノソーマを認めることであり虫体が見えないときは初診時の値によらず髄液白血球数で判定すること、その基準が治療後3か月(0〜4か月の窓)では髄液白血球数が信頼できる情報を与えず虫体の検出のみで診断、6か月(5〜9か月の窓)では6〜49/µLで経過不確実(臨床像が再発を示唆すれば救援治療を検討してよく、そうでなければgambiense型は12か月・rhodesiense型は1〜3か月後の再追跡を強く推奨)・50/µL以上で再発、12か月以降(10〜24か月の窓)では20/µL以上で再発であること、rhodesiense型の判定基準にはエビデンスに基づくデータが無くgambiense型の基準を大きく援用したものだとガイドライン自身が断っていること、gambiense型の救援治療がフェキシニダゾール後の再発にはNECT・ペンタミジン後には年齢/体重と髄液白血球数に応じてフェキシニダゾールまたはNECT・NECT後にはまずNECT-long(エフロルニチン400 mg/kg/日を2回に分けて14日間、ニフルチモクスはNECTと同じ10日間)で代替がエフロルニチン単剤100 mg/kgを6時間ごと14日間または年齢・体重が適合し髄液白血球100/µL未満ならフェキシニダゾール(人道的使用)であり、それらの後の再発には毒性ゆえの最終手段としてメラルソプロールを考慮すること、メラルソプロールについて重篤で生命を脅かす副作用の頻度の高さからgambiense型で残る唯一の適応が一次治療および救援治療(NECT・NECT-long・フェキシニダゾール・エフロルニチン単剤を適宜含む)の後に反復する再発の治療であることを確認した。IRIS版PDF全文(iris.who.int の bitstream)を取得して確認しており、本文中に acoziborole の語は一度も現れない(全文検索で0件)。加えて NCBI Bookshelf のライブページ(NBK604893、章 who378083/ch2・ch3)で 2.8 Follow-up care・2.9 Treatment of relapses・3.7 Follow-up care・3.8 Treatment of relapses を照合し、rhodesiense型ではフェキシニダゾールで治療した患者が再発した場合に腰椎穿刺による病期決定を要し病期に応じてスラミンまたはメラルソプロールを投与すること、6歳未満または体重20 kg未満でスラミン後に再発した患者には病期に応じてペンタミジンまたはメラルソプロールを投与すること、メラルソプロール後の再発には人道的使用としてフェキシニダゾールによる救援治療を考慮しうること、rhodesiense型の追跡が治療終了時(10日目)・1か月・3か月の受診と6か月・12か月の検査であること(フェキシニダゾールが小規模コホートでしか評価されておらず再発の時期が未詳であるため厳密に適用すべきとされる)を確認した。さらに2026-09-05にNCBI Bookshelfのライブページ(who378083/ch2 の 2.7 Gambiense HAT treatment in pregnancy)で、妊娠・授乳中の抗トリパノソーマ治療の推奨が確固たるエビデンスではなく臨床実践に基づくものであること、gambiense型の妊婦で全身状態が経過観察を許す場合には少なくとも月1回の臨床評価を行ったうえで疾患の垂直感染の危険を下げることを主目的にフェキシニダゾールまたはペンタミジンを投与すべきこと、分娩後には新生児を臨床的に診察し血中に循環するトリパノソーマの有無を確認すべきことを確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.Efficacy and safety of acoziborole in patients with human African trypanosomiasis caused by Trypanosoma brucei gambiense: a multicentre, open-label, single-arm, phase 2/3 trial(The Lancet Infectious Diseases(Betu Kumeso VK, et al.)・2023)コンゴ民主共和国とギニアの10施設で15歳以上のgambiense型アフリカ睡眠病208例(後期167例、早期・中間期41例)に単回経口960 mg(320 mg錠3錠)のアコジアボロールを空腹時に投与した単群第2/3相試験であること、主要評価項目である後期例の18か月時点の治療成功率がmITT解析で95.2%(95%信頼区間91.2〜97.7、167例中159例)、評価可能集団で98.1%だったこと、薬剤関連の治療下発現有害事象が29例(14%)に38件生じいずれも軽度または中等度で発熱と無力症が最多だったこと、試験中の死亡4例はいずれも治療関連と判断されなかったこと、事後解析でNECTの推定歴史的成功率94%と同程度だったことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-03
  3. 3.Acoziborole Winthrop: Assessment report for EU-M4All (Art 58) scientific opinion (EMA/87927/2026)(European Medicines Agency (CHMP)・2026)CHMPが2026年2月24日に肯定的意見を採択し、その適応が「12歳以上かつ体重40 kg以上の青少年および成人における、gambiense型アフリカ睡眠病の第1期(血液リンパ期)および第2期(髄膜脳炎期)——髄液白血球100/µL以上で髄液中トリパノソーマの有無を問わない重症第2期を含む——の治療」と定められたこと、審査の過程で申請者の当初の適応文言がWHO 2024分類の重症第2期を含んでいなかったため処方者の誤解を避ける目的で重症第2期を適応文言に加えたこと、既存の唯一の経口薬フェキシニダゾールは食事下での直接監視投与と10日のうち5日目での用量変更を要し重症第2期には推奨されないこと、アコジアボロールが第1期・第2期の双方に投与できるため治療前の腰椎穿刺を不要にすること、主要試験DNDi-OXA-02-HATがギニアとコンゴ民主共和国で15歳以上の208例に960 mgを空腹時単回投与した単群試験で後期例の18か月成功率が95.2%(95%信頼区間91.2〜97.7)、早期・中間期例の6・12・18か月成功率がいずれも100%だったこと、安全性データベースが計1,114例であること、12歳以上への外挿が非ヒト薬理標的・疾患の同一性・治療反応の類似性から妥当と判断された一方、体重40 kg未満では960 mgのベネフィット・リスクが不確実として体重下限が設けられたこと、半減期が長くCYP3A4をはじめCYP2C・UGT・P糖蛋白の強力な誘導薬かつCYP2D6の強力な阻害薬であり抗マラリア薬やホルモン避妊薬を含む併用薬に影響すること、ほぼ全例でQT間隔の短縮が報告されたが治療関連の不整脈は同定されず臨床的意義は不明であること、ヒトでの妊娠・授乳のデータが無いか極めて限られ非臨床で生殖毒性とラット乳汁移行が示されていることを確認した。PDF全文(196ページ)を取得して確認閲覧 2026-09-05
  4. 4.Acoziborole: First Approval(Drugs(Adis)・2026)アコジアボロールがDNDi・Sanofiらによって開発された単回経口の抗原虫薬であること、2026年2月に欧州医薬品庁のCHMPが、12歳以上かつ体重40 kg以上の青少年と成人におけるgambiense型アフリカ睡眠病の第1期および(重症第2期を含む)第2期の治療について肯定的意見を採択したこと、この評価がEU域外での使用を意図した医薬品を対象とするEU-M4all手続きによるもので、流行するサハラ以南アフリカ諸国での承認手続きを容易にするものであることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-03