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Drug Atlas · C3 Antiparasitics / 抗寄生虫薬

メラルソプロール

melarsoprol

分類
Antiparasitics / 抗寄生虫薬
科目
PharmacologyMedical Microbiology
トピック
C3: Antiprotozoal and antihelminthic drugs微生物学 4/19:トリパノソーマ・ブルーセイ
承認適応
アフリカ睡眠病
標的微生物
Trypanosoma brucei
副作用
発熱痙攣昏睡嘔吐悪心下痢掻痒
影響検査値
アルブミン尿

🧠 全体像:は1949年に導入されたで、⚠️ この薬について覚えるべきことは「位置づけのそのもの」である。 長らく中枢神経へ届く唯一の薬であり、rhodesiense型第2期の患者は毒性を承知でこれを受けるほかなかった。させた理由ははっきりしている——であり、⚠️ 全治療例の5〜18%に生じ、罹患者の10〜70%が死亡する1。gambiense型ではまずに、2009年にNECTに置き換えられ、rhodesiense型第2期という最後の砦もの収載で崩れた2。⭐ 「効かないから消えた薬」ではなく「効くが殺しうるから避けられる薬」という点が、この薬の学び方を決める。どの患者に使うかはのノートに譲る。

位置づけ——2つの適応だけが残った

病型 現在の位置づけ1
rhodesiense型 第2期 6歳未満または体重20 kg未満の小児の第一選択。加えて、禁忌・などによりを使えない年長患者
gambiense型 一次治療と(NECT・NECT-long・・単独)をすべて経たあとの再々発のみ

⚠️ 治療の致死率は gambiense型で約6%、rhodesiense型ではさらに高い1。「有効性が原虫の耐性により一定しない」ことと合わせて、gambiense型での適応が最後尾に押しやられている。

💡 もともとは、もっと悪いものの代替だった。 先行する剤は多数の患者に失明を引き起こすほどの毒性をもち、はその代替として1949年に導入された2。⭐ 「毒性の強い薬」という評価は、常にその時代の代替との比較で決まる——この薬の歴史はそれをそのまま示している。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='melarsoprol'>メラルソプロール</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='melarsen oxide'>メラルセン酸化物</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dimercaprol'>ジメルカプロール</span>で<br>安定化した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organic arsenic'>有機ヒ素</span>)"] --> B["水溶液中で速やかに<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='melarsen oxide'>メラルセン酸化物</span>が再生"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='P2 adenosine transporter'>P2アデノシン輸送体</span>(TbAT1)と<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='aquaglyceroporin'>アクアグリセロポリン</span> TbAQP2 を介して原虫内へ"]
    C --> D["原虫特異的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polyamine'>ポリアミン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutathione'>グルタチオン</span>化合物<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='trypanothione'>トリパノチオン</span>など<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intracellular thiol'>細胞内チオール</span>と結合"]
    D --> E["ATPの喪失・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>合成阻害・有糸分裂の停止"]
    E --> F["原虫が死滅する(機序は単一ではない)"]
    C --> G["中枢神経へも十分量が到達するため<br>第2期に効く"]

💡 製剤そのものがとの複合体である。 はであるをで安定化した化合物で、水溶液に入ると速やかにが遊離する2。

⚠️ 正確な殺機序は今も不明である。 ATPの喪失と、特異的な・化合物を含むとの相互作用が鍵と提唱されているが、有糸分裂の阻害や合成の阻害も報告されており、複数の標的が関与する2。

💡 「だから何にでも毒」ではなく、原虫に選択的に入る経路がある。 取り込みは (TbAT1) と TbAQP2 が担う2。⚠️ P2輸送体は(など)も運ぶため、輸送体の喪失は両系統のを生む。 21世紀初頭のコンゴ民主共和国で相次いだは、tbaqp2のの出現と対応していた2。

⭐ ・と同じく、には宿主の免疫系が要る(モデル)2。

製剤と投与——溶媒がプロピレングリコールであることの帰結

は水に溶けない。そのため製剤(Arsobal)は 5 mLアンプル中にへ溶解した180 mg(36 mg/mL、3.6%) という形をとる12。この溶媒が、投与手技のほぼすべてを規定する。

  • ⚠️ 水で調製してはならず、水と接触させてもいけない——する1
  • した乾燥ガラス注射器が望ましい(適切な設備がある場合)。使用後は洗浄・乾燥・する1
  • ⚠️ 注射器は劣化の徴候を示しうる。 やむを得ず用いる場合は患者のベッドサイドで吸引し、直ちに(ただし緩徐に)投与する1
  • 静注は()からゆっくり押すのが望ましい1
  • ⚠️ 注射はきわめて痛く、その後ののため、次回投与には別の・別のを用いなければならない12
  • この薬の使用経験がある医療者が、慎重な監督のもとで投与することが望ましい1

用法・用量

薬剤 用量1
2.2 mg/kg/日(最大5 mL)を1日1回、緩徐に静注、10日間
併用する(経口) 1 mg/kg/日(最大50 mg)を9日間、10〜12日目に(0.75 → 0.5 → 0.25 mg/kg)2

⭐ 10日間という日程そのものが、この薬の歴史の転換点だった。 かつてはの経験を引き継いで、組織への毒性蓄積を避けるために注射のあいだに長いを挟む長期レジメンが用いられていた。10日間レジメンは解析に基づいて選ばれたもので、のを根拠に基づいて決める試みの始まりであり、入院期間の短縮という実利ももたらした2。

⚠️⚠️ 反応性脳症——この薬を後退させたもの

項目 内容1
頻度 全治療例の5〜18%
致死率 罹患者の10〜70%
発症時期 初回注射の3〜10日後(平均7日)
症状 発熱と痙攣で始まり、急速な神経障害、進行性の昏睡、へ進む
早期徴候 発熱・頭痛・嘔吐
対処 早期徴候を捉えた時点でを中止し、とで炎症反応と痙攣に対処する
予防 併用が、の一要素と考えられる免疫反応に対して保護的に働きうる

⚠️ 数値には文献間の幅がある。 広く引用されてきた値は「約5〜10%に発症し、致死率は50%に達しうる」であり、この2組の数字は同じ総説の中に併存している——冒頭では5〜10%・致死率50%、の節では5〜18%・致死率10〜70%と書かれている2。⭐ 本ノートは 2024年版に合わせて5〜18%・10〜70%を採る1が、教科書で「5〜10%、約半数が死亡」と読んでも誤りではない。

💡 「脳症を起こす薬を、脳症の病期に使う」という難しさがある。 第2期はもともとの病期であり、原病の悪化と薬剤性脳症は臨床像が重なる。発熱・頭痛・嘔吐という非特異的な徴候の段階で薬を止めるという運用は、この区別のつかなさを前提にした安全側への倒し方である1。

副作用(脳症以外)

分類 内容1
高頻度 、消化器症状(悪心・嘔吐・下痢)、皮膚反応(掻痒)
重篤かつ高頻度 心筋障害、、高血圧
心不全 高頻度で致死的になりうる。⚠️ ただし自体に帰せられる可能性もある
1%未満

まとめ

  • は1949年導入の()で、失明を起こすの代替として登場した。中枢神経へ届くため、長らく第2期の唯一の治療だった。
  • ⚠️⚠️ が全治療例の5〜18%に生じ、罹患者の10〜70%が死亡する。 これがこの薬をさせた理由であり、⭐ 「効かないから消えた薬」ではない。
  • 脳症は初回注射の3〜10日後(平均7日)に発熱・痙攣で始まる。⚠️ 発熱・頭痛・嘔吐の段階で中止し、・で対処する。(1 mg/kg/日、最大50 mg、9日間+3日で)の併用が予防的に働きうる。
  • 現在残る適応はrhodesiense型第2期の6歳未満・20 kg未満の小児と、を使えない年長の第2期患者のみ。gambiense型ではをすべて経た再々発だけ。
  • 用量は 2.2 mg/kg/日(最大5 mL)を1日1回、緩徐静注、10日間。⭐ この10日間レジメンはに基づいて設定された、根拠に基づくの先駆けだった。
  • ⚠️ 水に溶けずに溶解した製剤なので、水と接触させるとする。した乾燥ガラス注射器が望ましく、注射器は劣化しうる。⚠️ 注射はきわめて痛く、毎回別のを使う。
  • 機序は未確定で、などとの相互作用・ATP喪失・合成阻害が提唱されている。取り込みは (TbAT1)とTbAQP2で、⚠️ その喪失・変異が耐性ととのを生む。
  • ⚠️ 脳症以外にも心筋障害・・高血圧という重篤かつ高頻度の合併症がある。

出典

  1. 1.Guidelines for the treatment of human African trypanosomiasis(World Health Organization・2024)メラルソプロールが1949年に導入されフェキシニダゾールの適応拡大まではrhodesiense型第2期の唯一の有効な治療であったこと、現在残る適応がrhodesiense型第2期の6歳未満または体重20 kg未満の小児と、禁忌や嚥下不能によりフェキシニダゾールを使えない年長の第2期患者に限られること、gambiense型では有効性が原虫の耐性により一定せず致死率が約6%(rhodesiense型ではより高い)で、重篤かつ生命を脅かす有害反応の頻度が高いため一次治療と救済治療(NECT・NECT-long・フェキシニダゾール・エフロルニチン単独)をすべて経たあとの再々発のみが残る適応であること、製剤(Arsobal)が5 mLアンプル中にプロピレングリコールへ溶解した180 mgのメラルソプロール(36 mg/mL)であること、用量が2.2 mg/kg/日(最大5 mL)を1日1回緩徐に静注し10日間であること、プレドニゾロン1 mg/kg/日(最大50 mg)を9日間併用し10〜12日目に漸減することで有害反応の危険を減らしうること、水と接触させると析出するため水で調製してはならず滅菌した乾燥ガラス注射器が望ましくプラスチック注射器では劣化の徴候が出うるため患者のベッドサイトで吸引して直ちに緩徐に投与すべきこと、注射がきわめて痛く局所反応のため次回は別の静脈路を用いる必要があること、最も重要な重篤反応が脳症症候群で全治療例の5〜18%に生じ罹患者の10〜70%が死亡すること、プレドニゾロン併用が脳症症候群の一要素と考えられる免疫反応に対して保護的に働きうること、脳症症候群が通常は初回注射の3〜10日後(平均7日)に生じ発熱・けいれん・急速な神経障害・進行性の昏睡・異常行動を特徴とすること、発熱・頭痛・嘔吐といった早期徴候を捉えたらメラルソプロールを中止しデキサメタゾンとジアゼパムで対処すること、他の高頻度の有害反応が全身倦怠・消化器症状(悪心・嘔吐・下痢)・皮膚反応(掻痒)であり重篤かつ高頻度の合併症として心筋障害・アルブミン尿・高血圧があること、心不全が高頻度で致死的になりうるがHAT自体に帰せられる可能性もあること、剥脱性皮膚炎が1%未満に生じることを確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.Transforming the chemotherapy of human African trypanosomiasis(Clinical Microbiology Reviews・2025)メラルソプロールがメラミノフェニル系の有機ヒ素化合物で、失明を含むきわめて高い毒性をもつ先行ヒ素剤トリパルサミドの代替として1949年に導入されたこと、本総説の冒頭記述では患者の約5〜10%が反応性脳症を起こし致死率が50%に達しうるとされる一方、有害作用の節では脳症症候群が全治療例の5〜18%に生じ罹患者の10〜70%が死亡すると記載されていること、化合物がメラルセン酸化物(Mel Ox)をBritish anti-Lewisiteで安定化したものであり水溶液中では速やかにメラルセン酸化物が再生すること、gambiense型ではまずエフロルニチンに、次いで2009年にNECTに置き換えられ、rhodesiense型第2期にのみ推奨が残っていたがフェキシニダゾールの収載で後退したこと、10日間レジメンが薬物動態解析に基づいて選ばれたもので、それ以前のトリパルサミドの経験に基づく休薬期間を挟む長期レジメンからの転換であり、根拠に基づく投与計画設定の始まりとなり入院期間を短縮したこと、プレドニゾロンを1 mg/kg/日(最大50 mg)9日間併用し10〜12日目に0.75・0.5・0.25 mg/kgと漸減すること、正確な殺トリパノソーマ機序は不明だがATPの喪失とトリパノソーマ特異的なポリアミン・グルタチオン化合物トリパノチオンを含む細胞内チオールとの相互作用が鍵と提唱されていること、有糸分裂を阻害しDNA合成も阻害すること、齧歯類モデルでは無菌的治癒に機能する免疫系が必要でエフロルニチン・スラミンと同様であること、耐性がまずP2アデノシン輸送体(TbAT1)の喪失と結びつけられ、のちにアクアグリセロポリンTbAQP2もメラルセン酸化物を運ぶことが示されたこと、21世紀初頭のコンゴ民主共和国での治療失敗の出現がtbaqp2の変異アレルの出現と対応したことを確認した閲覧 2026-09-03