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Microbe Atlas · 原虫

Trypanosoma brucei

分類
鞭毛虫 / FlagellatesTrypanosoma
科目
Medical Microbiology
トピック
4/19: Trypanosoma brucei4/20: Trypanosoma cruzi5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention
原因となる疾患
アフリカ睡眠病
作用する薬剤
エフロルニチンスラミンフェキシニダゾールペンタミジンメラルソプロール

🧠 全体像:T. bruceiは「姿を変えて免疫から逃げる」戦略を使う血液寄生虫として読む。の刺咬で直接血中に注入され、血液・リンパ・脳脊髄液を移動しながら増殖する間、表面の糖蛋白(VSG)を次々に着せ替えるによって抗体からの攻撃を逃れ続ける——これが「波状に繰り返す発熱」の正体である。同じ属でも刺し傷から直接注入されるのではなく糞からするT. cruziとは、感染様式・寄生形態・臨床経過のすべてが対照的になる。

微生物学的な特徴

原虫の分類では血液・組織に寄生する()に属し、鞭毛とで運動する。

形態 存在部位
栄養型 血液・リンパ・臓器の組織腔・中枢神経系内
媒介動物()の唾液腺・内
分布 症例の割合 経過 血中寄生虫量 実験動物への感染性
T. b. gambiense ・中央アフリカ 2018〜2022年の症例の92%1 慢性(数ヶ月〜数年) 少ない 感染しない
T. b. rhodesiense ・南部アフリカ 残りの症例1 急性(数週間〜数ヶ月) 多い 感染する(人獣共通感染症としての性格が強い)

⭐ CNS移行の有無・速さがで異なり、そのまま治療薬の選択を左右する(下記「治療」参照)。

生活環

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tsetse fly'>ツェツェバエ</span>が吸血<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='metacyclic trypomastigote'>メタサイクリック栄養型</span>を注入"] --> B["血液・リンパ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebrospinal fluid'>CSF</span>に播種<br>栄養型が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='binary fission'>二分裂</span>で増殖"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surface glycoprotein'>表面糖蛋白</span>VSGを<br>次々に着せ替えて抗体を回避"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tsetse fly'>ツェツェバエ</span>が2回目の吸血<br>栄養型を摂取"]
    D --> E["ハエ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='midgut'>中腸</span>で増殖・変化"]
    E --> F["唾液腺で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='promastigote'>前鞭毛型</span>に成熟・増殖"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metacyclic trypomastigote'>メタサイクリック栄養型</span>に変化<br>再び感染可能に"]
    G --> A

病原性の仕組み

💡 波状の発熱=の可視化。 T. bruceiは(VSG)の種類を次々に切り替えることで、宿主が作った抗体をすり抜け続ける。1つのVSGに対する抗体ができるたびに新しいVSGへ切り替わるため、発熱が寛解とを繰り返す——これが本症の発熱パターンの機序であり、慢性の性経過につながる。

病変はリンパ節経路と血流経路の2つで進行する。

  • リンパ節経路:頸部・→()。
  • 血流経路:発熱(による波状の変動)、筋肉痛・関節痛、頭痛。

慢性化するとCNSへ進展する(血流→CNSまで通常9〜10ヶ月)。、振戦、、認知症、傾眠が出現し、末期には痙攣・、未治療では昏睡・死に至る。

感染経路と疫学

  • 媒介動物:(Glossina属)の刺咬。
  • :および野生の有蹄類——特にT. b. rhodesienseは人獣共通感染症としての性格が強い。
  • 潜伏期は数日〜2週間。最初の徴候はハエに刺された部位の潰瘍()。

起こす疾患

として、刺咬部潰瘍→・→CNS進展(・振戦・昏睡)という経過をたどる。

病型
T. b. gambiense 慢性型。数ヶ月〜数年かけて進行し、末期にCNS症状
T. b. rhodesiense 急性型。数週間〜数ヶ月で重症化し、心筋炎を合併しやすい

診断

  • :栄養型を直接観察する(T. b. rhodesienseではが多く検出しやすい)。
  • 血清学的検査、(T. b. rhodesienseのみ有効)。
  • 検体の検査:細胞数増多、免疫グロブリン値の上昇——CNS移行の有無を判定し治療薬の選択を左右するため必須。

治療と予防

治療はCNS移行の有無で使い分ける。

病型・病期 現在の一次治療 かつての標準
gambiense型(第1期・100/µL未満の第2期) 経口(6歳以上かつ20 kg以上)1 第1期、第2期NECTまたは2
gambiense型(100/µL以上の重症第2期) NECT(との併用)をより優先1
rhodesiense型(第1期・第2期とも) 経口(6歳以上かつ20 kg以上。2024年の指針で第1期の、第2期のより優先された)1 第1期、第2期2
6歳未満または体重20 kg未満 gambiense型は第1期・第2期NECT、rhodesiense型は第1期・第2期1 同じ

⚠️ これらの推奨はいずれも「条件付き」で、エビデンスの確実性は低い〜非常に低いと格付けされている。 断定的な「強い推奨」ではなく、の成績がまだ限られていることを前提に読む1。

⚠️ で薬が違ったことに注意する。 かつては gambiense型の第1期が、rhodesiense型の第1期がで、は rhodesiense型の薬だった2。⚠️ 重症の第2期(100/µL以上)では、今もNECTがに優先される1。rhodesiense型では、・禁忌・持続する嘔吐・経口吸収が疑わしい場合にを選びうる1。詳細はの項に譲る。

💡 になっても「渡して終わり」にはならない。 は十分な食事の直後に服用しないと吸収が足りず、各回の服用を訓練された医療者が直接監視することが処方の条件とされている1。

⚠️ は化合物であり毒性が強い。 CNSに移行した病期でしか使われないのは血液脳関門を越える必要があるためだが、その代償として重篤な副作用(など)のリスクを伴う。

予防:媒介動物()の個体数制御、防虫ネットの使用など。ワクチンはない。

まとめ

  • T. bruceiはの刺咬により直接血中に注入されるで、栄養型(ヒト体内)と(ハエ体内)を行き来する。
  • (VSG)のにより抗体から逃れ続けることが、と慢性の性経過の機序である。
  • ・中央アフリカのT. b. gambiense(慢性・少・症例の92%)と・南部アフリカのT. b. rhodesiense(急性・人獣共通感染症)に分かれる1。
  • 臨床像は——刺咬部潰瘍→・→CNS進展(・振戦・昏睡)と進行する。
  • 治療は2019年以降に一変し、経口が gambiense型・rhodesiense型とも一次治療になった(rhodesiense型への拡大は2024年の指針)12。ただし6歳以上かつ体重20 kg以上に限られ、100/µL以上の重症第2期ではNECTが優先される。かつての「急性期・CNS移行後」はrhodesiense型の旧レジメンで、gambiense型の第1期はだった2。
  • 糞便を介したで心筋・消化管に自己免疫性の慢性障害を起こすT. cruziとは、感染様式・標的臓器・病態機序のすべてが対照的である。

出典

  1. 1.Guidelines for the treatment of human African trypanosomiasis(World Health Organization・2024)WHO IRIS で公開されている2024年6月版PDF(ISBN 978-92-4-009603-5、50ページ)を取得し、gambiense型が西部および中央アフリカに分布して2018〜2022年の症例の92%を占め、rhodesiense型が東部および南部アフリカで残りを占めることを確認した。推奨の格付けはすべて「Conditional(条件付き)」で確実性は very low〜low であり、逐語で、gambiense型の6歳以上かつ体重20 kg以上で第1期にはペンタミジンよりフェキシニダゾール、髄液白血球100/µL未満の第2期にはNECTよりフェキシニダゾールを用いる(Conditional、確実性は第1期 very low・第2期 low)、髄液白血球100/µL以上の重症第2期ではフェキシニダゾールよりNECTを優先する(Conditional、Low)、rhodesiense型では6歳以上かつ20 kg以上の第1期にスラミンよりフェキシニダゾール、第2期にメラルソプロールよりフェキシニダゾールを用いる(いずれもConditional、Very low。嚥下不能・フェキシニダゾール禁忌・持続する嘔吐・経口吸収が疑わしい場合はメラルソプロールを選びうる)、6歳未満または20 kg未満では第1期スラミン・第2期メラルソプロール(Conditional、Very low)であることを確認した。フェキシニダゾールは十分な食事の直後に服用し各回を訓練された医療者が直接監視することが処方の条件とされている閲覧 2026-09-27
  2. 2.Transforming the chemotherapy of human African trypanosomiasis(Clinical Microbiology Reviews・2025)抄録の範囲で、2019年より前は亜種と病期ごとに別の薬(gambiense型はペンタミジンまたはNECT、rhodesiense型は第1期スラミン・第2期メラルソプロール)を要したのに対し、今日は経口フェキシニダゾール1剤で両亜種のいずれの病期も「多くの場合(in most cases)」治療できるようになったこと、gambiense型が中央・西アフリカ、rhodesiense型が東・南アフリカに分布することを確認した。ヒ素化合物メラルソプロールの役割の後退は、この対比からの読み取りである(全文は未取得)閲覧 2026-09-27