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Drug Atlas · C3 Antiparasitics / 抗寄生虫薬

フェキシニダゾール

fexinidazole

分類
Antiparasitics / 抗寄生虫薬
科目
PharmacologyMedical Microbiology
トピック
C3: Antiprotozoal and antihelminthic drugs微生物学 4/19:トリパノソーマ・ブルーセイ
承認適応
アフリカ睡眠病
禁忌疾患
コケイン症候群先天性QT延長症候群肝硬変
標的微生物
Trypanosoma brucei
副作用
頭痛嘔吐不眠悪心振戦めまい食欲不振
監視検査値
アミノトランスフェラーゼ(AST・ALT)白血球数
影響検査値
QT延長カルシウムカリウム絶対好中球数
相互作用
ジスルフィラムペンタミジン

🧠 全体像:は「病期を問わず飲める」という一点での治療を作り替えたの経口である。従来は「第1期の薬は中枢神経へ届かず、第2期の薬は毒性が強すぎる」という構図のためで病期を決めることが治療を決めることだったが、経口1剤で両病期を治せるようになったことでその構図が緩んだ。⚠️ ただし「処方すれば効く薬」ではない。 食事なしで飲むとが治療域に届かず、とりわけ中枢神経でのが3分の1になる——食事を欠いた1回は、飲まなかった1回と同じである1。したがってこの薬の実務は、機序よりも食後投与・直接監視・10日間という3条件をどう担保するかに集約される。どの患者にどの薬を使うかというそのものはのノートに譲る。

位置づけ——「経口である」ことが薬効そのもの

1970年代にHoechstがHoe 239として合成した2位置換5-で、に共通するへの懸念からいったん開発が止まっていた。DNDiが800を超える化合物を再スクリーニングした過程で再発見され、EMAの肯定的意見(2018年)、暫定ガイドラインへの収載(2019年)、米国承認(2021年)と進んだ2。サノフィがへ寄贈し、が流行国へ無償配分している2。

⭐ 注射でないことが、それ自体で臨床的な利益になる薬である。 静注薬はカテーテル・穿刺に伴う感染の危険を負い、入院と資材・物流を要する。経口化はこれらをまとめて外し、患者によっては自宅に近い場所で治療を受けられるようにする2。

⚠️ 承認の範囲との推奨は一致しない。 米国の添付文書は gambiense型のみ(6歳以上・体重20 kg以上)を適応とし、100/µL超の重症第2期は「他に選択肢が無い場合にのみ」と限定する3。一方は2024年版で rhodesiense型へも推奨を拡大した1。文献を読むときは、どちらの枠組みの話かを先に確かめる。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fexinidazole'>フェキシニダゾール</span>を食後に内服"] --> B["宿主の肝で酸化され<br>M1(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sulfoxide'>スルホキシド</span>)・M2(スルホン)を生成"]
    B --> C["M1・M2も抗<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Trypanosome'>トリパノソーマ</span>活性を持ち<br>本体よりはるかに高い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drug exposure'>曝露量</span>に達する"]
    C --> D["原虫内へ取り込まれる"]
    D --> E["ミトコンドリアの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nitro-reductase'>ニトロレダクターゼ</span> TbNTR1 が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='nitro group'>ニトロ基</span>へ電子を供与"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reactive amine'>反応性アミン</span>などの反応性分子が生じ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>・蛋白を非特異的に障害"]
    F --> G["多系統の破綻により原虫が死滅"]
    C --> H["M1・M2が髄液へ移行するため<br>第2期にも効く"]

💡 はTbNTR1という「宿主に無い酵素」に依存している。 この1型は細胞に相同物を持たず、・の活性化も同じ酵素が担う2。⚠️ 裏返せばとのがありうる——実際、耐性はType 1 NTRの発現低下として説明されており、NECT(・併用)で治療した患者に耐性が生じる可能性は否定できないとされる3。

💡 同じでもメトロニダゾールはに使えない。 メトロニダゾールはTbNTR1の基質として不良で、への活性が弱い2。「=嫌気性菌・原虫の薬」という括りだけでは説明できない。

薬物動態——本体ではなく代謝物が主役

項目 本体 M1() M2(スルホン)
AUC0-24の比(本体を1として)3 1 11倍 34倍
10日目の半減期3 15時間 16時間 23時間
3 98% 41% 57%
— 髄液/の比 0.533 同 0.363
  • 食事の影響が決定的:単回1,200 mgを約963 kcalの食事とともに投与すると、本体・M1・M2のがいずれも絶食時の約4〜5倍になる3
  • 代謝はを含む複数のとが担い、は投与量の3.2%未満(主にM1・M2として)3
  • では不要。は禁忌(重度)13

⭐ 「本体の血中濃度」を見ても効き目は分からない。 の大半はM2が占め、しかもM2の血中濃度がQT延長の危険と結びついている3。有効性と毒性のどちらも代謝物側で決まる。

用法・用量

1日1回、毎日ほぼ同じ時刻に、食事とともに、計10日間。は600 mgで、割ったり砕いたりしない3。

体重 (1〜4日目) (5〜10日目)
35 kg以上 1,800 mg(3錠)/日 1,200 mg(2錠)/日
20 kg以上35 kg未満 1,200 mg(2錠)/日 600 mg(1錠)/日

出典は米国添付文書3。は同じ用量を、小児用14錠・成人用24錠のウォレットとして供給している1。

⚠️⚠️ 実務の核心——食事・直接監視・完遂

食事

⚠️ 食事を欠いて飲んだ1回は、飲まなかった1回として数える。 食後でないと吸収が不十分でが治療域に達せず、とりわけ中枢神経でのが3分の1になる1。

  • 主食(朝食または昼食に相当する量)の最中か直後30分以内に服用する
  • 量が種類より重要で、目安は固形物250 mL以上。⚠️ 流動食は不可(吸収が著しく落ちる)1

直接監視下治療(DOT)と入院の要否

服薬は訓練された医療者が食事摂取を確認したうえで毎回直接観察する。外来で行えるのは、gambiense型では次の4条件をすべて満たす場合に限られる1。

  1. 食事を確実に摂れると確信できる
  2. 完全なが見込める
  3. 精神疾患が無い(既往・急性とも)
  4. 体重35 kg以上

⚠️ 1つでも欠ければ入院である。 「入院させる条件」を覚えるより、「外来でよい条件」を4つ覚えて、その否定が入院だと理解するほうが速い。

⚠️ rhodesiense型では入院が原則で、外来は例外扱いである。 神経精神疾患に加えて、の既往(との懸念)・体重35 kg未満・投与後に嘔吐した場合も入院の対象になる1。

飲み忘れ・嘔吐への対処

事象 対処1
許容できる最低回数 負荷期(1〜4日目)全日を含む計7回以上、うち(5〜10日目)6回中3回以上
負荷期の飲み忘れで1日を超えた 治療をやり直す(ゼロから再開)
2回目の飲み忘れ 経口に不適と判断し、代替治療へ切り替える
服用後2時間未満の嘔吐 吸収不十分の恐れ。その日は再投与せず、翌日に同量を再投与(治療が1日延びる)
服用後2時間以降の嘔吐 その回は有効とみなす
2回目の嘔吐 (・)の使用を検討しつつ、代替治療への変更を考える

禁忌・注意

  • 禁忌:(メトロニダゾール・など)への過敏症、重度の(黄疸・・出血など肝硬変による肝不全の臨床徴候)、31
    • ⚠️ では、構造的に近縁のメトロニダゾールで致死的な肝毒性・の報告があるため禁忌とされる3。は「代替が無い場合に限り、入院下で厳重に監視し必要なら中止できる態勢で」使用しうるとしており、米国添付文書より緩い1
  • ⚠️ QT延長:、未補正の電解質異常(・)、の既往、臨床的に問題となる徐脈、、では使用を避ける1。 470ミリ秒超も回避基準3
  • ⚠️ 不眠を超える:興奮・不安・・うつ・・・・が報告されている。精神疾患のある患者では入院のうえ投与し、患者と家族に危険を伝える3
  • ⚠️ アルコールで:・発疹・・悪心・頭痛を来す。⚠️ 同時摂取では重篤で致死的になりうる心肺・神経反応が起こりうる。治療中および最終投与後48時間はする13
  • ⚠️ を2週間以内に服用した患者ではの報告があり、使用を避ける3
  • 好中球減少:投与中はを定期的に測定し、好中球減少を来しうる薬剤の併用を避ける。終了後3か月以内の発熱・感染徴候は受診の対象とする31
  • 肝毒性:開始時と治療中に(・・ビリルビン)を評価する3
  • ・下痢・嘔吐がある患者ではに備えてカリウムに富む食品または錠を与える1

相互作用

相手 内容3
QT延長薬・・ 併用を避ける。・抗精神病薬・・/抗真菌薬・・・・静注・β遮断薬などが該当
/5基質 は中等度の/5誘導薬。⚠️ の効果が減弱しうるため、治療中と最終投与後5日間はの影響を受けない避妊法()か()を併用する
・CYP2C19基質 が阻害するため、それらの薬剤の副作用に注意する
CYP2B6基質・基質・OCT2/OAT1/OAT3/MATE基質 効果減弱または副作用増強。個別に監視する
肝 M1・M2の血中濃度を大きく上げうる。M2濃度はQT延長の危険と結びついているため併用を避ける
ハーブ・ 相互作用・毒性の恐れがあるため治療中は避ける

副作用

第1試験(第2期gambiense型、264例対NECT 130例、15歳以上)で報告された主な有害事象3。

有害事象 NECT
頭痛 34.8% 24.6%
嘔吐 28.4% 28.4%
不眠 28.0% 11.5%
悪心 25.8% 15.4%
無力症 22.7% 14.6%
振戦 22.0% 11.5%
21.2% 18.5%
めまい 18.9% 13.8%
低カルシウム血症 13.6% 2.3%
好中球減少(1,000/mm³未満) 5.7% 3.1%

⭐ NECTと差がつくのは「中枢神経・精神」の側である。 嘔吐は同率だが、不眠・振戦・頭痛・めまいはいずれもで高い3。経口化と引き換えにを引き受ける薬だと理解しておくと、精神疾患のある患者を入院とする規定の意味が通る。

  • QT延長:が平均19ミリ秒延長し、3例(1%未満)で 500ミリ秒超に達した(NECT群は0例)3
  • 2%未満:、、うつ、、、上昇3
  • ⚠️ 嘔吐は成人より小児で多い1

まとめ

  • はの経口で、の第1期・第2期を1剤で治療できる。⭐ 病期を決めることが治療を決めるという構図を崩した薬である。
  • で、 M1()・M2(スルホン) がの大半を占める(は本体の11倍・34倍)。両者が髄液へ移行することが第2期に効く理由。
  • 原虫内の TbNTR1 が活性化を担う。宿主に相同物が無いことがの根拠であり、⚠️ 同じ酵素で活性化されるとのがありうる。
  • ⚠️⚠️ 食後投与・直接監視・10日間が有効性の前提。 食事を欠いた1回は飲まなかった1回と同じで、とくに中枢神経でのが3分の1になる。
  • 外来投与が許されるのは「食事の確保・・精神疾患が無い・体重35 kg以上」の4条件すべてを満たすときだけで、⚠️ 1つでも欠ければ入院とする。
  • ⚠️ 禁忌は過敏症・重度・。QT延長の危険がある病態でも避ける。⚠️ 治療中と終了後48時間の()。
  • 有害事象は不眠・振戦・頭痛といったがNECTより多いのが特徴で、は平均19ミリ秒延長する。好中球減少と上昇の監視が要る。
  • ⚠️ 中等度の/5なので、の効果減弱に備える。

出典

  1. 1.Guidelines for the treatment of human African trypanosomiasis(World Health Organization・2024)フェキシニダゾールが2024年版でrhodesiense型にも推奨されたこと、600 mg錠が小児(6歳以上・体重20〜34 kg)用14錠と成人(35 kg以上)用24錠のウォレットで供給されること、食後投与を欠くと吸収が不十分で活性代謝物が治療域に達せず特に中枢神経では生物学的利用能が3分の1になるため「食事なしで飲んだ1回は飲まなかった1回と同じ」とされること、食事は主食の最中か直後30分以内に摂り量が種類より重要で固形物250 mL以上を目安とし流動食は不可とされること、服薬は訓練された医療者による直接監視下で行い、外来で行えるのは食事摂取への確信・完全な服薬遵守への確信・精神疾患(既往・急性とも)が無いこと・体重35 kg以上の4条件をすべて満たす場合に限られ、満たさない場合は入院とすること、許容できる最低服薬回数が負荷期(1〜4日目)全日を含む計7回で維持期(5〜10日目)6回のうち3回以上であること、負荷期の飲み忘れから1日を超えた場合は治療をやり直すこと、2回目の飲み忘れが生じたら経口フェキシニダゾールに不適と判断し代替治療に切り替えること、嘔吐が服用後2時間未満なら翌日に同量を再投与し2時間以降なら吸収済みとみなすこと、禁忌がニトロイミダゾール系への過敏症・黄疸や全身浮腫など肝不全の臨床徴候・先天性QT延長など催不整脈条件でありコケイン症候群では代替が無い場合に限り入院下で用いること、アルコールを治療中および最終投与後48時間は避けること、頻度の高い有害事象が嘔吐38%・悪心33%・無力症20%・食欲不振17%・頭痛16%・不眠15%・振戦14%・めまい14%でQTcFの平均延長が15.4ミリ秒であることを確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.Transforming the chemotherapy of human African trypanosomiasis(Clinical Microbiology Reviews・2025)フェキシニダゾールが1970年代にHoechstでHoe 239として合成された2位置換5-ニトロイミダゾールで、ニトロ複素環の遺伝毒性への懸念から開発が中断されたのちDNDiが800を超えるニトロ複素環化合物を再スクリーニングして見出したこと、EMAが2018年に肯定的な科学的意見を出しWHOが2019年の暫定ガイドラインに収載、米国FDAが2021年に承認したこと、サノフィがWHOへ寄贈しWHOが流行国へ無償配分していること、プロドラッグとして宿主内でスルホキシド体・スルホン体に代謝され、原虫内ではミトコンドリアのニトロレダクターゼTbNTR1が電子を供与して反応性分子を生じ多系統の破綻をもたらすこと、TbNTR1が哺乳類細胞に相同物を持たずニフルチモクス・ベンズニダゾールの活性化も担うこと、メトロニダゾールはTbNTR1の基質として不良でトリパノソーマへの活性が弱いことを確認した閲覧 2026-09-03
  3. 3.Fexinidazole tablets, for oral use — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration (DailyMed) / Sanofi-Aventis U.S. LLC・2025)米国での適応が6歳以上かつ体重20 kg以上のgambiense型アフリカ睡眠病の第1期・第2期に限られ、髄液白血球100/µL超の重症第2期では他に選択肢が無い場合にのみ用いるとされていること、用量が体重35 kg以上で負荷1,800 mg×4日+維持1,200 mg×6日、20〜35 kg未満で負荷1,200 mg×4日+維持600 mg×6日の1日1回・食後・計10日であること、単回1,200 mgを約963 kcalの食事とともに投与すると本体・M1・M2のAUCが絶食時の約4〜5倍になること、活性代謝物がM1(スルホキシド)とM2(スルホン)でAUC0-24が本体のそれぞれ11倍・34倍、10日目の半減期が本体15時間・M1 16時間・M2 23時間、蛋白結合が98%・41%・57%であること、禁忌がニトロイミダゾール系への過敏症・重度肝機能障害・コケイン症候群であること、QTcFが平均19ミリ秒延長し3例(1%未満)でQTcF 500ミリ秒超となったこと、第1試験(フェキシニダゾール264例対NECT 130例)の有害事象が頭痛34.8%対24.6%・嘔吐28.4%対28.4%・不眠28.0%対11.5%・悪心25.8%対15.4%・無力症22.7%対14.6%・振戦22.0%対11.5%・食欲不振21.2%対18.5%・めまい18.9%対13.8%・低カルシウム血症13.6%対2.3%・好中球減少5.7%対3.1%であったこと、中等度のCYP3A4/5誘導作用によりホルモン避妊薬の効果が減弱しうること、アルコールを治療中および最終投与後48時間は避けるべきこと、ジスルフィラムを2週間以内に服用した患者では精神病性反応の報告があり使用を避けること、機序としてニトロレダクターゼ(NTR)による生物活性化で反応性アミンが生じDNA・蛋白を障害すると考えられるがT. bruceiに対する正確な機序は不明であること、ニフルチモクスとの交差耐性がType 1 NTRの発現低下によると示唆されることを確認した閲覧 2026-09-03