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Drug Atlas · C3 Antiparasitics / 抗寄生虫薬

スラミン

suramin

分類
Antiparasitics / 抗寄生虫薬
科目
PharmacologyMedical Microbiology
トピック
C3: Antiprotozoal and antihelminthic drugs微生物学 4/19:トリパノソーマ・ブルーセイ
承認適応
アフリカ睡眠病
標的微生物
Trypanosoma brucei
副作用
発熱末梢神経障害掻痒血圧低下
監視検査値
アルブミン尿血算
影響検査値
クレアチニン絶対好中球数ヘモグロビン血小板数

🧠 全体像:は1920年代から使われ続けているポリスルホン化で、6つのがもたらす強い陰電荷がこの薬のほぼすべてを説明する。強い陰電荷ゆえに①に99.7%結合して半減期が数十日に達し、②血液脳関門を通過できず第2期には無効で、③腎に高濃度で集まって腎毒性を生じ、④多数の酵素と静電的に相互作用するため100年経っても正確な機序が確定していない12。臨床運用の顔は⑤から始めるという独特の手順で、これはまれだが致命的な過敏反応(蕁麻疹・)に備えたものである。どの患者に使うかはのノートに譲る。

位置づけ——rhodesiense型第1期の「残された枠」

2024年版でがrhodesiense型へ拡大されたことにより、の適応は次の2つに縮んだ1。

残っている使いどころ 内容
6歳未満または体重20 kg未満の小児 rhodesiense型第1期(5/µL以下)の第一選択
年長者でを使えない場合 同上(禁忌・などによりが選べないとき)

⚠️ 「急性期=」はを問わない一般則ではない。 は一貫して rhodesiense型の薬であり、gambiense型第1期の従来薬はである1。

⚠️ 第2期には使えない。 血液脳関門を通過しないため、中枢神経に虫体が及んだ段階では無効である1。これは「第1期の薬」「第2期の薬」という古い区分をつくっていた理由そのものである。

💡 供給は寄贈で成り立っている。 バイエルがへ寄贈し、が流行国へ配分する2。年間数百例規模の疾患であることが、そのまま薬剤供給の形を決めている。

機序——「陰電荷が何にでもくっつく」薬

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='suramin'>スラミン</span>(6つの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sulfonic acid group'>スルホン酸基</span>をもつ<br>強い陰電荷の巨<span class='jp-term jp-term-diagram' title='large molecules'>大分子</span>)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='receptor-mediated endocytosis'>受容体依存性エンドサイトーシス</span>で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bloodstream form'>血流型</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Trypanosome'>トリパノソーマ</span>に取り込まれる"]
    B --> C["ISG75などの表面受容体が関与<br>(欠損しても感受性が残るため他の受容体もある)"]
    C --> D["細胞内で多数の酵素と静電的に相互作用"]
    D --> E["ATP産生が緩徐に失われ<br>本来抑制されている<span class='jp-term jp-term-diagram' title='TCA cycle'>TCA回路</span>が動き出す"]
    E --> F["48時間かけて<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stumpy form'>短寸型</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='procyclic form'>前循環型</span>に似た<br>発現状態へ移行し、増殖が止まる"]
    F --> G["非増殖状態では<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antigenic variation'>抗原変異</span>ができず<br>宿主の免疫系に排除される"]

⚠️ 100年使われていて、正確な機序はまだ確定していない。 は多数の蛋白を阻害する多剤標的性の分子で、6つのの陰電荷による静電的相互作用がその基盤にある2。

💡 なぜが候補に挙がるのか。 の活性はに対してより著しく高い2。は解糖に完全に依存しているため、この選択性が阻害を示唆する。ただし・解析が示したのは「ATP産生の緩徐な喪失とミトコンドリア代謝の始動」というに近い像であり、単純なでは説明しきれない2。

⭐ 効果に宿主の免疫系が要る。 免疫不全マウスより免疫正常マウスのほうが原虫の死滅が速い2。増殖を止められた原虫はができず免疫に捕まる、という筋書きで説明される。この「原虫を殺しきらず免疫に渡す」性質は、後述のとも共通する。

薬物動態——半減期が「日」ではなく「週」の単位

項目 値1
99.7%
単回1 g投与後 血中に5〜8日間検出される
5〜6回の全コース後の半減期 44〜54日
排泄 主に腎(透析では除去されない)
中枢神経移行 無い(第2期には無効)

⭐ 極端な蛋白結合が、極端な半減期を生んでいる。 血中の大半が蛋白に結合したまま留まるため糸球体で濾過されにくく、体内から抜けるのに数十日を要する。⭐ 週1回投与という一見まばらな用法が成立するのはこのためであり、逆に有害事象が出たときに「投与をやめれば速やかに消える」薬ではないことも意味する。

⚠️ 透析で除去できない1。腎不全患者ではの調整で対処するしかない。

用法・用量

緩徐な静注で投与する。⚠️ 筋注やでは強い局所刺激が生じる1。

段階 内容1
製剤 ナトリウム粉末1 gのバイアル。10 mLで溶解する
溶解後の保存 室温(25℃以下)で24時間まで
(1日目) 4〜5 mg/kgを緩徐に静注し、数時間後に残量を投与する
本投与 20 mg/kg(最大1 g)を週1回、5週間(例:1・8・15・22・29日目)
重症患者 より緩徐な増量を考慮しうる

⭐ は「効くかどうか」を見るためではない。 蕁麻疹・を伴う早期過敏反応を検出するための手順であり、この反応は1万人あたり2〜5例とまれである1。まれであっても致命的になりうることと、半減期が長く「入れてしまったら抜けない」ことが、少量から始める運用をしている。

💡 それでも初日に全量を投与し終える。 分割は過敏反応を見るためであって濃度を上げないためではなく、初日に全量を入れることで治療濃度へ速やかに到達できる1。

禁忌・注意

  • ⚠️ 重度の腎疾患では避ける1。⚠️ 重症のrhodesiense型そのものが腎障害を起こしうるため、「原病による腎障害」と「薬による腎障害」が同時に成り立つ場面がある
  • 腎不全ではを調整する。⚠️ 透析で除去されない1
  • ⚠️ アナフィラキシーとに備え、可能ならで投与する1
  • ⚠️ の:の急速な死滅によるアレルギー反応の危険がある1
    • 💡 はかつてそのものの治療にも用いられたが、より毒性が低く有効な代替治療があるため現在は避けられる3。ここで問題になるのは「治療としての使用」ではなく、の治療中に併存するが巻き添えで死ぬことである
    • なお、rhodesiense型の流行地でのはこの20年で大きく下がっており、まれになっている1
  • 定期的な尿検査:腎毒性はとして最初に現れるため、治療中の反復した尿検査が強く勧められる1

副作用

有害事象は高頻度だが、多くは軽度で可逆性である。・(とくに)・全身状態に左右される1。

分類 内容1
高頻度・多くは可逆 発熱、腎毒性、末梢神経障害、、溶血性貧血、血小板減少、嘔吐・悪心・下痢
早期過敏反応(まれ・1万人あたり2〜5例) 蕁麻疹、——⭐ を行う理由そのもの
掻痒、、口腔粘膜の潰瘍
生命を脅かす事象 1%未満

⚠️ 腎毒性の現れ方には順序がある。 は他臓器より腎で高濃度に達するため腎障害を起こすが、通常は軽度で可逆性である。最初の徴候がで、遅れて・血尿が現れる1。の段階で拾うことが、定期尿検査の目的である。

まとめ

  • はポリスルホン化で、1920年代から使われている rhodesiense型 第1期の薬。⚠️ gambiense型第1期の従来薬はであり、で薬が違う。
  • 2024年版でがrhodesiense型へ拡大された結果、⭐ 6歳未満・体重20 kg未満、またはを使えない患者に位置づけが縮んだ。
  • ⚠️ 血液脳関門を通過しないため第2期には無効。
  • ⭐ 99.7%、全コース後の半減期44〜54日という極端なが、週1回×5週という用法と「出てしまった有害事象が長く続く」性質の両方を説明する。透析でも除去できない。
  • ⭐ (4〜5 mg/kg)から始めるのが決まり。1万人あたり2〜5例の蕁麻疹・に備えるためで、数時間後に残量を投与し、以後は20 mg/kg(最大1 g)を週1回5週間。
  • ⚠️ 緩徐な静注で投与する(筋注・は強い局所刺激)。
  • ⚠️ 腎毒性が代表的な有害事象で、→・血尿の順に現れる。定期的な尿検査が要る。重度腎疾患では避ける。
  • 機序は100年経っても未確定で、強い陰電荷による多数の酵素との静電的相互作用が基盤。⭐ 効果には宿主の免疫系が要る。
  • ⚠️ のではの急速死滅によるアレルギー反応に注意する。

出典

  1. 1.Guidelines for the treatment of human African trypanosomiasis(World Health Organization・2024)スラミンが1920年に導入され、現在はrhodesiense型第1期(髄液白血球5/µL以下)の6歳未満または体重20 kg未満の小児と、フェキシニダゾールを使えない年長患者の第一選択にとどまること、血液脳関門を通過しないため第2期には無効であること、血漿蛋白に99.7%結合し半減期がきわめて長く単回1 g投与後5〜8日間血中に検出され5〜6回の全コース後の半減期が44〜54日であること、排泄が主に腎であること、1 gのスラミンナトリウム粉末バイアルを注射用蒸留水10 mLで溶解し室温25℃以下で24時間まで保存できること、緩徐な静注で投与し筋注や血管外漏出では強い局所刺激が生じること、すべての投与法が試験投与から始まり4〜5 mg/kgを初日に投与して数時間後に残量を投与すること、最も一般的な用法が20 mg/kg(最大1 g)を週1回5週間(1・8・15・22・29日目)であること、初日に全量を投与し終えることで治療濃度に速く到達できること、重症患者ではより緩徐な増量を考慮しうること、重度の腎疾患では避け腎不全では投与間隔を調整すること、透析で除去されないこと、アナフィラキシーと心血管系有害反応の危険から可能なら高度依存病床で投与すべきこと、オンコセルカ症の重複感染ではミクロフィラリアの急速な死滅によるアレルギー反応の危険があること、有害事象が高頻度だが多くは軽度・可逆性で発熱・腎毒性・末梢神経障害・無顆粒球症・溶血性貧血・血小板減少・嘔吐・悪心・下痢を含むこと、蕁麻疹と循環虚脱を伴う過敏反応が1万人あたり2〜5例とまれで試験投与の根拠になっていること、掻痒・剥脱性皮膚炎・口腔粘膜潰瘍という遅発性過敏反応も記載されること、腎毒性はスラミンが腎で他臓器より高濃度に達することによりまずアルブミン尿として現れ後に円柱尿・血尿が加わるため治療中の定期的な尿検査が強く勧められること、生命を脅かす事象は1%未満とまれであることを確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.Transforming the chemotherapy of human African trypanosomiasis(Clinical Microbiology Reviews・2025)スラミンがポリスルホン化した対称性ナフタレン誘導体で、Ehrlichがトリパンブルーなどナフタレン色素の抗トリパノソーマ活性を見出したのち1922年に睡眠病へ用いられ始めた100年来の薬であること、現在はバイエルがWHOへ寄贈していること、血漿蛋白結合が99%超で全5〜6回コース後の半減期が44〜54日であること、正確な作用機序が今なお不明で6つのスルホニル基の陰電荷により多数の酵素と静電的に相互作用すること、血流型に対する活性が前循環型より著しく高いことから解糖系阻害が候補とされること、メタボローム・プロテオーム解析でATP産生の緩徐な喪失と本来抑制されているTCA回路・ミトコンドリア代謝の始動が観察され、48時間で短寸型・前循環型に関連する酵素が発現する状態へ移行することから分化誘導の可能性が示唆されること、免疫不全マウスより免疫正常マウスで速く原虫が死滅することから免疫系の関与が示されること、受容体依存性エンドサイトーシスで取り込まれRNAiスクリーニングでISG75が受容体候補として同定されたがISG75欠損原虫も相当の感受性を保つため他の受容体(低比重リポ蛋白受容体が疑われる)も関与すると考えられること、野外での耐性報告はまれだが実験室では容易に選択されVSGsurという特定のVSG変異体やRuvBL1様DNAヘリカーゼの変異が関与することを確認した閲覧 2026-09-03
  3. 3.Onchocerciasis(StatPearls Publishing・2023)オンコセルカ症の治療において、スラミンとジエチルカルバマジンを含む古い治療は、より毒性が低く有効な代替治療があるため避けられることを確認した閲覧 2026-09-03